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2023年1月22日 (日)

直木賞を受賞すれば半年で収入が4000~5000万円になる、と胡桃沢耕史は言う。

 直木賞の賞金は100万円です。しかし、受賞者には賞金だけでは測れない、それ以上の価値が手に入る、とも言われています。

 外から見ていると、「賞金以外の価値」がどの程度のものなのか、よくわかりません。おカネ以上の恩恵があることは想像できますが、人によってバラつきがあるでしょうし、直木賞をとったら収入が下がっただの、全然食えないだの、そういうハナシすら文献には残っています。直木賞をとればこうなる! と何か絶対的なことを言えるわけではない。まあ、それが直木賞という文学賞の面白さでもあります。

 ……と、そんなことを言っていてもハナシが進まないので、無理やり後を続けます。受賞すると、どのくらい儲かるのか。

 『ダカーポ』平成18年/2006年7月19号「芥川賞・直木賞を徹底的に楽しむ」の特集に、石田衣良さんと町田康さんの対談が載っています。これは、いまは更新が止まっているサイト「いやしのつえ」の人が、当時けっこう長く文章を写していて、いまのところネットでも読むことができます。石田さんいわく、編集者によれば直木賞をとると生涯賃金が2、3億円上がるらしい、とのことです。

 いったいその編集者とは誰なのか。いや、編集者は何をどのように計算してそんな結論を出したのか。聞いてみたいところです。

 何といっても興味があるのは、たとえば具体的にどのあたりの受賞者を想定すると、2~3億アップになるのか、ということ。海老沢泰久さんなのか。高橋義夫さんなのか。はたまた、高村薫さん、伊集院静さんなのか。……

 どこに根拠があるかはわかりません。ただ、どれほど読者受けしそうにない地道な人でも、賞なんてとったっておれは変わらんぜ、とかたくなに寡作を通す人でも、最低でもそのぐらいは増える、ということなんでしょう。誰かひまな社会学者か経済学者の人が、直木賞受賞者の生涯賃金でも調べてくれないかな、と思います。

 それはともかく、受賞後にどれぐらい収入が上がったか、なかなか受賞者が自分で言うことはありませんが、以前にはそれを断行した人がいます。胡桃沢耕史さん。下品と下世話を煮詰めたような人です。

 ご高説をうかがってみます。

「直木賞受賞によってきのうまで年収百万円の人が一挙に四、五千万円になる。少なくとも半年間はそのぐらい稼げる。本当に力のある人は収入が一億円になる。まさに百倍である。それから二億、三億と進んでいく人と、六か月でだめになってしまう人に分かれるけれど、直木賞が国家公務員上級試験や司法試験に負けない力があることは確かだ。」(平成3年/1991年4月・廣済堂出版刊、胡桃沢耕史・著『翔んでる人生』所収「直木賞の取り方を教えます」より)

 半年で4000~5000万円。1年で1億円。たしかに受賞作が10万部近く売れ、既刊の文庫本にもぞくぞくと増刷がかかれば、そのぐらい(ないしはそれ以上)行く人もいそうです。

 胡桃沢さんの説を採れば、その後、上に行く人とだめになる人、二極化していく、ということになります。このあたりがどうも信用ならないところで、いやいや、「だめになる」状況にもグラデーションはあるでしょう、こつこつ、そこそこに書き続けて年収1000万円超をキープする作家もいれば、ほとんど新作を出せなくなる作家だっている。

 そして、こつこつ、そこそこに書きつづける人にしても、ほんとに直木賞をとったおかげでその道を歩めているのか、それとも作家の本来の力量ゆえなのか、切り離して計算するのは相当困難です。なので、胡桃沢さんの説を突き詰めても、生涯賃金2~3億アップ、というところには結びつかなそうです。

 人サマのフトコロ事情を、直木賞とからめて語るのはほんとに難しい。と同時に、なかなか空しいことだと、よくわかりました。

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