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2024年1月17日 (水)

第170回直木賞(令和5年/2023年下半期)決定の夜に

 面白いですよね、直木賞。こんなに面白い出来事がこの世にあっていいのか、と毎回ため息をついちゃいます。

 今日、令和6年/2024年1月17日の夕刻、第170回直木賞(令和5年/2023年下半期)が決まりました。候補者やその関係者の立場になれば、楽しんでばかりもいられないんでしょうけど、単なる一直木賞ファンが彼らの側に立ったふりしてシャラくさいこと言っても仕方ありません。まったく面白いものは面白いです。

 その面白さの一端は、候補作すべてをダダダダっと集中的に読む、その行為(つまり「読書」ですね)がもたらしてくれるのは間違いありません。受賞が決まったあとに受賞作だけを読むことに比べたら、候補作を全部読むだけで、もうそれだけで、1万倍くらい面白いです(たぶん)。

 そんなふうに読書の楽しさを与えてくれる候補作が、賞をとった・とらなかった、とたったそれだけのことで、一方は大きく取り上げられ、一方は急激に注目度を奪い取られるんですよ、直木賞っつうのは。まったく不条理にもほどがあります。

 世のなかは理不尽さなことだらけです。もう耐え忍んで生きていくしかないんですけど、ただ、候補作を読んでいるあいだはどの小説も楽しかったことに間違いはありません。直木賞という舞台に出てきてくれて、ありがとう。賞をとれなかった作品たちに感謝を述べたい気持ちでいっぱいです。

 加藤シゲアキさんの『なれのはて』には、正直ぶっとびました。チャラチャラしたアイドルが小説書きやがって、とか馬鹿にして、はなから手を出そうともしないジイさんバアさんたちに鉄槌をくらわす、重厚で大人びた小説。でもまあ、こういういかにも直木賞っぽい作品もいいんですけど、加藤さんはミステリーでもSFでも何でも書きこなせる方だと思うので、今度はぶっちぎりで新鮮な小説が読みたいです。よろしくお願いします。

 「こんな力のある作家が世の中にはいるんですよ」。と、新しく教えてもらえるから、直木賞を見るのはやめられないんです。今回、嶋津輝さんの小説を初めて読んで、すげえ作家が小説界にはうじゃうじゃいるんだな、と感動すら覚えました。『襷がけの二人』、直木賞じゃなくても何かのかたちでもっと脚光を浴びてほしいです。ドラマ化、映画化されるとか。

 しかし、ここで宮内悠介さんに受賞してもらうめぐり合わせが、どうして直木賞に訪れなかったんだろう。うう。おじさんは悲しいです。『ラウリ・クースクを探して』、いいっすよね。人生って何なのか、ぐっと考えちゃいますよね。宮内さん、すみません、煩わしいでしょうけど、まだまだこれからも直木賞とお付き合いください。

 さすがに毎回毎回、時代物が直木賞とったりしないよなあ。と思いながらも、村木嵐さんの『まいまいつぶろ』なら、そんな苦境を覆しちゃうかも、と頭をよぎっちゃったのはたしかです。いやあ面白い小説でした。また今後も候補になってくださると一読者としてうれしいです。

          ○

 それで、今回も大盤ぶるまいの二作授賞で、3期連続。あげたい人がわんさかいる、というのは、健全な精神の現われですよね(たぶん)。

 健全だと思います、河﨑秋子さんの作品を選んじゃうんですから。人によっては目をそむけたくなるはずの、容赦ない冷静な書きっぷり。これにイイぞと太鼓判を押す直木賞の感覚に、今回は納得しました。でもまあ、河﨑さんが文学賞をとったから何かを変えるような方とはとうてい思えません。もっともっとツラくてせつなくて救いのないもの、書き続けていってくれると期待しています。

 それと、嬉しいのはもう一人の受賞者が出たことです。ワタクシ自身、最近、生活がすさんでいるもんで、『八月の御所グラウンド』を読んで清らかな気分になりました。万城目学さんの、軽快でおかしくて、まったくブレない芯の強さが、ついに、いよいよ、ようやく、遅ればせながら、直木賞の委員に届いたんですよ。もう、じーんと胸に来ます。直木賞専門サイト&ブログを長年やってきてよかったです。

          ○

 今回の発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:17時37分(前期比-15分) 直:19時08分(前期比+34分)

 芥川賞は前回より早めに、直木賞は逆に遅めに発表されたことで、直>芥の選考時間の長さが、また相当ひらきました。直木賞の選考委員のみなさん、お疲れさまでした。

 ちなみにワタクシは「直木賞を最大限、外から楽しむ」を人生の目標にしているので、今回は、一年ぶりに大阪・谷町にある直木三十五記念館の路地裏選考会に行ってみました。

 そしたら、いつも冗談まじりにテキトーなことをしゃべっている大阪のおじさん(=小辻事務局長)が、とるならコレとコレかな、と指さした2作品がズバリ的中。参会者も大盛り上がりでした。

 というか、なにしろ万城目さんは、直木記念館にとってはご当地、地元出身の小説家です。館の人たちも、この結果に半ば茫然としながら、涙を流して喜んでいました。こういう場所に立ち会うことができて、感慨もひとしおです。

 と、こう書いたあとは、もはや心は次の第171回(令和6年/2024年・上半期)に飛んでいっています。やっぱり候補作は5つよりも6つのほうが、6つよりも7つのほうが、断然面白いですよ、奥さん。次もどっさり候補作を読めることだけを楽しみに、数か月、命をつないでいきたいと思います。

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