第169回直木賞(令和5年/2023年上半期)決定の夜に
直木賞とは何なのか。
いつもゴチャゴチャしていて、何のイベントかわからなくなっていますが、そもそも、をたどってみれば、スタートははっきりしています。昭和9年/1934年2月24日に直木三十五さんが死んだことです。
ということで、直木賞が決まる日には、直木さんを追悼したい! お墓にお参りしたい! とつねづね思っていました。
7月19日(水)、今日も都心は30度を超え、冷房の効いた部屋のなかで受賞発表中継でも見ようかな、とだらだらしていたところ、よし、頑張って行ってみるかと、ふと思い立ち、えっちらおっちら電車を乗り継いで、神奈川県横浜市金沢区富岡にある、長昌寺の直木さんのお墓を参拝。
ご存じですか、あなたがいたおかげで、今日も直木賞が賑わっています(?)よ。と候補作をお墓の前に置いて、無事に報告をすませてから、汗だくになったからだに鞭打って、さっき家に帰ってきたところです。……まったく、何してんだろ、オレ。
いやまあ、直木三十五さんの存在もデカいはデカいんですが、第169回(令和5年/2023年・上半期)の直木賞が面白かったのは、いまを生きている作家のおかげでもあります。昔の文壇や直木賞のことも胸が躍りますが、いま自分が生きている同じ時空で、変わらずに小説がどしどしと書かれ、変わらずに直木賞が行われている。このリアルタイム感があってこその直木賞です。
今回も、直木賞という場にお出ましいただき、われら読者に楽しみを提供してくれた候補者が5人います。至福の時間をつくってくれて、ほんとうにありがとうございます。
だいたい、直木賞の候補のなかに月村了衛さんが入っている! というだけでテンションが上がるじゃないですか。チマチマ、ウジウジとした日常が吹っ飛ぶような、爆速でパワフルなストーリー。『香港警察東京分室』でもますますうねる剛腕が炸裂していて、このクソ暑いなか、血がたぎりました。うおーっ、直木賞なんざ燃やし尽くしてしまえ。
燃やすといえば『骨灰』ですけど、この作品の全編に満ちた冲方丁さんの活力たるや。驚愕の一言です。この調子で走りつづけて、末永くエンタメ小説界に君臨してくれるでしょう。あとは、冲方さんが生きているあいだに直木賞が廃止されちゃうんじゃないか。それだけが心配です。廃止される前に、どうかどこかで受賞してください。
今年の夏も暑いそうです。いや、「そうです」じゃなくて、現実に暑いです。これがしばらく続くかと思うと気力が萎えますが、ちょうど7月、直木賞の季節に高野和明さんの『踏切の幽霊』に出会えたのは僥倖でした。こ、これは面白い……。怖いとか感動するとか、そういう次元を越えた、読書でのみ味わえる複雑な高揚感にうち震えました。ううっ、高野さんのおかげで、この夏、なんとか乗り切れそうです。
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前回にひきつづいて今度も二作受賞ということで、ええい、もうどうにでもなれ、のヤケクソ感も伝わってきます。うんうん、いいじゃないのさ、ヤケクソ感。ケチケチしてたって何も始まりません。
『木挽町のあだ討ち』の山周賞のオビ、引き締まっていてカッコいいですよね。ここに「直木賞受賞」の文字が入ることで、カッコよさが台なしにならないように祈ります。永井紗耶子さんのもつ、気品や真摯さは、直木賞みたいなケバケバしいものが来ても、びくともしないでしょう。さあ、とっちまったら、あとは自由だ、飛び立てサヤコ、未来は明るいぞ。
垣根涼介さんの歴史小説を読むと、いつもワクワクします。歴史的な事実に沿って進むのに、まったく飽きることなく惹きつけられる。『極楽征夷大将軍』 もそうでした。直木賞がどうとか、そういう些末なことはこのさい忘れて、垣根さんの書く小説、これからも楽しみだなあ、と思わせてくれる魅力あふれた作品だったのは間違いありません。うん、まじで楽しみです。
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今回の発表時刻は、以下のとおりでした。
- ニコニコ生放送……芥:17時52分(前期比-25分) 直:18時34分(前期比+10分)
直木賞をやるためには、おそらくけっこうカネがかかっています。日本文学振興会は、文藝春秋が稼いだ貴重な利益のいくぶんかを使っていますし、ニコ生だって、ただで制作しているわけじゃありません。ネットで発信されるメディアの記事も、たいていギャランティが発生しています。
そういう大金をつぎ込んだイベントを、ネットの通信費程度のハシタ金で、まるまるみっちり楽しめてしまうのです。まったく現代の直木賞は、神か仏か、と拝みたくなります。
とりあえず直木さんのお墓を拝ませてもらい、現世のうちに楽しめるなら、汗をかいてでもお出かけしよう、と改めて意を強くしました。前回は直木三十五記念館、今回は長昌寺の直木の墓前、次の第170回(令和5年/2023年・下半期)は、どこで選考日を迎えようか。まだ半年もありますから、そのあいだに考えておきます。
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