第155回直木賞(平成28年/2016年上半期)決定の夜に
「どうですか直木賞。思い返して、直木賞が(芥川賞とは別に)盛り上がったことなど、いったいいつまでさかのぼらなきゃいけないんだ。って感じの、順当で、誰もが予想しそうな、当然感あふれる、サラーッとした受賞風景。」
(以上、平成28年/2016年1月20日付 前回第154回決定の夜に書いた、当ブログからの再掲)
そうなんですよね。紙予想の津田淳子さんは別格としまして、書評家の大矢博子さんも本命予想で当てられたそうですし、先日おこなわれたうちのサイトのイベントでも、参加者に予想をうかがったとき、いちばん得票数の多かったのが『海の見える理髪店』でした(まあ、ワタクシ自身の予想は聞かないでください)。候補回数が多ければ有利、の都市伝説復活、ってところですか。
しかしです。個人的にはどれにしたって甲乙つけがたく、とった作品だろうが、とらなかった作品だろうが、あんまり印象に差はありません。「すばらしき精鋭の士そろいぶみ」の回に名を連ねてくれた、候補者にはぜひお礼を申し上げたいです。(……毎回、変わり映えもせずに、感謝を述べているだけで芸がないんですけど、これがワタクシの正直な気持ちなので、しかたありません)
『家康、江戸を建てる』の、まったく本の分厚さを感じさせない爽やかな読み心地。戦国・江戸時代と、現代の感覚を自由自在に行き来する軽やかさ。門井慶喜さんには、これからも、暗くて地味ーな時代・歴史小説、のイメージをどんどんぶっ壊していただきまして、門井さんだけにしか到達できない境地へと、邁進していってほしいです。そうすりゃ、きっと直木賞のほうから、ごめんなさい、と折れるときがくるでしょう。
米澤穂信さん、いよいよ、「常連候補」のゾーンに入った感がありますよね。次の候補作が、いったいどういうミステリーになるのか、いまからワクワクしています。直木賞なんて、きっと煩わしい行事なんだと思いますが、ぜひまたお付き合いください。
ひたひたと不気味に懐に刀を忍ばせている感じの、今回の候補作ラインナップのなかにあって、『暗幕のゲルニカ』の、メッセージ性の熱さに、圧倒されちゃいました。いよいよ原田マハさんの美術系統の小説が候補のなかに入っていないと、満足できないからだになってしまいそうです。また、「熱いけど、それでも下品にならない」原田節の小説、よろしくお願いいたします。
確実に直木賞を超えて売れちゃう作家の代表格なのに、湊かなえさんのような方に、直木賞みたいなシケた行事にお出ましいただけて、うれしいです。ありがとうございました。湊さんの小説が直木賞と相性が合わないのか、選考委員の人たちのやることなんで、よくわかりませんけど、たぶん悪気はありません。今後、直木賞が歩み寄る機会があったら、快く、迎え入れてやってください。
それで、ここで泣いていいですか。吠えていいですか。何で、どうして伊東潤さんに、あげないんだよおー。だからこれまで、何度かチャンスがあったときに、すんなり賞を送っていれば、こんなことにはならなかった、と言っているのに。バンバンバン。……と机を叩きながら過去を嘆いても仕方ないです。いつだってチャレンジャーで、決してひるまない伊東潤、グレードアップした6度目の候補がやってくる日を、祈りながら眠りにつきたいと思います。
○
荻原浩さんの、アノ作風どおりの人柄がにじみ出ている、って感じの受賞記者会見。(先鋭的でも、強烈でもないけど)いつも穏やかに流れていく直木賞にぴったり、というしかないじゃないですか。そうか、「しっくり」という言葉は、この日の荻原さんと直木賞のためにあったのか。ベテランの書いた、なにげない(なにげなさすぎる)作品集を見て、これは直木賞向きではない、と文句を垂れる人の気が知れません(って、そんな人はいないか)。
長篇、長篇、長篇、長篇、と候補に挙げてから、5年半もあいてポロッと飛び出た短篇集に、なにごともなかったような顔してコソッと授賞。とか、直木賞、カワイすぎますよ! この愛嬌こそが直木賞の本領。話題にとぼしい、サラーッとした受賞だったとしても、いえいえ、これで満足っす。
○
第149回(平成25年/2013年上半期)で19時03分、第150回(平成25年/2013年下半期)で19時12分、を叩きだしてから、19時29分、19時33分、19時36分、19時42分と、だんだん発表時刻が遅くなってきていたんですが、今回の直木賞は、なにげに早めに発表されました。そこまで紛糾するような議論の流れではなかったからか、長時間選考への反省が(主催者・文春側に)あったか、選考委員がさっさと帰りたかったからか、いずれかだと思います(いずれでもない気もします)。
受賞会見場への結果発表貼り出しの時間は、以下のとおりです。
- ニコニコ生放送……芥:19時14分(前期比+11分) 直:19時16分(前期比-26分)
芥川賞のほうも、うわさによれば、本命推しの多かった候補作が受賞したんだそうで、発表も早い時刻に落ち着き、受賞者もそれぞれ1人ずつの計2名、まったく荒れない第155回、つつがなく風のように過ぎ去っていきました。「ジジババのための文学賞」の、この心地よさ。またこれから、長ーい半年間を待たなきゃならないかと思うと、寂しいかぎりですが、第156回もきっと楽しい直木賞でしょう。昔の直木賞のことを調べて楽しく過ごしながら、その日がくるのを待っています。
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