第168回(令和4年/2022年下半期)直木賞候補者は、どれだけ賞金を稼いできたか。
文学賞の最大の特徴は何でしょうか。それは、受賞すれば賞金がもらえることです。
……と、昭和の中盤ぐらいまでは自信満々に言えたんですけど、もはや文学賞も多様化の時代。とってもおカネは出ませんよ、という文学賞もたくさんできてきました。
なにしろ、小説や文化に関わる組織は、どこもかしもおカネがなくてピーピー言っている時代です。文藝春秋だって同じこと。直木賞もここらで時代の流れを汲み取ったふりして、賞金なし、にしたっていいんじゃないかと思いますが、とりあえず今週決まる第168回(令和4年/2022年・下半期)では、旧弊どおり賞金が出るようです。ひとり100万円です。
そうか、文学賞って賞金がもらえるんじゃん。ということを意識しながら、今回候補に挙がった5人のプロフィールを見ると、どの人の履歴にもおカネのことが書いてあることに気づきます。おカネのこと。つまり、これまでいろいろと文学賞をとってきた人たち、ということです。
文学賞は歴史的な始まりからして、おカネにまつわるイベントです。作品がどうだとか、誰がとりそうかとか、そんなのは些末なことにすぎません。賞を見るときいちばん自然な角度は何なのか。それは「賞はカネである」という視点です。
なので、今回の直木賞も、おカネの明細で並べてみます。候補者のなかで、誰がいちばん文学賞で稼いできたのか。
■雫井脩介(平成12年/2000年デビュー・22年) | |||
計 | 1500万円 | ||
平成11年/1999年 | 第4回 | 新潮ミステリー倶楽部賞 | 1000万円 |
平成16年/2004年度 | 第7回 | 大藪春彦賞 | 500万円 |
■千早茜(平成21年/2009年デビュー・14年) | |||
計 | 550万円 | ||
平成20年/2008年 | 第21回 | 小説すばる新人賞 | 200万円 |
平成21年/2009年 | 第37回 | 泉鏡花文学賞 | 100万円 |
平成25年/2013年 | 第20回 | 島清恋愛文学賞 | 50万円 |
令和2年/2020年度 | 第6回 | 渡辺淳一文学賞 | 200万円 |
■小川哲(平成27年/2015年デビュー・8年) | |||
計 | 350万円 | ||
平成27年/2015年 | 第3回 | ハヤカワSFコンテスト | 100万円 |
平成29年/2017年度 | 第38回 | 日本SF大賞 | 50万円 |
平成29年/2017年度 | 第31回 | 山本周五郎賞 | 100万円 |
令和4年/2022年 | 第13回 | 山田風太郎賞 | 100万円 |
■一穂ミチ(平成19年/2007年デビュー・16年) | |||
計 | 100万円 | ||
令和3年/2021年度 | 第43回 | 吉川英治文学新人賞 | 100万円 |
■凪良ゆう(平成19年/2007年デビュー・16年) | |||
計 | 10万円 | ||
令和2年/2020年 | 2020年本屋大賞 | 図書カード10万円分 |
文学賞全体が景気がよくて浮かれていた頃から、景気がわるくて「それでも文学には力がある!」とか宗教じみたことを言いはじめた現在まで、見事に時代相が出ている候補者のラインナップで、さすがは何でもありの直木賞です。
何つっても、賞金1000万円がゴロゴロしていた、アノ狂乱の時代の文学賞がリストに出てくるんですからね。それをとってデビューした人が今回はじめて候補に挙がるというのも、また直木賞ならでは。時空間がむちゃくちゃです。
さあ、これら賞金ハンターの猛者たちがつどって、いったい誰が100万円を獲得するのか。
1月19日(木)夕方~夜には受賞会見が開かれる予定になっています。そこで主催者か受賞者が、札束をビラビラと見せびらかせて、世を炎上させたら面白いな、と思うんですけど、残念ながら受賞式は、選考結果が出てから1か月ほど先のことです。発表の当日はゲンナマを目にすることはできません。せめて、だれか空気を読まない文芸記者が「賞金の使い道は?」と質問してくれることを期待しています。
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