第13期のテーマは「海外」。直木賞には似合わない(かもしれない)、国際的な一面に光を当てます。
沈みゆく巨艦、と直木賞が言われはじめて、もう何年たつのでしょうか。もしかして言われていないかもしれませんが、出版市場の規模縮小は止まりません。そんななかで「昔ながらの古くさい仕組みでよくやっているよ」と今後も言われつづけることがほぼ決定している、歴史的な遺物、直木三十五賞。この賞があまりに面白いせいで、ブログを書くのがやめられず、この5月で13年目を迎えました。
13年間、毎週直木賞のことを考えていると、次はどういう切り口でブログを書こうかと、いろいろ頭に浮かんできます。いっぽうで、直木賞に関わった受賞者や候補者、その人たちの作品のことをもっと数多く取り上げていきたい、という思いもあります。なるべくこれまで触れたことのある作家は避け、しかも1年間50週ぐらいは続くようなテーマ。何かないだろうか。……こんな何ひとつ社会の役に立たない無益なことを考える時間が、だいたいいちばん楽しいです。
というところで、令和1年/2019年6月から始める13年目のテーマは、「直木賞、海を越える」というものに決めました。
直木賞は日本で刊行された、日本語で書かれた小説のために運営されている日本の文学賞です。しかし80年以上もやっていれば、日本以外の国籍の人が候補になったり、海外に縁の深い人が注目されたり、海を越えた土地が舞台となった小説が議論されたり、日本という国のなかの話にとどまらないエピソードが山のように積み重なっていきます。
しかし、どう見積もってもこの賞を「国際的な賞」とは言いがたいです。日本人が登場しない候補作に対して、それを理由に批判的な論評をくだす選考委員がいる。というような直木賞を構成する微々たる性質だけをことさら大仰に取り出して、何だかんだと直木賞を批判する人がいるくらいです。そういう様子を眺めていると、よほど直木賞が気に食わない人が、この世には一定数いるんだな、ということがわかりますが、それと同時に、直木賞のなかにだって海外のことや国際事情、日本以外の土地や人びとを尊ぶ伝統が流れているはずなんだけど……と調べたくなる衝動を抑えることができません。
相変らず物好きにもほどがあるようなテーマ設定ですけど、来年は2020年、多少はわれわれの日常生活にも海外の風が吹くのではないか、と推測される頃合いです。直木賞を通して海外を感じるのも悪くないかもしれません。悪いかもしれません。よくわかりませんが、これでやろうと決めてしまったからには愚図愚図いわず、直木賞と海外との関連性をあれこれ考えて、ひきつづき楽しんでいきたいと思います。
まず第1週目は、自身の海外留学の経験をきっかけに小説を職業として書く意識が芽生え、いまなお海を越えた作品をぞくぞくと生み出している、直木賞受賞者の話から始めます。
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