第130回直木賞『号泣する準備はできていた』『後巷説百物語』の受賞作単行本部数
第130回(平成15年/2003年・下半期)直木賞
※ちなみに……
第130回(平成15年/2003年・下半期)芥川賞
第1回(平成16年/2004年度)本屋大賞
先日は、直木賞をしのぐ一年の一度のお祭りがありました。なので今年も、直木賞をしのぐ(……って何かくどい)本屋大賞のネタで、一週分、埋めたいと思います。
本屋大賞がはじまったのは平成16年/2004年です。奇しくもこの年、直木賞は、けっこうな中堅どころが取りましたねよかったですね、っていういつもどおりの「お茶濁し」的な授賞だったので、世間一般にとくに波風は立たなかったんですが、芥川賞のほうが大変な賑わいとなり、受賞作の売り上げが大爆発した年に当たります。
とくにブレイクしたのが、金原ひとみさんの『蛇のピアス』『蛇にピアス』でした。
「すばる文学賞受賞作」という、売れそうなのかどうなのか、よくわからない話題性を加味しての初版7,000部。というスタートだったものが、芥川賞を受賞して注文が殺到。集英社の担当者も「あれっ、芥川賞作品ってどのくらい刷ればいいんだっけ」と相当戸惑ったと思うんですけど、すぐに5万部を増刷し、約1か月の2月中旬には計35万部、3月中旬に50万部突破。と急激な伸びをみせます。
で、もうひとりの受賞者、綿矢りささんほうですが、すでに平成13年/2001年から翌年にかけて、デビュー作の文藝賞受賞作『インストール』(平成13年/2001年11月刊)がいきなり売れてしまい、直木賞の『あかね空』『肩ごしの恋人』と並んで、20万部を突破してしまった、という立派なベストセラー作家。2作目の『蹴りたい背中』もまた、発売直後から、新人の文芸書としては異例なほどに好調な売り上げをみせ、受賞するまでに10万部を軽く超えていた、とも言います。
ここから芥川賞を経て増刷が加速し、1月中には35万部、2月中には倍増の78万8,000部、3月中旬に100万部を突破して、「『限りなく~』以来の快挙だ!」と、芥川賞売れ行きマニアたちを喜ばせ、5月中旬までに112万部弱、7月中旬までに126万部、そして最終的に現在伝えられている単行本での売り上げ127万部、というところまで行きました。明らかに「人は見た目がナントヤラ」っていう感じでしょうが、文学賞は売れるぞ伝説にまたひとつ新たな薪をくべた尊い現象だったと思います。
いつまでも芥川賞のハナシをしていても仕方ないので、直木賞に移りたいんですけど、この年の4月、本を売るために始まった本屋大賞が、話題をかっさらっていきました。
「『数式』(引用者注:『博士の愛した数式』)は昨年中に読売文学賞を、今年になって「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本 本屋大賞」(通称、本屋大賞)を受賞し、直後に増刷を重ねるなど賞の影響も少なくない。とりわけ本屋大賞は、現場の書店員たちが選ぶ賞というだけあって、多くの書店には印刷物ではない手書きのPOP(書棚広告)が飾られ、「何を読んだらよいか分からない」層の心を温かく揺さぶった。『ブラフマン』(引用者注:『ブラフマンの埋葬』)もあやかるべく本来のオビ(腰巻き)に「祝!本屋大賞」のオビを重ね、異例の二枚オビにしたくらいだ。」(『産経新聞』平成16年/2004年6月28日「ベストセラーを斬る 『博士の愛した数式』『ブラフマンの埋葬』」より ―署名:稲垣真澄)
平成13年/2001年8月に発売された、芥川賞受賞者・小川洋子さんの『博士の愛した数式』は初版1万部からスタートしたそうです。じわじわと部数を増やしていき、明けて1月に本屋大賞ノミネート10作に入ってから、本を売るために働いている書店員たちがまたせっせと売ってくれたおかげで、4月までに約10万部。
そして、本屋大賞を受賞してから、一段二段とギアが入って、4月下旬までに14万2,000部、5月下旬までに17万9,000部、6月に24万部、7月に29万部、8月に32万部と増やし、年内には35万部まで達した、と言われています。
この成績をみて本屋大賞の力を確信した書店員や出版社の人たちが、さらに本を売るために準備したうえで第2回にのぞむようになって、歴史を重ねていき……というその出発点に、『博士の愛した数式』というそこそこ売れていた本が選ばれたことが、結果として本屋大賞の繁栄につながったのですから、本屋さんたちの投票も馬鹿にはできません。
ここで馬鹿にできないことがもうひとつあります。直木賞の存在です。
今年の本屋大賞が決まって以来の、関連ニュースを見るにつけ、ほんとみんな直木賞のことを語るのが好きなんだなー、と同好の人間としてニヤニヤしちゃいますが、浜本茂さんの「打倒・直木賞!」の大ギャグはさておいても、とにかく平成14年/2002年に始まった段階から、直木賞以上だ、直木賞を超えている、とさんざん言われたのが、本屋大賞です。
○
平成14年/2002年1月の、第130回(平成13年/2001年・下半期)の直木賞は、江國香織さん『号泣する準備はできていた』と、京極夏彦さん『後巷説百物語』です。
お二人とも、そのまえに賞を送るチャンスはあったのに、直木賞お得意の「あとまわし」を何度かカマした結果、ここに揃って受賞となった、すでによく売れると目されていた受賞者です。
なにしろ、初版部数のベースがおそろしく高く、『号泣する~』は初版5万部、『後巷説~』にいたっては初版7万部もしくは10万部、と言われています。
その後の動きを『出版月報』や『新文化』などから追ってみると、『号泣する~』は受賞するまでに五刷・7万5,000部まで到達。受賞後はどーんと10万部を増やし、2月上旬に24万部、そこからは微増を重ねて、年内に31万部、最終的には32万部を記録しました。
いっぽうの『後巷説~』は、すでにたくさんいる固定読者向け商売、って感じで初版からの伸びは少なく、受賞後に12万部強、となって以降はまあ、そこそこの売上げにおさまって14万部。華やか第130回、といわれた受賞者4人のうち、ビリッケツだった、ということになります。
だけど、『号泣する~』の30万部超えは、直木賞としては売れた部類ですし、『後巷説~』の14万部だって、そのほとんどが京極作品に対する関心度の高さに拠っていたとはいえ、かなりの部数です。だれが「直木賞は以前ほど売れない」と言い出したのか知りませんが、あの狂気じみたワタカネ旋風のなか、よくやりました。下を向くことはありません。
……と、そんな平穏な雰囲気をぶち壊すかのように槍を突き出したのが、第1回の本屋大賞です。
本屋大賞受賞してから約3か月、計26万部になったという『博士の~』のことが紹介されています。
「(引用者注:『博士の~』は)現在も一万部単位の重版を繰り返している。新潮社内では「直木賞以上の効果」との声も挙がっている。
(引用者中略)
最近の同社の直木賞受賞作と比較すると、『号泣する準備はできていた』(江國香織著)は受賞後三ヵ月間で二一万五〇〇〇部、『4teen』(石田衣良著)は一一万部だったという。」(『新文化』平成16年/2004年7月22日号「受賞効果は「直木賞」以上 本屋大賞『博士の愛した数式』」より)
たしかに超えちゃってますね。
以来13年・26回、「本屋大賞は直木賞以上だ」とか浮かれてコメントした新潮社に直木賞の呪いがかかり、ほかの出版社が次々と受賞作を生み出すなか、なかなか直木賞を受賞できなくなった。……っていうのはデマですけど、とりあえず今年は、確実に直木賞を超えて売れる本屋大賞、っていう伝統的な姿をみることができずに、少しさみしいです。
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コメント
「蛇のピアス」・・・
投稿: D | 2017年4月18日 (火) 00時40分
Dさん
あ、誤記ってしまいました、お恥ずかしい……。
ご指摘ありがとうございます。
投稿: P.L.B. | 2017年4月18日 (火) 10時18分