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2022年1月16日 (日)

第166回(令和3年/2021年下半期)直木賞候補作の、図書館貸出し予約件数ランキング。

 年も押し詰まった令和3年/2021年12月17日。だれもがクソ忙しい年末の朝に、第166回(令和3年/2021年下半期)直木賞の候補作が発表されました。

 そのとき、人々はどうしたか。おそらく日本人の9割以上が、こうだったはずです。「別に何もしなかった」。正常な感覚だと思います。

 しかし、行動を起こした人も、いくらかは存在しました。たとえば、わざわざ本屋に行って候補作を買った人たち。なかには5冊全部買っちゃう異常者もいたらしいです。まあ、ちょっとおかしな人たちですね。近づかないほうが無難でしょう。

 寒い思いをして出かけなくても、いまならkindleその他、電子書籍があります。長い小説でも重い本でも、ポチポチッと押せばすぐ手に入る。楽チンです。だけど、直木賞なんかにおカネを使っている点では同じです。あまり褒められたものではありません。

 となると、まだしも正常に近い人たちは、どうしたんでしょうか。図書館で候補作を借りる。やはりそういう選択に落ち着きます。

 いやいや、今どき直木賞を気にしているヤツなんか、いないでしょ。……と馬鹿にする人もいるでしょうが、意外に直木賞の影響もゼロではないようです。候補になれば、その効果で貸出し希望者が増え、あっという間に所蔵の全冊がハケてしまい、予約待ちに突入します。10件、50件、100件……。いったい、いつになったら読めるのか。自分の手元にくるころには、とうに直木賞が決まっている。それでもなお、貸出し予約をするぐらいの、淡ーい興味で直木賞に接する人が、日本じゅうにはけっこういるわけです。

 とにかく今の世のなか、マスコミや出版社や書店は、本を買え買えとうるさく宣伝します。正直、直木賞の候補作を買わなきゃいけない義務など、読者には一つもありません。だって、たかだか直木賞ですよ。そんなもんに貴重なカネを払えるかい。と、決然たる態度で図書館を利用する人たちこそ、人間として正常な精神の持ち主だと思います。信用できます。ワタクシも見習いたいです。

 すみません、また前置きが長くなりました。今回、直木賞の候補に選ばれたのは5つ。果たして、現代社会の賢者ともいうべき「図書館で借りて読む」派のグループは、どんな反応を示しているのでしょうか。全国7つの都市の図書館ホームページで、それぞれの所蔵数+予約数を調べてみました。

 札幌市仙台市東京都世田谷区名古屋市大阪市広島市福岡市。そのすべてを足した合計を上から多い順に並べたランキングが、こちらです。

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所蔵数+予約数 札幌 仙台 東京・
世田谷
名古屋 大阪 広島 福岡 合計
『ミカエルの鼓動』 431 407 584 436 490 284 212 2,844
『黒牢城』 231 173 624 318 448 209 209 2,212
『同志少女よ、敵を撃て』 202 164 421 190 299 110 113 1,499
『塞王の楯』 95 106 291 142 307 94 64 1,099
『新しい星』 98 92 234 120 112 44 86 786
(令和4年/2022年1月16日13:00調査)

 以下、蛇足ぎみに少々の感想を添えます。

           ○

『ミカエルの鼓動』(柚月裕子、令和3年/2021年10月・文藝春秋刊):計2,844

 いやあ、もう圧倒的ですね。全国まんべんなく人気を集めていますが、とくに札幌や仙台では2位以下を大きく引き離しています。作品の舞台である北海道、そして作者の地元の東北で、着実に図書館ユーザーの心をつかんでいる様子がびんびん伝わってきます。

 前回(第165回)の直木賞は、やや西にゆかりのある人たちが受賞しました。その反動もありますし、東(というか北)の女王、柚月さんが選ばれれば、北海道・東北は盛り上がるでしょう。それにしても、この凄まじい人気ぶりは、おみそれしました。脱帽です。

『黒牢城』(米澤穂信、令和3年/2021年6月・KADOKAWA刊):計2,212

 ミステリー4冠! 山田風太郎賞受賞!! しかも直木賞の候補になった!!! ということで、ぐんと予約が伸びそうだなと思ったんですが、ちょっと意外。ずいぶんと『ミカエル』に水をあけられています。

 山風賞なんかとったところで何の風も吹かないのは、まあ想像できますけど、ミステリーランキングの威光ってこんなものなのか……。もはや世間では飽きられているんでしょうかね、年末ランキング。

 ただ、東京の世田谷区では『黒牢城』が5作中トップに挙がっています。ワタクシも東京に住んでいますが、大きい本屋に行くと、たしかにこの作品が暴力的なまでに積んであって、やや怖いぐらいです。都心に行けば行くほど、米澤作品を愛し、求めている人が多いのかもしれません。

『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬、令和3年/2021年11月・早川書房刊):計1,499

 地域の偏りがほとんど見られません。おお、さすが海外が舞台の作品だとこうなるのか! というのは完全に当てずっぽうの推測ですけど、ともかくも、バランスよく全国に広まるのは美しいです。

 作者にとっての一作目ですからね、きっと爆発的に人気が出るのはこれからなんでしょう。一発屋で終わらずに、二作目、三作目と続くうちに図書館ユーザーの支持が厚くなっていくことを祈ります。

『塞王の楯』(今村翔吾、令和3年/2021年10月・集英社刊):計1,099

 どの地域でもおおよそ4番目の順位です。なのに大阪だけが人気が高くて第3位。これぞ地の利、と言うほかありません。

 これから先、今村さんがどこかさびれた図書館に頼まれて、図書館長でもやったりしたら、がぜん話題にもなるでしょうし、いまよりもっと人気が出そうです。まあ、やらないでしょうけど。

『新しい星』(彩瀬まる、令和3年/2021年11月・文藝春秋刊):計786

 今回の5作(5人の作家)の並びを見て、どう考えても予約数がいちばん少なそうだな。と誰もが思う作品が、やっぱりいちばん少ない、という結果になりました。順当です。

 そして、こういう作品や作家にしれっと賞を贈るのが、けっきょく直木賞の順当な姿でもあるんじゃないか。……と、ひそかに期待しています。ええい、最後尾から一気にまくったれ!

           ○

 1月19日(水)、直木賞の選考結果が出ます。おっ、面白そうな作品だな、と思ったらそれから買うのもいいですし、予約待ち覚悟で図書館に行くのも、全然アリでしょう。

 ただ、いちばんのおススメは、直木賞みたいな些細な業界行事に惑わされないことです。要するに、別に何もしない。ほとんどの日本人が実行できています。ああ、早くワタクシも、そういう普通の人間になりたい。予約待ちも苦にせず、「読む機会がめぐってくれば読むけど、あわてて飛びついたりしない」という図書館ユーザーたちには、本気で頭が下がります。

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