« かたくなに男性のことにしか触れない、第161回直木賞の展望記事。 | トップページ | 豊田穣、イラク・バグダッドのホテルで、直木賞の受賞を知る。 »

2019年7月18日 (木)

第161回直木賞(平成31年・令和1年/2019年上半期)決定の夜に

 令和の時代は、女性が切りひらく。キラりん。……みたいな、文芸以外の世界での得体の知れないプロパガンダに悪用されることがなければいいなあと思います。令和1年/2019年7月17日(水)、第161回直木賞が決まりました。

 いったい今の時代、直木賞がどれだけ注目されているというのか。つねづね疑問ではあるんですが、意外に注目度は残っているようで、面白いというべきか悲しいというべきか、とりあえず報道のされ方や、一般的なミコシの担がれ方は、少なくともうちのサイトが始まった19年前と比べても、さほど変わっていません。むしろ、その熱は高まっているようにも思います。

 まあ、そんなこと、どうでもいい話といえばどうでもいい話です。下手な現状分析などはやめておきます。何といっても第161回。161回目の新たな扉。直木賞はいつだって新しいんですが、それは受賞作だけが構築する新しさではありません。選ばれなかったけど、選ばれても何の問題もなかった候補作の数々。候補作なくして、絶対に新たな直木賞はあり得ません。

 まずは窪美澄さんの『トリニティ』です。読みましたか? 60年代以降現在までの、出版・編集業に携わってきた人たちの一部から「いや、それはそうじゃない」という感想が出ることは、最初からわかっているのに、わざわざこれを題材にする勇気。いや。マガジンハウスや雑誌、その時代を知る内輪な人たちの違和感のほうに向くのではなく、全身でいまの一般読者のほうに目を向けた窪さんの意気を、ワタクシはここから感じました。いいじゃないですか、実在の事象をモデルにした小説。ぐだぐだ言う人の多い直木賞はとれないかもしれないけど、ワタクシはもっと読みたいです。

 候補5度目ともなってくると、しがないうちのブログが柚木麻子さんに対して言いたいことなど、もはや何もありません。ゼロです。なので、たぶん以前書いたのと同じようなことを繰り返します。柚木さんにしか書けないこの『マジカルグランマ』の面白さを評価できなかったのは、柚木さんのせいではなく、100パー直木賞の責任です。そして直木賞は非力なものですから、自分の責任をとることができません。そんな直木賞、ぶち壊しちゃっていいと思いますので、どうかそんな小説を次々と書いてもらえると、こちらも溜飲が下がります。

 『若冲』『火定』とつづいて、今度が『落花』。新たな歴史小説の創造に邁進する澤田瞳子さんに、いったいいつ直木賞は授賞の報をもたらすつもりなんでしょう。そんなことは誰にもわかりませんが、澤田さんの作家生活はまだまだこれからが長丁場なはずです。チャンスはいくらでもめぐってきます。候補になるたび、いちいち騒がれて、たぶん面倒くさいことかと推察しますけど、どうか直木賞のことを見捨てないで、笑ってお付き合いいただけることを願います。またお会いしましょう。

 正直なところ申し上げますと、朝倉かすみさんが直木賞の候補に選ばれたことで、ワタクシの満足はピークに達しました。待ってましたよ朝倉さん。この日がくることをずーっと前から。『平場の月』はいま以上に、もっともっと多くの読者に届け、と願わずにはいられない小説ですが、今回直木賞がその後押しをすることができなかったのは、直木賞ファンとして悲しいことでした。いつか朝倉さんの小説が受賞することで満足がピークに達するような未来を、これから心待ちにしたいと思います。

 直木賞をとることと、直木賞の候補に挙がりつづけること、どちらが難しいか。……なかなか比較しづらい問題ですけど、原田マハさんが今度もまた、美術と歴史を題材にした『美しき愚かものたちのタブロー』で候補になった、この偉業を尊びたいです。美術に関する深すぎる興味から、これだけの作品を生み出し続ける驚異の筆力。汲めども汲めども尽きぬ、美術界の物語。直木賞の選考委員の側が折れるまで、このまま直木賞に魂のこもった作品を、送り込みつづけてください。

          ○

 アノ大島真寿美さんが、人形浄瑠璃の歴史物を書くんだって!? なかなかの出オチ感がぬぐえないところ、あれっ、大島さんって歴史小説作家だったっけ、と勘違いしてしまうぐらいに、なめらかで読む手が止まらなくなる『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の筆運び。一読者としてご相伴に預からせていただきました。ありがとうございました。

 受賞会見では「これまで文学賞に恵まれてこなかったと思いますが、どうお感じになっていましたか」うんぬんという、直木賞のすべての管理人が放ってもおかしくないような素人っぽい質問に、キレずに対応している姿が凛としていて、さらに感嘆。直木賞をとったら何か変わらなければいけない、なんて法もなく、これまでどおりに書いていかれるような信頼感が滲み出ていました。まったくです。賞のことなど考えずに、当然、これからも書いていってくださる方でしょう。

          ○

 前回から選考会が1時間早まって始まることになり、直木賞も18時台には発表されることになりました。その分、夜を長く過ごせる。個人的にはありがたいかぎりです。……とか言いながらけっきょく、深夜までネットサーフィンで直木賞関連記事や発言を追うワタクシの習慣に変わりはありません。つくづくファン心理というのは恐ろしいものだな、と思います。

 今回の発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:18時07分(前期比+7分) 直:18時40分(前期比+19分)

 第151回からえんえんとつづく1作単独受賞。ないしは第137回からえんえんとつづく受賞アリの回。いずれも記録更新中です。心はもちろん、もはや来年1月に決まる第162回(令和1年/2019年下半期)直木賞へ。生きているかぎり、直木賞の面白さはきっと絶えることなくつづきそうです。なるべく長生きしたいなあ、と思いながら、これから半年、汗水流して働きたいと思います。

|

« かたくなに男性のことにしか触れない、第161回直木賞の展望記事。 | トップページ | 豊田穣、イラク・バグダッドのホテルで、直木賞の受賞を知る。 »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« かたくなに男性のことにしか触れない、第161回直木賞の展望記事。 | トップページ | 豊田穣、イラク・バグダッドのホテルで、直木賞の受賞を知る。 »