« 第159回直木賞で話題となっている参考文献記載問題。 | トップページ | 昭和62年/1987年・婦女暴行致傷罪で起訴された同棲相手のことを、記者会見で聞かれた山田詠美。 »

2018年7月19日 (木)

第159回直木賞(平成30年/2018年上半期)決定の夜に

 決まってしまいます。気温が何度になろうが、誰の訃報が流れようが、政治の状況がどうだろうが、やはり直木賞は決まってしまいます。7月18日(水)。第159回(平成30年/2018年上半期)の直木賞が決まりました。

 ああ、それにしても、目を閉じると、いつも思い出すのは、受賞しなかった候補作のことばかり。

 ……と、これは、ワタクシがひねくれている、というのも理由のひとつでしょうけど、しかし、それぞれの小説を読んで、受賞作よりも候補作のほうに魅かれる、というのは直木賞を外から見ているわれわれには、きっとよくある伝統的な現象でしょう。

 まずは何といっても今回は、湊かなえさんの『未来』のことに触れないわけにはいきません。端から端まで、〈湊かなえ〉の匂いを存分に充満させた、この熱い、熱すぎる一作。はっきり言って困りました。授賞させる気なら、もっと前に授賞させておけよ、と思いました。作家としての実績は、直木賞向き、だけどこの一作は、あまりにあまりすぎて、選考委員の人たちも苦しんだのではないかと想像します。そして、苦しみのヒストリーはこれからもまだまだ続く。受賞のその日まで。

 苦しみか平穏か、こちらはよくわかりませんが、『宇喜多の楽土』の木下昌輝さんが、すでに直木賞受賞者であっても遜色ない活躍ぶりを見せていることを目にすると、やはり第152回(平成26年/2014年下半期)に『宇喜多の捨て嫁』で受賞させなかったアノ選考は、大失敗だったと思わずにはいられません。その大失敗を、どうにか帳消しにするためには、木下さん自身の力を借りるしかなく、どうか木下さん、今度こそ直木賞にギャフンと言わせてやってください。切に祈ります。

 上田早夕里さんの『破滅の王』のような作品を、高く評価して、最終決選にまで残すことは残すが、受賞圏内には届かない……という、いかにもな直木賞の決断。まったく歯がゆいです。候補になったのもサプライズ、これで受賞していれば、二重三重の輪がかかって最高級のサプライズになったのにな。相変らずの直木賞でごめんなさい。ワタクシが謝っても仕方ないですけど、とりあえず今後とも、直木賞のことをよろしくお願いいたします。

 どうして本城雅人さんの、はじめての直木賞候補作が『傍流の記者』なんだ。と不満に思った人は多いはずです。多いかどうかは知りませんが、少なくともワタクシはそのひとりです。やはり本城さんの記者モノは、どこか影をもった、エリートコースから外れぎみの記者の造型に、抜群の魅力があふれていると思います。これからの、馬力あるお仕事ぶりが楽しみでなりません。

 何の星のめぐりあわせか、窪美澄さんの『じっと手を見る』が、不思議にも直木賞の受賞作になりませんでした。これで早くも「どうしてこの作家が直木賞候補どまりで、受賞者になっていないんだ」グループの仲間入りです。いや、すでに選考委員ぐらいの貫禄がある。そこが恐ろしいです。いつか直木賞の選考委員になって、この賞に文芸の風を送り込んでやってください。

          ○

 『ファーストラヴ』。バランスのとれたエンターテインメント文芸。なんだかんだがありながら、よくぞ、直木賞の受賞の門にまで来てくれた。と、島本理生さんの長い歩みに、オジサンはつい涙をにじませてしまいました。

 ベテランの円熟味。なのに、この先がまだまだ長い30代の若さ。後年、「直木賞はこんな有名人気作家も選んでいる」と紹介記事が書かれる場面では、確実にその名前が挙がるようになるはずの、さらにビッグな作家になってしまうのでしょう。ああ、直木賞を背負って立つ女神よ。

 何はともあれ、島本さんを芥川賞にとられなかったことに、一介の直木賞ファンとして安堵しています。一件落着。

          ○

 今回は、芥川賞の発表から、直木賞まで少し待たされました。ほんの短い人生の、ほんの30、40分程度のことですが、トイレにも行けない緊張感あふれる、それでいて静かなあの時間が、何ともたまりません。絶対に結果が出るとわかっているのに、そして、別に自分のことでもないのに、つい前のめりになってしまう。どうしようもないオタク体質だな、と少し反省しています。

 発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:18時58分(前期比+9分) 直:19時36分(前期比+44分)

 第159回の直木賞の発表は終わってしまったのです。振り返っても、もう過去は戻ってきません。いよいよ(というか、もう始まっている)平成30年/2018年下半期は、第160回の記念(?)回。長い長い半年先を待ちわびながら、膨大に広がる直木賞の歴史の一端を、掘り進んで楽しんでいきたいと思います。新しい直木賞とは、しばしのお別れ。半年後も、元気でいれくれよな、直木賞。

|

« 第159回直木賞で話題となっている参考文献記載問題。 | トップページ | 昭和62年/1987年・婦女暴行致傷罪で起訴された同棲相手のことを、記者会見で聞かれた山田詠美。 »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 第159回直木賞(平成30年/2018年上半期)決定の夜に:

« 第159回直木賞で話題となっている参考文献記載問題。 | トップページ | 昭和62年/1987年・婦女暴行致傷罪で起訴された同棲相手のことを、記者会見で聞かれた山田詠美。 »