第168回直木賞(令和4年/2022年下半期)決定の夜に
いよいよ明日ですね。令和5年/2023年本屋大賞のノミネート作が発表されます。何が候補になるんだろう。あれかな、これかな。頭がいっぱいです。明日が来るのを楽しみにして眠りにつきたいと思います。おやすみなさい。
……いや、寝る前に、ひとつ思い出しました。そういえば今日、別の文学賞の選考会がひらかれていたというではないですか。第168回(令和4年/2022年・下半期)直木賞です。
ワタクシ自身、直木賞の楽しみは、だれの何という作品が受賞するか、ということじゃありません。ボルテージのマックスは、昨年12月に候補作が発表され、それらの作品を一作一作読んでいる最中です。
なので、選考結果がどうなったのかは、些末なおハナシ。おいしいフルコースを食べておなかがパンパンになったあと、最後にちょっとだけ飲む一杯の水みたいなものです。
水は水。ワタクシには、かくべつ語るほどの感想もありません。ただ、フルコースの料理については、こんなに贅沢なものを食べさせてもらって、無言で立ち去るのは気が引けます。まあけっきょくは「おいしかったです!」ぐらいしか言えないんですけど、今回も趣向を凝らした絶品の5作、堪能しました。
『光のとこにいてね』が候補になってくれたおかげで、一穂ミチさんの、長篇作家としてのうまさを味わいました。長いあいだ書きつづけてきた人の力をナメちゃいけませんね。……って、別にナメてたわけじゃないですけど、一穂さんは新たな時代を背負って立つ作家のひとりになるだろう、と確信しています。直木賞はなかなか時代の先頭に立つのが苦手な賞ですが、いずれ直木賞も、一穂さんの歩みに追いつく日がくればいいな。
いやあ、『クロコダイル・ティアーズ』 面白かった。正直、今回の候補作でこれがいちばん面白かった。と感じてしまうのは、おそらくワタクシが古びたおじさんだからでしょうけど、しかし雫井脩介さんが候補者にいてくれたおかげで、心理サスペンス小説の魅力に、改めて気づかされました。ありがとうございます。
凪良ゆうさんの小説が候補作になったと聞いたとき、おじさんは恐怖で震えました。おれが読んでわかるのか。そもそも作者も、ジジイになんか読まれたって嬉しかなかろう、と。だけど勇気を出して読んでみれば、そんな懸念を楽々と飛び越える『汝、星のごとく』 のまっとうなつくり。救われました。今度、凪良さんが候補になっても、もう恐れず、その柔らかな世界に浸れそうです。
○
受賞結果は、たぶん順当だったんだと思います。二作受賞、ということまで含めて予想が当たった人も、全国に何千人かはいたでしょう。
それだけ多くの読者が直木賞のことをよく知るようになったということか。はたまた、選考委員が一般の読み方に寄り添ったのか。よくわかりませんが、どっちなんだろうと考えるのもまた直木賞の楽しみ方です。いまリアルタイルでワタクシも楽しんでいます。
ただやっぱり、小川哲さんの『地図と拳』が直木賞をとらない世界など、思い浮かびませんよね。あんなに絡み合ったお話を、読んでいるこちらにストレスなく伝えながら、読み終えて感嘆させてくれる抜群の力作。満洲は、直木三十五さんとも縁がなくはない土地ですし、これ以上ないほどに、ふさわしい受賞だったと思います。
そして、そんな目一杯の重量級と同じ舞台に立たされて、よくぞ受賞しました『しろがねの葉』。いったい、千早茜さんはどこまで大きくなるんでしょうか。時代物まで書けちゃうんですよ。もう無敵じゃないですか。そうだそうだ、敵なんぞ蹴散らしてしまえ、これからも攻撃的な作品をたくさん書いていってください。
○
今回の発表時刻は、以下のとおりでした。
- ニコニコ生放送……芥:18時16分(前期と同時刻) 直:18時24分(前期比+8分)
いつもは家でネットに貼りついているんですけど、たまには新しいことをしたいな、と思いついて、今日は大阪にある直木三十五記念館に行って、そのときを待っていました。
ここでは10数年も前から、1月と7月、選考会の日に合わせて「勝手に直木賞「長屋路地裏選考会」」というのが開かれています。テレビもラジオもつけず、ニコ生中継も観ず、ただただ参加者たちが好き勝手に候補作のことをしゃべり合う。ほとんど小辻事務局長の独演会と化していましたが、それでもハナシは脱線に次ぐ脱線で、それがまた面白く、気づいたら東京での受賞発表も終わっていました。
こういう待ち方もまたアリだなあ、と近年ニコ生中継ばっかりで毒されてしまった自分を、少し反省しています。さて、半年後はどうやって直木賞発表を待とうかな。第169回(令和5年/2023年・上半期)の来るのが待ち遠しいです。
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