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2025年1月15日 (水)

第172回直木賞(令和6年/2024年下半期)決定の夜に

 人生、楽しいことばかりじゃありません。むしろつらいことのほうが多いんじゃないか、と思います。何でこんな毎日を生きなくちゃいけないのか。だれか教えてほしいです。

 しかし、そうこうするうちに、イヤでも時間は流れます。まだかまだかと待ちに待って、ようやく半年が経ちました。1月15日(水)、第172回(令和6年/2024年・下半期) 直木賞が決まる日です。つらい毎日を忘れさせくれる唯一つのお楽しみです。

 まあ、こんなものしか楽しみがないとか、はたから見ると、ほとんど人生終わってますよね。ただ、いまさら生き方を変えることもできません。

 半年待てば直木賞がくる。候補作が発表されるのでそれを読む。まるでパッとしない生活も一作一作の小説を読んでいると、俄然、彩りが豊かになります。

 ええい、もう現実なんてどうでもいいや!……と、完全に人生を終わらせるわけにはいかないんですが、直木賞から得られる幸せな時間がたしかにある。それだけで明日を生きる気力も沸いてきます。

 今回も5つの候補作のおかげで、どうにかワタクシも命をつなげることができました。命の恩人とも言うべき5人の方々には、こんなチンケなブログでお礼を書いたところで、何ほどの感謝も伝わらないと思いますが、何も書かないよりましかと思い、万感の感謝を捧げます。

 荻堂顕さんって、まだ作品数は多くないけど、どれをとっても濃密にして熱く、クールにして肉厚な、圧倒的な筆力にしびれます。『飽くなき地景』もまた、読み進めながらビリビリきました。どうしてこんな発想が出てくるのか、この才能の前にワタクシはひれ伏します。これからも荻堂さんの小説を読める人生。それはもはや、極楽です。

 『秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顚末譚』を読んで思わずうなりました。さすがだなあ、木下昌輝さんのうまさは。歴史モノでありながら堅苦しさをまるで感じさせない親しみやすさ。箸で蝿をつかむ場面などは、思わず本を置いて拍手してしまいました。木下さんなら、そのうち直木賞ぐらいとれるっしょ。

 いまさら月村了衛さんみたいな実力者に、直木賞が何か評価をつけるというのもおかしな話です。いや、直木賞がどうのこうのより、こんなブログでおためごかしな感想を書くのもためらわれます。『虚の伽藍』が放つ黒々とした鈍い光に、もはや言葉もありません。恐ろしい作家だ、月村了衛。

 朝倉かすみさんの『よむよむかたる』が、読書好きの人間に与えてくれた希望は計り知れません。本を読んで何かを思う。それが日常にある幸せを、物語にしてくれてありがとうございました。人さまの小説を偉そうに論評するより、作中の読書会の人たちのように年をとりたいものだと、しみじみ思います。

          ○

 直木賞の受賞予想をする人に言わせれば、きっとこの結果に対しても、うまい一言がいえるんでしょうけど、こちとら、ただ直木賞が好きなだけで生きています。何が落選したって何が受賞したって、それが直木賞というものなんだ、としか言いようがありません。

 伊与原新さんが、他の候補者に比べて賞に値するのか、あるいはしないのか。そんなことはわかりませんが、ともかく伊与原さんの作品は、読むといつもグッときます。とくに、うまく生きることのできない不器用な人物が出てくると、もうたまりません。『藍を継ぐ海』も、グッとくる短編ぞろいで、個人的に救われました。助かりました。

          ○

 せっかくの直木賞の日なんだから、全身全霊、楽しまなきゃ損だ。と思って、今回は、候補作に描かれた舞台の土地で結果発表を見届けるために、『よむよむかたる』の舞台、北海道小樽市で過ごしました。

 そりゃ、小樽の小説が受賞すればよかったでしょうけど、ただ、直木賞は受賞に関することだけで成り立っているわけではない、と身にしみて知るのにいい機会になりました。とれなくって残念だと思う気持ち。それでも読んで面白かったという掛け値なしの読書体験。とれなかった候補作やそれをとりまく事柄だってすべて、直木賞を構成する重要なピースです。歴史的にずっと。

 小樽まで行かなきゃそんなこともわからなかったのか、ポンコツめ、とツッコまれそうですけど、どうやれば直木賞と楽しく接することができるか、を生涯学んでいきたいワタクシにとっては、小樽で地元の人たちがひっそりと開いた「結果発表を待つ会」に参加できたのが、何よりです。うん、こういう直木賞選考会の夜の過ごし方も、全然ありだなと実感できました。

  • ニコニコ生放送……芥:18時14分(前期比+16分) 直:19時06分(前期比+26分)

 ニコ生の解説も、受賞者記者会見も、ゆっくり観れていないんですけど、あとでタイムシフトで楽しみます。直木賞の発表は、一過性で盛り上がるだけじゃなく、何度でも繰り返して楽しめるからいいですよね。……って、そんな楽しみ方してるの、おれだけか。

 何といっても、直木賞の歴史は無駄に長いので、決定発表がこれまで172回分もあります。それぞれの回を繰り返し繰り返し味わっていれば、6か月という長い時間もすぐに経ってくれるでしょう。第173回(令和7年/2025年・上半期)の候補と出会えるのは、6月なかば。それまでに人生終わっちまわないように気をつけて、次の出会いを待ちたいと思います。

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