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2020年7月15日 (水)

第163回直木賞(令和2年/2020年上半期)決定の夜に

 この社会状況のなかで、よくまあ選考会やったなあ。……っていうのが、正直な感想です。「何人かの中年および高齢者が、一か所に集まって議論する」会合をひらくことが、いま以上に難しくなる状況が今後訪れないことを、切に祈ります。

 第163回(令和2年/2020年上半期)の直木賞の選考会が、真っ昼間の午後2時からひらかれ、午後4時すぎに結果が発表されました。受賞作はご存じのとおりです。

 ……まあ、ご存じのとおり、と言ったって、日本国民のほぼ大半にとっては、べつにどうでもいいことでしょう。おおよその回は、次から次に押し寄せるニュースの洪水に流されて、パッと大衆のまえに現われるのは一瞬のこと。選考会とか受賞会見とか、はっきり言えば、それで十分といえば十分な催しです。

 今日も含めて選考会のまえに、かずかずの受賞予想が世に出ましたが、単に予想して終わってしまっているものは、急速に色褪せていきます。さびしくも悲しいですけど、それがこの社会であり、人間の営みなのかもしれません。

 ワタクシも年をとったせいか記憶力が薄れてきましたので、今回直木賞の候補になった5つの作品について、おそらく急速に忘れていくものと思います。さびしい。そして悲しい。しかし、5人の人が書いた5つの小説を読み、直木賞はどれがとるんだろう、どれがとってもいいなあ、とワクワクしながら過ごしたこの1か月があったのは、事実です。すべての候補者に対する感謝のことばを書き残しておくことで、この1か月間の幸せな時間を、しっかり刻んでおきたいと思います。

 遠田潤子さんの作品って、なんだかんだ言っても一種の〈品〉があるのが魅力的です。『銀花の蔵』はその品のよさが、よりいっそう積み重なっていて、これからの遠田作品はますますスゴいレベルに上がっていくんだろうな、とうれしくなりました。直木賞ですか。まあ、これまで「○○のことを落とした文学賞」ということで(も)有名な賞ですから、そのうち「アノ遠田潤子を落とした文学賞」として直木賞が語られるようになるかもしれません。いや、これからまだまだ受賞のチャンスがくるかもしれないし、未来のことはわかりません。遠田さん、ぜひ末永いお付き合いのほどを。

 そういえば、今村翔吾さんって、まだ今回が直木賞候補2度目だとか何だとか。もう5~6回ぐらい候補になっているかと錯覚しました。そのぐらいの貫禄が、『じんかん』の迫力あふれる筆致から伝わってきて、すえ恐ろしいと言いますか、いまも十分恐ろしいと言いますか、その作家活動すべてに圧倒されてしまいます。直木賞ですか。まあ、これまで「○○のことを落とした文学賞」ということで(も)有名な……って、テンドン繰り返している場合じゃありませんね。次の機会には、やってくれることでしょう。やっちまってください。飛んで暴れて、直木賞なんざ斬りきざんでやってください。

 『若冲』『火定』『落花』ときて、『稚児桜』。淡交社なのも驚きましたけど、澤田瞳子さんの4度目の直木賞との交差が、こういう作品集になったことにも驚きました。コッテコテで厚塗りの、ぎっちり内容テンコモリな長編小説だけが、サワダトウコの本領ではないんだ! というところを示された気がします。いずれにしても、いままでにないこういう選考日を、直木賞の候補者として体験できた貴重なおひとりとして、きっと蓄えられたものもあったはずです。いつか澤田さんが「私の体験した直木賞エピソード」として、堂々と語れる日が訪れることを願いつつ。またお会いしましょう。

 ああ岩手に行ってみたいな。と、この時期に思わせてくれた伊吹有喜さんは、果たして天使なのか悪魔なのか。……天使に決まっているんでしょうが、『雲を紡ぐ』の見事なエンターテイメント小説感! 直木賞というのはダークサイドを好む、ダークサイドな賞でもあるので、きっと選評などではダークサイドに落ちた人たちから、いろいろ書かれるんでしょうけど、随所に現われる明るさこそが伊吹作品の美点です。おそらくそんなところが読者に愛されるゆえんだと思いますし、ワタクシも、その明るさが大好きです。これからもまぶしい光で世界を照らせ、イブキユキ!

          ○

 このブログは平成19年/2007年5月から書いています。直木賞でいうと、第138回(平成19年/2007年・上半期)が決まる少しまえです。以来、直木賞が決まるたびに「~決定の夜に」というエントリーを書いていますが、馳星周さんが候補になったうちの4回分は、それより以前のことです。「馳星周、『不夜城』で直木賞候補になる」とか、もうはっきり言って歴史上の出来事です。

 正直なところ、馳さんが直木賞を受賞する光景なんて、絶対に訪れないものだとあきらめていました。それが訪れてしまうんですから、長年にわたる直木賞の世界の混乱・混線ぶりには唖然としますけど、おそらく文藝春秋の執念の実った成果、なんでしょう。よかったです。

 何がよかったって、受賞記者会見がZOOMを介したリモート会見で行われたおかげで、会見中にグラスを傾けながら受け応えをする受賞者、というまず平時では見られないものを目撃できたことです。馳さん、きっと暴飲でならしてきた方だとは思いますが、イイ年なんですから、飲みすぎにはくれぐれもお気をつけください。

          ○

 14時から選考会がはじまって、まだ日のある16時すぎに結果が出る、というのはやはり新鮮でした。今回は、直木賞のほうがスムーズな選考だったんでしょうか、第150回(平成25年/2013年・下半期)以来、6年半ぶりに直木賞のほうが芥川賞より先に決定・発表された、というのも珍事です。もう新鮮なことだらけです。

 今回の発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:16時18分(前期比+27分) 直:16時04分(前期比-17分)

 いつも直木賞の日の夜に書くブログには、最後に、あと半年が待ち遠しい、みたいなフレーズを入れています。そりゃそうです。ワタクシにとって直木賞は生活の一部、これがかならずやってくる、とわかっているからつらい人生にも耐えられます。しかし、これからの半年を過ぎた次回、第164回(令和2年/2020年下半期)がほんとうにこれまでどおり開催されるのか、心配です。ガタガタ震えながら、じっとして待ちたいと思います。

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