まもなく平成28年/2016年度の出版界のお祭りなので、5つの小説の順位を予想する。
今週は、みなさんごぞんじの大きな文学賞イベントがあります。この時期、日本中の小説好きたちが、ほぼ全員そこに注目している、と言ってもいいでしょう。
なので、通常のブログテーマはひとまずお休み。ここはストレートに、その賞のゆくえを展望するような、予想のハナシでいこうかと思います。
そうです。1月18日(水)が、いよいよ目前にせまってきました。毎回、数多くの読書家たちがかたずをのんで、その発表の瞬間をドキドキしながら待ち望む、出版界最大のイベント。本屋大賞のノミネート作品発表です。
すでにネット上では、mmmichyさんをはじめ、いったいどの作品がノミネート作に選ばれるのかと、予想につぐ予想で盛り上がっていますが、それはもう、あらためて紹介するまでもありません。ワタクシのまわりにも、「この日を楽しみに一年を過ごしてきたんだ!」という人が、たくさんいます。もはや世間は、本屋大賞の話題でもちきりです。
本屋さんたちが、どんな作品を選ぶのか。そして、自分の好きな小説が、どのくらいの順位になるのか。想像するだけで、期待と不安で胸がはちきれそうです!
ということで、うちのブログでも、本屋大賞の順位を予想してみよう。と思ったんですが、なにしろこっちは、世間の本屋さんほど、たくさん小説を読んでいるわけじゃありません。ふとまわりを見回したところ、いまワタクシの机のうえに、たまたま小説が5冊置いてあったものですから、とりあえず、これらについてだけ、どのくらいの票が入りそうか予想することにしました。
■恩田陸『蜜蜂と遠雷』(平成28年/2016年9月・幻冬舎刊)
2005年 | (1位)→1位 | 『夜のピクニック』 |
(43位) | 『Q&A』 | |
(164位) | 『蛇行する川のほとり』 | |
2006年 | (48位) | 『蒲公英草紙 常野物語』 |
(55位) | 『ネクロポリス』 | |
2007年 | (19位) | 『チョコレートコスモス』 |
(54位) | 『中庭の出来事』 | |
2008年 | (113位) | 『木洩れ日に泳ぐ魚』 |
2009年 | (115位) | 『きのうの世界』 |
(178位) | 『不連続の世界』 | |
2010年 | (64位) | 『ブラザー・サン シスター・ムーン』 |
(85位) | 『訪問者』 | |
2011年 | (239位) | 『私の家では何も起こらない』 |
2012年 | (89位) | 『夢違』 |
2014年 | (291位) | 『夜の底は柔らかな幻』 |
2015年 | (243位) | 『雪月花黙示録』 |
2016年 | (156位) | 『消滅 VANISHING POINT』 |
今年度の1位はこれなんだろうなあ。と思いながらも、さんざん迷いました。
本屋大賞は、何だかんだで、もう14年目です。「この人は、前にも1位になっているし……」と考えて一票をためらうような投票者心理も、そろそろ薄れてきているものと思います。
だけど、すんなり大賞をとるかと言うと、やはり不安が残ります。なにせ、この作品には、これから2次投票が締め切られるまでのあいだに、他の文学賞をとってしまう可能性がある、という最大の障壁があるからです。
「すでに別の賞をとって注目されている小説に、重ねて授賞www 本屋大賞、終わったなwww」などと、みんなからガンガン叩かれることが目に見えているのに、票を投じることのできる勇気ある書店員が、いったいどのくらいいるんでしょうか。それを考えると、平和に生きていきたい本屋さんもけっこういると思うので、最終的には、多少順位を落とすのではないか、と思いました。
■森見登美彦『夜行』(平成28年/2016年10月・小学館刊)
2005年 | (22位) | 『太陽の塔』 |
2006年 | (33位) | 『四畳半神話大系』 |
2007年 | (2位)→2位 | 『夜は短し歩けよ乙女』 |
(20位) | 『きつねのはなし』 | |
2008年 | (3位)→3位 | 『有頂天家族』 |
(16位) | 『新釈 走れメロス 他四篇』 | |
2009年 | (67位) | 『美女と竹林』 |
2010年 | (16位) | 『恋文の技術』 |
(17位) | 『宵山万華鏡』 | |
(132位) | 編『奇想と微笑 太宰治傑作選』 | |
2011年 | (3位)→3位 | 『ペンギン・ハイウェイ』 |
2012年 | (105位) | 『四畳半王国見聞録』 |
2014年 | (9位)→9位 | 『聖なる怠け者の冒険』 |
2016年 | (20位) | 『有頂天家族 二代目の帰朝』 |
これも、上位のランクインは固いですよね。当然かもしれません。
本屋大賞の前哨戦ともいわれるのが「キノベス!」ですけど、そちらでも着実に4位につけていました(ちなみに『蜜蜂と遠雷』は第3位)。当然、大量の部数がすでに市場に出まわってもいて、逆にこれが上位に挙がらなきゃおかしい、というくらいの評判作です。
いよいよ森見さん、大賞ウィナーの仲間入りか! と期待しているところですが、そうは単純に着地しそうにない世界観が、この作品の魅力だとも思います。
「これまでの実績を加味して」とかいう、腐りきった投票行為が許されるような文学賞とは違って、本屋大賞は、ひとつひとつの作品に対する判断と推薦が基本(……ですよね?)。ひきこまれる読者にとっては絶品でも、そうでもない人にとってはそうでもない、という森見作品の長所が存分に発揮された作品と見て、少し遠慮して4位と予想しました。
■須賀しのぶ『また、桜の国で』(平成28年/2016年10月・祥伝社刊)
2010年 | (72位) | 『芙蓉千里』 |
2011年 | (64位) | 『神の棘』 |
2015年 | (190位) | 『ゲームセットにはまだ早い』 |
2016年 | (35位) | 『革命前夜』 |
(72位) | 『紺碧の果てを見よ』 | |
(142位) | 『雲は湧き、光あふれて』 |
うーん、難しい。
難しいので、去年の『革命前夜』の得票を参考にしました。そして、それよりは上に行ってもいいじゃないかと、ワタクシの希望も込めてトップ20入り、という予想です。
祥伝社の本は、これまであまりトップ20に入ったことがなく、平成20年/2008年度(森見さんの『新釈 走れメロス 他四篇』)から8年も出ていない、というのが気がかりではありますが、そういうこととは関係なく、書店員さんはしっかりこの作品を評価して、投票しているはずだ。投票していてほしい。と信じたいです。
○
■垣根涼介『室町無頼』(平成28年/2016年8月・新潮社刊)
2004年 | (39位) | 『ワイルド・ソウル』 |
2007年 | (123位) | 『ゆりかごで眠れ』 |
(163位) | 『真夏の島に咲く花は』 | |
2012年 | (89位) | 『月は怒らない』 |
(247位) | 『人生教習所』 | |
2013年 | (216位) | 『勝ち逃げの女王――君たちに明日はない4』 |
2014年 | (12位) | 『光秀の定理(レンマ)』 |
ワタクシは本屋さんでも何でもないので、くわしくは知らないんですが、現場では「本屋大賞あるある」みたいなものが囁かれているそうです。
ひとつ聞いたなかでは、「本屋大賞では歴史・時代小説は上に行きづらい。ただし、一部の作家をのぞく。」という「あるある」があるんだとか。
『室町無頼』は歴史小説ですが、垣根さんの場合、その「一部の作家」に入っているような雰囲気がありますよね。今回も割合、健闘するんじゃないでしょうか。
■冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』(平成28年/2016年10月・文藝春秋刊)
2007年 | (123位) | 『マルドゥック・ヴェロシティ』 |
2009年 | (216位) | 『スプライトシュピーゲルIV』 |
2010年 | (6位)→1位 | 『天地明察』 |
2011年 | (138位) | 『マルドゥック・スクランブル[改訂新版]』 |
2013年 | (5位)→11位 | 『光圀伝』 |
(216位) | 『もらい泣き』 | |
2014年 | (17位) | 『はなとゆめ』 |
2015年 | (162位) | 共著『決戦!関ケ原』 |
「例外的な一部の作家」といえば、何といっても冲方さんです。そして、その効力は「ミステリー」枠に行っても健在なのかどうなのか。気になります。
本屋大賞は、10代20代から50代60代まで、幅広い世代に投票のチャンスがあり、また実際、それらのデータの集積であることがひとつの売りですので(……たぶん)、なかなかオッサンが入っていきづらい舞台設定や人物造型、物語の展開などでも、きちんと好意的に評価され、1次投票リストに名が残る、というよさがあります。
『十二人の~』は、もっと票を集めてもおかしくないし、逆に、一人二人ぐらいしか票を入れなかったとしても不思議ではない、そうとう動向の予想しづらい部類の作品だと思うんですが、どっちに振れるか、見当がつきません。
○
無作為に5つの作品を挙げましたけど、どれも上位をうかがえそうなものばかり。いやあ、ほんとに、今週の水曜日が待ち遠しいですね。
かつては、ノミネート作発表ぐらいでは大して盛り上がらなかった、とも聞きます。とくに1年目の平成16年/2004年度などは、ちょうどノミネートの発表日が、どこかの出版社がやっている文学賞の決定と重なり、しかも、そっちで金原ひとみ・綿矢りさという、20歳前後の若い女性二人が受賞してしまったために、メディアや、われわれ一般読者の興味は、ほとんどそちらに向いてしまいました。
ワタクシも、そのころ本屋大賞のノミネートなど、気にもしていなかったひとりです。反省したいと思います。
それで、今週発表されるのは、平成28年/2016年度の、すでに投票の終了した1次投票10位までの作品名・作家名だけ。11位以下も含めた順位がわかるのは、もっと先の、4月です。なので、上に掲げたシガない予想が当たっているか外れているかは、すぐはわからないんですが、ともかく今週から本屋大賞のお祭りがはじまります。みんな春まで盛り上がっていきましょう!
……と、それはいいとして、翌日の19日(木)、これに比べれば格段に注目度の低い文学賞が、決まるとか決まらないとか、ウワサされています。まさか本屋大賞に対抗しようとでもいうのでしょうか。ネット上でも、あまり話題にしている人がいないので、よくわかりませんね。まあ、もしも覚えていたら、本屋大賞の余勢で、そっちの賞のこともちょっと気にかける、という程度で十分なのかもしれません。
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