第131回直木賞『空中ブランコ』『邂逅の森』、第132回『対岸の彼女』、第133回『花まんま』の受賞作単行本部数
第131回(平成16年/2004年・上半期)直木賞
第132回(平成16年/2004年・下半期)直木賞
第133回(平成17年/2005年・上半期)直木賞
※ちなみに……
第131回(平成16年/2004年・上半期)芥川賞
第132回(平成16年/2004年・下半期)芥川賞
第133回(平成17年/2005年・上半期)芥川賞
前週のつづきです。
東野圭吾さんが直木賞を受賞した第134回(平成17年/2005年・下半期)は、だいたい10年まえの出来事です。まだ、多くの人の記憶にしっかりと残っています。
10年まえの直木賞が、どんな状況にさらされていたか。といえば、言うまでもなく、「文学賞なんだからもっと販促効果を上げてくれよ!」と、まわりの人たちから期待(や失望)を受けている頃でした。
本(小説)が売れなくて元気のない書店員たちが、もっと楽しく働けるような一種の仕掛けとして、本屋大賞の始まったのが平成16年/2004年度(4月発表)。これがいきなり1回目から直木賞をしのぐ売り上げを記録したことで注目を浴びた、……ということからもわかるように、要するに「文学賞は、受賞作が売れてナンボ」程度の切り口で、文学賞のことを語っても、だれも不快に思わない風潮が、すでに日本には広まっていたわけです。
平成17年/2005年7月、第133回(平成17年/2005年・上半期)が決まったあとに、『週刊金曜日』(平成17年/2005年7月29日号)に広中彬さんの「芥川賞直木賞のつくられ方」が載りました。この記事が、当時の直木賞と芥川賞のことを、出版関係者たちがどう見ていたのか、うまく伝えてくれています。
この二つの賞はこれまで、「文壇政治」ってやつで権威を維持しながら70年間やってきた、しかし、出版不況が長引く状況下、そんな悠長なことは言っていられなくなった。最近ではとにかく、受賞作を売る=受賞者の話題性、を主催者は狙っている。その象徴が、第130回の綿矢・金原の芥川賞ダブル受賞だった……と、おなじみな見解すぎて、つい眠たくなってしまう、匿名の文芸編集者によるご講義がつづいたあと、こんなハナシが展開されます。退屈だからといって眠らないで、聞いてみてください。
「綿矢・金原など話題作以外、最近の受賞作の部数もおおむね減少傾向にあるのも事実。前出文芸編集者もこう語る。
「綿矢・金原旋風に湧いた前年には現役女子高生の島本理生のノミネートが話題になりましたが結局は落選。選考委員の権威主義が未だ生きていたのか、と批判に晒された。その教訓としての綿矢・金原の受賞という意味合いもあったが、翌第一三一回の直木賞を受賞した熊谷達也の『邂逅の森』などは七万五〇〇〇部しか売れなかった。直木賞受賞作が一〇万部に達しないなんて賞=商売の意味がない」」(『週刊金曜日』平成17年/2005年7月29日号 広中彬「芥川賞直木賞のつくられ方」より)
ここで発言している「文芸編集者」という人は、頭がおかしいのでしょうか。
いや、おかしいはずはありません。おそらく本気で、直木賞は10万部に達しなければ意味がない、と考えていた、出版不況を憂う(そして文学賞に対して、どんなことでもケチをつけておきたい)標準的・常識的な人なんだろうと想像します。
「直木賞も芥川賞もね、べつにこのままでいいんだよ」とか言うより、「これらの賞には問題がある! 権威は崩壊した! 話題性ばかり追ってる! 売れない!」と叫ぶほうが、発言として派手です。「何か言っている」感は、確実に醸し出すことができます。おそらくまわりからの共感も得られやすいんでしょう。
でも、重要なのは、この時期ほんとに「おおむね減少傾向にあるのが事実」だったのか、だと思います。
まずは、いつもどおり、直木賞のほうから。以下、単行本の部数は、このころの受賞作の部数を一覧で紹介した『朝日新聞』平成18年/2006年7月15日「芥川賞・直木賞、なぜ注目? 受賞作からミリオンセラーも」を中心として、『出版年鑑』の記述なども参考にしました。
とりあえず、『週刊金曜日』の「文芸編集者」みたいに、綿矢・金原旋風の売り上げの話題を持ってきといて、いきなり熊谷達也さんの『邂逅の森』を指摘するのは、どう考えても卑怯(っつうかマト外れ)だと思うんですけど、第131回は、『邂逅の森』が8万部、奥田英朗『空中ブランコ』は37万部だった、と言われています。
37万部というのは直木賞のなかでも、「かなり売れた」部類です。毎回・毎作、受賞作がこのくらい売れていれば、直木賞もスゴいものですが、こういうのは、たまにしかありません。
第132回の角田光代『対岸の彼女』が24万部。第133回朱川湊人『花まんま』が10万部。そして、前週のエントリーで取り上げた、第134回『容疑者Xの献身』66万部、第135回『まほろ駅前多田便利軒』12万部、『風に舞いあがるビニールシート』11万部……とつづいていきます。
この流れを見て「減少傾向にある」と解釈するのは、やっぱり、こじつけでしかありません。
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