今東光、直木賞受賞の年(昭和32年/1957年)に少なくとも60回以上、講演・講話の席に立つ。
直木賞を受賞した人は、なんだかんだと講演会に呼ばれる機会が増えると言われます。
半年たって新しい受賞者が生まれても、「直木賞を受賞した人」という過去が消えるわけではありませんから、本人が嫌がったり拒絶したりしなければ、ひきつづき声がかかるもの……らしいです。
いまを生きている我々には、何の違和感もない「直木賞受賞後あるある」でしょう。ただ、これがだいたいいつ頃から始まったハナシなのか。やっぱり気になります。
もちろん講演会は全国各地、津々浦々で行われ、その一つひとつをすべて調べきることはとうていできません。興味はあるけど調べ方もわからず、ワタクシなど茫然とするほかないんですが、直木賞の歴史上、「講演」をたくさんやった人として特徴的な受賞者がいたことを、まずは取り上げてみたいと思います。
第36回(昭和31年/1956年・下半期)に受賞した今東光さんです。
何といっても今さんといえば、作家でもありながら、人の前に出てべらべらしゃべることに慣れていました。仏教にまつわる逸話や教訓を織り交ぜながら、ある程度の時間、しゃべりで間をもたせる「説法」というやつです。
その技を磨きに磨いたところで、58歳になった直木賞をとったものですから、さあ大変です。直木賞と講演会の組み合わせがスパークを起こし、いや今さん自身がこのスパークを起こさせ、この賞の歴史に「多くの聴衆に話を聞かせる」というかたちで金字塔をうちたてたのは、ある意味、自然ななりゆきでした。
矢野隆司さんがまとめた驚愕の年譜『今東光[全年譜]』(令和6年/2024年3月・今東光[全年譜]刊行事務局刊)によると、昭和32年/1957年1月21日、『お吟さま』での直木賞を受賞が決まった日以降、その年だけでも以下のような講演・講話をこなしたようです。
| 日程 | 場所 | 講師・演題 |
|---|---|---|
| 昭和32年/1957年 1月23日 |
新大阪ホテル | ライオンズクラブでの講話 |
| 1月26日 | 大阪・貝塚公民館 | 貝塚公民館読書友の会 講演「現代の文学」 |
| 2月8日 | 真宗大谷学園大谷高校 | 大谷高校宗教部主催講演会「他人のためには涙を」 |
| 2月9日 | 近畿財務局 | 講演 |
| 2月10日 | 京都・中心社 | 講演 |
| 2月16日 | 八尾図書館 | 講話 |
| 2月18日 | 今橋クラブ | 社長会 講話「世相辻説法」 |
| 2月20日 | 大阪・都島 鐘紡本社 | 講演 |
| 2月23日 | 東京・国際観光ホテル | (直木賞受賞パーティー) |
| 3月1日 | 大阪・心斎橋そごう | 一業クラブ 講演 |
| 3月5日 | 枚方・香里園 税務講習所 | 講演 |
| 3月8日 | 八尾特定郵便局局長会 | 講演 |
| 3月9日 | 大阪文学関係の会合 | 講話 |
| 3月16日 | 京都商工会議所 | 講演 |
| 3月16日 | 大阪・貝塚公民館 | 貝塚婦人会 講演 |
| 3月24日 | 大阪・堺 徳泉庵 | 講話 |
| 3月30日 | 京都・都ホテル | 外国人教師の会合 講演 |
| 4月4日 | 那智妙法鉱山文化部 | 講話 |
| 4月9日 | 大阪青年会議所 | 講演 |
| 4月12日 | 大阪・中央電気倶楽部 | 講話 |
| 4月18日 | 久我商店 | 講話 |
| 4月20日 | 豊岡高校(母校) | 達徳会 講演 |
| 4月23日 | 関西経営者協会 | 講演「仏教は日本文学のバックボーン」 |
| 4月28日 | 久留米・ブリヂストン | 講演 |
| 4月29日 | 大川市 | 講演 |
| 4月30日 | 長崎・精養軒 | 講演 |
| 5月3日 | 大手前金蘭会 | 講演 |
| 5月12日 | 浪花短期大学 | 講演 |
| 5月13日 | 大阪・東住吉郵便局 | 講話 |
| 6月1日 | 尼崎・住友鋼管 | 講演 |
| 6月5日 | 堺市教育委員会関係の会合 | 講演 |
| 6月14日 | 芦屋・田中千代服飾専門学校 | 講演 |
| 6月30日 | 山本婦人会 | 講話 |
| 7月9日 | 大阪府庁 | 講話 |
| 7月15日 | 地元校 | 講演 |
| 7月19日 | 堺市役所 | 成人学校 講演 |
| 7月22日 | 島根・玉造温泉 | 第10回鉄道講習会 講演 |
| 7月24日 | 兵庫県主催行事 | 講話 |
| 7月27日 | 大手前会館 | 未生流夏期華道綜合講座 講演「文芸談」 |
| 8月9日 | 高知経営者協会 | 講演 |
| 同 | 高知市立公民館 | 高知市夏期大学 講演「現代文学管見」 |
| 8月21日 | 大阪府立中之島図書館 | 大阪府民教養講座 講演 |
| 8月24日 | 裏千家今日庵夏期ゼミナール | 講演 |
| 9月13日 | 今橋クラブ | 総務、庶務部課長懇談会 講演「みみずく説法」 |
| 9月14日 | 今橋クラブ | 婦人部懇話会 講演 |
| 9月26日 | 毎日婦人会 | 講演 |
| 9月27日 | 岡山天満屋葦川会館 | 天満屋母の会9月例会 講演 |
| 10月1日 | 中之島公会堂 | 新聞週間 講演 |
| 10月2日 | 堺市堺高校 | 講話 |
| 10月19日 | 主婦の友着物ショー | 講演 |
| 10月25日 | 神戸・全国統計大会 | 講演 |
| 10月29日 | 能勢・歌垣小学校 | 講演 |
| 10月31日 | 関西学院高等部 | 講演 |
| 11月5日 | 大阪銀行協会 | 講話 |
| 同 | 国際見本市会館ホテル | 大阪関東織物振興会 講演 |
| 11月11日 | 東京・共立講堂 | 婦人公論講演会 |
| 11月20日 | 八尾・龍華小学校 | 講演 |
| 11月22日 | 大阪市立西船場小学校国語研究会 | 講話 |
| 11月29日 | 大阪北浜・清友会館 | 講演 |
| 12月4日 | 市中銀行従業員組合連合会 | 講演 |
| 12月10日 | 西宮市立鳴尾小学校PTA | 講演 |
| 12月14日 | 毎日新聞大阪本社 | 毎日婦人文化センター主催「第4回婦人のための講演会」 講演「今年の文学界とベストセラーズについて」 |
| 同 | 尼崎市文化会館 | 講演 |
| 12月23日 | 公安局 | 講演 |
大忙しというか、大活躍というか。戦後復興10数年、直木賞なんちゅうシガない文学賞でも、これだけの波及力があったんだな、と思わず心強くなってしまいます。
いや。直木賞の波及力はもちろんあったんでしょうけど、文壇カムバックとか何とか言われて各種メディアで話題の渦中にいる受賞者が、人の前でしゃべることにまるで消極的ではなかった。むしろ、人を笑わせ、楽しませるぐらいのことはお手のもの、といった技量を備えた人が、直木賞をとったことが、これほどの大活躍の原因だったろうと思います。
学校に行き、企業に呼ばれ、地方公共団体の催しにも、文化センターの企画にも顔を出し、地元の公民館、図書館でも講話・講演する、というフットワークの軽さ。
まだ直木賞も、36回ぐらいしかやっていないので、歴史が浅いといえば浅い時期ですが、直木賞をとることと講演会とのあいだに存在する、いまとなっては当然の関係性を、今東光さんがうまく活かした、あるいは今さん自身が築き上げた……と見るのは、そう不自然ではないかと思います。
| 固定リンク
« 胡桃沢耕史、直木賞をとった直後(昭和58年/1983年10月)に講演会小説「青木賞の取り方」を発表する。 | トップページ | 昭和33年/1958年に「芥川賞作家講演会」が開かれ、2年遅れて「芥川・直木賞記念講演会」が催される。 »
「講演会と直木賞」カテゴリの記事
- 昭和58年/1983年、近ごろは面倒になって講演の話もほとんど断わっている、と池波正太郎はいう。(2026.09.06)
- 昭和38年/1963年に直木賞で落選した梶山季之、その翌年から文藝春秋主催の講演会の常連となる。(2026.08.30)
- 直木賞をとって有名になった五木寛之、講演会に呼ばれれば積極的に全国を飛び回る。(2026.08.23)
- 邱永漢、株の講演会で、文芸講演会をしていたころより5倍も10倍も聴衆を集める。(2026.08.16)
- 昭和38年/1963年、杉本苑子が直木賞受賞直後に母校で講演会の壇上に立つ。(2026.08.09)





コメント