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2022年1月23日 (日)

川村律文(読売新聞)。最近5年間で最も多く、受賞者会見で質問マイクを握った人。

 こないだ第166回(令和3年/2021年・下半期)直木賞の受賞記者会見がありました。

 第144回(平成22年/2010年・下半期)の芥川賞をとった西村賢太さんによる、伝説の「そろそろ風俗に行こうかなと思っていた」会見が、およそ10年前。その回からニコニコ動画(ニコニコ生放送)で、直木賞の受賞者会見がナマで中継されるようになり、第152回(平成26年/2014年・下半期)からはYahoo!ニュースのTHE PAGEでも同様に、生中継が始まります。

 これらネット中継の功績は、いろいろとあるとは思います。なかで、ひとつ確実に挙げなくちゃいけないのは、両賞のまわりにひっついてン十年を数える「文芸記者」と呼ばれる人たちを、公衆の面前に引き出したことです。おそらくそのために生中継が始まったわけじゃありませんが、副産物としてはかなりの儲けものでしょう。

 直木賞という舞台の、第一の構成員が作家、第二が出版社の人たちだとすると、第三はメディアの記者たちです。それなのに、いったいどんな人が取材して切り取って報道しているのか、文芸記者の顔はなかなか観衆の目に見えません。ネットの生中継が始まったことで、チラチラッと映る質問者の影と、その声を聞くことができ、ほんとに生身の人間がまわりで直木賞を支えてきたのか! ということが実感としてわかるようになりました。

 ただ、映像だと、どうしてもカメラは受賞者のほうを中心にとらえてしまって、会見で質問する記者たちにフォーカスしてくれません。あそこで質問している人がいる。だけど、具体的にどんな姿かたちの人なのか、よくわからない。何年か前からワタクシも可能であれば受賞会見場に足を運びはじめましたが、その最大の理由は、質問する記者たちの生身の姿をどうしても間近で見たかったからです。コロナ禍が始まってしまい、ここしばらく自粛して行けていませんけど、またこの状況が改善したら、「受賞者に質問を投げかける文芸記者」を見るために、あの場に行けたらいいなと思います。

 とまあ、文芸記者、文芸記者と言っていますが、彼らもひとりひとり実体を伴う別々の人間です。受賞会見ではかならず、数名の文芸記者が質問をする。じゃあ、いったいどこの何という人が質問しているのか、直木賞オタクとしては当然気になります。

 今度の第166回までのほんの5年間(10回分)だけですが、直木賞受賞者に会見で質問した人たちをリスト化してみました。これで、いま現在のリアルタイムな「直木賞に縁ぶかい文芸記者」が誰なのか、おのずと浮かび上がってきます。

回・年度 受賞者 質問記者 受賞者 質問記者
第157回
平成29年/2017年
上半期
佐藤正午 読売新聞・川村川村律文 読売新聞・川村(再)川村律文
西日本新聞・小川小川祥平 読売新聞・鵜飼鵜飼哲夫
朝日新聞・中村中村真理子 朝日新聞・高津高津祐典
毎日新聞・内藤内藤麻里子
第158回
平成29年/2017年
下半期
門井慶喜 読売新聞・川村川村律文 朝日新聞・吉村吉村千彰
読売新聞・鵜飼鵜飼哲夫 朝日新聞・渡[ワタリ]渡義人
毎日新聞・内藤内藤麻里子 共同通信・森原森原龍介
第159回
平成30年/2018年
上半期
島本理生 日本テレビ(ZIP)・平松平松修造 日本経済新聞・郷原郷原信之
読売新聞・川村川村律文 ニコニコ動画・高橋
→質問者:東京都30代
高橋薫
毎日新聞・内藤内藤麻里子 読売新聞・鵜飼鵜飼哲夫
共同通信・田村田村文
第160回
平成30年/2018年
下半期
真藤順丈 毎日新聞・内藤内藤麻里子 共同通信・森原森原龍介
読売新聞・川村川村律文 テレビ朝日・ナガノ
朝日新聞・宮田宮田裕介 読売新聞・鵜飼鵜飼哲夫
東京新聞・樋口樋口薫
第161回
平成31年・
令和1年/2019年
上半期
大島真寿美 テレビ朝日・シマダ 中日新聞・松崎松崎晃子
読売新聞・十時[トトキ]十時武士 日本経済新聞・ヤマカワ
毎日新聞・内藤内藤麻里子 朝日新聞・宮田宮田裕介
NHK・カワイ 共同通信・瀬木瀬木広哉
読売新聞・鵜飼鵜飼哲夫 読売新聞・村田村田雅幸
ニコニコ動画・高畑
→質問者:富山県40代女性
高畑鍬名
第162回
令和1年/2019年
下半期
川越宗一 西日本新聞・一瀬[イチノセ]一瀬圭司 読売新聞・池田池田創
毎日新聞・須藤須藤唯哉 朝日新聞・山崎山崎聡
北海道新聞・大原大原智也 報知新聞・北野北野新太
日本経済新聞・ムラカミ ニコニコ動画・高畑
→質問者:富山県30代男性
高畑鍬名
第163回
令和2年/2020年
上半期
馳星周 北海道新聞・大原大原智也 日本経済新聞・マエダ
西日本新聞・平原[ヒラバル]平原奈央子 読売新聞・十時[トトキ]十時武士
朝日新聞・興野[キョウノ]興野優平 報知新聞・中村中村健吾
第164回
令和2年/2020年
下半期
西條奈加 共同通信・瀬木瀬木広哉 読売新聞・池田池田創
日本経済新聞・マエダ 産経新聞・海老沢海老沢類
北海道新聞・大原大原智也 ニコニコ動画・高畑
→質問者:富山県40代女性
高畑鍬名
第165回
令和3年/2021年
上半期
佐藤究 西日本新聞・平原[ヒラバル]平原奈央子 澤田瞳子 読売新聞・川村川村律文
朝日新聞・興野[キョウノ]興野優平 ニコニコ動画・高畑
→質問者:東京都40代女性
高畑鍬名
産経新聞・海老沢海老沢類 朝日新聞・上原上原佳久
ニコニコ動画・高畑
→質問者:富山県30代男性
高畑鍬名 毎日新聞・須藤須藤唯哉
共同通信・瀬木瀬木広哉
第166回
令和3年/2021年
下半期
今村翔吾 読売新聞・川村川村律文 米澤穂信 ニコニコ動画・高畑
→質問者:愛知県20代女性
→質問者:東京都30代男性
高畑鍬名
中日新聞・谷口谷口大河 共同通信・鈴木鈴木沙巴良
山形新聞・木村木村友香理 岐阜新聞・井上井上吉博
共同通信・平川平川翔 西日本新聞・佐々木佐々木直樹
富山新聞・?

 記者のフルネームは、ワタクシが勝手に類推して補完したものなので、間違っているかもしれません。誤りがあったら、ごめんなさい。

 ということで、最近5年にかぎって見ると、会見を司会する日本文学振興会の人にたくさん指され、最も多くの質問を放った記者は(ニコニコ動画担当を除けば)、読売新聞・川村律文さんだということがわかります。都合7回。直木賞の会見は川村さんのおかげで保たれてきた、と言っても過言ではないでしょう。……いや、過言でしょう。

          ○

 川村律文(かわむら・のりふみ)。とりあえず、読売の紙面などからの推定で書いておきますと、平成13年/2001年に読売新聞入社。平成18年/2006年ごろから芸能面、平成20年/2008年ごろから主に文芸および囲碁の担当となってから、直木賞に関係したりしなかったり、数々の関連記事を書き続けています。未来のヨミウリ文化部をしょって立つ逸材……と言われているかどうかはわかりませんが、とくにエンタメ小説ではこの人に評価されて取材されれば悪いようにはならない、まっとうな文芸記者なのではないかと思います。

 受賞会見というと、やはり突飛で素っ頓狂な質問をする人が目立ちます。その意味で、Y新聞のU記者(……ってイニシャルで書く必要もないですけど)に目が行きがちですが、とくべつ狙わず、当たり前のようなことを、当たり前のような調子で、やや朴訥に質問する川村さんの存在が、直木賞会見を落ち着かせているのは明らかです。その有能さは会見場でも身にしみて感じます。

 どれほど衒いがないか。ここ2回の、川村さんの質問内容を見ても、よくわかります。

(引用者注:受賞者・澤田瞳子さんへの質問)今回五回目のノミネートでの受賞となりました。いままで四回いろんな経験をされてきて、この作品でとれたということの感慨を、一言いただければと思います。」

(引用者注:同)澤田さんのお母様も作家として活動されていて、作家の家に育って、自分が作家になったということについて、自分自身で振り返ってみると、何かその影響というか……。」

(引用者注:同)澤田さん自身が、これまで歴史のなかでも、そんなに表舞台に華やかに出てくる人というよりも、今作でも、天才と言われた作家の娘という立場から書いたり、あるいはその周辺人物を非常に魅力的に書いてきたと思うんですけども、澤田さん自身が歴史を書くということについて、改めて自分自身で考えていらっしゃることというのはどういう。歴史を書きたいと思うような原動力はどういうところにあるのかを改めてお聞かせください。」(以上、令和3年/2021年7月14日直木賞受賞者記者会見より)

(引用者注:受賞者・今村翔吾さんへの質問)今、号泣してしまったというお話がありましたけれども、それはやはり、直木賞は夢だというふうに以前、語っていたことがあると思うんですけれども、その辺りの思いというのがいろいろと込み上げてくる部分があったんでしょうか。」(以上、令和4年/2022年1月19日直木賞受賞者記者会見より)

 こういう地味な質問を、まず一発目に発することができる、というのは川村さんの得難い能力でしょう。今後も、直木賞の会見ではまず川村さんがどんな問いを発して、その場を平穏で心地よい空間にするか、そこに注目したいと思います。

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