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2024年7月17日 (水)

第171回直木賞(令和6年/2024年上半期)決定の夜に

240717

 今日の東京も蒸し暑い日でした。

 蒸し暑い夏といえば直木賞。奇数回のときは毎年こんな感じです。今日7月17日(水)、第171回(令和6年/2024年・上半期)の受賞が発表されました。ニュースで報じられているとおりです。

 ウワサによると、こんな面白い行事が定期的にあるのに、候補作をいっさい読まず、ニュースで知るだけ、っていう人が世の中にはたくさんいるんだとか。

 マジでもったいない。と思うんですけど、まあこっちだって、直木賞以外の、おそらく楽しい世の中のイベントや出来事は、ほとんど知らないまま生きています。どっちもどっちです。

 いずれにしても、直木賞を楽しめるかどうかは、世間の動向とは関係ありません。半年のあいだ待ちに待ち望んで、ようやくやってきた新しい直木賞も、候補作のすべてが面白くて、それがいちばんの満足でした。どれが受賞したとかは、正直、些細なハナシです。

 麻布競馬場さんに授賞したら、直木賞も大化けできたのに……。直木賞にとっては、チャンスを逃したかたちになって残念です。『令和元年の人生ゲーム』を読んでいると、描いている世界は新しいのに人間を見つめようとする小説家としての腕の確かさに、感嘆しきりでした。麻布競馬場さん、また直木賞の場にきてください。そして直木賞にリベンジの機会を与えてやってください。

 それにしても、こんなに正統派で、作者の思いのこもった小説が候補ですから、一発で岩井圭也さんが受賞するのかと思っちゃいましたよ。『われは熊楠』の何がどうケチをつけられたのか。いまのところはよくわかりませんが、ほんのちょっと委員の機嫌が違えば、直木賞の一つや二つ、岩井さんが受賞する日は近いはずです。「あげるのが遅い」が直木賞の代名詞。あきらめてその日を待ちます。

 青崎有吾さんの『地雷グリコ』は、世間の評判がものすごくて、読む前から身構えてしまったんですけど、いやいや、あまりの鮮やかな設定と展開に参りました。次はどうなる、最後にどうなる。このとてつもないドキドキ感。読書の醍醐味を味わわせてもらったので、文学賞とかはどうでもいいです。これから追いかけていきたい作家がまた一人見つかりました。

 鼻から火を吹く『あいにくあんたのためじゃない』のパワフルさ。かつ繊細さ。柚木麻子さんが、自分の行く道から逸れずに、ずっとアップデートを続けているその姿に思わず感動しました。6回も落としたからってそれが何だ、直木賞だって人の子だ、7回8回と続けば、いつか直木賞が折れるかもしれん。っつうか、柚木さんのほうがウンザリしちゃってるかもしれない。すみません、直木賞のために、これからも候補入りの話、断らないでください。

          ○

 聞くところによると、光文社の本で直木賞を受賞したのは、第57回(昭和42年/1967年・上半期)の生島治郎さん『追いつめる』以来、57年ぶりらしいです。とれそうでとれない。と、しばしば言われてきたこの出版社に、直木賞受賞を引っ張ってきた一穂ミチさんの強運ぶり(いや、実力)が、とにかくもう、すさまじいです。

 以前候補になった『スモールワールズ』『光のとこにいてね』とはまた一転、『ツミデミック』に収められたホラー味&ユーモア味&社会性もある犯罪小説の数々に、しびれました。これからも一転十転、歴史ものでもSFでも、多種多様な小説を書いていってくれるんでしょう。何でも書けちゃう一穂ミチ。恐ろしいです。

          ○

 今回は、第144回(平成22年/2010年・下半期)から続く伝統のニコ生放送が、サイバー何とかのせいで休止中。YouTubeのほうの「ニコニコニュース」で受賞者会見が中継されました。発表貼り出しの時間は以下のとおりです。

 うーん、わきの解説がなくてつまらないな。……と思ったからでもないんですけど、家でパソコンに張り付いていても暇なだけなので、蒸し暑いなか、えっちらおっちら電車を乗り継いで、横浜市金沢区にある直木三十五の墓に行ってきました。去年の夏もここで発表を待ったので、今年で2回目。長昌寺のご住職と、南国忌実行委員の重鎮お二人とともに、受賞の結果を直木さんの墓前にご報告しました。って、相変わらず何をやってるんだ、おれは。

 でもまあ、直木賞はいつ見ても、どんなふうに接しても絶対に面白いから、一生直木賞ファンはやめられません。今度は極寒の1月にやってくる第172回(令和6年/2024年・下半期)の候補作を読むことだけを楽しみにして、半年間の冴えない日常を過ごしたいと思います。ええい、早くこい。直木賞。

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