カジノで20~30万円使うとはどういうことか、黒川博行が記者会見と受賞作で示す。
昔のことばかり書いていると、さすがに生きる気力がなくなってきます。なので今回は、少し新しめのハナシです。
直木賞の賞金を何に使うか。あまりにどうでもいい話題すぎて、最近その手のことが取り上げられる機会はほとんどありません。ただ、新しめの時代で無理やり探すとするなら、第151回(平成26年/2014年・上半期)の黒川博行さんの賞金の使い道にぶち当たります。
天下のWikipediaにも出ています。きっと受賞当時も注目されたんでしょう(っつっても8年ほど前のことですが)。受賞の記者会見で、賞金を何に使うかと問われた黒川さん、「とりあえずマカオへ行こうと思っています」と答えました。
その後、ほんとにマカオに行って賞金を使ったのか。どこかのエッセイに載っているかもしれないので、ご存じの方がいたら教えてください。
それはともかく、賞金の使い道はマカオに行く……だけだと、ちょっとインパクトに欠けます。具体的な金額が明らかではないからです。
しかし、さすがはリアリティにうるさい黒川博行、会見の席では「マカオに行く」だけじゃなくて、きちんと金額についても触れていました。
20万~30万円ぐらいは負けてもいい、というつもりで行く、のだそうです。
ちなみに黒川さんは同じ会見で、ギャンブルに向かう姿勢についても語っています。昔はいくら稼いでやろうと思って高揚していた。だが最近では、20万~30万円ぐらいは負けてもいいかな、という気持ちで楽しんでいる、とのこと。直木賞の賞金が100万円というのは、20万~30万円負ける設定であれば、なるほど、ちょうどいい金額かもしれません。
ただ、そもそもマカオに行ってギャンブルをするときの金額水準が、こちらにはよくわかりません。それが安いのか高いのか。
その参考になるちょうどいい本があります。黒川さんの『破門』(平成26年/2014年1月・KADOKAWA刊)、このときの直木賞受賞作です。
『破門』のなかには主人公の二宮&桑原コンビが、消えた映画プロデューサーを追ってマカオに飛ぶ場面があります。そこで、彼らがギャンブルにいくらつぎ込んだか。いくら儲けていくら損したのか。二人は何度かカジノに出入りしますが、最初につぎ込んだ金額が、これです。
「桑原は十万円、二宮は三万円をチップに替え、三十枚ほどをばらばらに張ると、桑原の“17”が当たった。
(引用者中略)
桑原は賭けつづけたが、三十分でチップがなくなり、また十万円をテーブルに放った。」(黒川博行・著『破門』より)
貧乏がしみついている建設コンサルタントの二宮は、一晩で3万円、暴力団の桑原は合計20万円スッたと出てきます。
その後、90万円勝ったとか、120万円負けたとか、もはや庶民感覚もクソもない金額になっていき、おカネの価値っていったい何なんだ、と目が点になる展開がつづいていくんですけど、それはともかくヤクザの桑原が最初の一晩で使ったおカネが、ちょうど20万円です。
つまり黒川さんは、受賞作に出てくるその金額になぞらえて、作中の人物たちはそこからどんどんおカネを使っていって、金銭感覚が麻痺してくるギャンブル中毒の入口に差しかかるけど、おれはもうそこまでは行かずに引き返すよ、と言っているわけですね。
いや、言っているんでしょうか。ギャンブラーの思考はよくわかりません。ただ、マカオのカジノで数夜を満喫するなら、とても20万~30万円では足りないことが、『破門』の記述でよくわかります。おカネの動きを描いた作品が直木賞を受賞して、その会見で賞金のハナシになったというのも何かの縁です。やはり黒川さんが、直木賞とおカネのテーマにふさわしい作家なのは間違いありません。
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