第155回(平成28年/2016年上半期)の話はやめて、昔の直木賞の話だけにします。
7月19日まであと2日になりました。今週は、第155回(平成28年/2016年上半期)の予想や展望、でも書こうかなと思ったんですけど、好きで小説を読んでいるだけのド素人が、語れるようなことは、とくにないです。
まあ、ふつうに考えたら今回は、これぞ!という強力な作品の見当たらない、凪の戦い。と言いますか、おおむね(一般的な)盛り上がりに欠ける、要するに直木賞にとってはいつもどおりの、低温度な回だと思います。これで選考前から騒げるのは、よほどの変わり者にちがいありません。……って、変わり者で悪かったな。ほっといてください。
こんなときには、無理に盛り上がろうとする必要、ないと思います。夕涼みがてら縁側にすわって、昔ばなしでもしながら、静かにお茶でも飲む。という楽しみ方ができるのが直木賞のよさで、さすが、だてに「ジジババたちの文学賞」と言われているわけじゃありません。自分がこれまで実際に見聞きしてきた回が増えれば増えるほど、賞の面白みが増していく。ということを年々実感しているワタクシは、もう完全なジジイです。
どうせ何もしなくたって、新しい回は、じきに結果が出ます。ここは淡々と、昔を思い返しながら、当時の直木賞に思いを馳せる。直木賞って、それだけで十分に楽しいんですよね。予想とか展望とか、そういうの、正直、疲れるでしょ? 今日はジジイの茶飲みバナシです。
第134回(平成17年/2005年・下半期)平成18年/2006年1月発表
すでに人気者だった東野圭吾VS.伊坂幸太郎、直木賞の場で3度目の対決。しかも、どちらも文春の本ということで(何かよくわかんないけど)有利そうだぞ。と思われていたところ、渡辺淳一さんの反対票むなしく、東野さんがようやく受賞した回です。
※会見で経緯説明をした選考委員:阿刀田高
◎受賞した候補:東野圭吾『容疑者Xの献身』
○決選投票に残った候補:伊坂幸太郎『死神の精度』
△比較的評価の高かった候補:恒川光太郎『夜市』
●最初の投票で落ちた候補:恩田陸『蒲公英草紙』、姫野カオルコ『ハルカ・エイティ』、荻原浩『あの日にドライブ』
第136回(平成18年/2006年・下半期)平成19年/2007年1月発表
果たして、平成18年/2006年のベストセラー『一瞬の風になれ』が、熱い世間の声を反映して直木賞もとるだろうか。などと注目されましたが、決選にすら進めず。直木賞ってさ、何か世間とズレているよね、ということを、まざまざと露呈してしまいました。ちなみにこれがいまのところ、最後の「受賞なし」の回。9年半前のことです。
※会見で経緯説明をした選考委員:阿刀田高
◎受賞した候補:なし
○決選投票に残った候補:池井戸潤『空飛ぶタイヤ』、北村薫『ひとがた流し』、三崎亜記『失われた町』
●最初の投票で落ちた候補:佐藤多佳子『一瞬の風になれ』、白石一文『どれくらいの愛情』、荻原浩『四度目の氷河期』
第139回(平成20年/2008年・上半期)平成20年/2008年7月発表
何よりも、候補作が発表されたあとに、「なんで伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』が候補に入っていないんだ!?」と、そこにいない人のことがいちばんの話題になったという、何とも悲しい回だったんですけど、「売れない小説を選ぶ」直木賞の伝統は、健在でした。
※会見で経緯説明をした選考委員:平岩弓枝
◎受賞した候補:井上荒野『切羽へ』
○決選投票に残った候補:山本兼一『千両花嫁』、和田竜『のぼうの城』
●最初の投票で落ちた候補:新野剛志『あぽやん』、三崎亜記『鼓笛隊の襲来』、荻原浩『愛しの座敷わらし』
第144回(平成22年/2010年・下半期)平成23年/2011年1月発表
道尾秀介さん5期連続の候補から、いよいよ受賞! ということで、大きなスポットライトが当たる……かと期待されたんですが、だいたい話題は芥川賞にかっさわられまして、直木賞にしみついた生来の「地味さ」に、ワタクシは涙しました。
※会見で経緯説明をした選考委員:宮部みゆき
◎受賞した候補:木内昇『漂砂のうたう』、道尾秀介『月と蟹』
○決選投票に残った候補:(上記、受賞2作)
●最初の投票で落ちた候補:犬飼六岐『蛻』、貴志祐介『悪の教典』、荻原浩『砂の王国』
第146回(平成23年/2011年・下半期)平成24年/2012年1月発表
いうまでもなく、この回も、受賞後の一般の関心は、芥川賞のほうが圧倒的に上。「受賞会見で何かやらかさないと本なんか売れないんだよね」とテキトーな感想をのべる人たちを尻目に、着実に(大量に)新作を発表しつづけている葉室麟さんのエラさが光ります。
※会見で経緯説明をした選考委員:浅田次郎
◎受賞した候補:葉室麟『蜩ノ記』
○決選投票に残った候補:桜木紫乃『ラブレス』
△議論のすえ決選投票に残らなかった候補:伊東潤『城を噛ませた男』
●最初の投票で落ちた候補:歌野晶午『春から夏、やがて冬』、恩田陸『夢違』、真山仁『コラプティオ』
第147回(平成24年/2012年・上半期)平成24年/2012年7月発表
新人のSFが直木賞候補に! なんてことで興奮したのは、おそらく一部の特殊人種、通称「SFファン」ぐらいなものだと思うのでスルーしますが(……いや、冗談ですよ)、この年の5月、山本周五郎賞で2作同時受賞まで検討された原田マハさん、辻村深月さんの両者が、ここでも接戦を演じました。
※会見で経緯説明をした選考委員:桐野夏生
◎受賞した候補:辻村深月『鍵のない夢を見る』
○決選投票に残った候補:原田マハ『楽園のカンヴァス』
●最初の投票で落ちた候補:朝井リョウ『もういちど生まれる』、貫井徳郎『新月譚』、宮内悠介『盤上の夜』
第148回(平成24年/2012年・下半期)平成25年/2013年1月発表
戦後最年少の23歳受賞者が誕生し、これはさすがに、直木賞が話題を独占するでしょ。という臆測はもろくも打ち砕かれ、「芥川賞最高齢受賞」と合わせてセット、になってしまう展開に。……もはや直木賞は、そういう星の下に生まれた、としか言いようがありません。
※会見で経緯説明をした選考委員:北方謙三
◎受賞した候補:朝井リョウ『何者』、安部龍太郎『等伯』
○決選投票に残った候補:西加奈子『ふくわらい』
●最初の投票で落ちた候補:有川浩『空飛ぶ広報室』、志川節子『春はそこまで』、伊東潤『国を蹴った男』
第149回(平成25年/2013年・上半期)平成25年/2013年7月発表
ゴールデンボンバーのファン、という、もはや何がどう直木賞と関係があるのか、理解不能な原因で受賞作がたくさん売れ、「何だこの小説、全然面白くないじゃないか」と文句を言う購買者が続出することになった、伝説の神回。
※会見で経緯説明をした選考委員:阿刀田高
◎受賞した候補:桜木紫乃『ホテルローヤル』
○決選投票に残った候補:伊東潤『巨鯨の海』、宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』
●最初の投票で落ちた候補:恩田陸『夜の底は柔らかな幻』、原田マハ『ジヴェルニーの食卓』、湊かなえ『望郷』
第150回(平成25年/2013年・下半期)平成26年/2014年1月発表
とにかく長く(だらだらと)続けてきた証し、150回の記念回!……の割りには、受賞者も受賞作も爆発せず、とくに芥川賞が相当ジミな線で落ち着いたことに、ほっと胸を撫で下ろした外道は、だれだ。ワタクシだ。
※会見で経緯説明をした選考委員:浅田次郎
◎受賞した候補:朝井まかて『恋歌』、姫野カオルコ『昭和の犬』
○決選投票に残った候補:(上記、受賞2作)
●最初の投票で落ちた候補:伊東潤『王になろうとした男』、千早茜『あとかた』、万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』、柚木麻子『伊藤くんA to E』
第151回(平成26年/2014年・上半期)平成26年/2014年7月発表
いまさら候補にするか!? というベテラン、黒川博行さんのシリーズ物が候補に挙がり、他の作品と大差がついて受賞。平穏無事に「落穂拾い」が達成された回でした。
※会見で経緯説明をした選考委員:伊集院静
◎受賞した候補:黒川博行『破門』
△比較的評価の高かった候補:千早茜『男ともだち』
●最初の投票で落ちた候補:伊吹有喜『ミッドナイト・バス』、貫井徳郎『私に似た人』、柚木麻子『本屋さんのダイアナ』、米澤穂信『満願』
第153回(平成27年/2015年・上半期)平成27年/2015年7月発表
これも、受賞作と2位以下には、圧倒的な差がついたそうです。「20年に1度の傑作」とのふれこみで、直木賞としてはツッコまれどころの少ない結果を出したはずなんですけど、たまたま芥川賞のハデ回とぶつかってしまったせいで、後世の文学史家たちが平成27年/2015年を語るとき、『流』のことには触れてくれないんじゃないか、と不安ばかりが募ります。
※会見で経緯説明をした選考委員:北方謙三
◎受賞した候補:東山彰良『流』
○決選投票に残った候補:澤田瞳子『若冲』、馳星周『アンタッチャブル』
●最初の投票で落ちた候補:西川美和『永い言い訳』、柚木麻子『ナイルパーチの女子会』、門井慶喜『東京帝大叡古教授』
○
それで、ざっくりまとめますと、「6人とも候補歴がある」といいながら、ほんとうに受賞しそうなところまで行ったことのある経験者は、原田マハさんと伊東潤さんの2人だけ。あとは、選考会でさほど支持を受けたことのない、(直木賞じゃ)低評価の人たちばっかじゃん。……いや、話題がそれました。過去のことに思いを馳せるとかカッコつけておきながら、すみません。
7月19日の火曜日に第155回の選考会が開かれて、今回も恒例、ニコニコ生放送で記者会見の様子が放送されるらしいんですが、こういうの、いちいち追っていたら疲れるだけです。やっぱり直木賞って、しばらくたってから、昔ばなし程度に思い出すのが、ちょうどいいのかもしれません。
自分には何の関係もないのに、すでに胸がドキドキして、選考会当日が待ち遠しくてたまらない、という馬鹿げた心境から早く抜け出して、年相応に、静かに直木賞の日を過ごせるような、ふつうのジジイに、ワタクシも早くなりたいです。
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