カテゴリー「ニュース」の26件の記事

2020年1月16日 (木)

第162回直木賞(令和1年/2019年下半期)決定の夜に

 「知れば知るほど楽しくなってくる」のキャッチフレーズでおなじみの文学賞といえば直木賞ですが、そのいちばん新しい第162回の選考会が令和2年/2020年1月15日(水)に開かれて、受賞結果が日本じゅうを駆け巡りました。

 結果を知らなくたって生きていけます。しかし知ればもっと日常が楽しくなるのが、直木賞です。他の人のことはわかりません。少なくともワタクシがそうです。

 まあワタクシの場合はだいたい毎日、なぜ自分は直木賞を面白いと思うのか、考えて考えて、答えの出ないまま次の週を迎える、といったことを繰り返している、ほぼヘンタイの病人ですけど、たぶん日本で何百人か何千人かぐらいは興味をもってこの賞の動向を気にしている、と漏れ聞きます。おお。同志よ。心強いかぎりです。

 読まなくたって生きていける。でも読んでしまえば、もっと楽しい毎日が送れる5つの小説が、第162回直木賞の主役を張りました。いったい直木賞に何の文句があるのか、ある人もたぶんいるんでしょうけど、5つの候補作が読めた、それだけで楽しかったんですから、ここは大人としてお礼を述べておきたいと思います。

 誉田哲也さんのように、独自で我が道を切り開き、多くの読者を喜ばせてくれる作家に対しては、ただ尊敬の念しかありません。直木賞がそういう作家のなかでも、ほんの一部の、偏った方面の人たちしか顕彰できないのは、ほんと申し訳ないです。次に何が出てくるか読者の期待を引きつけながらも、現代の技術進歩に対してひとりひとりがどう受け取り、付き合っていくのかを読み手に突きつける。『背中の蜘蛛』、まじ重い。そしてしびれます。とりあえず「誉田さんを一度も候補に挙げることができなかった」という、直木賞のほうにとって屈辱の歴史が回避されたので、それは今回よかったです。

 小川哲さんの、おそらく今後も長くつづいていく作家生活で、いちばん最初に直木賞が候補に挙げたのが『嘘と正典』……って、どういうことなのか。もはやワタクシの稚拙なおつむでは、理解が追いつきません。『ゲームの王国』でまず候補に選んでおけばよかったのに。でも残念ながら、「嘘と正典」のように過去起きたことに何かを仕掛けるわけにもいかないので、小川さんが未来をつくっていくところを、かたずを呑んで見守るしかありません。次はもう破ってくれるでしょう。直木賞の古びた壁を。

 『スワン』の無差別殺人の導入部。関係者5人が集められて虚々実々で繰り広げられる事件検証の様子。その設定で、おっ、ヤルな、と思わされたところで、呉勝浩さんの叩きつけるような精神の混入が、主人公の女子高生に乗り移っていく後半部分に、釘付けになりました。ミステリーの形式だと直木賞では不利になる、なんて言われたのは、とっくのとうの昔の話(のはず)。呉さんには、謎と解決とワクワク感を守り抜いたミステリーを期待します。それで直木賞のほうが降参するときがくれば、それはもっと爽快です。

 さあ来ました。来てしまいました。いつの間にやら常連となった4度目の候補、湊かなえさんが、いまも着々と築き上げる作家的業績。これまで選考委員のウケが全然よくなかったみたいですけど、今度の『落日』で光明が差した気がします。また来るでしょう。来てくださるでしょう。文学賞向きじゃない、とても受賞できそうにない、と思われた10年くらい前から丹念に独自の作風を積み上げつづけるその軌跡は、いつかきっと「湊かなえ伝説」として語り継がれる時代がくるでしょう。

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2019年7月18日 (木)

第161回直木賞(平成31年・令和1年/2019年上半期)決定の夜に

 令和の時代は、女性が切りひらく。キラりん。……みたいな、文芸以外の世界での得体の知れないプロパガンダに悪用されることがなければいいなあと思います。令和1年/2019年7月17日(水)、第161回直木賞が決まりました。

 いったい今の時代、直木賞がどれだけ注目されているというのか。つねづね疑問ではあるんですが、意外に注目度は残っているようで、面白いというべきか悲しいというべきか、とりあえず報道のされ方や、一般的なミコシの担がれ方は、少なくともうちのサイトが始まった19年前と比べても、さほど変わっていません。むしろ、その熱は高まっているようにも思います。

 まあ、そんなこと、どうでもいい話といえばどうでもいい話です。下手な現状分析などはやめておきます。何といっても第161回。161回目の新たな扉。直木賞はいつだって新しいんですが、それは受賞作だけが構築する新しさではありません。選ばれなかったけど、選ばれても何の問題もなかった候補作の数々。候補作なくして、絶対に新たな直木賞はあり得ません。

 まずは窪美澄さんの『トリニティ』です。読みましたか? 60年代以降現在までの、出版・編集業に携わってきた人たちの一部から「いや、それはそうじゃない」という感想が出ることは、最初からわかっているのに、わざわざこれを題材にする勇気。いや。マガジンハウスや雑誌、その時代を知る内輪な人たちの違和感のほうに向くのではなく、全身でいまの一般読者のほうに目を向けた窪さんの意気を、ワタクシはここから感じました。いいじゃないですか、実在の事象をモデルにした小説。ぐだぐだ言う人の多い直木賞はとれないかもしれないけど、ワタクシはもっと読みたいです。

 候補5度目ともなってくると、しがないうちのブログが柚木麻子さんに対して言いたいことなど、もはや何もありません。ゼロです。なので、たぶん以前書いたのと同じようなことを繰り返します。柚木さんにしか書けないこの『マジカルグランマ』の面白さを評価できなかったのは、柚木さんのせいではなく、100パー直木賞の責任です。そして直木賞は非力なものですから、自分の責任をとることができません。そんな直木賞、ぶち壊しちゃっていいと思いますので、どうかそんな小説を次々と書いてもらえると、こちらも溜飲が下がります。

 『若冲』『火定』とつづいて、今度が『落花』。新たな歴史小説の創造に邁進する澤田瞳子さんに、いったいいつ直木賞は授賞の報をもたらすつもりなんでしょう。そんなことは誰にもわかりませんが、澤田さんの作家生活はまだまだこれからが長丁場なはずです。チャンスはいくらでもめぐってきます。候補になるたび、いちいち騒がれて、たぶん面倒くさいことかと推察しますけど、どうか直木賞のことを見捨てないで、笑ってお付き合いいただけることを願います。またお会いしましょう。

 正直なところ申し上げますと、朝倉かすみさんが直木賞の候補に選ばれたことで、ワタクシの満足はピークに達しました。待ってましたよ朝倉さん。この日がくることをずーっと前から。『平場の月』はいま以上に、もっともっと多くの読者に届け、と願わずにはいられない小説ですが、今回直木賞がその後押しをすることができなかったのは、直木賞ファンとして悲しいことでした。いつか朝倉さんの小説が受賞することで満足がピークに達するような未来を、これから心待ちにしたいと思います。

 直木賞をとることと、直木賞の候補に挙がりつづけること、どちらが難しいか。……なかなか比較しづらい問題ですけど、原田マハさんが今度もまた、美術と歴史を題材にした『美しき愚かものたちのタブロー』で候補になった、この偉業を尊びたいです。美術に関する深すぎる興味から、これだけの作品を生み出し続ける驚異の筆力。汲めども汲めども尽きぬ、美術界の物語。直木賞の選考委員の側が折れるまで、このまま直木賞に魂のこもった作品を、送り込みつづけてください。

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2019年1月17日 (木)

第160回直木賞(平成30年/2018年下半期)決定の夜に

 平成31年/2019年1月16日、横綱・稀勢の里が引退会見を行いました。ひとつの時代が終わったと見るか。引退する力士という存在はそれほど珍しくないのだから、恒例の日常風景と見るか。どう感じるかは人それぞれで、べつに他人の感覚に合わせる必要などありません。

 平成31年/2019年1月16日、第160回直木賞(平成30年/2018年下半期)も決まりました。これなど、まさしく恒例の日常風景、6か月に1回、定期的に開催されています。話題になっているのかいないのか。これもまたもちろん、どう感じるかは人それぞれで、べつに他人の感覚に合わせる必要などありません。

 個人的な感覚で、今回の直木賞を思い返すと、とにかく熱い。重い。長い。という印象ばかりがひしひしと身体にのしかかってきます。どの候補作が受賞しても、そんな直木賞を象徴しているかのようで、直木賞ファンとしては何一つ問題なく楽しみましたが、せっかくだったら平成最後のサプライズ、候補5つ全部受賞! とかやってくれたら最高だったのに、と思います。受賞作ばかりがこの賞を形成しているわけじゃないんだな。そんな事実を再確認させてくれた回だったとも思います。

 何をさておいても、真っ先に取り上げたいのは、そりゃあ、あなたですよ深緑野分さん。『ベルリンは晴れているか』に、このままどの文学賞も賞を贈らない、ということにでもなったら、何だかこれからワタクシ自身、心に傷が残ってしまいそうで、何ちゅう判断をしてくれたんだ直木賞、と悲しくなりますが、終わった賞は終わったことです。直木賞の候補がきっかけで、こういう小説と出会うことができたのは、掛け値なし、大げさでなく幸せでした。きっと直木賞に悪気はありません。どうか深緑さんも直木賞のことを嫌いにならずにいてくださると、うれしいです。

 『熱帯』を読み終わって、不思議な感覚になりました。そして思いました。どうやらこの世には森見登美彦という人がいるそうで、サイン会もやっているし、インタビューも受けている。だけど、あれは誰かが、森見登美彦が実在しているという状況を創造したフィクションで、直木賞の受賞会見のときに、誰かからその仕組みが明かされるのではないか、と。けっきょく今回も明かされはしませんでしたが、読者の心のなかに森見登美彦はいます。謎は、いつまでも謎のままです。

 ところで、やっぱり直木賞選考会での、歴史小説に対するハードルの高さは尋常じゃないな、と思わされたのが、垣根涼介さんの『信長の原理』が受賞できなかったことです。これでも受賞圏じゃないのか。どんだけ歴史モノに厳しいんだ、と叫びたくなります。たぶん選考委員の方たちのなかには、一生解けそうもない「直木賞にふさわしい歴史小説」像があるのでしょう。そういう他人の感覚など気にせず、これからも垣根さんの歴史モノ、読みつづけていきたいと思います。

 『童の神』、正直なところ面白かったです。現代的なテーマを下敷きに、説話の世界からここまで肉付けして、突き抜けた物語をつくるという今村翔吾さんのタダ者じゃなさが、痛いほど伝わってきました。デビューまもない勢いのある新人作家を、なぜか取りこぼしてしまう直木賞。ああ、またか。とガッカリしましたが、とりあえず文学賞の当落はさておいて、今村さんの前途には明るさしか見えません。時代小説の新時代への扉、開けちゃってください。

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2018年7月19日 (木)

第159回直木賞(平成30年/2018年上半期)決定の夜に

 決まってしまいます。気温が何度になろうが、誰の訃報が流れようが、政治の状況がどうだろうが、やはり直木賞は決まってしまいます。7月18日(水)。第159回(平成30年/2018年上半期)の直木賞が決まりました。

 ああ、それにしても、目を閉じると、いつも思い出すのは、受賞しなかった候補作のことばかり。

 ……と、これは、ワタクシがひねくれている、というのも理由のひとつでしょうけど、しかし、それぞれの小説を読んで、受賞作よりも候補作のほうに魅かれる、というのは直木賞を外から見ているわれわれには、きっとよくある伝統的な現象でしょう。

 まずは何といっても今回は、湊かなえさんの『未来』のことに触れないわけにはいきません。端から端まで、〈湊かなえ〉の匂いを存分に充満させた、この熱い、熱すぎる一作。はっきり言って困りました。授賞させる気なら、もっと前に授賞させておけよ、と思いました。作家としての実績は、直木賞向き、だけどこの一作は、あまりにあまりすぎて、選考委員の人たちも苦しんだのではないかと想像します。そして、苦しみのヒストリーはこれからもまだまだ続く。受賞のその日まで。

 苦しみか平穏か、こちらはよくわかりませんが、『宇喜多の楽土』の木下昌輝さんが、すでに直木賞受賞者であっても遜色ない活躍ぶりを見せていることを目にすると、やはり第152回(平成26年/2014年下半期)に『宇喜多の捨て嫁』で受賞させなかったアノ選考は、大失敗だったと思わずにはいられません。その大失敗を、どうにか帳消しにするためには、木下さん自身の力を借りるしかなく、どうか木下さん、今度こそ直木賞にギャフンと言わせてやってください。切に祈ります。

 上田早夕里さんの『破滅の王』のような作品を、高く評価して、最終決選にまで残すことは残すが、受賞圏内には届かない……という、いかにもな直木賞の決断。まったく歯がゆいです。候補になったのもサプライズ、これで受賞していれば、二重三重の輪がかかって最高級のサプライズになったのにな。相変らずの直木賞でごめんなさい。ワタクシが謝っても仕方ないですけど、とりあえず今後とも、直木賞のことをよろしくお願いいたします。

 どうして本城雅人さんの、はじめての直木賞候補作が『傍流の記者』なんだ。と不満に思った人は多いはずです。多いかどうかは知りませんが、少なくともワタクシはそのひとりです。やはり本城さんの記者モノは、どこか影をもった、エリートコースから外れぎみの記者の造型に、抜群の魅力があふれていると思います。これからの、馬力あるお仕事ぶりが楽しみでなりません。

 何の星のめぐりあわせか、窪美澄さんの『じっと手を見る』が、不思議にも直木賞の受賞作になりませんでした。これで早くも「どうしてこの作家が直木賞候補どまりで、受賞者になっていないんだ」グループの仲間入りです。いや、すでに選考委員ぐらいの貫禄がある。そこが恐ろしいです。いつか直木賞の選考委員になって、この賞に文芸の風を送り込んでやってください。

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2018年1月17日 (水)

第158回直木賞(平成29年/2017年下半期)決定の夜に

 こんばんは。1月16日(火)は19時あたりから一気に騒ぎが収束して、よく見れば元通り、こじんまりと一部の人だけが注目する、いつもどおりの直木賞の姿に。

 えーっ、これで騒ぎも終わりなのー? と物足りないものもありますが、とりあえず残り香を嗅ぎながら、直木賞を楽しみ尽くしたい、という気分です。

 候補作品5つ。うち受賞作1つ。と、すでにこれしか候補作がなかったのが、いちばん物足りないんですけど、読めば読むほど、もっと候補作を読みたい! という気にさせてくれた今回の候補作の数々。選考会が過ぎてしまえば、ワタクシみたいな一般の読者にとっては、賞をとったとかとらなかったとかは、どうでもよくなります。一冊一冊を読んだときの、あの幸せな読書体験。それを思い返しながら、直木賞なんちゅう、わずらわしい行事を盛り上げてくれた候補作品に、思いをこめて、頭を下げたいと思います。

 そもそもが、藤崎彩織さんが小説を書こうと決心し、忙しい時間の合間を縫って、『ふたご』の発表にまでこぎつけていなければ、今回の直木賞の様相は、まるで違っていた、ということに異論のある人はいないでしょう。「この人には、もっともっと小説を書いてほしい」と、その才能に惚れ込んだ編集者が、何人かいたときに、有名な文学賞の候補に残すことで、作家の背中を押す。というのは、文学賞の伝統的、あるいは正統的な役割です。藤崎さん、次も書いてください、この先ずっと。

 はじめての候補で、しかも短篇集、これでは直木賞ではブが悪い。という観測は、たしかにそうなんでしょうけども、彩瀬まるさんの『くちなし』が、直木賞の候補ラインナップに入った! というだけで、直木賞にキリリと香気が漂った、というのはたしかなことです。大上段に構えた力作とか、パッと目をひく話題作とか、そういう小説でなくても、すきあれば取り上げようとする直木賞のよさが垣間見えて、それだけでも第158回の直木賞を見ていた甲斐がありました。彩瀬さんは次も書かれるでしょう、どんどん書かれるでしょう。どうかまた、直木賞が彩瀬さんの作品を、取り上げてくれますように。

 ええ(ため息)。ほんと直木賞の選考委員っつうのは、歴史・時代小説に対して求める期待のレベルが高すぎですよね。……それはともかく、澤田瞳子さんの『火定』が、これほど数多くの予想者から本命に推されたことを、ワタクシは忘れないでおきます。データベースには残らないけど、でも確実に多くの人が、「これは受賞に値する!」と思ったことだって、やっぱり直木賞の一部。澤田さんのことですから、これからたゆまず書き続けていってくれるはずです。またいつか、近いうちに。

 直木賞の候補になったとはいえ、今回、伊吹有喜さんの『彼方の友へ』を、文学賞の枠組みでとらえようとした自分が、何とも愚かだったと反省しています。受賞するのかしないのか、なんちゅう観点で、何だかんだとケチをつけたり、あるいは擁護したり、そういう浅ましい世界から抜け出たところで輝く『彼方の友へ』。ほんと、胸のしめつけられる、また親近感の湧く、楽しい小説でした。ワタクシの、心の直木賞。

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2017年7月20日 (木)

第157回直木賞(平成29年/2017年上半期)決定の夜に

 今夜もいつもとかわらず、歓喜、失望、興奮の声が、全国各地で上がった……のでしょう、おそらく。

 ちょっともう、ワタクシは直木賞が好きすぎて、一般の状況がわからなくなっていますが、どんな盛り上がり具合でしょうか。手堅いといえばこれほど手堅い授賞はなく、非常に落ち着きのある直木賞となって、個人的には、今晩はおだやかな気分で眠れそうです。おだやかなのがいちばんです。

 と、完全に爺いモードに入るまえに、今回もまた、受賞しなかった4作が、目のまえにあります。決まったあとに、わざわざ受賞しなかったものなど目を向ける気がしない、という人も、いるかもしれませんけど、候補作の歴史こそが、直木賞の歴史。そのリストに名を刻んでくれた、この勇敢な(?)4作品を讃えて、ぜひ後世にまで語り継いでいきたい、という気持ちでいっぱうです。

 いったい宮内悠介さんの、今作のはじけ飛びぶりには、ハラハラドキドキさせられました。あるいは、直木賞のほうが一皮むける絶好のチャンスだったかもしれません。しかし、ああ、宮内さんどこまで飛翔してしまうんだあ……と、直木賞はぽかんと口をあけて、その背中を見送ることしかできず、いよいよ取り残されてしまいそうですけど、あと何度でもこの賞の相手をしてくれそうな、宮内さんの間口の広さに甘えさせてもらって、また次もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 この先が楽しみな作家ばかりだ、ということは言わずもがななんですが、佐藤巖太郎さんが、これからどう活躍の姿を見せてくれるのか。『会津執権の栄誉』を読んで、俄然、楽しみになりました。とりあえず最初の候補で、歴史モノに賞をあげることのできない直木賞のクセは、もはや治りそうもないほどの重症です。すみません。ってワタクシが謝っても仕方ないんですけど、こういう、直木賞のイヤなクセを帳消しにするぐらい、巖太郎さんが活躍してくださることを期待するしかありません。どうぞ、直木賞を助けてやってください。

 直木賞はいまキテる勢いのある作家にとってほしい……というのは、某選考委員の口グセですが、「いまキテる勢いのある作家」にあげそこねるのも、また直木賞の伝統です。そんなもの伝統にするなよ、ってツッコみたくなるのを抑えて、木下昌輝さんの候補作、今回は(も)とってもおかしくないんだけどなあ、と嘆きたくなるのも抑えつつ、さすがにそろそろ直木賞騒ぎもイヤになりはじめているかもしれませんが、やはり木下さんにとってもらいたい直木賞。ここは耐え忍んで、いつか木下さんが受賞する日を待ちたいと思います。

 柚木麻子さん。「直木賞っぽい路線」なんてクソくらえ的な、我が道を行くその剛腕ぶりに、もう感服しました。お見事です。降参です。確実に直木賞史に残る作品を書いていただき、これは少なくともワタクシ個人的には、賞の当落よりも重要なことなものですから、ありがとうございました、と御礼を述べる他ありません。直木賞っぽい路線、クソくらえ、です。

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2017年1月20日 (金)

第156回直木賞(平成28年/2016年下半期)決定の夜に

 直木賞には猛省をうながしたい!

 いったい、この候補作の並びに、『蜜蜂と遠雷』などという、だれが見たって受賞するでしょと言う以外にない小説を、入れなきゃいけなくなってしまった責任は、当然、過去の直木賞にあります。超能力の登場に抵抗感があるだの、オチのよくわからない展開だの、そんなことに気をとられすぎて、ここまで引き延ばしてしまった結果、熾烈な当落に向けての議論にもいたらず、しゃんしゃんと、だいたいの人が想像したとおりの受賞回になってしまいました。

 もっとダイナミックな展開が、直木賞には欲しい。というのが、一観客でしかないワタクシの望みです。これが直木賞、ってもんなんでしょうけど、もうちょっと事前にワクワクドキドキさせてくださいよ、頼みます。奮起せよ、直木賞。

 ……とは言いながら、『蜜蜂~』と同じ土俵に上げられてしまった候補作の数々も、本命ではなかった、ってだけのこと。べつに、読むに値しないクソな作品、というわけではありません(当たり前だ)。あげ遅れの人にようやくあげたと思ったら、同時にまた、あげ遅れの候補者を生んでしまう、という悲しさから、ひとまず目を背けて、やっぱり直木賞の候補作には、どれも楽しませてもらいました。

 『蜜蜂~』が本命ならば、逆・本命は『十二人の死にたい子どもたち』だったと思います。これまでの直木賞の性格からして、まず評価される状況が想像できない、ミステリーの約束事にのっとったうえに、最初から最後まで特殊な環境のなかでのハナシを貫く、冲方丁さんの、この潔さ。そこまで直木賞が歩み寄る日がくることを、はるか夢に見たりしますが、まあ冲方さんは、直木賞の動向など気にせず、ブレずに潔く書きつづけていってくれるんでしょう。頼もしい人です。

 ブレない、と言ったら、そりゃ森見登美彦さんを思い浮かべないわけにはいきません。いいじゃないですか、『夜行』。前の候補のときとは、ちょっと読み心地は違えども、あいかわらず、「直木賞っぽくない小説で、直木賞の候補になる」その堂々たる風格、健在です。確実に、「あげ損ね」作家のひとりなので、いつか直木賞のほうが「これまでスミマセンでした」と頭をさげて賞を差し出す日がくるんでしょうが、そのときの受賞作も変わらず、「直木賞っぽくない小説」であったら、うれしいなあ。

 垣根涼介さんの『室町無頼』が、選考会でずいぶん好評だった、と報道で知り、かなりほくそ笑んでいます。そうとうな気合が生身に伝わる、アッツい小説でしたからねー。体裁やバランスなんてクソくらえ、って感じの骨っぽさが、お上品な直木賞の水には合わなかったのかもしれませんけど、勇ましく既成のものをぶっつぶすぐらいの作品で、またふたたび、候補の場に戻ってきてほしいです。

 そして『室町無頼』と並んで、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』も、授賞するかどうかで最後まで議論が交わされた、とのこと。こういうところで授賞の判断を下せればなあ、あげ遅れ案件が、ひとつでもふたつでも減らせるのになあ……とは思うんですが、あげ損ねを増やして歴史をつむいできたのが直木賞の特徴でしょうから、しかたありません。『また、桜の国で』は、実直でストレートで、でもエンタメに必須なサービス精神を忘れない作者の思いのこもった良作だと思います。

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2016年7月20日 (水)

第155回直木賞(平成28年/2016年上半期)決定の夜に

 「どうですか直木賞。思い返して、直木賞が(芥川賞とは別に)盛り上がったことなど、いったいいつまでさかのぼらなきゃいけないんだ。って感じの、順当で、誰もが予想しそうな、当然感あふれる、サラーッとした受賞風景。」

(以上、平成28年/2016年1月20日付 前回第154回決定の夜に書いた、当ブログからの再掲)

 そうなんですよね。紙予想の津田淳子さんは別格としまして、書評家の大矢博子さんも本命予想で当てられたそうですし、先日おこなわれたうちのサイトのイベントでも、参加者に予想をうかがったとき、いちばん得票数の多かったのが『海の見える理髪店』でした(まあ、ワタクシ自身の予想は聞かないでください)。候補回数が多ければ有利、の都市伝説復活、ってところですか。

 しかしです。個人的にはどれにしたって甲乙つけがたく、とった作品だろうが、とらなかった作品だろうが、あんまり印象に差はありません。「すばらしき精鋭の士そろいぶみ」の回に名を連ねてくれた、候補者にはぜひお礼を申し上げたいです。(……毎回、変わり映えもせずに、感謝を述べているだけで芸がないんですけど、これがワタクシの正直な気持ちなので、しかたありません)

 『家康、江戸を建てる』の、まったく本の分厚さを感じさせない爽やかな読み心地。戦国・江戸時代と、現代の感覚を自由自在に行き来する軽やかさ。門井慶喜さんには、これからも、暗くて地味ーな時代・歴史小説、のイメージをどんどんぶっ壊していただきまして、門井さんだけにしか到達できない境地へと、邁進していってほしいです。そうすりゃ、きっと直木賞のほうから、ごめんなさい、と折れるときがくるでしょう。

 米澤穂信さん、いよいよ、「常連候補」のゾーンに入った感がありますよね。次の候補作が、いったいどういうミステリーになるのか、いまからワクワクしています。直木賞なんて、きっと煩わしい行事なんだと思いますが、ぜひまたお付き合いください。

 ひたひたと不気味に懐に刀を忍ばせている感じの、今回の候補作ラインナップのなかにあって、『暗幕のゲルニカ』の、メッセージ性の熱さに、圧倒されちゃいました。いよいよ原田マハさんの美術系統の小説が候補のなかに入っていないと、満足できないからだになってしまいそうです。また、「熱いけど、それでも下品にならない」原田節の小説、よろしくお願いいたします。

 確実に直木賞を超えて売れちゃう作家の代表格なのに、湊かなえさんのような方に、直木賞みたいなシケた行事にお出ましいただけて、うれしいです。ありがとうございました。湊さんの小説が直木賞と相性が合わないのか、選考委員の人たちのやることなんで、よくわかりませんけど、たぶん悪気はありません。今後、直木賞が歩み寄る機会があったら、快く、迎え入れてやってください。

 それで、ここで泣いていいですか。吠えていいですか。何で、どうして伊東潤さんに、あげないんだよおー。だからこれまで、何度かチャンスがあったときに、すんなり賞を送っていれば、こんなことにはならなかった、と言っているのに。バンバンバン。……と机を叩きながら過去を嘆いても仕方ないです。いつだってチャレンジャーで、決してひるまない伊東潤、グレードアップした6度目の候補がやってくる日を、祈りながら眠りにつきたいと思います。

          ○

 荻原浩さんの、アノ作風どおりの人柄がにじみ出ている、って感じの受賞記者会見。(先鋭的でも、強烈でもないけど)いつも穏やかに流れていく直木賞にぴったり、というしかないじゃないですか。そうか、「しっくり」という言葉は、この日の荻原さんと直木賞のためにあったのか。ベテランの書いた、なにげない(なにげなさすぎる)作品集を見て、これは直木賞向きではない、と文句を垂れる人の気が知れません(って、そんな人はいないか)。

 長篇、長篇、長篇、長篇、と候補に挙げてから、5年半もあいてポロッと飛び出た短篇集に、なにごともなかったような顔してコソッと授賞。とか、直木賞、カワイすぎますよ! この愛嬌こそが直木賞の本領。話題にとぼしい、サラーッとした受賞だったとしても、いえいえ、これで満足っす。

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2016年1月20日 (水)

第154回直木賞(平成27年/2015年下半期)決定の夜に

 どうですか直木賞。思い返して、直木賞が(芥川賞とは別に)盛り上がったことなど、いったいいつまでさかのぼらなきゃいけないんだ。って感じの、順当で、誰もが予想しそうな、当然感あふれる、サラーッとした受賞風景。

 「今回の直木賞、全然話題にならなかったねー」などと、おなじみのフレーズが街を飛び交う気配が、すでに濃厚なわけですが、要するに、こんなものを毎回絶えず気にかけつづけているのは、完全な変人だろうと思います。変人で何が悪い。今回もやっぱり、結果が出るまで存分に楽しみましたよ、ワタクシは。話題になるかならないかは、知ったこっちゃありません。

 今回は候補ラインナップが、ひとりを除いてみんな初候補、というなかなか特徴的な布陣でしたので、直木賞受賞史的には妥当なのかもしれません。でもまあ、いずれ受賞するかもしれない作家の方々が、ぞくぞくと現われてきてくれて、ただ単純に、小説好き読者のひとりとしてうれしいです。

 直木賞は、かなり偏屈で理解しがたい選考基準があるらしいです。なので『羊と鋼の森』のような、多くの人に愛される小説がとれなくたって、ワタクシは悲しくなんかありません。宮下奈都さんには、これまでどおりひきつづき、真摯に小説を愛する読者たちを導く女王……というか女神のような存在として君臨していってほしいと願います。

 梶よう子さんが『ヨイ豊』の、とくに後半で見せた怒濤のごとき熱量に、圧倒されました。参りました。今度はまた、梶さんのおチャメさやユーモアなんぞを、ふんだんにまぶしたような、楽しい小説を書いていってほしいなあ。それじゃ直木賞向きじゃないかもしれませんけど、いいんじゃないでしょうか、直木賞なんかとらなくたって。

 『孤狼の血』こそ、今回の候補のなかでピカイチのエンタメ性、人物も展開も仕掛けも、美しいまでにバランスのとれた小説だなあと読みました。「面白いだけじゃ賞はあげられない」などとほざくどこかの賞のことは、このさい放っておきましょう。柚月裕子さんには、日本のエンタメ小説界をひっぱる存在になる、明るい未来しか見えませんよ。

 わずか二冊目、しかも初長篇で、こんなドエラいもの書いちゃって、深緑野分さん、だいじょうぶなのか!? と、勝手に不安になるとともに、こういう作品、こういう作家に、直木賞はあげてほしかった……。きっとのびしろは無限大。次、いったいどんなもの書くんだろう、という先の見えない作家で、いつまでもありつづけてください。

          ○

 青山文平さんの受賞記者会見、最初は朴訥でぼそぼそしゃべる方なのかなあ、と思っていましたが、もうアノ熱い語り口。「(受賞するしないにかかわらず)候補になったことで、あと三年は食えると思った」の言葉が印象的でした。注目どころは「受賞」ではなく、候補になることの重み。ワタクシもあんまり直木賞の受賞そのものには興味がないんで、我が意を得たり! と思ったことでした。

 ちなみに青山さんは、候補と決まって以降は、(あまり気にしないようにと)ネットとかそういう情報は見ないようにしていた、とのことで、ええ、候補に上がっていようがいまいが、基本、直木賞関連のサイトは、大したことも書いていないので、見ないでもいいと思います。

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2015年7月17日 (金)

第153回直木賞(平成27年/2015年上半期)決定の夜に

 今日は(昨日の7月16日は)、夜、外出していました。帰りの電車は、仕事でくたびれ果てた、直木賞とか芥川賞になど全然関心のなさそうな(と、勝手にこちらが思っている)大多数の人々と一緒の車両。それでも、車両の奥のほうから会話が聞こえてきて、サラリーマン風の男性と後輩OL風の女性が、「直木賞、東山彰良だって。知ってる?」みたいなことを小さな声でしゃべっていたのが、ワタクシには何よりの救いでした。

 以上、ソラ耳以外のなにものでもない妄想は、これまでにしましょう。今回は、事前には激戦だと思っていたんですけど、じっさいは一作だけ飛び抜けて票が集まり、他はほとんど受賞の可能性がなかったそうです。

 え? 何でそうなるんだ直木賞。他の候補作だって、おもしろいの、たくさんあったじゃないか! との思いがおさえきれません。今日も今日とて、直木賞候補の5作品には、このタイミングでやはり、お礼を申し上げたいところです。

 『永い言い訳』の、あの出てくる人物・出てくる人物の、メンドくさい感じに、ワタクシは心つかまれましたよ。専業作家みたいに、常に平均そこそこの作品を読物誌に発表しつづけながら生計を立てるのではなく、西川美和さんのような方が、忘れたころにポツリポツリと小説を出して、それで直木賞を盛り上げてくれる。心づよいです。また忘れたころに、新作を出して、こちらを仰天させてください。

 柚木麻子さんの、直木賞候補になる作品が、どんどんと(いや、今回はとくに)ぶっとんできて、素晴らしいよなあ。何でそうなるんだ、の展開。笑い&ドキドキのまぶしかたとか、もう、直木賞っぽくなくて好き! そのうち直木賞選考委員のほうが、疲れ果てて折れるまで、ぐいぐいと変な方向へと突っ走っていただけると、ワタクシは個人的にうれしいです。

 『東京帝大叡古教授』。直木賞といえば、経年劣化も甚だしく、ほとんど惰性でやっている、いつも変わり映えのしない賞として知られていますが、その直木賞の世界に、これほど背を向けたような孤高の候補作が、近年あったでしょうか! 門井慶喜さんのこの作品がとったら、(予想屋たちがバンバン直木賞に文句を言い始める、という意味でも)今回の直木賞はいちばん面白くなる、と本気で思っていました。これに贈れないとは。直木賞もけっきょく、まだまだ精進が足りず、といったところでしょうか。

 澤田瞳子さんは、ワタクシ個人的に大変思い入れのある作家です。騒ぎだけしか大きくないこんなヤクザな直木賞のお誘いに、このたび候補入りの打診を受けてくださったことが、まずうれしい。実直に一歩一歩高みへとのぼっていく澤田さんには、もうちょっと落ち着いた回で受賞していただくのが、ふさわしいかと。まあ、すでに『若冲』、ものすごく売れているようですので、賞などどうでもよく、慶賀です。

 よし。平成の白石一郎、もしくは古川薫の座には、馳星周さんに座っていただきたい。いまはまだ、選考委員の多くが、馳さんよりも前から直木賞と縁のある先輩作家ですけど、そういったメンツすら退任して、全員が馳さんのデビュー以降に登場した委員ばかりになったころ。願わくばワタクシの生きているあいだに、馳さんの受賞を見てから、あの世に旅立ちたいです。『アンタッチャブル』、さすがの技が各所にちりばめられた楽しい作品でした。

          ○

 しびれますよね。東山彰良さんのカッコよさには。『流』は全篇に重厚さが漂っていて、敷居が高そうなのに、でも軽妙さも散りばめてくれている。小説内世界は広く、真剣なのに、ちょっぴりのおかしみが混ざっている。このバランスのよさ、カッコいいよなあ。記者会見でも、まったくオチャラケることなく、しかし余裕をもって悠然と質問に答える姿に、しびれました。

 なによりしびれたのが、アレです。「今回、芥川賞のほうの取り上げられ方が華々しくなっていること」について問われたのに対し、芥川賞が盛り上がってくれれば、直木賞もその余勢で大きく取り上げてもらえるのでよかったです、といったような回答をされたところです。

 そうそう、まさにそうじゃないですか! こんな直木賞の姿は、今回だけじゃありません。いつだって爆発的に注目を浴びるのは芥川賞。直木賞が、それより華やかに扱われたのは1970年代終盤から80年代の、数年間ぐらいしかなく、あとはずーっと、「ついで」の存在でした。そのことをしっかりと把握し、自然のこととしてサラリと口にされた東山さんに、万雷の拍手をおくります。まったく、カッチョいいぜ。

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