第174回直木賞(令和7年/2025年下半期)決定の夜に
政治はいまも動いています。国際情勢も気が気じゃありません。1月14日(水)、今日も一日いろんな出来事がありましたが、そのなかで派手なのか地味なのかよくわからないお決まりのニュース。第174回(令和7年/2025年・下半期)直木賞の結果が発表されました。
候補作が多ければ多いほどうれしいワタクシとしては、たった5作しか候補作が読めなくて、ちょっと物足りなく感じます。直木賞を「小説を読む立場」から見たときのいちばんの楽しみは、受賞作を読むことじゃなくて、バラエティに富んだ候補作を読むことにあるからです。
受賞作だけしか読む価値はない。と信じているような人は、さすがに今どきはいないと思います。昔からいなかったかもしれません。それはわからないんですけど、昔とか今とか、他人サマがどうだとか、気にしていてもラチが明きません。
今回も候補作を5つ読んだ。そして、そのいずれも幸せな読書体験をさせてくれた。この揺るぎない事実を前に、ワタクシはただただ、直木賞の候補者たちに感謝するほかありません。
受賞したかどうかは、すぐに消え去る「話題のニュース」でしかありませんが、小説を読んだ体験は、生きていく上での日常の一部です。今回もさまざまな表現、切り口、世界観の小説に、直木賞候補作というかたちで出会えてよかったです。
『白鷺立つ』の装幀とか題名とか、いかにも重厚歴史小説のただすまいを見せておいて、じっさい読んでみるとエンタメ炸裂で、めまいがしました。まじで住田祐さんが第一作目で直木賞とっちゃう芽もあったはずです。直木賞はいつも一歩も二歩も遅い、という古えから伝わる格言がありますけど、ド級の処女作を見逃して、あとで後悔する直木賞の姿を、何度も見てきた気がします。ううむ、歴史は繰り返してしまったか。
山田風太郎賞と直木賞を連続してとったら、チョメチョメ以来の快挙だったのに……とか、すぐに文学賞のことを言い出すと、気持ちわるがられるのでやめておきます。そりゃそうです。大門剛明さんの『神都の証人』が、たくさんの読者に愛されているのは、文学賞の事情とは何の関係もありません。直木賞をとらなかった小説が、その後長く愛されつづける例はゴマンとあります。『神都の証人』がその一つに加わることを、切に願っています。
葉真中顕さんなら初の候補で直木賞をかるがると受賞する、ぐらいのこたあ、やりかねないと思ったんだけどなあ。『家族』がまたインパクト抜群すぎて、震えあがりましたよ。このまま、ぶんぶん腕をふりまわして、そのうち直木賞を粉砕してやってください。
インパクトという意味では、『女王様の電話番』の描いたものは、他の候補にも負けずとも劣らないと確信しています。渡辺優さんの作品が、今回直木賞の候補に入ってくれたことで、「バラエティに富む候補作群」のパズルが完成した感もあり、いやあ、ほとほと感服しました。まだまだいくらでも直木賞が渡辺さんを候補に挙げる機会はあるでしょう。あってほしい!
○(この項目2026/1/15に追記)
順当か意外か。この世のなかに二つの区分しかないのであれば、さすがに今回の直木賞は「順当」のほうに入るんじゃないかと思います。
ただ、順当な受賞だから何なんだ。意外だったとして何なんだ。嶋津輝さんの『カフェーの帰り道』が実現してみせた、落ち着きと革新のバランスのいい両立は、別に賞をとろうがとるまいが、何ひとつ揺るぎません。読めてよかったです。
オール讀物新人賞がなくなった(……いや休止した)タイミンクで、この賞から出てきた作家が直木賞をとったのも、何かの縁でしょう。新人賞が一つや二つなくなっても実力のある新人はどんどん出現する。小説を読むことに幸せを感じるこちらとしては、ありがたいハナシです。
○(追記以上)
一昨年の1月は京都御所、去年の1月は小樽、さて今年の冬の直木賞は、どこで時間をつぶそうかな、と悩み抜いて、『白鷺立つ』のぶたい、比叡山に行ってみました。疲労困憊、今夜はぐっすり眠れそうです。
機会があれば伊勢山田とか、八王子とか、東京・上野界隈とかにも行ってみたいと思います。直木賞は、受賞作が決まったらそれで終わり、ってわけじゃないですからね。存分に直木賞を楽しみたいです。
比叡山のあとは大阪まで移動して2年ぶりに直木三十五記念館で、「勝手に直木賞長屋路地裏選考会」に参加しました。事務局長小辻さんの一人舞台を、久しぶりに堪能できて楽しかったです。
- ニコニコ生放送……芥:18時46分(前期比+56分) 直:18時54分(前期比−1時間01分)
とりあえず、直木賞の決定が早めになってくれてありがたいです。今夜はぐっすり眠ります。
眠って起きたら、すぐに次の直木賞候補作が発表されていれば最高の直木賞ライフが送れるんですけど、残念ながらそういうわけにはいきません。これから長い長い5か月ほど、ただ次の直木賞を待つという寂しい毎日が始まります。
どうして直木賞が年に二回しかないのか、それは知りませんが、第175回(令和8年/2026年・上半期)の候補作が発表されるまで、死んだ目をメガネの奥に隠して、淡々と生きていくことにします。
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コメント
今回は珍しくAの賞よりも話題になっている気がしますね!
(受賞作へのコメントがない……?)
投稿: 毒太 | 2026年1月15日 (木) 22時45分
毒太さん、
コメント入れていただき、ありがとうございます!
うわっ、嶋津さんへのコメント、抜かしてしまっていました……(ご指摘、感謝いたします)。
年を重ねてから小説教室に通って新しい道を切り開いたっていう、嶋津さんの生きざまは素晴らしいですよね。
投稿: P.L.B. | 2026年1月15日 (木) 23時19分