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2026年7月26日 (日)

今東光、直木賞受賞の年(昭和32年/1957年)に少なくとも60回以上、講演・講話の席に立つ。

 直木賞を受賞した人は、なんだかんだと講演会に呼ばれる機会が増えると言われます。

 半年たって新しい受賞者が生まれても、「直木賞を受賞した人」という過去が消えるわけではありませんから、本人が嫌がったり拒絶したりしなければ、ひきつづき声がかかるもの……らしいです。

 いまを生きている我々には、何の違和感もない「直木賞受賞後あるある」でしょう。ただ、これがだいたいいつ頃から始まったハナシなのか。やっぱり気になります。

 もちろん講演会は全国各地、津々浦々で行われ、その一つひとつをすべて調べきることはとうていできません。興味はあるけど調べ方もわからず、ワタクシなど茫然とするほかないんですが、直木賞の歴史上、「講演」をたくさんやった人として特徴的な受賞者がいたことを、まずは取り上げてみたいと思います。

 第36回(昭和31年/1956年・下半期)に受賞した今東光さんです。

 何といっても今さんといえば、作家でもありながら、人の前に出てべらべらしゃべることに慣れていました。仏教にまつわる逸話や教訓を織り交ぜながら、ある程度の時間、しゃべりで間をもたせる「説法」というやつです。

 その技を磨きに磨いたところで、58歳になった直木賞をとったものですから、さあ大変です。直木賞と講演会の組み合わせがスパークを起こし、いや今さん自身がこのスパークを起こさせ、この賞の歴史に「多くの聴衆に話を聞かせる」というかたちで金字塔をうちたてたのは、ある意味、自然ななりゆきでした。

 矢野隆司さんがまとめた驚愕の年譜『今東光[全年譜]』(令和6年/2024年3月・今東光[全年譜]刊行事務局刊)によると、昭和32年/1957年1月21日、『お吟さま』での直木賞を受賞が決まった日以降、その年だけでも以下のような講演・講話をこなしたようです。

日程 場所 講師・演題
昭和32年/1957年
1月23日
新大阪ホテル ライオンズクラブでの講話
1月26日 大阪・貝塚公民館 貝塚公民館読書友の会 講演「現代の文学」
2月8日 真宗大谷学園大谷高校 大谷高校宗教部主催講演会「他人のためには涙を」
2月9日 近畿財務局 講演
2月10日 京都・中心社 講演
2月16日 八尾図書館 講話
2月18日 今橋クラブ 社長会 講話「世相辻説法」
2月20日 大阪・都島 鐘紡本社 講演
2月23日 東京・国際観光ホテル (直木賞受賞パーティー)
3月1日 大阪・心斎橋そごう 一業クラブ 講演
3月5日 枚方・香里園 税務講習所 講演
3月8日 八尾特定郵便局局長会 講演
3月9日 大阪文学関係の会合 講話
3月16日 京都商工会議所 講演
3月16日 大阪・貝塚公民館 貝塚婦人会 講演
3月24日 大阪・堺 徳泉庵 講話
3月30日 京都・都ホテル 外国人教師の会合 講演
4月4日 那智妙法鉱山文化部 講話
4月9日 大阪青年会議所 講演
4月12日 大阪・中央電気倶楽部 講話
4月18日 久我商店 講話
4月20日 豊岡高校(母校) 達徳会 講演
4月23日 関西経営者協会 講演「仏教は日本文学のバックボーン」
4月28日 久留米・ブリヂストン 講演
4月29日 大川市 講演
4月30日 長崎・精養軒 講演
5月3日 大手前金蘭会 講演
5月12日 浪花短期大学 講演
5月13日 大阪・東住吉郵便局 講話
6月1日 尼崎・住友鋼管 講演
6月5日 堺市教育委員会関係の会合 講演
6月14日 芦屋・田中千代服飾専門学校 講演
6月30日 山本婦人会 講話
7月9日 大阪府庁 講話
7月15日 地元校 講演
7月19日 堺市役所 成人学校 講演
7月22日 島根・玉造温泉 第10回鉄道講習会 講演
7月24日 兵庫県主催行事 講話
7月27日 大手前会館 未生流夏期華道綜合講座 講演「文芸談」
8月9日 高知経営者協会 講演
高知市立公民館 高知市夏期大学 講演「現代文学管見」
8月21日 大阪府立中之島図書館 大阪府民教養講座 講演
8月24日 裏千家今日庵夏期ゼミナール 講演
9月13日 今橋クラブ 総務、庶務部課長懇談会 講演「みみずく説法」
9月14日 今橋クラブ 婦人部懇話会 講演
9月26日 毎日婦人会 講演
9月27日 岡山天満屋葦川会館 天満屋母の会9月例会 講演
10月1日 中之島公会堂 新聞週間 講演
10月2日 堺市堺高校 講話
10月19日 主婦の友着物ショー 講演
10月25日 神戸・全国統計大会 講演
10月29日 能勢・歌垣小学校 講演
10月31日 関西学院高等部 講演
11月5日 大阪銀行協会 講話
国際見本市会館ホテル 大阪関東織物振興会 講演
11月11日 東京・共立講堂 婦人公論講演会
11月20日 八尾・龍華小学校 講演
11月22日 大阪市立西船場小学校国語研究会 講話
11月29日 大阪北浜・清友会館 講演
12月4日 市中銀行従業員組合連合会 講演
12月10日 西宮市立鳴尾小学校PTA 講演
12月14日 毎日新聞大阪本社 毎日婦人文化センター主催「第4回婦人のための講演会」
講演「今年の文学界とベストセラーズについて」
尼崎市文化会館 講演
12月23日 公安局 講演

 大忙しというか、大活躍というか。戦後復興10数年、直木賞なんちゅうシガない文学賞でも、これだけの波及力があったんだな、と思わず心強くなってしまいます。

 いや。直木賞の波及力はもちろんあったんでしょうけど、文壇カムバックとか何とか言われて各種メディアで話題の渦中にいる受賞者が、人の前でしゃべることにまるで消極的ではなかった。むしろ、人を笑わせ、楽しませるぐらいのことはお手のもの、といった技量を備えた人が、直木賞をとったことが、これほどの大活躍の原因だったろうと思います。

 学校に行き、企業に呼ばれ、地方公共団体の催しにも、文化センターの企画にも顔を出し、地元の公民館、図書館でも講話・講演する、というフットワークの軽さ。

 まだ直木賞も、36回ぐらいしかやっていないので、歴史が浅いといえば浅い時期ですが、直木賞をとることと講演会とのあいだに存在する、いまとなっては当然の関係性を、今東光さんがうまく活かした、あるいは今さん自身が築き上げた……と見るのは、そう不自然ではないかと思います。

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