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2018年1月17日 (水)

第158回直木賞(平成29年/2017年下半期)決定の夜に

 こんばんは。1月16日(火)は19時あたりから一気に騒ぎが収束して、よく見れば元通り、こじんまりと一部の人だけが注目する、いつもどおりの直木賞の姿に。

 えーっ、これで騒ぎも終わりなのー? と物足りないものもありますが、とりあえず残り香を嗅ぎながら、直木賞を楽しみ尽くしたい、という気分です。

 候補作品5つ。うち受賞作1つ。と、すでにこれしか候補作がなかったのが、いちばん物足りないんですけど、読めば読むほど、もっと候補作を読みたい! という気にさせてくれた今回の候補作の数々。選考会が過ぎてしまえば、ワタクシみたいな一般の読者にとっては、賞をとったとかとらなかったとかは、どうでもよくなります。一冊一冊を読んだときの、あの幸せな読書体験。それを思い返しながら、直木賞なんちゅう、わずらわしい行事を盛り上げてくれた候補作品に、思いをこめて、頭を下げたいと思います。

 そもそもが、藤崎彩織さんが小説を書こうと決心し、忙しい時間の合間を縫って、『ふたご』の発表にまでこぎつけていなければ、今回の直木賞の様相は、まるで違っていた、ということに異論のある人はいないでしょう。「この人には、もっともっと小説を書いてほしい」と、その才能に惚れ込んだ編集者が、何人かいたときに、有名な文学賞の候補に残すことで、作家の背中を押す。というのは、文学賞の伝統的、あるいは正統的な役割です。藤崎さん、次も書いてください、この先ずっと。

 はじめての候補で、しかも短篇集、これでは直木賞ではブが悪い。という観測は、たしかにそうなんでしょうけども、彩瀬まるさんの『くちなし』が、直木賞の候補ラインナップに入った! というだけで、直木賞にキリリと香気が漂った、というのはたしかなことです。大上段に構えた力作とか、パッと目をひく話題作とか、そういう小説でなくても、すきあれば取り上げようとする直木賞のよさが垣間見えて、それだけでも第158回の直木賞を見ていた甲斐がありました。彩瀬さんは次も書かれるでしょう、どんどん書かれるでしょう。どうかまた、直木賞が彩瀬さんの作品を、取り上げてくれますように。

 ええ(ため息)。ほんと直木賞の選考委員っつうのは、歴史・時代小説に対して求める期待のレベルが高すぎですよね。……それはともかく、澤田瞳子さんの『火定』が、これほど数多くの予想者から本命に推されたことを、ワタクシは忘れないでおきます。データベースには残らないけど、でも確実に多くの人が、「これは受賞に値する!」と思ったことだって、やっぱり直木賞の一部。澤田さんのことですから、これからたゆまず書き続けていってくれるはずです。またいつか、近いうちに。

 直木賞の候補になったとはいえ、今回、伊吹有喜さんの『彼方の友へ』を、文学賞の枠組みでとらえようとした自分が、何とも愚かだったと反省しています。受賞するのかしないのか、なんちゅう観点で、何だかんだとケチをつけたり、あるいは擁護したり、そういう浅ましい世界から抜け出たところで輝く『彼方の友へ』。ほんと、胸のしめつけられる、また親近感の湧く、楽しい小説でした。ワタクシの、心の直木賞。

          ○

 笑みを絶やさず、慎重に発言を考え、しゃべるところはしゃべり通す門井慶喜さんの、受賞会見は、こちらもつい微笑んでしまうような、ほんわかな時間が流れていました。他人に対する気づかいと、サービス精神がひしひしと伝わってくる会見でした。

 まあ順当でしょう、という声あり。ちょっとびっくり、という声あり。個人的には、今回はどうにもこうにも予想の難しい候補作の並びで、「難しい」ということだけが当たって予想は外しましたが、すでにみなぎるプロ作家の安定感、新しいものへのチャレンジ意欲、もろもろを考えれば、文句の出しどころを見つけることのできない受賞だったと思います。……まったく、コノー、直木賞の、冒険ぎらいめ。

 いや、直木賞はともかくとして、門井さん自身は、きっと冒険心にあふれた小説家です。もう、とりあえず直木賞とっちゃったので、この先は好き勝手に暴れていただき、あらゆるジャンルを横断した唯一無二の作家になってくれることを、こっそり期待しています。

          ○

 それで今回の直木賞の決定が、やけに早かったもので、なんか選考委員の人たちが早く切り上げなきゃいけない理由でもあったかしら、と、あれこれ臆測も流れていましたが(いや、流れていない)、選考会でははじめからダントツに『銀河鉄道の父』への票が集まって、あまり波乱なく選考が決した、ということらしいです。いやあ、そんなに差がつくとは……。意外といえば意外です。

 発表時刻は、以下のとおりでした。

  • ニコニコ生放送……芥:18時49分(前期比-33分) 直:18時52分(前期比-32分)

 しかし、すんなり決まったと聞いてもなお、結局今回も、2月発売の『オール讀物』に載る選評を読むまでは、直木賞は終わりません。門井さんが誰と記念対談をするのか、いろいろ楽しみな時間も待ち受けているんですけど、どうにも気になるのが、次の第159回(平成30年/2018年上半期)の直木賞です。って、こんなこと毎度毎度、エンドレスに言ってます。「終わった、終わった」とよく聞きますけど、じっさいは、いつまでも終わんないなー、直木賞。

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