第153回(平成27年/2015年上半期)直木賞の発表を、まじめに予想する。
今回の第153回(平成27年/2015年・上半期)直木賞は、7月16日(木)に最終選考会が行われます。
1週間を切りました。例によって例のごとく、いま世間の話題は、事前の直木賞予想でもちきり……といったことは、とくにないようですけど、うちのブログとすれば、いったい今度の直木賞がどうなるのか! 毎度のことながら気になってしかたありません。いつもふざけたエントリーしか書いていませんが、今回は心を入れ替え、まじめに王道の予想をしてみたいと思います。
いちおう、可能性順に、本命・対抗・大穴、をつけてみました。こういう予想の仕方に対しては、「競馬予想みたいで馬鹿ばかしい」などと(思いっきり競馬を差別している)感想をもつ人もいたりしますが、基本、直木賞って馬鹿ばかしいものじゃないですか。それに、直木賞予想でいま一般的に使われている用語でもありますので、ここでも、そのまま踏襲することにしました。
以下、第153回直木賞の予想、およびその理由です。
◎本命 19時40分
予想をするからには、やはり過去の直木賞の傾向を参考にしないわけにはいきません。他の予想士もみなさん、そうしていらっしゃいます。おそらく、もう見飽きた方も多いとは思うんですが、改めて過去の直木賞一覧を掲げておきます。最近の過去10回分です。
- 第143回 19時22分(出席委員7名 受賞作:中島京子『小さいおうち』)
- 第144回 19時28分(出席委員9名 受賞作:木内昇『漂砂のうたう』・道尾秀介『月と蟹』)
- 第145回 19時24分(出席委員9名 受賞作:池井戸潤『下町ロケット』)
- 第146回 18時54分(出席委員9名 受賞作:葉室麟『蜩ノ記』)
- 第147回 19時23分(出席委員9名 受賞作:辻村深月『鍵のない夢を見る』)
- 第148回 19時42分(出席委員9名 受賞作:朝井リョウ『何者』・安部龍太郎『等伯』)
- 第149回 19時03分(出席委員9名 受賞作:桜木紫乃『ホテルローヤル』)
- 第150回 19時12分(出席委員10名 受賞作:朝井まかて『恋歌』・姫野カオルコ『昭和の犬』)
- 第151回 19時29分(出席委員9名 受賞作:黒川博行『破門』)
- 第152回 19時33分(出席委員9名 受賞作:西加奈子『サラバ!』)
要するに、平均的な発表時刻は、19時20分台だということです。
人間が集中力を持続していられるのは、2時間ぐらいが限界。などと映画業界あたりで語られているのかどうなのか、ワタクシは知りませんが、選考会は17時00分に始まります。冒頭に、ちょっと司会から挨拶があったり、途中、選考委員がトイレに立って中断したり(2時間ぐらい我慢できないのか!などと責め立てないであげてください。委員のみなさん、高齢者です)の時間をさっぴき、それに終わったあとは飲みに行ったりもしなきゃいけないので(そっちが楽しみで出席する委員もいる、というのは多分デマ)、だいたい手頃なところで、2時間ちょっとで決まるのが通例なわけですね。
ただ、今回は候補作に、読みでのある、重厚・濃厚・迫力のある作品がけっこうあります。江戸時代に実在した芸術家をめぐるアレとか、1970年代の台湾人青年の家族史・青春・恋愛を描いたアレとか。委員それぞれの評価を出し合い、意見を戦わせ、それでも決めかねて、最後にもう少し議論を深めましょう、となるのではないか。
また、2作授賞の目もありそうです。となると、第148回(平成24年/2012年・下半期)のときのように、2つの作品が最終的に残って、2作に授賞するか1作に絞るのか、といった点で軽く揉める可能性は捨てきれません。
さらに今回は、何といってもあれです。外の報道陣が異常なほどに騒がしくなることが、すでに確定しています。「ふふん、どうせみんな芥川賞目当てに来てるんでしょ、こっちは少しぐらい遅く発表したって構う人は誰もいないよね」などと直木賞の選考委員たちがヒネくれちゃって、やたら無用な発言をしあいながら、ゆっくり採決するはずだ……などと予想する人もいるみたいです。だけど、それはいくら何でも裏を読みすぎでしょう。
ともかく長引きそうな要素は、十分にあります。うちのブログでは思い切って、本命ジルシを「19時40分」につけることにしました。
○対抗 19時18分
対抗には、平均に近い時刻を挙げてみました。腰のひけた、何のおもしろみもない、刺激的じゃない予想ですみません。
最近さくっと決まった代表例、といえば第146回(平成23年/2011年・下半期)が真っ先に思い浮かびます。芥川賞より先に直木賞が発表されて日本中が仰天した、例の「直木賞・芥川賞逆転現象」事件です。あのときは、もう誰が見たって出来レース(失礼。「圧倒的にひとりの候補者だけ下馬評の高さが飛び抜けていた」に訂正します)。早々と結論が出るのが自然な回でした。対して今回は、さすがにシャンシャンと決まるような候補作の並びとは言えません。
直木賞の発表時刻を左右する、大きな要素のひとつは、「司会者の進行技量」と言われており、これはたしかWikipediaにも書いてあったかと思います。司会者、つまり『オール讀物』編集長です。第150回(平成25年/2013年・下半期)まで山田憲和編集長が、第151回(平成26年/2014年・上半期)からは武田昇編集長が務めています。
第149回、第150回と、連続して早めの決着となったのは、司会歴を重ねたうえの熟練の技で山田さんが仕切ったからこその結果だ。と、当時2ちゃんねる辺りで話題になったことは、まだ記憶に新しいところです。
武田編集長が挑む3度目の選考会。「そろそろ、うちの会社のやつが選ばれるように、頼むぞ」といった、同僚たちからのプレッシャーを背に受け、イケメン小説家が妻を喪ってグズグズ生きていくアレとか、キャリアウーマンだったはずのアラサーOLが女の友情を求めてタガが外れていくアレとかが、上位の点をとる流れになったら、パッと受賞だけ決めて、ささっと切り上げる見事な技能を見せてくれるかもしれません。
いよいよ武田さんも、初の2時間20分を切る好タイムを叩きだすのではないか。全国の直木賞ファンたちから寄せられる声も、熱くなってきています。そんな期待もこめての予想、「19時18分」です。
▲大穴 20時05分
いや、3時間超えは、さすがに望み薄でしょ。とは思うんですけど、ひょっとするとひょっとするぞ、と心にはとどめておきたい。といった意味での大穴です。
先のリストに挙げたとおり、過去10回では、3時間を超えた選考会は一度もありませんでした。いまのところ第137回(平成19年/2007年・上半期)が最後です。じっさいそれより前までは、うちのサイトが記録してきた時刻を見ても、3時間オーバーの回はけっこう頻繁にあったのに、です。なるほど、近年の直木賞は「短くコンパクト」が特徴のひとつだ、と巷間いわれているのも、うなずけるものがあります。
「コンパクト」になったいちばんの原因は何か。
それは「結果が即時に、世間に公表されるようになった」……つまりニコニコ生放送で記者会見場の生中継がスタートしたことにあった、と見ていいと思います。その他にも、「文学賞なんて生産性皆無のくだらない遊びのために、いつまで光熱エネルギーを無駄づかいしてるんだ!」という、余裕なき(クレーマーじみた)世間の声に押されたからだ、だの、「閉店までに少しでも長く、受賞作として大きく売りたいので、早めに発表してほしい」という、カネ儲けバナシの大好きな書店員たちの要望に応えて、だの、いろいろな説が出回っているのはご存じのとおり。ここで紹介するまでもありません。
しかし、直木賞はそう一筋縄ではいかないのではないか。キャラ立ちした登場人物たちがわんさか登場する公安警察もののアレとか、明治時代の文系の教授がスッキリしない推理ばかりしつづけるアレとかが、善戦した場合のことも、無視するわけにはいきません。
いや。善戦どころじゃありません。「もう6回目の候補なんだしね、この人にあげておけば安全だよね」みたいな、城山三郎さんが生きていたら絶対にブチ切れていたはずの、直木賞特有の空気が、いまなお(濃く)残っているとも洩れ伝わってきます。対して、そういう「伝統」を気にしない新しめの選考委員もいる。壮絶なバトルに発展するかもしれません。すると、思いのほか長引くことはあり得ます。
よし。それなら大穴に賭けてみよう。と思った猛者の方は、19時台はゆっくりと夕食でも召し上がっていてください。
○
受賞作が何になるのか、なんちゅうハナシは、直木賞のなかでも些末中の些末。どうでもいいことですから割愛します。何をさておいても関心は、何時何分に直木賞の結果が発表されるのか。候補者、編集者、報道関係者のみならず、いまでは書店員も、街ゆく読書好きも、そこを気にしているぐらいです。
7月16日、東京築地の「新喜楽」で選考会が行われ、結果の書かれた紙が、「新喜楽」内にある記者たちの控え室、および帝国ホテルの受賞者記者会見場に貼り出されることになっています。ワタクシも一直木賞ファンとして、当然、発表時刻が気になります。「ニコニコ生放送」のライブ映像を見ていれば済むんですけど、物好きが高じてしまい、今回も会見場のほうに行って、直接その瞬間を見てくる予定です。
こんな予想、当たっても外れても大した差はありません。ええ、直木賞の予想って、みんなそんなものだと思います。
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コメント
本命ほぼ的中だったようで、おめでとうございますw
投稿: 毒太 | 2015年7月16日 (木) 19時58分
毒太さん、
ありがとうございます!
ぴったりジャストの的中なら、誇れもするんですけど(……べつに誇れないか)、
ちょっとお題が難問すぎました。
さらなる精進を誓ったところです。
投稿: P.L.B. | 2015年7月17日 (金) 10時42分