第145回直木賞『下町ロケット』以降、第155回直木賞『海の見える理髪店』までの受賞作単行本部数
第155回(平成28年/2016年・上半期)
第154回(平成27年/2015年・下半期)
第153回(平成27年/2015年・上半期)
第152回(平成26年/2014年・下半期)
第151回(平成26年/2014年・上半期)
第150回(平成25年/2013年・下半期)
第149回(平成25年/2013年・上半期)
第148回(平成24年/2012年・下半期)
第147回(平成24年/2012年・上半期)
第146回(平成23年/2011年・下半期)
第145回(平成23年/2011年・上半期)
(以上すべて受賞作)
決まっちゃいましたね。今期の直木賞。
あとは8月下旬に選評が出れば、12月下旬までの4か月間、昔の直木賞のあれこれを楽しみながら生活する、という静かな日常が戻ってきます。ブログもまた、これまでと変わらず、昔の直木賞のことばかり書いていきたいです。
でも、直近の直木賞だって、全体に占める比率はごくわずかですけど、いちおう、直木賞は直木賞です。まだ関心が残っているうちに触れておかないと、今後、取り上げる気分になりそうもありません。なので今週は、直近の(だいたい10回分=5年分)ぐらいの、受賞作の部数を、まとめておきたいと思います。
過去5年ぐらいであれば、さすがにネットから、いろいろと情報が拾えるので、うちのブログで書いておく必要はないかもしれません。とくに、受賞決定後、いち早くその増刷情報・増刷部数などを報じてくれる出版業界紙「新文化」、という大変頼もしい存在がありまして、今回の第155回(平成28年/2016年・上半期)についても、「集英社、直木賞『海の見える理髪店』を9万部重版」、「芥川賞『コンビニ人間』、発売前に4万部重版」と、教えてくれています。
とりあえず今回は、直木賞・芥川賞とも、なんだか、いまいち盛り上がらないな、静かな受賞風景だったよね。という印象の割りには、ともに刷り部数10万部の大台に乗せました。「直木賞って昔ほどは売れないんだぜ、売れなくなったんだぜ、ざまあだぜ」と、威勢のいいアンチ直木賞野郎どもが声を枯らして叫びつづけているというのに、アノ地味な『海の見える理髪店』が10万部も刷られちゃうんですよ。……相変らず、直木賞ってのは、狂った世界を保っています。
受賞作の部数を明らかにしてくれる、って意味で、もうひとつ頼もしい媒体が『朝日新聞』です。昔から読書欄に「ベストセラー診断」「売れてる秘密」「ベストセラー快読」と題して、書評+その段階までの発行部数をセットで掲載してきた新聞なんですが、いまは「売れてる本」というコーナー名でやっています。
直木賞の受賞作が、ここで取り上げられることも、たまにあります。書評のほうは、まあどうでもいいんですけど、部数を明確に示してくれていることに、高い存在価値がある素晴らしいコーナーです。前回、今年1月に決まった第154回(平成27年/2015年・下半期)では、平成28年/2016年1月31日付で青山文平『つまをめとらば』が取り上げられまして、「3刷8万6500部」と記録されています。
その前の第153回(平成27年/2015年・上半期)。これはもう、芥川賞のほうが「何部売れたか、っていうことだけで賞史に一ページを刻む」、芥川賞が何度も繰り返してきた、おなじみ感満載の回でした。
当然(といいましょうか)、直木賞も含めて他の2つの受賞作もまた、『火花』の部数の話題があったおかげで、どのくらいの部数になったか、自然と触れられるレールが敷かれた。と見るのは、うがちすぎかもしれませんが、
「(引用者注:東山彰良『流』について)「選考会後の会見に登場した北方謙三委員がまず口にしたのは、「芥川賞は話題の人が受賞して大変な騒ぎのようだが」という一言だった。直木賞の委員が芥川賞に言及するのは珍しい。というのも、この回の芥川賞受賞者は、羽田圭介さんと又吉直樹さん。人気芸人の又吉さんの『火花』は受賞前から話題だっただけに、“又吉騒動”の裏で、『流』が埋没してしまうことを危惧したのだった。
その後に北方さんが続けた言葉が力強い。「直木賞も捨てたものじゃない。それどころか20年に1度の傑作」。後日、版元が新聞1ページを使って出した広告でも、東野圭吾さんや宮部みゆきさんら選考委員5氏が熱い推薦文を寄せ、同書は現在、9刷24万部。」(『読売新聞』平成27年/2015年12月8日「回顧2015 エンターテインメント ベストセラー 言葉が後押し」より ―署名:文化部 村田雅幸)
こういう年間回顧の記事で、直木賞受賞作のことに触れられるのはいつもどおりです。でも、あえて部数にまで言及されているのは、珍しいことです。
ちなみに、上記の『読売』では、この年の1月に決まった第152回(平成26年/2014年・下半期)西加奈子さんの『サラバ!』(上・下)について、もちろん紹介はされているんですけど、部数は書いてありません。
『サラバ!』は何といっても、上・下巻の2巻本です。2冊合計の部数を、1巻で勝負している(?)他の受賞作と並べて比較するのがフェアなのかどうか、よくわからない。という問題を抱えていますが、とりあえず、版元の小学館の発表では、直木賞受賞(平成27年/2015年1月)でそれぞれの巻を各10万部ずつ増刷、同年3月、2巻計で30万部を超え、4月に本屋大賞2位となって35万部突破。オリコンの11月22日までの集計では、推定売上が上巻24万部弱、下巻17万部強、といったところまで行ったらしく、直木賞のなかでは、かなり優秀な売上だったと言っていいと思います。
○
第151回(平成26年/2014年・上半期)は、超をつけてもいいベテラン作家、黒川博行さんの『破門』。「今まで5万部以上売れた本がなかった」と発言して、浪速の読み物キング、にしてはかなりお寒い状況だったことが明かされましたが、受賞によって5刷・10万部に届いたそうです。
ただ、その後、映画公開が決まったときの宣伝文句で、まだ「10万部超え」という表現が使われていたことから考えると、10万部以上はさほど伸びなかった、と想像されます。直木賞受賞作としては、平均水準の部数です。
平均水準だったのは、第150回(平成25年/2013年・下半期)のときも同じで、「ジャージ会見」の姫野カオルコさん『昭和の犬』が、初版6000部、候補決定で増刷2000部、受賞して一気に10万部をプラス。いったいそのうち、どの程度売れたというのか、想像するのもおそろしいんですが、発行部数では、直木賞の平均に届きました(あるいは、届かせました)。
同時受賞の朝井まかてさんの『恋歌』は、
「本も売れ続けている。出版元の講談社によると、水戸市で女性を中心に今も好調で、すでに8万部を突破したという。県内を中心に展開する「ブックエース」の販売担当者は「水戸光圀の生涯を描いた『光圀伝』を上回る勢い。歴史小説でここまで女性に受け入れられるのは異例中の異例」と驚く。」(『朝日新聞』茨城版 平成26年/2014年4月27日「中島歌子の生き方、女性ら共感 生涯描いた「恋歌」、直木賞から3カ月」より ―署名:麻田真衣)
「歴史小説でここまで女性に受け入れられる」のが異例だったとしても、直木賞受賞作の部数としては、平均か、それ以下の伸びですね、といった感じ。
なにしろ、その半年前、第149回(平成25年/2013年・上半期)が、作品の力じゃなく受賞にまつわるネタニュースの力だけで爆発的に売れてしまった、まさに直木賞にとって異例中の異例な回でした。
桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』は、受賞前の段階で約1万3500部だった、と言われていて(これでも、あの作品からすれば、よく刷ったほうだと思いますけど)、7月17日の受賞会見以降、一気に売上が飛躍。わずか1か月ちょっと、8月23日に贈呈式がおこなわれる前後までに、50万3500部まで行っちゃいます。
「いくら受賞が話題になったからって、作品の力がなければそこまでは売れない」という意見は、どう考えても無理スジで、作品の力が1、2万部、直木賞にはそれを10万部程度まで押し上げる力があって、あとの40万部は、テレビを中心とした芸能部門のおかげです。そこにハマるような直木賞受賞作は、そう簡単には出てきません。
いや、でも桜木さんの場合は、1か月ちょっとの、熱の冷めないハイスピードで、一気に部数を伸ばし切る、という実績をつくったから、まだいいほうだと思います。直木賞(+芥川賞)の「カラ騒ぎ」感を、強烈に実現させたのが第148回(平成24年/2012年・下半期)。芥川賞の黒田夏子さん『abさんご』が14万部。朝井リョウさん『何者』が、例の『朝日新聞』「売れてる本」で3月3日付に取り上げられたときに「6刷13万8千部」。安部龍太郎さん『等伯』は、日本経済新聞出版社の社長が翌年5月に語ったところでは「23万部超え」、これは上・下巻なので、売れゆきの面からすると、他の2作と同程度です。
あれだけ、話題性があるかのように取り上げられた回で、いずれも、平均並みに毛が生えたぐらい。「史上最高齢&戦後最年少」、なんて、まあどうでもいい、っちゃどうでもいいハナシですもんね、というすさまじいカラ騒ぎ回でした(というか、この二人と並んだ地味なおじさん、安部さんの作品も同レベルで売ったことのほうが、スゴくないですか?)。
あとはさらっと、第145回までさかのぼります。
第147回(平成24年/2012年・上半期)辻村深月さんの『鍵のない夢を見る』は、平成24年/2012年の文藝春秋のベストセラー第7位だそうです。6位の『はなちゃんのみそ汁』が13万部とも17万部とも言われ、9位の『137億年の物語』が10万部を超えてプラス数万。と宣伝されていますので、『鍵のない~』もだいたい10万部台前半、といったところでしょう。はっきりいって、並です。
第146回(平成23年/2011年・下半期)は祥伝社。葉室麟さん『蜩ノ記』は順調に売り上げて、受賞から1か月くらいで18万部、翌年3月に映画化決定のニュースのときには、20万部を突破した時代小説、と紹介されました。円城塔さんの受賞作を大きく引き離し、ベストセラーベストセラーと騒がれた(?)田中慎弥さんの『共喰い』に食い下がるところまで売ったという、直木賞ナイスプレーです。
第145回(平成23年/2011年・上半期)は、芥川賞に該当作がなく、受賞ニュースは池井戸潤さん『下町ロケット』が独占しました。その後、池井戸さんをとりまく環境は大きく変わり、「直木賞受賞作としていくら売れたか」のテーマにとっては夾雑物がいろいろ入り込んできて、わずらわしい限りなんですけど、初版が1万8000部だった、というのは、受賞前から売れ筋だった池井戸さん、さすがの数字。7月に受賞して、どどーんと15万部を増刷し、8月初旬までに4刷・25万部。翌年までには35万部あたりに伸ばしたそうです。その後は、「ベストセラー作家・池井戸潤」がかつて直木賞をとった作品、と後追いの読者が増えていくにつれて増刷を重ねる、「直木賞あるあるゾーン」に入っていきました。
ほんとに、多くの人たちが言うように「直木賞受賞作は売れなくなった」のか、それはまた、昔の直木賞をひとつひとつ、つぶしていくしかないんですけど、そもそも10万部という数字が、文芸書にとってかなりの大部数であることに、間違いはありません。とりあえず、直近5年間、このラインは崩れずに推移してきているんだなあ、とは思います。
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