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2023年3月 5日 (日)

50銭だった直木賞発表号、78年たって2,400倍の1,200円に。

 こないだ『オール讀物』令和5年/2023年3・4月合併号が発売されました。

 今回は試験的に、kindleやら何やらでも読める電子雑誌版も発売された、本屋にわざわざ行かなくても済むんだ、ということで大盛り上がり、いままで以上に直木賞の選評に触れる人もぐっと多くなる……かどうかはわかりませんけど、直木賞といえば、『オール讀物』を買うところまでが一連のコースです。ワタクシにとってもルーティンです。

 しかし、最近は一冊に1,200円も払わなきゃいけません。お財布もピーピーです。ああ、もはや大衆誌というより、活字を読むマニアのための雑誌になっちまったんだな、という感を強くしますが、『オール讀物』の歴史を見ると直木賞よりちょっと長くて92年。その価格の変遷を追うだけで、この雑誌と直木賞のおカネについての関係性が、なにがしか浮かび上がってくるんだろうなと思います。

 ただ、変遷を追うのは面倒です。それはまた別の機会にしまして、今週は第1回(昭和10年/1935年・上半期)直木賞が発表された『オール讀物』昭和10年/1935年10月号と、最新回の発表号とを並べてみることにしました。

20230305193510
昭和10年/1935年10月号
20230305202303
令和5年/2023年3・4月合併号
上昇率
一冊定価 50銭 1,200円 2,400倍
直木賞の賞金 500円 100万円 2,000倍
表2広告 コロムビアポータブル
25円
むぎ焼酎壱岐 1800ml・25度
1,900円
76倍
表3広告 ローヤルナイトクリーム
60銭
池井戸潤『シャイロックの子供たち』文春文庫
770円
1,284倍
表4広告 妙布
1円
4711 Portugal
3,000円
3,000倍

※広告掲載商品については、最新号では価格表記がないので、ネット情報で補完

 ほんとは、単号あたり制作にいくらかかったかとか、載っている原稿料の総額とか、そういうのを比較できればいいんでしょう。しかし、さすがにそれはわかりません。

 で、代わりにどのくらいの価格の商品が表紙まわりの広告に出ているのかを挙げてみました。いやいや、そんなの何の比較になるんだ、っていうハナシですけど、とりあえず最新の号では、表紙まわりに自社の商品広告が入ってしまっている。一抹の哀しさを感じます。

 上記には挙げませんでしたが、おカネにまつわる話題でいうと、昭和10年/1935年当時の『オール讀物』には、いくつか懸賞企画が載っています。

 夢野久作「二重心臓」の犯人当ては、当選者には賞品があって、一等・客用座布団一揃(2名)、二等・美術置時計(5名)、三等・特製コーヒーセット(20名)、四等・優美便箋組合せ(50名)、五等・本社特製タオル(100名)、六等・本社特製美麗絵ハガキ(300名)……とのことです。客用座布団、そんなに欲しいか? と思いますが、このあたりは戦前昭和といまとの、生活文化の違いかもしれません。

 懸賞は他に、麻雀、詰碁、詰将棋、聯珠があり、それぞれ当たると賞金・賞品が出ています。一等2円、二等1円、三等・本社特製美麗絵ハガキ一組。

 こういう企画は、現在はときどきはやっていても、毎号ということはありません。それに近いものを感じるのは「短歌の部屋(東直子・選)」「俳句の部屋(高橋睦郎・選)」ぐらいでしょうか。ただ、投稿が採用されても賞金・商品はなく、掲載誌の贈呈のみです。世のなか、おカネより大事なものがある、と(おそらく)言いたいんだと想像します。

 それはともかく雑誌の定価ですが、そのうち1,500円、2,000円という時代が来てもおかしくはなさそうです。そのとき、直木賞の賞金も同じくらいに上がっているのか。いまから期待して、『オール讀物』の値上がりを待ちたいと思います。

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