第146回直木賞(平成23年/2011年下半期)予想賞について、選考経緯とご報告。
本日、平成24年/2012年1月15日(日)夕刻より、一部の人たちがかたずを呑んで見守る「第146回直木賞予想賞」の選考委員会が開かれました。その選考経緯をご報告いたします。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、念のため本賞について簡単にご説明いたします。
「直木賞予想賞」は、毎年1月と7月に、新進・中堅作家による作品のなかから優秀な大衆文芸を決める「直木賞(正式名:直木三十五賞)」に先立って行われます。直木賞の選考前に、そのゆくえをさまざまな角度から紹介し展望し駄弁る、「直木賞を予想する」という数多くの行為のなかから、最も優秀な予想企画を選び、顕彰するものです。
第146回直木賞予想賞は、第146回直木賞について、候補作が正式に公となった平成24年/2012年1月6日(金)から、選考会2日前の1月15日(日)までに発表された「予想」を、その選考対象とします。原則として、不特定多数の目に触れない媒体で発表された予想は除外されますのでご了解ください。
厳正なる審査の結果、あまたある「予想」のなかから下記の作品(?)が、候補作として選ばれました。(順不同)
■大森望
- 〔ラジオ〕「大竹まこと ゴールデンラジオ!」 大竹紳士交遊録(1月12日)
- 〔WEB記事〕「WEB本の雑誌」 第146回直木賞、決定直前・全候補作チェック&予想(1月13日)
- 〔ラジオ〕「ラジカントロプス2.0」 大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!(1月15日)
■2ちゃんねらー
- 〔WEB掲示板〕「2ちゃんねる」 芥川賞・直木賞、文学賞受賞作予想スレ4(1月6日~15日分)※リンクは「ログ速」
■西日本新聞記者3名
- 〔新聞〕『西日本新聞』 146回芥川・直木賞展望 記者座談会(1月14日)
■@aradon_3
- 〔twitter〕aradon_3 さんの第146回直木賞・芥川賞予想(1月6日~15日分)
■有隣堂ヨドバシAKIBA店・加藤泉
- 〔WEB記事〕「本の泉」 【特集】第146回直木賞大予想!(1月7日)
■あもる
- 〔ブログ〕「感傷的で、あまりに偏狭的な。」 あもる一人直木賞(第146回)選考会(1月6日~12日)※「途中経過1」「途中経過2」※当エントリーアップ後「結果発表・統括」が追加されました
■リアラス「予想ネット」
- 〔WEB投票〕第146回直木賞を受賞する作家は?(1月13日~15日)
■pelebo
- 〔WEB記事〕「直木賞のすべて」 第146回候補の詳細(1月6日)
選考委員の総意により、上記の作品を候補作とすることが了承されたのち、白熱の選考会が始まりました。
○
■大森望によるラジオ・WEB記事等を通じた諸予想
→「大竹まこと ゴールデンラジオ!」「WEB本の雑誌」「ラジカントロプス2.0」
誰もが認める「直木賞予想」の第一人者です。豊崎由美さんとコンビを組んだ「文学賞メッタ斬り!」企画のスタート以来、8年あまりものあいだ、場を変え品を変え、一回も途切れることなく予想しつづける姿勢は、予想士の鑑と言えるでしょう。また、「直木賞予想をする人」としての一般的な認知度は他の追随を許しません。
予想的中率は、以前当ブログでも取り上げたことがありますが、第131回(平成16年/2004年下半期)~第145回(平成23年/2011年上半期)の全15回(受賞作19作・受賞作なし1回)で、本命での的中が9作。45%となっています。
第146回については、
といった予想のようです。
ただ、本予想賞はあくまで「予想行為」の顕彰を目的にしています。そのため、当たるか当たらないかは、選考の基準としてそれほど重視しないことが、今回あらためて選考会で確認されました。
大森さんの予想のなかでも最も人口に膾炙している「文学賞メッタ斬り!」は、本日1月15日(日)24時から放送されます。今回の予想賞では対象期間外となってしまっているところが、残念です。しかし、一部の委員からは、
「メッタ斬り!が直木賞予想界に果たしてきた功績は、はかり知れないほど大きい。その業績をも踏まえて予想賞を授与する手もある」
との、直木賞さながらの意見も飛び出しました。
そんななか、人の作品にケチをつけることだけを生き甲斐にしていると評判の、一人の委員から強硬な反対論があったことも紹介しておきます。
「直木賞予想賞は、本来、世に知られていない予想を一般に知らしめるために創設されたはずだ。すでに予想界に一家を成し、これほど有名になりすぎた人に対して、この賞を贈るのは趣旨に反しているのではないか」
大森さんにはぜひ、菊池寛賞とか吉川英治文学賞とかを予想してもらって、「菊池賞予想賞」もしくは「吉川賞予想賞」あたりをとっていただくのがふさわしい、という雰囲気に流れました。
■「2ちゃんねる」芥川賞・直木賞、文学賞受賞作予想スレ4
→「2ちゃんねる(ログ速)」
予想賞大本命と目された大森望さんに授賞しない!? となると次に注目されるべきは、もちろん2ちゃんねるです。
歴史はおそらく文学賞メッタ斬り!より古いのではないか、というぐらいの実績を誇っています。最初のころは、「芥川賞予想スレ」しか存在していなかったはずですが、途中で直木賞の予想にも進出。いまや、直木賞予想界を影で支えている存在と言えます。
今期も、活発なのか不活発なのかわからない、脱線につぐ脱線を繰り返しながら、日々更新されつづけています。好評価の意見をひとつご紹介しましょう。
「直木賞の予想は、歴史をさかのぼって見れば、“すべての候補作を読まずに、あるいは一作も候補作を読まずに、願望と妄想と思い込みのみで行われる”という伝統的なスタイルがある。そのスタイルを現代において忠実に守っている。ときどき「誰か読んだやつの批評を希望」みたいな書き込みが差し挟まることで、“作品を読まない予想”がいかに根強く、普遍的なものであるかを再確認させてくれるところなどは、秀逸な仕掛けだと思う」
また、匿名であり悪意に満ちあふれている点から、なかなか、こういう賞では取り上げられづらい性質の作品であって、その面でも本賞を授与する意義があるのではないか、との意見も出ました。
例の、ケチつけ委員は、ぼそぼそと、
「「予想スレ」とタイトルは付いているけども、これは「予想」という枠を突き抜けすぎた発言の集合体だからなあ。予想賞で、この作品をとらえるのは違和感があると思うんだがなあ」
と小さくつぶやいていたようですが、その発言に反応する委員はいなかった模様です。
○
■『西日本新聞』146回芥川・直木賞展望 記者座談会
今回の候補のうち、唯一、ネットで確認することのできない予想がこれです。
概要だけ説明しますと、1月13日と14日『西日本新聞』朝刊に載った座談会の記事です。
「注目作の評価は? 地元作家の受賞なるか? 担当記者が展望と予想を語り合った。」(同記事平成24年/2012年1月13日分リードより)
13日が「芥川賞編」、14日が「直木賞編」と2日間にわたって掲載されました。A、B、Cという3人の記者、それと司会役1人という構成になっています。
役まわりとしては「A」は作品紹介と感想を述べるだけで、あまり予想はせず、「B」はほとんどの作品に対して褒め感想、「C」が作品の問題点や予想を請け負う、といったかたちです。
そのなかで「B」が最もプッシュするのが、地元作家の葉室麟さん。
「B 時代ものが苦手な人にも勧められる。緊張感と読後感、いずれも1級であり、これ(引用者注:『蜩ノ記』)こそが本命。」(同記事1月14日分より)
「C」は、いろいろと語ったあとで、最後に、
「C 大本命はなく、ぐいぐい読ませる真山さん(引用者注:真山仁『コラプティオ』)、恩田さん(引用者注:恩田陸『夢違』)に静かに読ませる葉室さん(引用者注:葉室麟『蜩ノ記』)、桜木さん(引用者注:桜木紫乃『ラブレス』)が対抗する。この中の組み合わせで2作受賞か、なしにするかの選択のような気がする。1作受賞の場合は、圧倒的に支持を集めて真山さんではないだろうか。」(同)
との予想を披露してくれています。
この予想企画への評価は真っ二つに割れました。
「直木賞の予想は、これまでさんざん文学の本道から外れていると馬鹿にされつづけてきた企画。それを21世紀のいまもなお、勇気をもって記事にしている」とする賛成派と、「単に、田中慎弥、葉室麟という地元作家が候補になったから記事にしただけで、予想文化そのものに寄与する点は少ない」とする反対派の対立です。
両者の意見が相容れるところはなく、議論は平行線をたどったままでした。
■@aradon_3 による第146回直木賞・芥川賞予想
twitterから候補入りしたのは、@aradon_3さんによる一連の予想ツイートです。
まだ直木賞の候補作が発表される前から、候補になりそうな小説を読み始め、公式発表前のフライングツイートを受けて未読のものを購入し、約10日間で全候補作を読みながら感想を語っていき、最後に自分の予想を披露する。……この過程をつぶさに発言していくことで、twitterならではの予想作品を完成させました。
最終的な予想の内容は、
となっています。
「とくにギャラなどの見返りのない前提のなかで、すべての作品を読んで予想しようとする姿勢、業界の動向を頼りにしたり客観的な分析に比重を置いたりせず、自分の好き嫌いを反映させたうえでの判断、などなど「直木賞の予想」行為としては非の打ちどころがない」
と絶賛する意見が聞かれました。
ただ、twitterの特性上、直木賞予想とは関係のないツイートにまぎれてしまい、ひとつの作品として見るには無理がある点を危惧する声も挙がりました。
■有隣堂「本の泉」【特集】第146回直木賞大予想!
→「本の泉」
書店である有隣堂が運営している「本の泉」内にアップされた予想記事です。
架空の書店員3名が6つの候補作を紹介しながら展望をさぐる、という形式をとっています。毒がないので安心して読むことのできる作品に仕上がっている、との評価を受けて、候補作に挙げられました。
予想の内容は、
です。
本選考会でも、「書店という立場からくるバランスのよさ、言い換えれば、どの作品に対してもはっきりとダメと言い切れないもどかしさ」の点を問題視する意見が飛び交いました。
「これはこれで、求めている予想ファンがいるのは理解できる。しかし「直木賞の予想」といえば、もっとドロドロしたリアリティーがなければならない」
と堂々と自説を述べた委員もいました。しかし、その発言に対しては会場内に嘲笑まじりの失笑が洩れていたことも付け加えさせていただきます。
■あもる一人直木賞(第146回)選考会
→「あもる一人直木賞選考会スタート」「途中経過1」「途中経過2」※(当予想賞選考より後に追加された記事→)「結果発表・統括」
一般読者の目線から、版元の利害関係や出版界のしがらみなどから遠く離れた場所で、直木賞の予想を発表する。ブログというものが日本で広がり定着するなかで、それが直木賞予想の王道となり、予想の大部分を占めるにいたったことは、衆目の一致するところでしょう。
何百もあると言われている、ブログ内直木賞予想のなかから、あもるさんのブログ「感傷的で、あまりに偏狭的な。」が候補に選ばれました。その理由はひとえに、一過性のものではなく毎回全候補作を読んで予想を立てている努力と継続性。これに尽きます。
基本、直木賞予想をするに当たって、すべての候補作を読む人種は、よほどのひま人か、それで生計を立てている人、と相場が決まっています。しかし、第三の人種を忘れてはなりますまい。「直木賞の予想が好きだから、忙しいなかでも無報酬でも、全部読む」人たちです。
あもるさんは、まさに第三の人種と言えましょう。今回もすでに「一人選考会」を始めていて、1月12日までに4作を読破のうえ、下記のような順位を付けています。
しかしまだ今回は、最終予想の発表にまで至っていません。今日の選考会でも「評価するのは完結してからでいいのではないか。次期の予想賞まで待ちたい」と意見が出ました。そう発言したのは、例のケチつけ委員です。あまりにケチをつけるので、選考会が険悪なムードとなり、殴り合いのケンカでも始まるのではないかと緊張感が走りました。
■「予想ネット」第146回直木賞を受賞する作家は?
→「予想ネット」
選考会の始まる17日(火)午後5時までを期限として、「予想ネット」に会員登録したユーザーが、手持ちのポイントを賭けて受賞作を予想する、というページです。
「他の人が予想している理由など、そういう雑念を一切排した、予想行為のみを純粋に楽しむ、ストイックなまでの予想企画。投票層が増えて、これが一般化したら、直木賞予想界をくつがえす革命児にもなりうるだろう」
とベタ褒めする委員も。
しかし、例のケチつけ委員が、例のごとく反論しました。
「どうも参加人数が少なすぎる、という疑念を拭い切れない。オッズ上限10倍で、現段階で10倍の選択肢が5つもある。オッズとして態をなしている選択肢が3つしかない、というのはいかがなものか」
15日午後7時現在で、
たしかに他の選択肢はすべてオッズ10倍で、差がついていません。
もう少し企画が成熟するのを見守りたい、という意見が大勢を占めたのも無理なし、と言えましょう。
○
■「直木賞のすべて」第146回候補の詳細
→「直木賞のすべて」
最後の候補作です。サイト開設の平成12年/2000年当時から12年間、毎回、直木賞の候補作が発表された直後に、全候補作家の紹介と、サイト管理人によるちょっとしたコメントが掲載されるページです。
ここまでの選考会でケチばかりつけていた委員が一転、急にこの作品への授賞を主張し始めました。
「24回連続でつづけている粘着性。候補発表の直後に発表する即行性。なにより、そんなに世間に知られていない。予想賞を授けるに最も適切な作品ではないか」
しかし、場内がにわかにざわつき、「でもこのページ、全然予想してないじゃないか……」「候補作家と作品を紹介するのが主の記事であって、選考対象とするにはコメント欄が短すぎる……」と、反対意見が続出。
しまいには、「あなた、そんなに推薦しているけど、実はこのページつくったの、あなたじゃないの?」と、ケチつけ委員の正体を暴露する者があらわれて、不正が明らかに。
場内混乱のなか、スネてしまったケチつけ委員は、すごすごと退場していきました。ということは、本賞の選考委員はひとりしかいないので、選考会の続行は不可能。第146回直木賞予想賞は、残念ながらノーコンテスト、となってしまったことを、ここにご報告いたします。
けれども、みなさんご安心ください。
予想賞は決まらずとも、直木賞の選考会は予定どおり1月17日(火)に行われます。そちらの選考会は午後5時スタート。候補作にケチをつける委員がいようがいまいが、午後7時~8時ごろには、何かしらの結果が発表されます。
ニコニコ生放送での中継、主催団体ほか各種サイトでの発表、テレビ・ラジオのニュースで取り上げられたりと、本予想賞より何万倍も盛り上がること確実です。安心して、あと2日間をお過ごしください。
| 固定リンク
« 井伏鱒二(第6回 昭和12年/1937年下半期受賞) フィクションじゃなく小説っぽくもない。でも、だからこそ直木賞をとれたのかもしれない。 | トップページ | 第146回直木賞(平成23年/2011年下半期)決定の夜に »
「まもなく選考会」カテゴリの記事
- 直木賞がやってきた「逆説の選考」を、第171回(令和6年/2024年上半期)候補作にも当てはめてみる。(2024.07.14)
- 第170回(令和5年/2023年下半期)直木賞、候補者の親ってどんな人たち?(2024.01.14)
- 第169回(令和5年/2023年上半期)直木賞、「親と子供のきずな」ランキング(2023.07.16)
- 第168回(令和4年/2022年下半期)直木賞候補者は、どれだけ賞金を稼いできたか。(2023.01.15)
- 第167回(令和4年/2022年上半期)の直木賞候補作も、全部、カネがらみです。(2022.07.17)
コメント