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2023年3月19日 (日)

「私は連城三紀彦だ」と言って観光客から1万円を騙し取る男、京都に出没する。

 こないだ、札幌・小樽に行ってきました。

 理由はもちろん、第168回(令和4年/2022年下半期)の直木賞を、札幌からほど近い江別市出身の作家がとったからです。

 ……と言えたら、直木賞オタクとしては美しいですけど、別にそうじゃありません。ただ、いちおう予定のあいまを縫って、江別の市役所に飾られているという祝・直木賞の垂れ幕だけは見物してきました。あれって、いくらぐらい経費がかかったんでしょうね。そのうち公表されたらメモっておきたいと思います。

 さて、旅行の主たる目的は、市立小樽文学館に行くことでした。今回お目当てだった展示内容は、残念ながら直木賞とは関係がなく、正直ブログで書くようなハナシでもありません。だけど小樽文学館といえば、ミステリー作家に関する展覧会をしばしば企画することでも知られていて(知られているのか?)、これまで小栗虫太郎とか、泡坂妻夫、連城三紀彦など、直木賞にも縁のある人たちが続々と取り上げられてきました。きっとそのうち、京極夏彦展も開いてくれることでしょう。開いてくれるといいなあ。期待しています。

 せっかくなので、今週のエントリーは、上記に挙げた作家のうちの一人にからめたおカネのことで行ってみます。いったい直木賞と関係があるのかないのか。よくわからないミミッちい話題です。

 以前、このブログで「犯罪でたどる直木賞史」というのを調べていたことがあります。そのなかで、ある男が「自分は向田邦子の甥だ」と嘘をつき、女性に近づいては金品を騙し取った一連の犯罪事件を取り上げました。

 この男は、スチュワーデス8人からおよそ3000万円を口八丁手八丁で奪って指名手配され、さらに別の女性に結婚を持ちかけて約55万円を詐取した、ということで昭和60年/1985年に実刑判決をくらったそうです。

 直木賞の受賞者の名前を使って、詐欺行為を働く。上記の場合は「受賞者の甥」ではありましたが、もちろん、受賞者本人の名前を騙った例は、古今、日本じゅうで数かぎりなく行われてきたでしょう。これもまた直木賞という文学賞の虚名が膨らんだ末に生まれた、直木賞がらみの案件です。

 小樽で企画展が行われた作家でいえば、連城三紀彦さんも、勝手に知らない人に自分の名前を使われたひとりです。

 報道されたことが2度あります。いずれも連城さんが存命中のことです。

 最初は平成9年/1997年11月。住所不定、当時50歳だった無職の男が、京都の観光地をぶらぶらし、これぞと目をつけた若い女性観光客に近づいて、私は連城三紀彦という作家ですが、いま京都に関する本を書いているところでして、などと話しかけ、ときに現金を騙し取ったり、ときに女性に抱きついたりして迷惑をかけ、京都府警の松原署に逮捕された、ということです。

 2度目はそれから約10年たった平成18年/2006年2月。今度もやはり京都の観光地が舞台にして、住所不定、無職の男が、私は連城三紀彦という作家ですが、と若い女性観光客に声をかけ、アルバイトに雇いたいんですが、いま約1万円を払ってくだされば、登録料というかたちでこちらで話を進めます、みたいなことを言ったようです。そんなこんなで、似たような手口で20件ほど犯罪を重ねたところで、そのうちの一人の女性が、インターネットで調べてみたら、連城って作家と全然、顔がちがうじゃん! と気づき、被害届が出されて、詐欺容疑で逮捕されます。

 まあいずれも、取り上げるのも馬鹿らしいミミっちい犯罪ですが、『毎日新聞』の記事を見比べてみると、当時の年齢や名前からして、この2つの犯罪は同一人物によるものです。

 どうして「連城三紀彦」を選んだのか。そこはよくわかりません。さすがにこの男が連城さんのファンだった、とは考えづらいところではありますが、男がどんな供述をしていたのか、少し詳しく書いているのが『産経新聞』の記事です。

「容疑者は、近くの高台寺付近で、このOLらに「自分は連城三紀彦という作家で、社会派の本を書いている」と接近。OLの手帳に「火曜サスペンス“京都への旅”」と架空の本の題名を書いて信用させ、犯行に及んだ。

(引用者中略)

容疑者は、これまでにも同じく円山公園などで観光客の女性を相手に金品をだまし取っていたことを自供。「京都に観光に来ている女性は、ロマンチックな雰囲気や解放感から簡単にだませる」「だまされても被害届を出さない」などと話しており、同署で余罪を厳しく追及している。」(『産経新聞』平成9年/1997年11月16日「直木賞作家と偽りわいせつ行為 京都旅行のOLに抱きつきキス迫る 無職男を逮捕」より)

 あるいは、連城さんには若い女性をうっとりさせそうな、ロマンチックで信用のある名前だという印象があったのかもしれません。それはそれで、たしかに、とは思いますが、しかし1万円程度のおカネを騙し取るためには、「連城三紀彦は恰好の知名度(というか無名度?)だ」と認識されていたのですから、なかなか悲しくなります。

 ちなみに2度とも捕まったのは鈴木安男という男で、その後健在なら現在75歳ぐらいです。いまでもクソみたいなことやっているんでしょうか。わかりません。

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