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2022年7月20日 (水)

第167回直木賞(令和4年/2022年上半期)決定の夜に

 今日も暑いですね。

 直木賞は年に2回の選考です。87年まえからずっとそうです。奇数の回は、毎年毎年このクソ暑い時季にやってきたのだな、と思うだけで目まいがしますが、冷房の効いた部屋のなかで、鼻くそをほじりながら受賞ニュースが動画で見られるのですから、ここは天国かよと思います。いまの時代の直木賞ファンで、ほんとよかったです。

 そういうなかでコロナ禍が続き、今日の東京でも感染報告が2万件を超えたそうです。外を出歩くのもはばかれる。だけど直木賞は、いつも身近にあります。

 今回の第167回(令和4年/2022年・上半期)も、なかなかボリューミーな候補作がいくつもありました。だれにもわずらわされない空間で、これらを読み進めていると、日常のイヤなこともふっ飛びます。いや、ふっ飛ぶまでは行きませんけど、イヤなことを忘れる時間は確実に得られました。

 ああ、また明日からイヤな日常が始まるのだな。と、早くもうなだれてしまいます。だけどその前に、充実の読書時間をもたらしてくれた候補作と候補者の方々に、深くこうべを垂れたいと思います。ありがとうございます。

 永井紗耶子さんの最近の活躍ぶりには目をみはりますが、『女人入眼』も面白かったですねえ。京の貴族の世界に生きる女性が、まるで違う論理がはびこる鎌倉に派遣されて、あれやこれやと壁にぶつかる、というこの構造のおかげで、すっとストーリーに入りやすくしてくれる。まったく、うまい人です。今後ますますの活躍は、もはや疑いないでしょう。また面白い小説、生み出してください。

 いったい全体、深緑野分さんのようなスケールの大きい作家に、直木賞なんかチッポケなものが必要なんだろうか。とは、しばしば思うところですけど、すみません、直木賞の側にとって必要なんでしたね。『スタッフロール』にも、端正なのにハッチャける部分を忘れない深緑さんの力が輝いています。堪能しました。こういう作家の作品に、授賞できるような賞に、いつか直木賞がなれるといいなあ。

 これはスゲえものを候補作にぶち込んできたな。『爆弾』を読んでビビりました。呉勝浩さんの小説は、いつもいつも猛々しくて、読んでいると気圧されますが、『爆弾』の迫力と強引さのすごさたるや。これを選んでいたら直木賞のほうも一皮ふた皮むけたと思いますけど、まだまだ闘いは続くようです。呉勝浩vs.直木賞の熾烈なバトル。次の第四章も期待しています。

 最近、北海道の出身者は直木賞ヅイています。このまま河﨑秋子さんも一発目の候補でとっちゃうんじゃないかと思いましたよ。『絞め殺しの樹』には、直木賞が好む重厚感がみなぎっていましたし。しかしまあ、未来のある方です。いつだってチャンスあれば、直木賞のほうから擦り寄っていくものと思います。直木賞がうだうだしているうちに、どこかの純文芸誌に書いて芥川賞とかとっちゃったりして。そうならないように、直木賞にはしっかりしてほしいです。

          ○

 今回の受賞結果を聞いて、おおっ、直木賞はやっぱり直木賞だなあ、と楽しくなったのは、ワタクシだけでしょうか。

 だって、受賞作が『夜に星を放つ』ですよ。現代を生きる人びとの生態をすくい取った珠玉の短編集。『ふがいない~』でもない、『~迷いクジラ』でもない、『トリニティ』でもない、よりによって受賞作に『夜に星を放つ』を選んでしまうこの神経が……もう直木賞です。その作家の力作・勝負作はなぜか見送って、何げない軽量級の作品集が候補になったときに、「作家的な力量」を加味して賞を贈るという。面白いですよね、直木賞って。

 それだけ窪美澄さんの力量が文句ない領域にある、ということなんでしょう。そんなの、ずっと前からわかっとるわい、と読者の一部はキレそうですが、とりあえず窪さん、直木賞には4年ほど候補というかたちでお付き合いいただき、ありがとうございました。

          ○

 今回の発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:18時16分(前期比-8分) 直:18時12分(前期比+8分)

 いったい直木賞に何が起きているんでしょう。今回もまた、芥川賞よりも決定発表の瞬間が早く訪れました。司会をしている今の『オール讀物』編集長が、そうとうキレ者でデキる編集者だ、という噂はちらほら耳にしますが、あるいはほんとうかもしれません。こうなったら「直木賞の選考のほうが先に終わる」記録をどんどん積み重ねていってほしいと思います。

 そして、第167回も何の嵐に巻き込まれることもなく、静かに決まってしまいました。明日から、また地獄のような日常が始まります。半年後までもつだろうか。とにかく次の第168回(令和4年/2022年・下半期)の候補作を読むことだけを楽しみにして、耐え抜かなければなりません。直木賞よ、早くこい。

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