賞金1000万円の賞がたくさんあった時代はとうに過ぎて。
令和5年/2023年、新年です。ようやく1月がやってきました。
直木賞が取り上げられることも多くなります。ああ、メデたいメデたい。この流れでパーッと景気のいいハナシをしたい……ところではあるんですけど、たぶん今年もこの世は厳しいにちがいない。その現実を直視しないわけにはいかないので、一発目は景気のわるい話題から始めたいと思います。うちのブログもたいがいがアマノジャクです。すみません。
というところで、いきなりクイズです。
江戸川乱歩賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞、日本ファンタジーノベル大賞、日経小説大賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞、大藪春彦賞。これらの文学賞には、ある一つの共通点があります。いったい何でしょう。
……答えは、けっきょく日本人のうち90%以上が興味のない文学賞。ではありません。
ほんとの答えは、受賞賞金が途中で下がった歴史をもっている、ということ。いわば景気のわるい賞たちです。
江戸川乱歩賞 | 昭和30年/1955年開始 5万円 |
↓ | 昭和38年/1963年 なし(単行本の印税) |
↑ | 平成4年/1992年 1000万円 |
↓ | 令和4年/2022年 500万円 |
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横溝正史ミステリ &ホラー大賞 (横溝正史賞) |
昭和56年/1981年開始 50万円 |
↑ | 平成2年/1990年 1000万円 |
↓ | 平成13年/2001年 500万円 |
↓ | 平成17年/2005年 400万円 |
↑ | 平成31年/2019年 500万円 |
↓ | 令和5年/2023年 300万円 |
日本ファンタジーノベル大賞 | 平成1年/1989年開始 500万円 |
↓ | 平成29年/2017年復活 300万円 |
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日経小説大賞 | 平成18年/2006年開始 1000万円 |
↓ | 平成24年/2012年 500万円 |
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司馬遼太郎賞 | 平成9年/1997年開始 300万円 |
↓ | 平成17年/2005年 100万円 |
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紫式部文学賞 | 平成3年/1991年開始 200万円 |
↓ | 令和4年/2022年 100万円 |
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大藪春彦賞 | 平成11年/1999年開始 500万円 |
↓ | 平成30年/2018年 300万円 |
賞金が低くなったものは、他にもまだまだあるんですけど、とりあえずはこんなところで。
何だかデキそこない文学賞の代表みたいに挙げてしまいましたが、そもそも高額賞金を売りにしておきながら、スッパリやめちゃった賞も少なくありません。まだ頑張って続けているだけ、上記の賞はましなほうでしょう。
ただ、これだけでもわかるように、文学賞の歴史はエキサイティングです。1990年代はじめ、平成が始まった頃は、全国の地方自治体がぞくぞくと文学賞を創設。また出版社がテレビ局をだまし込んで高いおカネを引き出し、1000万円を賞金に設定する例が相次ぎました。
ちなみに、文学賞(というか公募の賞)の高額化が話題になった時期が、もう一度あります。大賞賞金2000万円を打ち出して創設、5回ほどやって終了し、けっきょく齋藤智裕=水嶋ヒロさん騒ぎだけを残してカゲロウのごとく終焉したポプラ社小説大賞があった頃。平成18年/2006年前後のことです。おそらくあれが、これまでの日本の文学賞史上、おカネのことで騒がれたピークだったかと思います。
その後、平成20年/2008年に世界はリーマンショックなんてものに襲われてしまい、日本も不況感にまみれます。出版業界は下り坂だと言われ、歴史ある雑誌もぞくぞくと廃刊。いっときは自治体に人気だった文学賞事業も、手もちのおカネがなくなってくると、悠長なことを言ってもいられず、バタバタと終わる賞、縮小する賞が相次ぎました。そうなってくると次にくるのが、賞金の多さで勝負しないタイプの文学賞です。書店が中心になってやるようなもの、あるいは、個人が熱烈な推しとして発表するものが流行し、次々と生まれては生きていく、というのが平成終わりから令和に続く現状です。
と、そんななかで直木賞の賞金は、まったく変わらずに来ました。第100回(昭和63年/1988年・下半期)に100万円へ上がってから、40年近く変動がありません。
一般的に賞金の高額化がつづいていたとき、直木賞の賞金がちょっと安すぎるんじゃないか、と言われたこともありました。ネット上にも平成20年/2008年にimidasに川村湊さんが書いた「高額賞金文学賞」という文章が残っています。100万円はやはり低額だ、という認識があったことがわかる言い方です。
しかし、もしもっと高額にしていたら、どうでしょう。自分で自分の首を絞める状態になって、直木賞も賞金を下げるという状態になっていたに違いありません。何であっても、過剰にやりすぎず、そこそこに。賞金を据え置くこの消極性こそが、直木賞には似合っているのだなあ、と思います。
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