第166回直木賞(令和3年/2021年下半期)決定の夜に
直木賞を長く見続けてきた人は、これまでもたくさんいたと思います。いまもいるでしょう。たぶん、そういう人にはわかってもらえると思うんですが、直木賞をずっと見ていると、どれが受賞するかなんて、どうでもよくなりますね。
楽しいのは直木賞そのものであって、当落への興味は徐々に薄れていく。20数年、直木賞のサイトをやってきて、ようやくその気持ちがちょっとずつわかってきました。いまさらかい。
という、しょーもない感想はこれぐらいにして、直木賞です。第166回(令和3年/2021年下半期)です。今日、令和4年/2022年1月19日の18時すぎ、都内で最多の陽性者が出たとか何とかワーワー言われている隅っこのほうで、2人の受賞者がうまれました。2回連続です。新型コロナウイルスが蔓延したことと、直木賞の受賞者が増えたことに、特別の関係はありません。あるはずがありません。
受賞した2人のほかに、3人の作家たちがいたおかげで、今回もまた直木賞は楽しく面白い文学賞になりました。当落なんて、正直どうでもいいです。感謝の気持ちのほんの少しだけしか書けませんけど、候補になることを承諾してくれた5人の方々に、下手くそなりに御礼を書き残しておきます。
実を言いますと、今回の候補作5冊を手にしたとき、その重みにウンザリする気分がありました。それをキレイさっぱり拭い去ってくれたのが、彩瀬まるさんです。『新しい星』の一作、よかったですねえ。賞のことも別に知らないし興味もない、でも何か新しい小説を読みたい、というような人がいたら、ワタクシなら彩瀬さんのこの作品を勧めると思います。いいじゃないですか、直木賞の受賞作じゃなくたって。普通の読者は、そういうこと気にしないですもん。こういう小説、これからもどんどん書いてほしいです。
それで、ウンザリその1。あまりに世評が高すぎて手を出しづらい。逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』です。読めば絶対に「そんなに絶賛されるほどでもないな」と自分が思うことがわかっている。そんな自分の性格に、よけいに落ち込む。だから、評判の高すぎる作品は、そもそも読むのを敬遠してしまうんですけど、これが直木賞の候補作になってくれて助かりました。たしかに、面白いじゃん。逢坂さんのスタートに、一読者として立ち合えてありがたいです。今後は、逢坂さんの作品、敬遠せずに読んでいきます。直木賞の候補になるかどうかと関係なく。
ウンザリその2。「現代医療の病巣」モノって、手垢がついていて読む気が起きない。柚月裕子さんの『ミカエルの鼓動』です。でも、いったん読み始めると手が止まらず、ぐいぐいと引き込まれてしまいました。柚月さんの手腕、まじでナメてました。直木賞は、候補回数を積み重ねていくうちに選考委員の評価も変わる、と言われます。ただいま柚月さん2回目。まだまだこれからですね。こういう手腕の持ち主が、今後も候補になり得る余地を残しているのですから、直木賞の未来は明るいぜ。
○
ウンザリその3。……って、もういいですか。
ひさしぶりです。第129回(平成15年/2003年・上半期)~第131回(平成16年/2004年・上半期)に起きてから18年ぶりに、2期連続で2作受賞になりました。たくさん受賞者を出さないといけないぐらい出版界の翳りが深刻なのだ……という面もあるでしょうけど、ともかく直木賞の受賞に値する作家が、いまなお、そこらじゅうに蠢いているのもたしかです。
だって、今回の受賞者が今村翔吾さんと米澤穂信さんですよ。もっと早くに取っていたっておかしくないでしょ、このお二方は。
『塞王の楯』の全編にこもり切った熱い(暑苦しい)ほどの迫力。『黒牢城』の全編にじっとりと流れる人間や環境の不気味さ。
おじさんはもう年なので、両作とも読み終わって疲れ果てましたが、その疲労感がまったく不快でないところが、さすが力のある作家は違うな、と汗をぬぐっているところです。受賞者の会見も、今村さんの躍動感と、米澤さんの真摯さ、両極で表われていて面白かったなあ。
○
今回から、事前の文学賞メッタ斬り!予想がなくなってしまい、ネットをとりまく直木賞環境も変化しています。お祭りといえばお祭りなんでしょうけど、別にひとりでいたって、候補作の発表から、全作の読書、候補者たちの動向・言動、受賞発表、記者会見、と1か月楽しめてしまうのが、直木賞の魅力です。そしてまた、この楽しさに触れるのに、半年も待たなきゃいけないのか、と思うと、すでにちょっと憂うつです。
今回の発表時刻は、以下のとおりでした。
- ニコニコ生放送……芥:18時24分(前期比+4分) 直:18時04分(前期比-28分)
芥川賞より直木賞のほうが20分もまえに決まり、会見場の到着順も直木賞のほうが先。受賞者会見を直木賞から行う、という相当レアなものを見ることができて、満足しない直木賞ファンなどいるのでしょうか。
まったく、ウンザリした気分になった、とか言っていたの誰だよ、って感じですね。明日にはもう、次の本屋大賞の大波がきて、直木賞がもたらす楽しい雰囲気も一気に消されてしまうのかもしれません。じっとコラえて、また6月の候補作発表がくるまで、貝のなかに閉じこもっていたいと思います。
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