第129回直木賞『4TEEN』『星々の舟』の受賞作単行本部数
第129回(平成15年/2003年・上半期)直木賞
※ちなみに……
第128回(平成14年/2002年・下半期)芥川賞
第129回(平成15年/2003年・上半期)芥川賞
そろそろ、部数に関するテーマも終わりが見えてきました。
まだ取り上げていない受賞作がいくつかありますが、いずれも特徴的な性格が薄く、いわゆる「そこそこの話題と、そこそこの売上げ」という、直木賞のスタンダードを体現した、平均的な作品と言っていいと思います。
……と前置きしてからの『4TEEN』と『星々の舟』。ということで、うわー、いかにも直木賞の平均っぽいよなー、という感がハンパありません。手がたいと言いますか、昔ながらのフォーマットと言いますか、第128回の『半落ち』騒動を受けて、また第129回の注目候補『重力ピエロ』をさしおいて、この二作に賞を与えてしまったことで、直木賞に漂う閉塞感が決定的になったとも言われる、重要な受賞作です。
まあ、「そこそこ」な感じが好きじゃなきゃ直木賞ファンなんてやっていられません。どちらの小説も、低調でないうえに突き抜けもしない、バツグンのそこそこ感に満ちた、直木賞らしい受賞作だと思いますけど、世のなかには、こういうものより多くの人に喜ばれる小説があります。
この年、平成15年/2003年は年初から、例の『半落ち』が好調な売れ行きをキープ。『出版月報』の記事を追ってみると、「このミス」パワーの力もあったんでしょう、1月15日現在17万5,000部、直木賞に落ちて、なんだかんだと騒がしくなるなか、2月には22万5,000部、3月27万5,000部と、ボン、ボンと大量増刷がかかり、その後も継続して売れて、年内には33万部到達、というところまで上昇します。
第128回、直木賞はけっきょく授賞作を出せず、芥川賞のほうはどうにか1作、作品を選んだんですが、受賞したらかなりの売れ行きが見込めたはずの、最も注目された島本理生さんではなく、大道珠貴さんの「しょっぱいドライブ」だったものですから、大したお祭りにはなりません。
『しょっぱいドライブ』は、受賞後に単行本が発売され、だいたい1~2か月で7万部程度まで行き、そのあたりで落ち着きました。
芥川賞で7万部。というのは、多くもなければ少ないとも言えないし、ネタにしようにも注目点が見つけづらい数字ですから、ワタクシもとくに言いたいことはありません。しかし、この回は、受賞作は大したことないのに、(島本さんが候補になったおかげか)まわりだけが騒がしい、いつまでこんなことやっているんだ日本人! 的な記事が、数多く書かれた回でもあります。さすがは芥川賞、そんなことですら話題になってしまう恐ろしいヤツ。それから10数年たっても、べつに状況に変化がないところを見れば、確実に今後もこういうことが繰り返されるに違いないという、ある意味、伝統的な芥川賞スタイルだったのかもしれません。
○
やはり芥川賞は、爆発的に売れるか、爆発的に売れないか、どちらかであってほしい。……というこちらの勝手な望み(?)をかなえてくれたのは、むしろ半年後の第129回に受賞した「ハリガネムシ」のほうだったようです。
次の第130回は受賞作の部数が一躍注目のマトになった回なので、ひとつ前の「ハリガネムシ」も、その対比のなかで部数が紹介されたりしましたが、『出版月報』平成16年/2004年3月号によれば、計4万5,000部、とのこと。
また、受賞者本人、吉村萬壱さんも、このことを否定的にとらえたりせず、ひとつの勲章であるかのように「最も売れなかった受賞者の一人」と堂々と発言しています。
「芥川賞を取ってよかったことは、本を万単位で刷ってくれること。ぼくの場合は初版で5万部刷ってくれた。だが増刷は5千部程度で、最も売れなかった受賞者の一人だと思う。」(『徳島新聞』平成25年/2013年1月3日「芥川賞 作家吉村さん、聴衆と文学談議」より)
だいたい5万部前後、ということになれば、胸を張って「売れなかった受賞作だ」と言い切ることに、問題はありません。中途半端に売れるより、まったく売れませんでした、というほうが、特徴的で華があります。吉村さんには、ぜひ、吉田知子さんのように、受賞作売れなかったネタを、これからも息長く活かしていってほしいです。
それで直木賞も、このくらい売れないほうが、思い切ってハネるチャンスもあるんでしょうが、「私の受賞作、全然売れなかったんですよー、アハハ」と笑い飛ばすことができないのが、「そこそこ」の悲しさです。
石田衣良さんの『4TEEN』については、本屋大賞『博士の愛した数式』の引き立て役として、4月16日のエントリーでも引用しました。そこでは、受賞後3か月で11万部、という新潮社側のハナシが紹介されていましたが、『出版月報』平成15年/2003年10月号によれば、受賞以後に増刷した分が11万部、累計で13万9,000部、ということだそうです。
いっぽうの村山由佳さん『星々の舟』も、『4TEEN』とどっこいどっこい、同号には累計14万部だと書かれていますが、横山秀夫さんの、文学賞とは何の関係もない話題作『クライマーズ・ハイ』が累計16万部、ジャジャーン、と華やかな売れ行きが、かたわらで取り上げられているところが、つい直木賞ファンの悲しみをそそります。
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