カテゴリー「まもなく選考会」の35件の記事

2021年7月11日 (日)

「文芸記者・直木賞」(令和3年/2021年上半期)。直木賞関連の新聞記事と担当記者に対して贈られる賞。

 直木賞の決定が近づいてきました。今週水曜日、令和3年/2021年7月14日に第165回直木賞が決まります。

 その決定過程はともかくとして、直木賞がこれほど広く知られるようになった功績者に、文芸記者の人たちを挙げないわけにはいきません。いかにも脇役のような顔をしてウラに隠れているものですから、その功績があまり知られることもなく、いつも受賞会見ではアホな質問ばっかりしている人種として、一部から馬鹿にされている文芸記者たち。正直、かわいそうです。

 ワタクシ自身は、文芸記者の仕事のおかげで、知らなかった情報を知り、感情が揺さぶれ、毎回の直木賞に接している口なので、とやかく批判する前に、この人たちを正当に評価し、褒めたたえたい気持ちが強くあります。ということで、文芸記者による「直木賞に関連した新聞報道」に対して贈られる賞をつくりました。

 第165回の直木賞は令和3年/2021年上半期が対象です。この期間に、すでに各紙ではさまざまに直木賞(の候補者)が取り上げられてきましたが、そのなかで受賞に値する候補記事が、全部で5つ出揃っています。ご紹介します。

第165回期 「文芸記者・直木賞」候補者・候補作

川村律文(読売新聞)令和3年/2021年6月22日「究 「BL作家」 文芸作品でも注目 本屋大賞や直木賞候補」

梓勇生(夕刊フジ・ZAKZAK)令和3年/2021年2月17日「社会のタブーにも斬り込み、時代という悪を問いかける 呉勝浩さん『おれたちの歌をうたえ』」

須藤唯哉(毎日新聞)令和3年/2021年5月28日「ひと 佐藤究さん=第34回山本周五郎賞を受賞した」

北爪三記(東京新聞)令和3年/2021年5月22日「書く人 『星落ちて、なお』 作家・澤田瞳子さん 親と同じ道歩む苦悩」

興野優平(朝日新聞)令和3年/2021年6月16日夕刊「へとへとの15年経験、ぽろりと出てくる言葉がある 砂原浩太朗さん、2作目「高瀬庄左衛門御留書」」

■「文芸記者・直木賞」候補 川村律文

 これまでも長く直木賞関係の記事を書いてきた方です。もはやこんなところで顕彰しなくても……と思いましたが、個性派がゴチャゴチャと揃う『読売』の文芸担当のなかで、それでも光を当てたくなるような、個性的で精力的な仕事をこつこつと積み上げています。ぜひとも、だれかの力で川村さんに賞をあげてください。

 今期の対象作は「「BL作家」 文芸作品でも注目 本屋大賞や直木賞候補」(『読売新聞』令和3年/2021年6月22日)です。一穂ミチさんの直木賞候補入りから、凪良ゆうさんの活躍ぶり、榎田ユウリさんのコメント、藤本由香里さんの分析などを果敢にまとめ上げています。

 一穂さんについて、

「同人誌で二次創作の小説を書く中で編集者から声がかかり、BL小説の人気作家となった。BL以外の小説には「漠然とした憧れはありましたが、文学賞には応募してこなかった」。」(同記事より)

 と書いているんですが、謙虚で慎みのありそうな一穂さんの姿を、わずかな文章で浮かび上がらせる技。さすが熟練した文芸記者の腕です。

■「文芸記者・直木賞」候補 梓勇生

 正直いって、梓さんが「文芸記者」なのかどうなのか、ワタクシもよくわかりません。ここで挙げるのはカテゴリーエラーかもしれませんけど、いわゆる「大衆文芸」の枠に入らない純文学や、随筆風よみもの、ノンフィクション、伝記などなど、いろんなジャンルに手を出してきたホンモノの直木賞を見ならって、今回「文芸記者・直木賞」に、梓さんを推したいと思います。

 呉勝浩さんのインタビュー記事は、ネットで全文読むことができます。梓さんの佳品、ぜひ堪能してください。

 今回の『おれたちの歌をうたえ』で、呉さんは「悪」ではなく「時代」を描いた、タブーとされる問題に切り込んだ、登場人物それぞれに作者自身が投影されている、といったハナシを引き出し、そこまで言うなら読んでみるか! と読み手に思わせる梓さんの、インタビュアーとしての高い技量が光ります。

 呉さんが影響を受けた小説として、乱歩賞の先輩でもある藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』のことも出てきます。このインタビューが出たのは数か月前ですが、乱歩賞、そして直木賞……という雰囲気を匂わせ、おそらくこの新作も直木賞の候補になりそうだぞ、と(はっきりは書いてありませんけど)印象づけるあたり。梓勇生、すごい書き手です。

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2021年1月17日 (日)

第164回直木賞に見るソーシャルディスタンス。

 半年まえの令和2年/2020年7月15日(水)も、直木賞は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けました。

 この日、選考会が行なわれた東京で新規に感染を確認された人が165人。会場では、委員どうしの距離をとったり、アクリル板を設置したりするなど、感染拡大防止の策が施されました。都内ホテルで開かれた受賞者の記者会見も、入場者数が制限され、参集者は会話厳禁。質問者はそのたびにひとりひとり前に出て、みんなと離れた位置で話すことが求められました。飛沫の拡散で感染者を増やさないための対策です。

 以来、半年が経ちます。同じ曜日で比較すると令和3年/2021年1月13日(水)の、東京の新規感染は1433人。収束するどころか、この半年でほぼ10倍です。緊急事態宣言も出されました。

 1月20日に行われる予定の第164回直木賞も、状況は明るくありません。明らかに高齢者たち5人以上が参加する会合です。食事はどうなるのか不明ですが、お茶ぐらいは出るんでしょう。こういう場でクラスターでも発生したら、各所から集中砲火を浴びるのは必至ですから、よりいっそうの厳戒態勢で会議や会見が開かれるものと思われます。

 科学的なエビデンスはよくわかりません。ただ、少なくとも「大勢の人間が、密閉した場所で、距離を保たず声を出しあう」という状況に、多くの日本人が神経質になっているのは間違いありません。その意識の変化が、直木賞を選考する行為に影響を及ぼすことも、容易に想像できるところです。

 ということで、ここに6つの候補作があります。登場するのは、いずれも人間です。彼らが「三つの密」をつくる場面が出てきたとき、読み手の脳内に思わず、「これはダメだ」と危険信号が流れてしまうのも、これまでと違うコロナ禍のなかでの読書体験でしょう。あるいは、みんなで自粛しよう、我慢しようと言っている状況下、そんな場面が出てくる小説が受賞したら、世間から袋叩きにされる可能性も否定できません。

 当然、最も気にかかるのは、どれだけ感染拡大対策がなされているか、ということになります。今回の直木賞は、その点がいちばんの注目ポイントです。

■芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』

感染拡大対策:★★★★

 自宅の作業場での夫婦のやりとり。穏やかです。学校の先生がアタフタする状況でも、基本的に一人でいるか、ギャンブル狂の同僚との二人での会話で終わっています。アパートの老夫婦も、はめを外して遠くに外出するわけでもなく、ひっそりと暮らしています。素晴らしい自粛ぶりです。

 料理研究家のサイン会には、多くの人が集まったようですが、感染拡大に対してどういう対策をとったのか、くわしく書いてありません。おそらくマスクは必須だったでしょう。ファンの女性と握手しているのは気になりますが、即座に無防備だと責め立てるわけにもいきません。

 問題は、山奥で映画を撮っていた人たちの、感染に対する認識の甘さです。旅館の閉鎖された一室で、監督、俳優、そのマネージャー、映画プロデューサー4人が、けっこう激しく声を出し合っています。もし誰かひとりでも感染者だったら……。考えるだけで恐怖です。

■西條奈加『心淋し川』

感染拡大対策:★★★★

 近くにドブ川が流れ、衛生的にはかなり難のある江戸の長屋。住む人たちもみんな貧困なので、いったんウイルスに感染したら、重篤な患者が多発してもおかしくありません。

 おそらく住民にはその意識があるのでしょう、家族どうしで集まることはあっても、大勢で密集する機会はおおむね避けています。こういう真っ当な人たちの生活が保障されるような国であってほしいです。

 最後の最後で、町方役人が柳橋の料理屋で会食をもつ様子が出てきます。年長者二人に、若者六人。オジさんたちの言うことに逆らえず、イヤイヤ宴席に連れてこられた若者たちのつらさが、よくわかります。とりあえずこれは回想シーンなので、問題とするのは気にしすぎでしょうが、会食自粛のお触れが出ている現状では、忌避される場面かもしれません。

■伊与原新『八月の銀の雪』

感染拡大対策:★★★

 人としゃべるのが苦手な大学生。というこの設定が、すでに表題作の勝利でしょう。大勢で話し合う場面とは無縁です。

 対して、いきなり満員電車の車内から始まる作品には、ドキッとさせられます。自粛だ在宅だとおカミから言われても、簡単に従えない人たちがこんなにもいるのだ。ひとつの警鐘だと思いますが、途中、40~50人の聴衆を集めたトークイベントが出てくるところは、いただけません。九十九里の砂浜で発掘作業をするのは、仕事ですから仕方ないとして、屋外とはいえ見物客が集まってしまっています。やはり主催者に管理監督責任が問われるでしょう。

 その対策の甘さを挽回するかのように、公園で静かに野鳥を観察する場面、川に繰り出した二人の男女が距離をとって珪藻を採取する場面、広々とした海岸でひとりの男が凧を揚げる場面、と空気のながれのよい野外の話が印象的に描かれます。これで挽回できたと見るかどうかが、ひとつの鍵です。

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2020年7月12日 (日)

第163回直木賞を語るはずの「文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」の予想。

 毎回恒例のラジオ日本「文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」は、令和2年/2020年7月20日(月)25時~26時に放送予定です。今回もまた、あまりに楽しみなので、以下その放送内容を予想してみます。――

          ~(タイトルコール・BGM)~

植●第163回直木賞の選考会が7月15日午後2時より、築地・新喜楽で開催。授賞作が決定しました。ということでラジオ日本の名物企画「文学賞メッタ斬り!」では、例によってどの作家が直木賞をとるのか、書評家でSF翻訳家の大森望さん、そして書評家の豊崎由美さんに先週ずばり予想していただきました。果たして予想結果は当たっているのか。

 それでは「文学賞メッタ斬り!」の介錯人のこのお二人。ご紹介しましょう。大森望さん、豊崎由美さん。こんばんは。

大・豊●こんばんは。

植●それではさっそく、第163回直木賞を、あらためて「文学賞メッタ斬り!」的ににぎにぎしく発表させていただきます。

          ~(略)~

豊●結果についてはですね、何も申し上げることがございません。おめでとうございます。以上。っていう感じですね。

 もう直木賞はいいから、今日は芥川賞のことだけでいいんじゃですか。

大●今回はやっぱり受賞者の会見がいちばんの見どころでしたね。いつもは記者とか出版社の編集者とかぎっしり入っている会見場が、この情勢を考えて、みんなソーシャルディスタンスで。

豊●会見とか、これからもリモートでやればいいんですよ。候補者は地方に住んでいる人もけっこういるのに、わざわざ全員、東京に呼んで待機させて、何サマだって感じですよ。

大●いやいや、あれは強制じゃないですから。来られない人は、無理して来なくてもいい、っていうスタンスなんですけど、やっぱり会見に顔を出して生の声でしゃべることで、受賞作の売れ行きもどうハネるかわからないですから、版元としてはできるなら会見に出ていただきたい、っていうことでしょう。

豊●それで出たくもない会見に出て、ろくに候補作を読んでない記者から、くだらない質問ばかりされて。ほんと、かわいそうですよ。

大●ええと、今回の選考経過はですね、今回は北方謙三さんが選考会のあとに会見したんですけど、やっぱりまずは、前代未聞のコロナ禍のなかでの選考になった、それについて語ったと。こんな状況、こんな時代からこそプライベートな空間でも社会とか時代とかとつながることのできる小説の意義について語ったと。

豊●ずっと「夜の街」のイメージを背負ってこられた北方センセイが、ここで率先して感染防止を訴えてくださって。素晴らしいですね。

大●馳星周さんの『少年と犬』については、プロの作家としてのまぎれもない高い技術には、みんな選考委員の人たちも異論は出なかった、と。個人的にはもう少し早い時期に差し上げる機会があったと思っているが、それができなかったことは、ひとりの選考委員として素直にお詫びをしたい。……と言って頭を下げたらしいですね。

豊●先週も話が出ましたけど、5年まえでしたっけ、『アンタッチャブル』で受賞できなかったのは、ほんとうに傍目で見ても、ひどかったですからね。いまさら謝られても仕方ないでしょうけど。

大●幅の広い作家であることは十分確認できた、馳さんはこれからもっと大きな作家になれる人だと信じている……っていうのも、いまさら言う言葉かと。とっくのとうにほとんどの人が、馳さんが幅の広い作風でやっていける人だということは、気づいていたと思いますけど。

豊●その作家にとって、これぞっ! っていう作品でとらせてあげればいいのにね。……

          ~(略)~

大●それから北方さんは、最終決選に残った今村翔吾さんの『じんかん』も、かなり最後まで粘ったと。力のある書き手で、次の世代のエンターテイメントの小説界を担っていく人材だと。しかし一部の選考委員のなかには、あまりにも主人公の九兵衛……松永久秀ですね、彼が謙虚で、ものわかりがよくて、民衆の幸せのことを考えていて、いい人すぎるのが、いかがなものか。歴史のひとつの解釈といえば解釈なんでしょうけど、あまりにヒーローを美しく描きすぎなのではないかという反対意見がありました、……ということです。

豊●魅力的な悪をどう表現するか、というところで苦労されてきたセンセイ方にとっては許せなかったんでしょうね。でも、それを言ってしまうと、伊吹さんのとか、もう救われないじゃないですか。小説全体として目指していることを、全部まるごと否定されちゃったら、かわいそうですよね。

大●『じんかん』に関しては、前半部分をメインにして、もう少しボリュームを削ぎ落したほうがいい、という声もあったと。それはそれは難しいところだと思いますけど。生涯がもう決まっている歴史上の人物で、史料に出てくる後半の部分こそが見せどころ、という部分もありますからね。

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2020年1月12日 (日)

今回から状況が逆転する、第162回直木賞の展望記事。

 直木賞には毎回、何かしらの注目ポイントがあります。

 そのほとんどは、無視して通りすぎても何の障害もなく生きていけるような類いのものです。なので、この時期に文芸関係者でもなく出版・書店関係者でもない者が、直木賞、直木賞と騒いでいると、だいたいそれだけで一般的に白い目で見られます。正直、世間のなかではそれほど重要な行事ではありません。それが直木賞というものだと思います。

 それはともかく、今回の直木賞で気になることといったら、やはりこれでしょう。いよいよ女性が大勢を占める回が到来した、ということです。

 何を言っているんだ。直木賞の候補が全員女性になって多少の話題を振りまいたのは、半年前のことじゃないか。相変らず時間軸が狂っている、ふざけたブログだな。……と自覚しないでもありません。しかし、女性か男性かの視点から直木賞を見たときに、転換期が今度の第162回にあることは明らかです。

 林真理子宮部みゆき桐野夏生高村薫角田光代、合計5人。対して男性は、北方謙三宮城谷昌光浅田次郎伊集院静の4人。創設から85年たってようやく、そしていっしょにやっている芥川賞に先んじて、選考委員の男女比が逆転した今回は、直木賞にとって大きな節目となります。

 直木賞(や芥川賞)の委員が、男性ではなく女性であることで、何か影響があるのか。そういうことは、昭和62年/1987年上半期(第97回)に田辺聖子さんと平岩弓枝さんが選考委員になったとき、さんざん報道各社が取材を行い、論評めいた記事が続出したので、改めて蒸し返す気も起こりません。ここでは、直木賞の新しい歴史を切り開くことになる5人の選考委員は、どういう作品を評価しそうなのか、想像する材料のひとつとして、これまでの歴戦・苦戦ぶりを振り返ってみたいと思います。

林真理子(委員在任:20年/第123回から今回で40回目)

選評で高く評価した候補作

 個人的なことを言いますと、うちの「直木賞のすべて」というサイトをひっそりと始めたのが、ちょうど20年前になります。

 そのとき、46歳の若さ(?)で新任の委員として加わった林さんも、気がつけば現メンバー最長在任委員のひとりです。以来、サイトのほうでもブログのほうでもずいぶんイジらせてもらいましたが、小島政二郎さんに始まって、木々高太郎村上元三石坂洋次郎渡辺淳一などなど、直木賞の魅力は、世間一般からもイジられるような選考委員がいなければ、確実に半減します。

 その意味では林さんこそ、現代の直木賞を支えている、と言っていいはずです。あまり言う機会もないので、この場を借りて称えておきたいと思います。林さん。あんたはエラい。

 ちなみに林さんが高く評価したけれど、受賞しなかった候補作の系譜を挙げたのが、左の一覧です。

 ミステリーだろうがファンタジーだろうが、いいと思ったら全力で推すこの感じ。目立ちすぎて叩かれる、という林さんにおなじみな展開を生む隠れた要因でしょう。そしてワタクシ自身、直木賞の受賞作リストよりも、林さんが推奨した作品リストのほうが何だか好みにマッチしている、ということを告白します。お恥かしいかぎりです。……って、けっきょくまたイジっていますね。

宮部みゆき(委員在任:11年半/第140回から今回で23回目)

選評で高く評価した候補作

 林さんの次に古い女性委員は、もう10年以上もやっている宮部さんです。就任したのが48歳のときなので、もうじきン歳です。

 年齢はさておき、林さんと同じく宮部さんも、まあ受賞したもの以外の(落ちた)作品を褒める選評が多く、ほとんどそればっかり書いています。他の人がイイところを指摘している作品を、わざわざ追随する気がしないのかもしれません。だいたい、受賞しなかった作品がどこが素晴らしいかを、えんえんと、長ながと書く。宮部さんの開拓したスタイルです。

 そして推し切れなかった自分の非力を謝罪します。その反省が次に生かされているのかどうなのか、いまいちよくわかりませんが、きっと自分の推奨する作品を受賞させるよう、試行錯誤を繰り返しているのだと信じます。

 宮部さんが討ち死にした左のリストも、林さんに肩を並べるくらいに壮観です。時代・歴史小説、ミステリー、SFといったところを強く評価してきた歴々たる記録、といった感もありますが、まあだいたい直木賞が、それらの小説にやすやすと賞を与えることをしてこなかった記録、と見ていいかもしれません。

 林・宮部の最強タッグを組んで、潮目を変えてもらいたいと願うところです。

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2019年7月14日 (日)

かたくなに男性のことにしか触れない、第161回直木賞の展望記事。

 令和1年/2019年7月17日に行われる第161回(平成31年・令和1年/2019年・上半期)直木賞の選考会が、いよいよ目前にせまってきました。今回はとくに、脇役として強烈な男性を配した作品が、候補のすべてを独占したということで、いろいろと話題になっています。

 80余年の直木賞の歴史のなかで、これがはじめてなのかどうか。よくわかりません。

 ただ、はじめてであっても、そうでなくても、直木賞というたったひとつの文学賞が表わす様相に、さほど重要な話が含まれているわけではありません。気にせず進めたいと思います。

第161直木賞候補作の男性たち
  • ヤッソ(『平場の月』光文社刊)
  • 吉田文三郎(『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』文藝春秋刊)
  • 河津浩介(『トリニティ』新潮社刊)
  • 千歳(『落花』中央公論新社刊)
  • 日置釭三郎(『美しき愚かものたちのタブロー』文藝春秋刊)
  • 蔵元俊(『マジカルグランマ』朝日新聞出版刊)

■ヤッソ(『平場の月』)

 ひとり目にして、いきなり経歴が不詳です。64、65歳の独り者だ、と紹介されています。たまねぎみたいな顔をしているそうです。正式にはヤッソではありません。「ヤッソさん」です。

 青砥健将が働く印刷会社で、派遣社員として働いています。たまに青砥のことを家に誘って、酒を飲みながら愚痴を吐き出す男です。あるいは青砥が、まだ誰にも話していない、現在抱えている状況をさらっと話してしまえるぐらいの間柄。肩から力の抜けた、あまり強烈そうな臭いを発していない高齢男子です。口にすることといえば、現状の職場での不満とか、同じ職場で働く誰かれの品評ばかりなんだそうですが、大局に立ってエラそうに物を言うような、いけすかないジイさんでないことは伝わってきます。

 「ヤッソさんと話をしていると、ここは平場だ、と強く感じる。おれら、ひらたい地面でもぞもぞ動くザッツ・庶民。」(『平場の月』より)という表現が出てきます。出演シーンはほとんどありませんが、そのたたずまいがタイトルにも採られてしまうぐらいの、重要な男性です。

 

■吉田文三郎(『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』)

 大坂道頓堀にある竹本座の、人形遣いの親玉みたいな人です。「癖の強い爺い」(『渦』より)とか言われています。腕はある、人気もある。しかし言いたいことはきっぱり言うから、まわりに煙たがられているようです。

 とりあえずこの小説は近松半二の一生を描いているので、他の人物はどうしても脇に置かれてしまいますが、文三郎さんに負わされた役割の重要さは、とてつもなくでかいものがあります。そもそも芝居小屋に出入りして、好き勝手にべらべらしゃべるだけだった若造の半二に、こいつはきっと浄瑠璃が書ける!と見込んで、ものになるまで指導と助言をした、その名伯楽ぶりがなければ、後年「妹背山婦女庭訓」が生まれることはなかったでしょう。

 晩年、竹本座を飛び出して自前での旗揚げを画策したものの、文三郎に関する悪い噂がどこかからか流れて、計画はおじゃん。失意のうちに亡くなる……といった展開は、ほとんど『マジカルグランマ』に出てくる人物のようでもあります。愛すべきクソ爺い、作品を超えて生きています。

 

■河津浩介(『トリニティ』)

 戦前、15歳で仙台から東京に出てきた河津浩介少年は、おそらく裕福さとは無縁な環境で育ち、働きながら勉学に励む質実な男です。1949年、上芝電機で労働組合の幹部だったときに、社長が殺害されるという事件が起こり、河津さんは首謀者として逮捕されてしまいます。

 無罪を訴えますが、一審では有罪判決がくだされて死刑宣告。拘置所のなかで無罪を訴えつづけ、外にいた支援団体の人たちにも助けられて、1962年にようやく再審で無罪判決を勝ち取ります。これが河津さんの人生を大きく変え、以降は、自身も不当な仕打ちを受けた「冤罪事件」に関する研究・調査を、地道につづける日々。収入は常にカツカツです。何年もかけてようやく一冊になった冤罪事件に関する河津さんの本は、とくに売れることもなく、評判にもならず、ひとつのことを成し遂げた河津さんのほうも、人生の目的を失ったように、覇気を失います。

 しかし、お金を得るよりもっと大事なことがある。といった河津さんの生き方は、結婚してからも変わりませんでした。家のことはたいてい河津さんが担当しますが、出来合いの惣菜など買ったこともなく、常に料理は手作りです。次第に有機農業に興味をもち、東京の家を出て、千葉で実験的な有機農業をやっているグループに参加。最終的にはがんが見つかり、4年の介護を受けたのちに亡くなりますが、これに振り回された家族はたまったもんじゃなかったでしょう。わがままといえば、この人もかなりわがままな男性のひとりです。

 

 

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2019年1月13日 (日)

0と出るか2と出るか、いわゆるひとつの直木賞キリ番回。

 もうじき決まる第160回(平成30年/2018年・下半期)の直木賞は、平成最後なんだそうです。

 だから何なんでしょうか。

 ……という感想しか沸いてこないのが、直木賞にしか興味のない人間の哀しいところですが、平成の直木賞というと、いきなり星川清司さんに嘘をつかれ、横山秀夫さんに嫌われ、伊坂幸太郎さんに見放され、本屋大賞にオイシイところを持っていかれ、受賞作ベストセラートップ1の座を芥川賞から奪うこともできなかった、さんざんな時代でした。新しい時代には、多くの読者から愛され、慕われ、感心されるような文学賞に生まれ変われるよう、心から期待しています。

           ○

 と、ふざけたことを言っていても始まりません。だいたい選考会直前の、うちのブログのエントリーは、ふざけたことしか書かないんですが、今回は久しぶりに、まじめに振り返ってみます。たまたま「直木賞のすべて」のイベントが今日1月13日に実施されるために、そんなに長く書いているひまがない、という事情もあります。

 それはともかく、平成のはじめ頃の直木賞は、快調に推移していました。よく売れる人から、売れゆきはいまいちな地道な実力者まで、次々とバランスよく選び、昭和の終盤の第93回から第111回(平成6年/1994年・上半期)、連続9年半にわたって賞を贈ります。生まれた受賞者は、しめて31名。

 半年に一度も、そんな大傑作が生まれるわけがないことくらい、誰だって知っています。それなのに、何でこのペースで日本文学振興会=文藝春秋がやり続けているかというと、少しでも多くの作家に光を当てて、もっともっとあふれるぐらいに人材を増やしたいからで、しかも一度に二つもの賞を継続してきました。もくろみは十分に達成されてきた、と認めないわけにはいきません。

 ところが、平成後半の直木賞は、そのペースが確実に鈍ります。

 第137回(平成19年/2007年・上半期)に松井今朝子さんの受賞から始まった「連続授賞記録」というものがあり、半年前の第159回(平成30年/2018年・上半期)まで23回、11年半ものあいだ、一回も途切れずに授賞をつづけてきました。もちろん直木賞はじまって以来、いちばんの長さです。

 しかし、その間、誕生した受賞者は28名。さきに紹介した「9年半で31名」のころに比べると明らかに減っています。少数精鋭、といえば聞こえがいいですが、別に意識しないでそうなってしまったんでしょう。「受賞させたい人や作品が2つもなくなった」傾向が顕著になったのが、平成後半の直木賞の特徴です。

 どうして第160回をまえに、こんなハナシをダラダラしてきたかと言いますと、10で割り切れるいわゆる「キリ番の回」というのは、2作授賞が起こやすい巡り合わせをはらんでいるからです。とくにこの賞が、宣伝・PRの性格を担わされた昭和20年代以後は、いっそう歴然としています。

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2018年7月15日 (日)

第159回直木賞で話題となっている参考文献記載問題。

 平成30年/2018年夏、7月18日(水)に第159回直木賞が決まります。

 直木賞と、もうひとつ同時に開催される他の賞が、決まるまえのこの時期からいろいろと話題になるのは常道の光景ですが、とくに今回は、巻末に参考文献を載せるか載せないか、載せるとしたらどう載せるか、それが候補作の運命を左右する大きな注目点になる、と数々の識者が指摘しています。ご存じのとおりです。

 参考文献を笑う者は、参考文献に泣く。何ごとも細部にまで神経を尖らせるのは大切なことだと思います。

           ○

 ところで、参考文献の記載ぶりは、これまで直木賞にどんな結果をもたらしてきたのでしょうか。

 かつてこの賞は、雑誌掲載の作品ばかり受賞していましたが、それらの末尾に参考文献が付される例はほとんどなく、村上元三さん「上総風土記」ぐらいのものだったでしょう。ここでは単行本で受賞した例のみを対象にして、集計してみます。

●受賞作総数:128

●参考文献の記載アリ:22冊(17.2%

 これだけ割合が低いのは、直木賞が古くからやっている証しかもしれません。とにかく昔の本の多くは、参考文献の表示が省略されているからです。

 よく知られているものに、井伏鱒二さんの『ジョン万次郎漂流記』があります。この作品には確実に親本があり、本人も受賞当時からそのように語っていて、要するに内容まるパクリなんですが、これが直木賞を受賞するとはどういうことだ、と猪瀬直樹さんあたりがいっとき猛烈に批判していました。

 直木賞の本に、はじめて参考文献が登場するまでには、かなりの時間を要します。

 時代はぐっと下って第87回(昭和57年/1982年・上半期)。3ページにわたって、ずらずらと参考元を列記した深田祐介さんの『炎熱商人』が、直木賞史上初の作品です。なにせ深田さんはその2年半まえ、3度目の候補になった『革命商人』でも同じように大量の参考文献を付し、しかしそのときは惜しくも受賞を逃したので、「執念の参考文献列挙者」として、いまも直木賞の語り草になっています。

 その後もまだしばらくは、直木賞に参考文献の時代は訪れません。ようやく潮目が変わりはじめたのが、元号が平成に変わる頃から。平成の受賞作(単行本で受賞したもの)だけで数えると、その数字の上昇ぶりは明らかです。

●受賞作総数:73

●参考文献の記載アリ:19冊(26.0%

 それでもまだ、全体の4分の1程度でしかありませんが、歴史モノは当然のこと、少し前の時代を描いた小説などにも、ぞくぞくと参考文献アリの拡大が見られる、という流れを経て、もはや現代小説の巻末で参考文献が紹介されることが、何も不思議ではない状況に突入しました。

 たとえば、2回まえの佐藤正午さん『月の満ち欠け』は、参考文献〈アリ〉派。前回、門井慶喜さん『銀河鉄道の父』は、いかにも〈アリ〉派に属していそうな構えの小説でしたが、じっさいは〈ナシ〉派。

 参考文献アリか、ナシか。……一進一退の攻防を繰り広げるそんな現状だからこそ、今回第159回の直木賞も、そのゆくえが注目されています。

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2018年1月14日 (日)

第158回直木賞の受賞記者会見、想定質問集。

 1月16日(火)の、およそ夜8時半~10時ごろ。東京都内の某ホテルで、第158回直木賞(平成29年/2017年・下半期)の受賞者に対する記者会見が行われます。

 会見場に集まったおよそ100人程度の(いや、受賞者によっては、もっと多くなるかもしれない)参集者のなかから、ほんの一部の人たちによって質問が投げかけられ、壇上に座らされた受賞者が、当意即妙で回答を繰り出すという、ハラハラドキドキの時間です。

 小説の価値とは書かれたものがすべてだ、という考えかたからすれば、これはもう、文学の現象とはとうていかけ離れた、単なる見せものであり、空疎な騒ぎを助長するだけの、卑俗なパフォーマンスにすぎない。という声は、すでにいまから約30年前、第97回(昭和62年/1987年・上半期)直木賞の受賞会見で、山田詠美さんが派手派手しく取り上げられたころには、かなり批判的に語られていたそうですが、それを是正しようと改革に乗り出すような殊勝な人は、多少はいたかもしれませんけど、成功した人はいなかったらしく、いまも綿々と行われています。

 かつては、そういう会見で、「今回の受賞作はどういう小説ですか」「読みどころはどこですか」などと、記者が受賞者に対して聞くような、牧歌的な時代もあったと仄聞します。しかし、当然、受賞者と記者とのやりとりも、われわれの知らないうちに進化を遂げていき、ここで作品のことなど聞いても仕方がない、というところまで成熟した結果、受賞者の人間性が垣間見えるような、ちょっとトッぱずれた周縁の質問をぶつけることが主流となり、そのおかげで、第144回(平成22年/2010年・下半期)にニコニコ生放送で、われわれが会見の様子を視聴できるようになったころには、作品そのものから離れた質問とその答え、という完成された問答形式になっていた……ということだそうです。

 前置きが長くなりました。そんな歴史をもつ受賞記者会見で、今期は、どんな質問が飛び出すのでしょうか。いやがうえにも期待感が高まります。

 直木賞の事前のたのしみは、何といっても《予想》。これに尽きるでしょう。会見の日を迎えるまえの、心の準備として、どんな質問が出てきそうか、予想してみることにします。

           ○

彩瀬まる 『くちなし』(平成29年/2017年10月・文藝春秋刊)

Q. 2011年の東日本の震災は、作家としてものを書いていくうえで、彩瀬さんにどのような影響を与えましたか。

――やはり彩瀬さんといえば、震災との関わりは外せませんよね。

Q. R-18文学賞の読者賞に選ばれてから、いままでの道のりを、順調だったと感じるか、苦労の連続だったと感じるか、どのように振り返りますか。

――R-18からの直木賞ははじめてですし、こういう質問もありかなと。

Q. ひとの片腕を取り外せる世界が描かれていますが、自分の大切な人の、からだの部位が手に入るとしたら、彩瀬さんはどこを選びますか。

――短篇集なので、作品内容とからませての質問はしづらい気もします。とりあえず表題作ぐらいは、イジってもいいんじゃないでしょうか。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――テッパンの質問でしょう。

           ○

伊吹有喜 『彼方の友へ』(平成29年/2017年11月・実業之日本社刊)

Q. まもなく、ご自身が原作の『ミッドナイト・バス』が映画公開されます。『四十九日のレシピ』のドラマも大変話題になりました。映像化、あるいはドラマ化ということについて、創作するうえで考えていらっしゃることはありますか。

――ぜひ、今度の映画の宣伝もしてやってください。

Q. 作中、個性的な人物が数多く出てきますが、そのなかで、ご自身の好きな人物は? どう書くか苦労した人物は?

――『蜜蜂と遠雷』のときに恩田陸さんに投げられた質問の、変型パターンです。

Q. 先ほど新喜楽で行われた選考委員の会見で、『彼方の友へ』は、反対する声もあった、しかし、戦時下に暮らす普通の人びとの姿を、真正面から素直にとらえようとする筆致に好感が持てた、との講評がありました。それを聞いて、どうお感じになりますか。

――新喜楽での講評について、その場で感想を聞く、というよくあるムチャぶり。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――いわゆる鉄の板です。

           ○

門井慶喜 『銀河鉄道の父』(平成29年/2017年9月・講談社刊)

Q. 3度目の候補となりましたが、この作品での受賞、ということを、ご自身はどのようにお感じになっていますか。

――候補歴の多い人には、まずこの質問は、避けられません。

Q. ご自身も3児の父親というお立場ですが、宮沢賢治という息子がいたとしたら、どのような子育てをされるでしょうか。

――「もしもあなただったら~」パターンは、いろいろ活用できそうです。

Q. 宇都宮市のご出身ということで、宇都宮、栃木の読者の方々に、メッセージをいただけたらと思います。

――宮沢賢治の話なので、ここは岩手の報道機関が、とって代わるかもしれません。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――金を失って、木が反りかえる。つなげてテッパンと読みます。

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2017年7月16日 (日)

第157回直木賞、受賞が話題になる可能性を予想する。

 毎年7月のこの季節、直木賞に関するハナシのなかで、大量に使われる単語があります。「話題」ってやつです。

 話題の受賞作、話題の作家。話題づくりのためにやっている賞、昔に比べて話題にならない。ほら話題だ、また話題だ、話題、話題。……おそらくこの季節は全国各地で、話題ノイローゼになってしまう直木賞ファンが数多く発生し、堪えきれずに目をおおったり、耳をふさぎたくなったりする症状に悩まされる人は多い、とはよく聞くところです。

 今回の第157回(平成29年/2017年・上半期)は7月19日に選考会がひらかれます。いまのところは、一般的な盛り上がりに欠けていて、このままほとんど話題になりそうもない、などと言われていますが、たしかにパッと見、この候補者・候補作のラインナップですと、受賞の(落選の)結果で盛り上がれるのは、よほどの変わり者(あるいは少数派のグループ)ぐらいで、あまり広がりは期待できそうにない気がします。

 まあ、よほどの変わり者のひとりとして言わせてもらうなら、それならそういう直木賞でいいわけですけど、しかしやはり、直木賞に「話題」は付きものだ、というのは間違いありません。

 せっかくなので、今回どの作品が受賞すれば話題が期待できそうか(逆に、期待できなそうか)予想してみたいと思います。

 

予想:100

柚木麻子『BUTTER』(平成29年/2017年4月・新潮社刊)

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 文芸分野とは離れたところでの、いわゆる一般的な話題性で突出している候補作は、『BUTTER』をおいて他にない。というのは、衆目の一致するところだと思います。

 モデル小説というだけでもかなりの高得点が稼げるうえに、じっさいのモデルから公然とケチをつけられ、「不法行為本」だと非難されている最中でもあります。その木嶋佳苗さんは、19日の選考結果を待つ、とブログに書いているくらいですから、これが受賞したら増刷もされるし、いまとは比較にならないくらい、この小説に興味をもつ人が増えるはずで、さすがに「おめでとう」と温かく祝福するとは思えず、より踏み込んだ手を打ってくるのかどうなのか、少なくとも読み物小説誌や新聞に紹介されるぐらいで騒ぎが収束するとは、とうてい考えられません。

 そんなことをしてまで本を売りたいか直木賞……、と眉をひそめる人たちが沸いて出てくる一方で、それでも本を買う人たちの購買行為を止めることはできませんから、直木賞史上でもまれに見る大騒動に発展する可能性を秘めている。ということで、100点満点の話題性予想です。

 あ、もうひとつ100点にした理由を挙げるとすると、受賞記者会見の、柚木さんの衣裳や振る舞いがまた、注目どころだからです。これが4度目の候補、欲しいはずの直木賞がなかなかめぐってこなかったなかで、ようやく受賞したときに、どんなふうに弾け飛ぶのか。田中慎弥さんぐらいのインパクトある発言、言動は、少なくとも期待できると思います。

 

予想:50

宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(平成29年/2017年4月・KADOKAWA刊)

1572

 なにせ今回は、話題性への期待が一作だけ突出しています。他は横並び、かもしれませんが、とりあえず「受賞したあとの解説記事の多彩さ」が期待できる、という面で『あとは野となれ~』を二番目においてみました。

 まずは何といっても、SFと直木賞のあいだに、これまで交わされてきた血なまぐさい(?)歴史があります。宮内さんが受賞したら、やっぱりこの交差・交戦のあれこれについて、解説記事が書かれるでしょうし、ワタクシも読みたいです(昔の現場の証言などと合わせて書いてくれそうな人材も、きっと豊富です)。

 あるいは、直木賞と芥川賞の、両賞の差や違い。なんていうのも、かなり歴史の深いテーマですが、おそらくここら辺の切り口から触れてくれるライターや文芸記者はたくさんいるでしょう。

 それと似たテーマですが、吉川新人賞→三島賞→直木賞、とこの三賞をたった数か月でわたり歩いて受賞したことをもとに、現代のエンタメと純文芸、みたいな視点にスポットが当たることも、容易に想像できます。これはこれで、語りたい人も多いでしょうし、面白い記事になるだろうと、期待感でソワソワしてしまいます。

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2017年1月15日 (日)

まもなく平成28年/2016年度の出版界のお祭りなので、5つの小説の順位を予想する。

 今週は、みなさんごぞんじの大きな文学賞イベントがあります。この時期、日本中の小説好きたちが、ほぼ全員そこに注目している、と言ってもいいでしょう。

 なので、通常のブログテーマはひとまずお休み。ここはストレートに、その賞のゆくえを展望するような、予想のハナシでいこうかと思います。

 そうです。1月18日(水)が、いよいよ目前にせまってきました。毎回、数多くの読書家たちがかたずをのんで、その発表の瞬間をドキドキしながら待ち望む、出版界最大のイベント。本屋大賞のノミネート作品発表です。

 すでにネット上では、mmmichyさんをはじめ、いったいどの作品がノミネート作に選ばれるのかと、予想につぐ予想で盛り上がっていますが、それはもう、あらためて紹介するまでもありません。ワタクシのまわりにも、「この日を楽しみに一年を過ごしてきたんだ!」という人が、たくさんいます。もはや世間は、本屋大賞の話題でもちきりです。

 本屋さんたちが、どんな作品を選ぶのか。そして、自分の好きな小説が、どのくらいの順位になるのか。想像するだけで、期待と不安で胸がはちきれそうです!

 ということで、うちのブログでも、本屋大賞の順位を予想してみよう。と思ったんですが、なにしろこっちは、世間の本屋さんほど、たくさん小説を読んでいるわけじゃありません。ふとまわりを見回したところ、いまワタクシの机のうえに、たまたま小説が5冊置いてあったものですから、とりあえず、これらについてだけ、どのくらいの票が入りそうか予想することにしました。

■恩田陸『蜜蜂と遠雷』(平成28年/2016年9月・幻冬舎刊)

予想 1次投票1位→最終3位
過去のランキング(1次投票)→最終
2005年 1位)→1位 『夜のピクニック』
(43位) 『Q&A』
(164位) 『蛇行する川のほとり』
2006年 (48位) 『蒲公英草紙 常野物語』
(55位) 『ネクロポリス』
2007年 19位 『チョコレートコスモス』
(54位) 『中庭の出来事』
2008年 (113位) 『木洩れ日に泳ぐ魚』
2009年 (115位) 『きのうの世界』
(178位) 『不連続の世界』
2010年 (64位) 『ブラザー・サン シスター・ムーン』
(85位) 『訪問者』
2011年 (239位) 『私の家では何も起こらない』
2012年 (89位) 『夢違』
2014年 (291位) 『夜の底は柔らかな幻』
2015年 (243位) 『雪月花黙示録』
2016年 (156位) 『消滅 VANISHING POINT』

 今年度の1位はこれなんだろうなあ。と思いながらも、さんざん迷いました。

 本屋大賞は、何だかんだで、もう14年目です。「この人は、前にも1位になっているし……」と考えて一票をためらうような投票者心理も、そろそろ薄れてきているものと思います。

 だけど、すんなり大賞をとるかと言うと、やはり不安が残ります。なにせ、この作品には、これから2次投票が締め切られるまでのあいだに、他の文学賞をとってしまう可能性がある、という最大の障壁があるからです。

 「すでに別の賞をとって注目されている小説に、重ねて授賞www 本屋大賞、終わったなwww」などと、みんなからガンガン叩かれることが目に見えているのに、票を投じることのできる勇気ある書店員が、いったいどのくらいいるんでしょうか。それを考えると、平和に生きていきたい本屋さんもけっこういると思うので、最終的には、多少順位を落とすのではないか、と思いました。

■森見登美彦『夜行』(平成28年/2016年10月・小学館刊)

予想 1次投票4位→最終4位
過去のランキング(1次投票)→最終
2005年 22位 『太陽の塔』
2006年 (33位) 『四畳半神話大系』
2007年 2位)→2位 『夜は短し歩けよ乙女』
20位 『きつねのはなし』
2008年 3位)→3位 『有頂天家族』
16位 『新釈 走れメロス 他四篇』
2009年 (67位) 『美女と竹林』
2010年 16位 『恋文の技術』
17位 『宵山万華鏡』
(132位) 編『奇想と微笑 太宰治傑作選』
2011年 3位)→3位 『ペンギン・ハイウェイ』
2012年 (105位) 『四畳半王国見聞録』
2014年 9位)→9位 『聖なる怠け者の冒険』
2016年 20位 『有頂天家族 二代目の帰朝』

 これも、上位のランクインは固いですよね。当然かもしれません。

 本屋大賞の前哨戦ともいわれるのが「キノベス!」ですけど、そちらでも着実に4位につけていました(ちなみに『蜜蜂と遠雷』は第3位)。当然、大量の部数がすでに市場に出まわってもいて、逆にこれが上位に挙がらなきゃおかしい、というくらいの評判作です。

 いよいよ森見さん、大賞ウィナーの仲間入りか! と期待しているところですが、そうは単純に着地しそうにない世界観が、この作品の魅力だとも思います。

 「これまでの実績を加味して」とかいう、腐りきった投票行為が許されるような文学賞とは違って、本屋大賞は、ひとつひとつの作品に対する判断と推薦が基本(……ですよね?)。ひきこまれる読者にとっては絶品でも、そうでもない人にとってはそうでもない、という森見作品の長所が存分に発揮された作品と見て、少し遠慮して4位と予想しました。

■須賀しのぶ『また、桜の国で』(平成28年/2016年10月・祥伝社刊)

予想 1次投票19位
過去のランキング(1次投票)
2010年 (72位) 『芙蓉千里』
2011年 (64位) 『神の棘』
2015年 (190位) 『ゲームセットにはまだ早い』
2016年 (35位) 『革命前夜』
(72位) 『紺碧の果てを見よ』
(142位) 『雲は湧き、光あふれて』

 うーん、難しい。

 難しいので、去年の『革命前夜』の得票を参考にしました。そして、それよりは上に行ってもいいじゃないかと、ワタクシの希望も込めてトップ20入り、という予想です。

 祥伝社の本は、これまであまりトップ20に入ったことがなく、平成20年/2008年度(森見さんの『新釈 走れメロス 他四篇』)から8年も出ていない、というのが気がかりではありますが、そういうこととは関係なく、書店員さんはしっかりこの作品を評価して、投票しているはずだ。投票していてほしい。と信じたいです。

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