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2025年12月21日 (日)

「今回の候補作は七作とも単行本であり、正直いって、送られてきたとき、その分量に、これはしんどいぞ、という気持があった。」…陳舜臣、第101回直木賞の選評より

 直木賞に特別なルールはありません。

 いや、間違えました。直木賞に何らかのルールはあるんでしょうけど、それは毎回毎回、主催者の日本文学振興会とか予選担当の文藝春秋の編集者とかが決めることで、それは基本的に非公開です。まわりで見ている野次馬が口を挟める問題ではありません。

 たとえば、直木賞の最終候補作は何作品が適切なのか、という問題が歴史的にあります。

 戦前はとにかく運営形態がまるで違っていたので、ひとまず忘れるとしましょう。戦後、第21回(戦後~昭和24年/1949上半期)のときは候補7人8作でした。そこからおおよそ多くて11~12作、だいたい7~10作ぐらいを候補に挙げる時代がつづいたあと、徐々にというかたちで数が減っていって、いまでは5~6作というのが標準のようです。

 なぜその数なのか。理由はわかりません。

 昔に比べていまのほうが作品数が少ないことには、ある程度、理由はつけられます。短篇ばかりが候補になっていた頃に比べて、候補作が単行本のみになった現在では、一作あたりの文章量が格段に違います。読み終わるのにかかる時間は、短篇よりも長篇のほうが長くなる、というのは、ふつうに考えれば当たり前です。だから、候補作の数は現実的に減らさざるを得ないのだ、と言われれば、まあそうかと納得しないわけにはいきません。

 ……といった説明も、別に主催者が公式に発表している理由ではないので、実際のところはよくわからないんですが、単行本といっても必ずしもぶ厚い本が候補になると決まっているわけでもなく、候補の数も固定しているわけではありません。何となくその時々の状況で自由に(ないしはテキトーに)運営されていく。なるべく決まりをつくらないのが直木賞の伝統でもあり、それが文学賞としての魅力を生み出しているものと思います。

 それで今週取り上げる選評のことです。第101回(平成1年/1989年・上半期)は、いまから36年もまえの昔のハナシですが、このときの直木賞は候補作が7作ありました。

 いちばん長かったのは笹倉明さん『遠い国からの殺人者』で、おおよそ400字詰め原稿用紙換算で580枚前後。短かったのは古川薫さん『幻のザビーネ』が210枚程度。連作形式のねじめ正一さん『高円寺純情商店街』とか隆慶一郎さん『柳生非情剣』など、作品の構成はそれぞれ違っていましたが、7作品とも単行本なのは共通していました。

 そこで陳舜臣さんがこんなことをつぶやいています。

「今回の候補作は七作とも単行本であり、正直いって、送られてきたとき、その分量に、これはしんどいぞ、という気持があった。だが、読んでみると、どの作品も読者を惹きつけるパワーを、どこかにもっており、精読しても、まったく疲労をかんじなかった。そして、今回の選考は難航するのはないかという予感がした。」(『オール讀物』平成1年/1989年9月号、陳舜臣「粒ぞろい」より)

 おや、候補作を全部読むのがしんどい、と否定的な表現から入ったからそのままの路線で続けるのか、と思わせながら、けっきょくは細やかな配慮で場をやわらげる。ううむ、さすが陳舜臣だ、といった感じの文章です。

 直木賞に関わっているのは、候補者たちもさることながら、選考委員たちも人間です。7冊の本がドンと届けられれば、うわっ、これ全部読まなくちゃいけないのか……とゲンナリする。その気持ちは、アノ懐の深い陳さんでさえも感じていたことなのか! と親近感が湧いてきてしまいます。

 ただ、選考委員の人たちは小説を読んでそれぞれ評価しなきゃいけません。それはそれでゲンナリの種類は、外野にいるノーテンキ読者野郎とはまったく違うでしょう。

 候補作がずっしり多くなると、選考委員たちから「もっと減らしてくれ」と苦言が上がるのかもしれませんが、報道によれば来年下半期の第176回(令和8年/2026年・下半期)から、候補作発表から選考会までの期間が約2か月に延びるそうです。直木賞好きとしては、候補作は多ければ多いほど楽しいので、もう少し増やしてくれるといいなと思います。

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