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2018年1月14日 (日)

第158回直木賞の受賞記者会見、想定質問集。

 1月16日(火)の、およそ夜8時半~10時ごろ。東京都内の某ホテルで、第158回直木賞(平成29年/2017年・下半期)の受賞者に対する記者会見が行われます。

 会見場に集まったおよそ100人程度の(いや、受賞者によっては、もっと多くなるかもしれない)参集者のなかから、ほんの一部の人たちによって質問が投げかけられ、壇上に座らされた受賞者が、当意即妙で回答を繰り出すという、ハラハラドキドキの時間です。

 小説の価値とは書かれたものがすべてだ、という考えかたからすれば、これはもう、文学の現象とはとうていかけ離れた、単なる見せものであり、空疎な騒ぎを助長するだけの、卑俗なパフォーマンスにすぎない。という声は、すでにいまから約30年前、第97回(昭和62年/1987年・上半期)直木賞の受賞会見で、山田詠美さんが派手派手しく取り上げられたころには、かなり批判的に語られていたそうですが、それを是正しようと改革に乗り出すような殊勝な人は、多少はいたかもしれませんけど、成功した人はいなかったらしく、いまも綿々と行われています。

 かつては、そういう会見で、「今回の受賞作はどういう小説ですか」「読みどころはどこですか」などと、記者が受賞者に対して聞くような、牧歌的な時代もあったと仄聞します。しかし、当然、受賞者と記者とのやりとりも、われわれの知らないうちに進化を遂げていき、ここで作品のことなど聞いても仕方がない、というところまで成熟した結果、受賞者の人間性が垣間見えるような、ちょっとトッぱずれた周縁の質問をぶつけることが主流となり、そのおかげで、第144回(平成22年/2010年・下半期)にニコニコ生放送で、われわれが会見の様子を視聴できるようになったころには、作品そのものから離れた質問とその答え、という完成された問答形式になっていた……ということだそうです。

 前置きが長くなりました。そんな歴史をもつ受賞記者会見で、今期は、どんな質問が飛び出すのでしょうか。いやがうえにも期待感が高まります。

 直木賞の事前のたのしみは、何といっても《予想》。これに尽きるでしょう。会見の日を迎えるまえの、心の準備として、どんな質問が出てきそうか、予想してみることにします。

           ○

彩瀬まる 『くちなし』(平成29年/2017年10月・文藝春秋刊)

Q. 2011年の東日本の震災は、作家としてものを書いていくうえで、彩瀬さんにどのような影響を与えましたか。

――やはり彩瀬さんといえば、震災との関わりは外せませんよね。

Q. R-18文学賞の読者賞に選ばれてから、いままでの道のりを、順調だったと感じるか、苦労の連続だったと感じるか、どのように振り返りますか。

――R-18からの直木賞ははじめてですし、こういう質問もありかなと。

Q. ひとの片腕を取り外せる世界が描かれていますが、自分の大切な人の、からだの部位が手に入るとしたら、彩瀬さんはどこを選びますか。

――短篇集なので、作品内容とからませての質問はしづらい気もします。とりあえず表題作ぐらいは、イジってもいいんじゃないでしょうか。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――テッパンの質問でしょう。

           ○

伊吹有喜 『彼方の友へ』(平成29年/2017年11月・実業之日本社刊)

Q. まもなく、ご自身が原作の『ミッドナイト・バス』が映画公開されます。『四十九日のレシピ』のドラマも大変話題になりました。映像化、あるいはドラマ化ということについて、創作するうえで考えていらっしゃることはありますか。

――ぜひ、今度の映画の宣伝もしてやってください。

Q. 作中、個性的な人物が数多く出てきますが、そのなかで、ご自身の好きな人物は? どう書くか苦労した人物は?

――『蜜蜂と遠雷』のときに恩田陸さんに投げられた質問の、変型パターンです。

Q. 先ほど新喜楽で行われた選考委員の会見で、『彼方の友へ』は、反対する声もあった、しかし、戦時下に暮らす普通の人びとの姿を、真正面から素直にとらえようとする筆致に好感が持てた、との講評がありました。それを聞いて、どうお感じになりますか。

――新喜楽での講評について、その場で感想を聞く、というよくあるムチャぶり。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――いわゆる鉄の板です。

           ○

門井慶喜 『銀河鉄道の父』(平成29年/2017年9月・講談社刊)

Q. 3度目の候補となりましたが、この作品での受賞、ということを、ご自身はどのようにお感じになっていますか。

――候補歴の多い人には、まずこの質問は、避けられません。

Q. ご自身も3児の父親というお立場ですが、宮沢賢治という息子がいたとしたら、どのような子育てをされるでしょうか。

――「もしもあなただったら~」パターンは、いろいろ活用できそうです。

Q. 宇都宮市のご出身ということで、宇都宮、栃木の読者の方々に、メッセージをいただけたらと思います。

――宮沢賢治の話なので、ここは岩手の報道機関が、とって代わるかもしれません。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――金を失って、木が反りかえる。つなげてテッパンと読みます。

           ○

澤田瞳子 『火定』(平成29年/2017年11月・PHP研究所刊)

Q. 奈良時代や平安時代など、歴史小説のなかでは決してメインストリームとは言えない時代を、デビュー以来、積極的に取り上げてこられました。そこには、どのような思いがあるのでしょうか。

――おそらく、これまで何百回と聞かれたであろう質問を、受賞会見であえて聞く。大切なことだと思います。

Q. 天然痘の流行で、外国の人たちを過剰に排斥しようとする潮流が一気に社会を覆い尽くす状況が描かれていて印象的です。人種的な差別によるヘイトスピーチなど、昨今の現象を、澤田さんはどのようにとらえていますか。

――最近の情勢に結びつけた質問などを、たまにする人がいます。

Q. 澤田さんはお母さまも作家でいらっしゃいますが、自分も作家になってみて、そういうご家庭で育ったことが、役に立っていると思うことはありますか。

――ほんのちょっと、プライバシーにひっかかる家族関係の事柄も、会見ではご愛敬。

Q. 『ふたご』は読まれましたか。芸能人の書いた小説といっしょに候補になったことを、どう思われますか。

――とくに言うことはありません。

           ○

藤崎彩織 『ふたご』(平成29年/2017年10月・文藝春秋刊)

Q. 旦那さまや、バンドのメンバーには、今回の受賞をどのようにお伝えになりましたか。何とおっしゃっていましたか。

――さすがにこれは聞くでしょう。

Q. はじめて書いた小説で、こういう大きな賞に選ばれたことについて、どうお感じでしょうか。

――「うれしく思います」以外の、どんな答えが返ってくるかに、期待をこめて。

Q. ママになって、何か心境の変化などありましたか。

――小説とまったく関係ない質問が、連発されてもおかしくありません。

Q. 2作目について、すでに構想などありますか。バンド活動とは、両立されていくお考えでしょうか。

――又吉直樹のときの会見へのオマージュ、という感じです。

           ○

 だいたいの記者たちは、これまでやってきた取材のなかから、作者に関するエピソードや発言を蓄えていて、そのなかから会見で使えそうなものを取り出して、ぶつけていく。というのが、基本かと思います。その点、ド素人のサイト管理人が予想できる質問など、たかが知れていて、なかなか当たりそうな気はしませんが、ええーっ、そっちの角度からぶつけるのーっ!? と、どれだけ意外な質問が出てくるか。それが、受賞会見観覧の、いちばんの楽しみでしょう。

 受賞者なし、ということになれば、第一に、その楽しみが奪われることになり、基本、出版界・書店界が賑わおうが盛り下がろうが、それはどうだっていいんですが、受賞会見界が冷え込むことは必至です。だれか受賞者が出ればいいな、と思います。

 あと、先に行われる(はずの)もうひとつの賞の会見が、意外に沸いたりすると、そのあとの直木賞が割りをくったりしますので、そこら辺も気にしながら、ハラハラドキドキの時間を過ごすことができる、という直木賞ならではのオマケつき。

 16日(火)の会見は、今回もニコニコ生放送で観ることができます。これさえ観ておけば、あとは受賞作や候補作を読まなくたって十分に楽しめる、文学賞が獲得した独特のおもしろさを体感することができる受賞者記者会見。何が選ばれたっていいじゃないですか、会見が楽しければ。

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