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2019年1月13日 (日)

0と出るか2と出るか、いわゆるひとつの直木賞キリ番回。

 もうじき決まる第160回(平成30年/2018年・下半期)の直木賞は、平成最後なんだそうです。

 だから何なんでしょうか。

 ……という感想しか沸いてこないのが、直木賞にしか興味のない人間の哀しいところですが、平成の直木賞というと、いきなり星川清司さんに嘘をつかれ、横山秀夫さんに嫌われ、伊坂幸太郎さんに見放され、本屋大賞にオイシイところを持っていかれ、受賞作ベストセラートップ1の座を芥川賞から奪うこともできなかった、さんざんな時代でした。新しい時代には、多くの読者から愛され、慕われ、感心されるような文学賞に生まれ変われるよう、心から期待しています。

           ○

 と、ふざけたことを言っていても始まりません。だいたい選考会直前の、うちのブログのエントリーは、ふざけたことしか書かないんですが、今回は久しぶりに、まじめに振り返ってみます。たまたま「直木賞のすべて」のイベントが今日1月13日に実施されるために、そんなに長く書いているひまがない、という事情もあります。

 それはともかく、平成のはじめ頃の直木賞は、快調に推移していました。よく売れる人から、売れゆきはいまいちな地道な実力者まで、次々とバランスよく選び、昭和の終盤の第93回から第111回(平成6年/1994年・上半期)、連続9年半にわたって賞を贈ります。生まれた受賞者は、しめて31名。

 半年に一度も、そんな大傑作が生まれるわけがないことくらい、誰だって知っています。それなのに、何でこのペースで日本文学振興会=文藝春秋がやり続けているかというと、少しでも多くの作家に光を当てて、もっともっとあふれるぐらいに人材を増やしたいからで、しかも一度に二つもの賞を継続してきました。もくろみは十分に達成されてきた、と認めないわけにはいきません。

 ところが、平成後半の直木賞は、そのペースが確実に鈍ります。

 第137回(平成19年/2007年・上半期)に松井今朝子さんの受賞から始まった「連続授賞記録」というものがあり、半年前の第159回(平成30年/2018年・上半期)まで23回、11年半ものあいだ、一回も途切れずに授賞をつづけてきました。もちろん直木賞はじまって以来、いちばんの長さです。

 しかし、その間、誕生した受賞者は28名。さきに紹介した「9年半で31名」のころに比べると明らかに減っています。少数精鋭、といえば聞こえがいいですが、別に意識しないでそうなってしまったんでしょう。「受賞させたい人や作品が2つもなくなった」傾向が顕著になったのが、平成後半の直木賞の特徴です。

 どうして第160回をまえに、こんなハナシをダラダラしてきたかと言いますと、10で割り切れるいわゆる「キリ番の回」というのは、2作授賞が起こやすい巡り合わせをはらんでいるからです。とくにこの賞が、宣伝・PRの性格を担わされた昭和20年代以後は、いっそう歴然としています。

           ○

 改めて、10回ごとの直木賞受賞作リストを挙げておきます。

 

第10回 0作 (受賞作なし)
第20回 0作 (受賞作なし)
第30回 0作 (受賞作なし)
第40回 2作 ■城山三郎「総会屋錦城」 ■多岐川恭『落ちる』(「落ちる」「ある脅迫」「笑う男」)
第50回 2作 ■安藤鶴夫『巷談本牧亭』 ■和田芳恵『塵の中』
第60回 2作 ■陳舜臣「青玉獅子香炉」 ■早乙女貢『僑人の檻』
第70回 0作 (受賞作なし)
第80回 2作 ■宮尾登美子『一絃の琴』 ■有明夏夫『大浪花諸人往来』
第90回 2作 ■神吉拓郎『私生活』 ■高橋治「秘伝」
第100回 2作 ■藤堂志津子「熟れてゆく夏」 ■杉本章子『東京新大橋雨中図』
第110回 2作 ■佐藤雅美『恵比寿屋喜兵衛手控え』 ■大沢在昌『新宿鮫 無間人形』
第120回 1作 ■宮部みゆき『理由』
第130回 2作 ■江國香織『号泣する準備はできていた』 ■京極夏彦『後巷説百物語』
第140回 2作 ■天童荒太『悼む人』 ■山本兼一『利休にたずねよ』
第150回 2作 ■朝井まかて『恋歌』 ■姫野カオルコ『昭和の犬』

 

 そして第150回が終わってからは、2作授賞がいっさい出なくなってしまう残念な5年間が訪れます。つまり、いまです。

 こうやって10回ごとの結果を並べてみると、「2作授賞」の歴史というより、「2作か0か」の歴史、という感じですけど、イチかバチかのキリ番回。巡り合わせだけで言うなら、10年以上きていない「0=受賞作なし」がそろそろあってもおかしくない……と予想するのが自然かもしれません。

 しかし人間は、たとえ現実がどうなろうとも、多少なりとも明るい未来を思い描くほうが、精神衛生上なごみます。ここで0は酷です。だったら2作授賞、ということで平成最後を飾るのが美しいよなあ、と夢を見ておきたいと思います。

 受賞してもおかしくない候補作が、今回は4つも5つも揃っていますし。『宝島』×『ベルリン』か。『信長』と『宝島』、『信長』と『ベルリン』、という組み合わせもあるし、何なら思い切って『熱帯』×『信長』というのも面白いんじゃないか。と妄想は広がるばかりです。

 どうせあと3日です。現実はいつもツラいです。楽しい夢を存分に見させてください。

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コメント

大沢オフィスの3人はちょうど10回おきに獲っているのですね。
……今回の受賞予想の足しにはならなさそうですが。

投稿: 毒太 | 2019年1月14日 (月) 16時49分

毒太さん、

ごぶさたしてます!そしてコメント、ありがとうございます。

たしかに。大沢オフィスもそうですねー。
偶然、たまたま、期せずして、……という直木賞の巡り合わせを見ると、
面白くてニヤニヤしてしまいます。

投稿: P.L.B. | 2019年1月15日 (火) 02時15分

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