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2020年7月12日 (日)

第163回直木賞を語るはずの「文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」の予想。

 毎回恒例のラジオ日本「文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」は、令和2年/2020年7月20日(月)25時~26時に放送予定です。今回もまた、あまりに楽しみなので、以下その放送内容を予想してみます。――

          ~(タイトルコール・BGM)~

植●第163回直木賞の選考会が7月15日午後2時より、築地・新喜楽で開催。授賞作が決定しました。ということでラジオ日本の名物企画「文学賞メッタ斬り!」では、例によってどの作家が直木賞をとるのか、書評家でSF翻訳家の大森望さん、そして書評家の豊崎由美さんに先週ずばり予想していただきました。果たして予想結果は当たっているのか。

 それでは「文学賞メッタ斬り!」の介錯人のこのお二人。ご紹介しましょう。大森望さん、豊崎由美さん。こんばんは。

大・豊●こんばんは。

植●それではさっそく、第163回直木賞を、あらためて「文学賞メッタ斬り!」的ににぎにぎしく発表させていただきます。

          ~(略)~

豊●結果についてはですね、何も申し上げることがございません。おめでとうございます。以上。っていう感じですね。

 もう直木賞はいいから、今日は芥川賞のことだけでいいんじゃですか。

大●今回はやっぱり受賞者の会見がいちばんの見どころでしたね。いつもは記者とか出版社の編集者とかぎっしり入っている会見場が、この情勢を考えて、みんなソーシャルディスタンスで。

豊●会見とか、これからもリモートでやればいいんですよ。候補者は地方に住んでいる人もけっこういるのに、わざわざ全員、東京に呼んで待機させて、何サマだって感じですよ。

大●いやいや、あれは強制じゃないですから。来られない人は、無理して来なくてもいい、っていうスタンスなんですけど、やっぱり会見に顔を出して生の声でしゃべることで、受賞作の売れ行きもどうハネるかわからないですから、版元としてはできるなら会見に出ていただきたい、っていうことでしょう。

豊●それで出たくもない会見に出て、ろくに候補作を読んでない記者から、くだらない質問ばかりされて。ほんと、かわいそうですよ。

大●ええと、今回の選考経過はですね、今回は北方謙三さんが選考会のあとに会見したんですけど、やっぱりまずは、前代未聞のコロナ禍のなかでの選考になった、それについて語ったと。こんな状況、こんな時代からこそプライベートな空間でも社会とか時代とかとつながることのできる小説の意義について語ったと。

豊●ずっと「夜の街」のイメージを背負ってこられた北方センセイが、ここで率先して感染防止を訴えてくださって。素晴らしいですね。

大●馳星周さんの『少年と犬』については、プロの作家としてのまぎれもない高い技術には、みんな選考委員の人たちも異論は出なかった、と。個人的にはもう少し早い時期に差し上げる機会があったと思っているが、それができなかったことは、ひとりの選考委員として素直にお詫びをしたい。……と言って頭を下げたらしいですね。

豊●先週も話が出ましたけど、5年まえでしたっけ、『アンタッチャブル』で受賞できなかったのは、ほんとうに傍目で見ても、ひどかったですからね。いまさら謝られても仕方ないでしょうけど。

大●幅の広い作家であることは十分確認できた、馳さんはこれからもっと大きな作家になれる人だと信じている……っていうのも、いまさら言う言葉かと。とっくのとうにほとんどの人が、馳さんが幅の広い作風でやっていける人だということは、気づいていたと思いますけど。

豊●その作家にとって、これぞっ! っていう作品でとらせてあげればいいのにね。……

          ~(略)~

大●それから北方さんは、最終決選に残った今村翔吾さんの『じんかん』も、かなり最後まで粘ったと。力のある書き手で、次の世代のエンターテイメントの小説界を担っていく人材だと。しかし一部の選考委員のなかには、あまりにも主人公の九兵衛……松永久秀ですね、彼が謙虚で、ものわかりがよくて、民衆の幸せのことを考えていて、いい人すぎるのが、いかがなものか。歴史のひとつの解釈といえば解釈なんでしょうけど、あまりにヒーローを美しく描きすぎなのではないかという反対意見がありました、……ということです。

豊●魅力的な悪をどう表現するか、というところで苦労されてきたセンセイ方にとっては許せなかったんでしょうね。でも、それを言ってしまうと、伊吹さんのとか、もう救われないじゃないですか。小説全体として目指していることを、全部まるごと否定されちゃったら、かわいそうですよね。

大●『じんかん』に関しては、前半部分をメインにして、もう少しボリュームを削ぎ落したほうがいい、という声もあったと。それはそれは難しいところだと思いますけど。生涯がもう決まっている歴史上の人物で、史料に出てくる後半の部分こそが見せどころ、という部分もありますからね。

          ~(略)~

大●えー、その伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』ですが、これは北方さんの講評では、残念ながらあまり強く推す人がいなかったと。ひとりの若者の成長物語を悩みと希望をまじえて描いたところは過不足ないとは思うが、青春時代の葛藤というのはもっと泥臭く、時に汚くもあるものではないか、と……。

 それとやっぱり、前回の伊吹さんの作品と同様、NHKの朝ドラのようなドラマを思わせる人物造形と展開に、文学作品として接したときには違和感をぬぐえなかった、と。

豊●いいと思いますよ、これで岩手の方たちがふるさとのいいところを全国にアピールできるし、読んだ人だって行きたくなる。Go To キャンペーンとか言って巨額の予算を使って、バカみたいな政策やるよりは、小説を読んでその土地の魅力を感じて、岩手とか盛岡に行きましょう、のほうが。

          ~(略)~

大●澤田瞳子さんの『能楽ものがたり 稚児桜』は、作者の文章に漂う気品、人間の業を描こうとする姿勢は、どの委員も認めてはいたものの、ぜひ我々を圧倒するような力のこもった長篇でとっていただきたい、という意見が大勢を占めた、と。これは文春の予選委員会に対する注文ですかね。こういう小品を集めたような作品集で、候補に挙げてやるなよ、という。

豊●私は、ほんとに歴史モノとか時代モノの、いい読者じゃないので、よくわからないんですよ。われわれの琴線になんか触れなくていいから、とにかく選考委員のセンセイ方の何人かの琴線に触れてほしい! って私はいつも祈っているんですけど。澤田さんももう候補回数、けっこう行ってますよね。

大●4回目です。

豊●もう何を書いても直木賞はとらせてもらえないんだな、みたいな作家もいるじゃないですか。湊さんみたいに。そうじゃなくて澤田さんは脈はあると思うんですよ。でも、ほら、まえに奈良時代のパンデミックを書いた『火定』でも文句を言われて、今回みたいな作品集でも文句を言われて。ちゃんと選評で、どこがどうイケなかったのか書いてあげればいいと思うんですけどね。

          ~(略)~

大●遠田潤子さんの『銀花の蔵』はですね、浅田次郎さんかな、ずいぶん熱心に推す委員がいたみたいですね。数世代にわたる家族というものを描きながら、人と人とのつながりを真摯な視線で描き切って、実力は申し分がない、と。しかしいっぽうでは、ミステリーというか、まったくミステリーじゃないんですけど、最初に蔵のなかから白骨が掘り出されて、終盤に明らかになるその真相が、いまいち胸に落ちてこないというか、弱いんじゃないか、という反対意見が……。

豊●そうですか? そんなに気になるような展開ではないと思いますけどね。伏線もしっかり張ってあって、その、一般的に普通とされる家族ではない、だけど間違いなく家族の物語、という作品を象徴するような真相なわけですから、そこにケチをつけるほうがおかしいと思いますけど。

大●あとは、そういう謎めいた設定を施さなくても、骨太な家族小説として書いてほしかった、ということじゃないですか。直木賞には、そういう枝葉のような要素は要らないんだ、みたいな。

豊●偉そうなんですよね。じゃあ、あんたたちは遠田さん以上の小説をどれだけ書いているんだ、っていう。

          ~(略)~

植●最後に、#metta163 のTwitterでの予想企画ですが、的中者が6名いらっしゃいました。おめでとうございます。6名の方にはラジオ日本より、すてきな記念品を贈らせていただきます。

大●前回はね、すごく豪華な記念品だったと思うんですが、今回は……。

植●えー、諸般の事情により、綿密な会議を重ねた結果、今回の記念品が決定した、ということでございますので、どうぞ届くのを楽しみにしていただけたらと思います。次回もよろしくお願いいたします。来年の1月は、どんな状況になっているんでしょうか。次回も、大森さん、豊崎さん、よろしくお願いします。ありがとうございました。

大・豊●ありがとうございました。

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