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2019年1月17日 (木)

第160回直木賞(平成30年/2018年下半期)決定の夜に

 平成31年/2019年1月16日、横綱・稀勢の里が引退会見を行いました。ひとつの時代が終わったと見るか。引退する力士という存在はそれほど珍しくないのだから、恒例の日常風景と見るか。どう感じるかは人それぞれで、べつに他人の感覚に合わせる必要などありません。

 平成31年/2019年1月16日、第160回直木賞(平成30年/2018年下半期)も決まりました。これなど、まさしく恒例の日常風景、6か月に1回、定期的に開催されています。話題になっているのかいないのか。これもまたもちろん、どう感じるかは人それぞれで、べつに他人の感覚に合わせる必要などありません。

 個人的な感覚で、今回の直木賞を思い返すと、とにかく熱い。重い。長い。という印象ばかりがひしひしと身体にのしかかってきます。どの候補作が受賞しても、そんな直木賞を象徴しているかのようで、直木賞ファンとしては何一つ問題なく楽しみましたが、せっかくだったら平成最後のサプライズ、候補5つ全部受賞! とかやってくれたら最高だったのに、と思います。受賞作ばかりがこの賞を形成しているわけじゃないんだな。そんな事実を再確認させてくれた回だったとも思います。

 何をさておいても、真っ先に取り上げたいのは、そりゃあ、あなたですよ深緑野分さん。『ベルリンは晴れているか』に、このままどの文学賞も賞を贈らない、ということにでもなったら、何だかこれからワタクシ自身、心に傷が残ってしまいそうで、何ちゅう判断をしてくれたんだ直木賞、と悲しくなりますが、終わった賞は終わったことです。直木賞の候補がきっかけで、こういう小説と出会うことができたのは、掛け値なし、大げさでなく幸せでした。きっと直木賞に悪気はありません。どうか深緑さんも直木賞のことを嫌いにならずにいてくださると、うれしいです。

 『熱帯』を読み終わって、不思議な感覚になりました。そして思いました。どうやらこの世には森見登美彦という人がいるそうで、サイン会もやっているし、インタビューも受けている。だけど、あれは誰かが、森見登美彦が実在しているという状況を創造したフィクションで、直木賞の受賞会見のときに、誰かからその仕組みが明かされるのではないか、と。けっきょく今回も明かされはしませんでしたが、読者の心のなかに森見登美彦はいます。謎は、いつまでも謎のままです。

 ところで、やっぱり直木賞選考会での、歴史小説に対するハードルの高さは尋常じゃないな、と思わされたのが、垣根涼介さんの『信長の原理』が受賞できなかったことです。これでも受賞圏じゃないのか。どんだけ歴史モノに厳しいんだ、と叫びたくなります。たぶん選考委員の方たちのなかには、一生解けそうもない「直木賞にふさわしい歴史小説」像があるのでしょう。そういう他人の感覚など気にせず、これからも垣根さんの歴史モノ、読みつづけていきたいと思います。

 『童の神』、正直なところ面白かったです。現代的なテーマを下敷きに、説話の世界からここまで肉付けして、突き抜けた物語をつくるという今村翔吾さんのタダ者じゃなさが、痛いほど伝わってきました。デビューまもない勢いのある新人作家を、なぜか取りこぼしてしまう直木賞。ああ、またか。とガッカリしましたが、とりあえず文学賞の当落はさておいて、今村さんの前途には明るさしか見えません。時代小説の新時代への扉、開けちゃってください。

          ○

 なんだかんだと言ってきましたが、直木賞は受賞作だけが飛び抜けているわけじゃない。だけど受賞作だけが他に劣るわけでもありません。真藤順丈さん『宝島』の、最初のページからぐっと読者を引き込んでいく吸引力の強さったら、まったく恐ろしいものがあります。帰ってこられなくなりそうです。

 「他の賞をすでにとった作品だから」とか、「沖縄にゆかりのない人に沖縄のことがわかるのか」とか、そういうくだらない意見が通らなくてよかったと思いますし、何より「候補を重ねたほうが直木賞は有利」という妙な慣習をすっぱりと排したのは、直木賞やるじゃん、と思いました。最近の直木賞・芥川賞は話題づくりがひどすぎて読む気もしない、と言っている人は、こういう受賞作も読んだほうがいいんじゃないかなと思います。

          ○

 これまでに比べて今回は1時間早く、選考会が16時スタートに変わりました。ニコ生でも紹介されていましたが、選考のときは選考に専念して終わってから食事をとる、という流れにするために1時間早めたのだとか何だとか。じゃあ今までは何だったんだ、という気もしますが、ともかく選考会が終わるのも、結果が発表されるのも、だいたい1時間ほど前倒し。これからは17時台後半から18時台に発表されることになりそうです。

 今回の発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:18時00分(前期比+2分) 直:18時21分(前期比-15分)

 第160回の直木賞は2作受賞じゃなかったんですね。残念無念。いったいいつになったら、2作受賞の回がくるのか。そして「受賞なし」の回がくるのか。注目は次の第161回(2019年上半期)へ持ち越しです。誰かが話題にするのから注目するのではない。自分が知りたいと思うから注目するのだ。と、自分に言い聞かせて、きたる6か月も、直木賞のことばかりブログに書いていこうと決意をあらたにしました。

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