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2017年1月22日 (日)

第134回直木賞『容疑者Xの献身』以降、第144回『漂砂のうたう』『月と蟹』までの受賞作単行本部数

第156回(平成28年/2016年・下半期)

直木賞●恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎刊)
初版1万5,000部→受賞前7万部→受賞後27万部→?
芥川賞●山下澄人「しんせかい」収録『しんせかい』(新潮社刊)
受賞前3,500部→受賞後5万3,500部→?

第134回(平成17年/2005年・下半期)

直木賞●東野圭吾『容疑者Xの献身』(文藝春秋刊)
50万(受賞半年で)66万
芥川賞●絲山秋子「沖で待つ」収録『沖で待つ』(文藝春秋刊)
7万(受賞半年で)→?

第135回(平成18年/2006年・上半期)

直木賞●三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋刊)
12万
直木賞●森絵都『風に舞いあがるビニールシート』(文藝春秋刊)
11万
芥川賞●伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」収録『八月の路上に捨てる』(文藝春秋刊)

第136回(平成18年/2006年・下半期)

芥川賞●青山七恵「ひとり日和」収録『ひとり日和』(河出書房新社刊)
初版(受賞後)4万部→受賞後21万

第137回(平成19年/2007年・上半期)

直木賞●松井今朝子『吉原手引草』(幻冬舎刊)
初版8,000部→受賞後12万1,000
芥川賞●諏訪哲史『アサッテの人』(講談社刊)
初版(受賞後)4万5,000部→5万8,000

第138回(平成19年/2007年・下半期)

直木賞●桜庭一樹『私の男』(文藝春秋刊)
22万
芥川賞●川上未映子「乳と卵」収録『乳と卵』(文藝春秋刊)
11万

第139回(平成20年/2008年・上半期)

直木賞●井上荒野『切羽へ』(新潮社刊)
9万
芥川賞●楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋刊)
初版(受賞前)8,000部→受賞後9万

第140回(平成20年/2008年・下半期)

直木賞●天童荒太『悼む人』(文藝春秋刊)
初版10万部→受賞後30万
直木賞●山本兼一『利休にたずねよ』(PHP研究所刊)
25万
芥川賞●津村記久子「ポトスライムの舟」収録『ポトスライムの舟』(講談社刊)
6万7,000

第141回(平成21年/2009年・上半期)

直木賞●北村薫『鷺と雪』(文藝春秋刊)
10万
芥川賞●磯崎憲一郎「終の住処」収録『終の住処』(新潮社刊)
16万1,000

第142回(平成21年/2009年・下半期)

直木賞●佐々木譲『廃墟に乞う』(文藝春秋刊)
初版2万部→受賞後11万
直木賞●白石一文『ほかならぬ人へ』(祥伝社刊)
初版2万部→受賞後15万

第143回(平成22年/2010年・上半期)

直木賞●中島京子『小さいおうち』(文藝春秋刊)
11万1,000
芥川賞●赤染晶子「乙女の密告」収録『乙女の密告』(新潮社刊)
5万8,000

第144回(平成22年/2010年・下半期)

直木賞●木内昇『漂砂のうたう』(集英社刊)
8万5,000部→?
直木賞●道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋刊)
10万5,000部→?
芥川賞●朝吹真理子『きことわ』(新潮社刊)
初版(受賞後)5万部→14万
芥川賞●西村賢太「苦役列車」収録『苦役列車』(新潮社刊)
初版(受賞後)5万部→19万

(以上すべて受賞作)

 先週1月19日に第156回の結果発表がありましたが、直木賞はこれからが本番(?)。授賞式があり、選評が発表され、また増刷分の単行本が全国の書店に流通することになって、さてどれほどの売り上げを叩き出すか……というお楽しみが待っています。

 さっそく芥川賞のほうは、読売新聞調査研究本部の渡辺覚さんが、大手出版社の文芸編集者の、「10万部超えは確実」だという予想を紹介しています(「祝・芥川賞 山下澄人「しんせかい」を読み解く」より)

 受賞が決まったばっかりなのに、どれぐらい売れるかという下世話な話題でオチをつける、かなり末期的な芥川賞脳を披露してくれていて心強いです。ぜひ、『蜜蜂と遠雷』も読み解いていただければと願っています。

 とまあ、『蜜蜂~』ですが、こちらこそ10万部は固いところ。いや、この圧倒的な評判のよさから、20万部は超えるのが自然かもしれず、4月の本屋大賞次第では、『ホテルローヤル』以来の50万部突破も夢じゃない。さらに映画化とかの話題が続けば、『鉄道員』を抜いて、直木賞史上トップ1に立てるかも!?

 (とりあえず、受賞後一発目の重版で、27万部だそうです。

 下世話な夢は広がるばかりですね。

 それで、うちのブログでは「だいたい直木賞受賞作はどのくらい売れるのか」というハナシを半年以上続けているんですが、前回155回の直後には、145回~155回の分を調べてみました。今週は、そのまえのだいたい5年分について取り上げて、「最近10年の受賞作部数の動向リスト」を完成させておきたいと思います。

170122

 各部数の典拠は、

  • 『東京新聞』平成23年/2011年2月22日夕刊…木内昇『漂砂のうたう』、道尾秀介『月と蟹』
  • 『2011出版指標 年報』平成23年/2011年4月…佐々木譲『廃墟に乞う』、白石一文『ほかならぬ人へ』、中島京子『小さいおうち』
  • 『2010出版指標 年報』平成22年/2010年4月…天童荒太『悼む人』、山本兼一『利休にたずねよ』、北村薫『鷺と雪』
  • 『朝日新聞』平成22年/2010年11月24日…井上荒野『切羽へ』、森絵都『風に舞いあがるビニールシート』、三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』、東野圭吾『容疑者Xの献身』
  • 『2009出版指標 年報』平成21年/2009年4月…桜庭一樹『私の男』
  • 『2008出版指標 年報』平成20年/2008年4月…松井今朝子『吉原手引草』

 といったところをベースにしています。

 また、『悼む人』の初版部数については、このブログのコメント欄で教えていただいた『創』のバックナンバーに当たり、当時、文春の第一出版局長だった庄野音比古さんの談話、

(引用者注:平成20年/2008年の)後半は東野(引用者注:圭吾)さんの本もそうですが、天童荒太さんの『悼む人』も初版10万部というスタートだし、1月には村山由佳さんの『ダブるファンタジー』、小川洋子さんの長編も出ます」(『創』平成21年/2009年2月号 篠田博之「出版社の徹底研究 東野圭吾旋風で文藝春秋書籍部門の勢い」より)

 を採りました。

           ○

 ほんとうに参考までに、という感じで、同じ時期の芥川賞のほうも、部数を上げてみます。

1701222

 こちらは、

  • 『2012出版指標 年報』平成24年/2012年4月…朝吹真理子「きことわ」、西村賢太「苦役列車」
  • 『2011出版指標 年報』平成23年/2011年4月…赤染晶子「乙女の密告」
  • 『2010出版指標 年報』平成22年/2010年4月…磯崎憲一郎「終の住処」、津村記久子「ポトスライムの舟」
  • 『2009出版指標 年報』平成21年/2009年4月…楊逸「時が滲む朝」、川上未映子「乳と卵」
  • 『2008出版指標 年報』平成20年/2008年4月…諏訪哲史「アサッテの人」、青山七恵「ひとり日和」
  • 『朝日新聞』平成18年/2006年7月15日…絲山秋子「沖で待つ」

 と、ほぼ『出版指標 年報』の数字に頼ってしまいました。

 これで、(不明なものが混じっていて気持ち悪いんですけど)ここ10年間の直木賞と芥川賞の受賞作が、受賞効果でどれくらい売れてきたか、挙げたことになるんですが、わずか10年。とはいえ、両賞の歴史80余年の、8分の1の長さがありますから、ある程度の動き、傾向、興亡は見えると思います。

 ……うーん、見えるんでしょうか。

 とにかく直・芥賞と聞くだけで戦闘意欲がふるい立つ、「話題になった本」嫌いの人ならば、「10万部いくかいかないか、程度のところでウロウロしているんなんて、往年の権威もなくなったもんだな。売れてるのは、受賞者のキャラが立っているとか、映画化されたとか、そんなんばっかり」と、おなじみのテンプレ批判を繰り出すかもしれません。

 逆に、出版界が市場として存続することを願う、ポジティブなことを言いつづける類いの人ならば、「この出版不況の時代に、確実に5万部~10万部売れるなんて、まだまだ直・芥賞も捨てたもんじゃないな。しかもここ1~2年は上昇の兆しもあるし、まだまだ小説の力は衰えていないんだ! これからもこの両賞には、出版界を牽引していってもらわなきゃ」と、これまた、おなじみのテンプレ擁護で、イイ人ぶるかもしれません。

 正直、直木賞と芥川賞の部数推移をもとに、客観的な結論など導きだせるものなのか。こんなものに、(感覚や、こじつけではない)傾向なんて存在するのか。……調べれば調べるほど懐疑的になっていく、というのがいまのワタクシの実感です。

 ただ、この程度ではまだ結論づけるのは早すぎる、っていうのはたしかでしょう。直木賞の場合は、ただ歴史を追うだけで楽しいですしね。もうちょっと調べていきたいと思います。

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