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2023年12月17日 (日)

三浦佑之(国文学者)。あまりに娘が人気作家になってしまい、「娘の七光り」だと自嘲する。

 直木賞を受賞した人の親が、すでに名前の知られた人だった……っていうケースは、けっこうあります。

 いや、だから何なんだ、という感じではあるんですけど、受賞を報じる新聞記事には、「ちなみに父親は(あるいは母親は)△△をしている□□さん。」と血縁のことが書かれてしまう。直木賞ではお約束の出来事です。

 第135回(平成18年/2006年・上半期)のときもそうでした。三浦しをんさんを紹介する記事を読み返すと、たいてい合わせて父親の名前も出てきます。国文学者の佑之さんです。

 三浦佑之。昭和21年/1946年8月21日生まれ。実家は三重県の山間部で製材業を営む家でした。

 大学は成城大学文芸学部に進み、中西進さんのゼミに参加。むむっ、コイツできるな、と中西さんに思わせるほどの優秀な学生だったそうで、日本古代の文学、とくに『古事記』研究の道に進みます。正真正銘、学究の人です。

 共立女子短期大学、千葉大学、立正大学と働き口を変えながら、コツコツと専門的な研究に勤しんで、論文・著作も数多く世に出します。なかでも平成14年/2002年6月に文藝春秋から出した『口語訳 古事記』は評判もよく、さすが国文学ひと筋にやってきた人は、すげえ仕事をやっちゃうんだな、と広く知られるようになった……のかどうなのか、わかりませんけど、娘のしをんさんが平成12年/2000年に作家・エッセイストとしてデビューして以降、二人そろって、それぞれの分野で本を出しまくります。

 ただ、一般的には何といっても「直木賞」の威光は強力です。平成18年/2006年7月、しをんさんが直木賞を受賞、佑之さんも自身のホームページ内の「近況報告」で「13日に、思いがけない出来事があって、わが家はてんてこ舞いです。」と、こそっと書いていて、娘のまわりに一気に訪れた異様な騒ぎを、呆然としながら目の当たりにします。

 しをんさんは、それからいっそう多くの読者に愛され、佑之さんは「アノ三浦しをんの父親」といった目で見られる機会が増えました。自嘲をこめて、佑之さんが「娘の七光り」と表現するにいたったのも、しをんさんに実力があったせいではあるでしょうけど、直木賞がひと役噛んでいたことは否めません。

 それから10年ほど時が経ちます。二人が同じ場所に立って人前で話をすることはありませんでしたが、平成29年/2017年2月18日、佑之さんが定年退職するのを機に立正大学が企画して、「親子対談 古事記を読み、物語を楽しむ」というトークイベントが開かれました。

 と、このイベントのことは、まだ6~7年まえのことでもあり、ネットを探せばいろいろと情報が出てきます。ありがたいぜネット社会。

 当時の新聞記事でも、その模様はこんなふうに紹介されています。楽しいイベントだったようです。

「「本居宣長より長く古事記を研究してきたけれど、駄文書き」という佑之さんに、「家でもずっと研究してたよね」としをんさん。幼い頃、公園でよく一緒に遊び、裁縫も得意な佑之さんにウサギのぬいぐるみを作ってもらった思い出も披露した。「(しをんさんの)作品は全て読み、イベントの追っかけもしてます」という佑之さんに「キモイ」と返すなど、息の合った温かなやりとりで会場を沸かせた。」(『朝日新聞』平成29年/2017年3月1日夕刊「古事記に親しむ父娘“競演” 三浦佑之さん×しをんさん、対談」より―署名:佐々波幸子)

 しをんさんのエッセイに出てくる父娘関係まんまですね。

 娘の作品をすべて読み、勝手にイベントにも足を運ぶというのは、なかなかのもんです。佑之さんの可愛さがにじみ出ていて、これをきっかけに佑之さんの読者人気も一気に爆上がったとか、上がらなかったとか。

 と、それはそれとして佑之さんは直木賞をどう見ていたのか。自分は自分でやることがあり、まったく別の世界だと傍観していたんだろうとは思います。ただ、祖父さんや親父さんも読書家だったらしく、昭和20年代から30年代、佑之さんが子供の頃には家に『オール讀物』があって、それを夢中になって読んでいた、というハナシもあります。

 あの頃の直木賞の世界が、めぐりめぐって今度は血縁の者に受け継がれる。……「直木賞と親のこと」を見ていると、だてに直木賞も長い期間やってきたわけじゃないんだな、と時代の重なりを感じられて面白いです。まあ、『古事記』が培ってきた長い蓄積には、まったくかないませんけど。

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