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2011年1月16日 (日)

第144回直木賞(平成22年/2010年下半期)の影でひっそり行われるとウワサの「逆・直木賞」予想。

 すっかりおなじみになりました。年に二回、ほとんど権威とは無縁のところで開催されている文学賞「逆・直木賞」。今回の平成22年/2010年・下半期で第144回を迎えます。

 既報のとおり、今回の候補作(平成22年/2010年6月~11月に発表された小説)は下記の9作品が選ばれました。文学ファン……いや、文学賞ファンのあいだで早くも、誰がその栄冠に輝くのか、下馬評が飛び交っているので、ごぞんじの方も多いはずです。

■第144回逆・直木賞候補作品

  • 浅田次郎 『終わらざる夏』(上)(下) 平成22年/2010年7月・集英社刊
  • 阿刀田高 『闇彦』 平成22年/2010年7月・新潮社刊
  • 伊集院静 『浅草のおんな』 平成22年/2010年8月・文藝春秋刊
  • 北方謙三 『抱影』 平成22年/2010年9月・講談社刊
  • 桐野夏生 『優しいおとな』 平成22年/2010年9月・中央公論新社刊
  • 林真理子 『本朝金瓶梅 西国漫遊篇』 平成22年/2010年8月・文藝春秋刊
  • 宮城谷昌光 『楚漢名臣列伝』 平成22年/2010年6月・文藝春秋刊
  • 宮部みゆき 『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』 平成22年/2010年7月・中央公論新社刊
  • 渡辺淳一 『孤舟』 平成22年/2010年9月・集英社刊

 なにせ、逆・直木賞といえば、「この半年間で発表されたベテラン作家による大衆文学のなかで、最も劣悪なもの」を決めよう、っていう大変挑戦的な賞ですから。いつものように、選考がかなり揉めることは必至、でしょう。

 今度の選考委員は、新進・中堅作家のなかから、犬飼六岐荻原浩木内昇貴志祐介道尾秀介、以上五名が務めることが決まっています。いや、決まっていました。選考会の開かれる1月17日夕刻は、どうやら、みなさん他に用事があるらしく、全員欠席するそうです。早くも波乱の予感です。

 ワタクシ、直木賞オタクではあっても、逆・直木賞にはあまり詳しくありません。なので以下の予想は、何の参考にもなりゃしません。ぜひ自分の目で確かめて、判定されることを強くおすすめします。

■北方謙三『抱影』…受賞予想 9

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 どこかに既視感のようなものがつきまとう。類型的な人物像と、ヤクザの抗争に巻き込まれていく展開に、私はそれほど必然性を感じなかった。それだけで逆・直木賞には十分かと思われたが、ただ、作者の歩んできた道のりは考慮してしかるべきだと思う。小説に対する志もある。

 雑業の方をいっそう増やして極めれば、文句なく逆・直木賞に推せる逸材だ。


■桐野夏生『優しいおとな』…受賞予想 8

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 手練れの仕事だと感心させられた。何より文章が素晴らしい。主人公の少年が大人を分類して認識するにいたったさまざまな過去の出来事を明かしていく手際は、近未来の物語でありながら読者に不自然さを感じさせない。その点、残念ながら、逆・直木賞には一歩も二歩も届かないと思った。

 文学というものから脱け出してみてはいかがだろう。表面的に悲惨さを漂わせながら、鬼面人を驚かす類の物語を今後、数多くつむいでいけば、逆・直木賞に近づくのではないか、と思わなくもない


■浅田次郎『終わらざる夏』…受賞予想 7

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 文句なしの渾身の作である。伝統的な文学のスタイルを踏襲している。過去さまざまな作家が挑み、ときに跳ね返されときにその深淵に手を伸ばしてきた戦争という大テーマをケレン味のない表現と構成で描き切った点に刮目せざるを得ない。

 ただいささかの苦言を呈することを寛恕していただきたい。作者は文学というものへの憧憬が強すぎるのではあるまいか。物語る行為から遠く文学の高みに登らんとする作者の姿勢では、とうてい逆・直木賞を授けるわけにはいくまい。


■伊集院静『浅草のおんな』…受賞予想 6

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 私は好感を持った。候補作の中でもっとも安定感があった。小説として安定があることは作家の筆力と経験がなすものだ。主人公の描き方と物語のダイナミックさに物足りなさは感じるが、安定した筆致すなわち技量的な発展が見られない、という点でこの賞の過去の受賞作に比して遜色がない。

 新たな世界に挑戦せず、同じところで足踏みする作家。そんな期待を込めて、私は「6位」とした。


 さて、次からはいよいよ、ベスト(ワースト?)5のご紹介です。

          ○

■渡辺淳一『孤舟』…受賞予想 5

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 老いた男性の生態を描いていて面白いといえば面白い。これを逆・直木賞にと推す声が多いとのことだが、そこまで悪い作とも思えない。しょせん伝わる人間にか伝わらない小説であることは確かだが、それが作中に横溢しているだけましとも言える。

 独りよがりで甘すぎる。その作風をすでに自家のものとしている。褒めるところもなければ貶すところもない。これではとうてい、逆・直木賞の受賞作にはなり得ない。


■宮部みゆき『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』…受賞予想 4

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 宮部さんには大変申し訳ないのですが、私はこの物語が最後に、人間として生きていくことの恐ろしさにつながっていくものだと勘違いして読んでしまったのです。宮部さんの得意とする読みやすさが、一転、底の浅さにつながってしまうことは、非常に心苦しいことです。

 それでも宮部さんがこれまで歩んできた道のりを考えたときに、小説は読んでいる最中の気晴らしと、読み終わったあとの少しの胸の高まり、それさえあればよい、三日後、一週間後、まして何十年も先まで記憶に残るような文学的興趣などなくてもいいのだ、という心強いお仕事は、私は評価したいと思っています。ぜひ逆・直木賞に、と推そうと思ったのですが、宮部さん、支持しきれなくてごめんなさい


■林真理子『本朝金瓶梅 西国漫遊篇』…受賞予想 3

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 あまりに魅力の乏しい筋運びと文章に、思わずうれしくなってしまった。逆・直木賞は、他の文学賞とは違い、あるレベルを下回ることが条件となるが、やすやすとクリアしている。

 時代小説から感じられるはずのワクワク感、高揚感もなく、いかにも軽い。私には評価すべきところと思われた。ただ、常に自分の枠を破ろうと果敢に挑戦してしまっているのはいただけない。今とてもむずかしい時期に来ていると感じた。逆・直木賞には「時の運」というものもある。その点お気の毒であった


■宮城谷昌光『楚漢名臣列伝』…受賞予想 2

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 悟性によって決定された語句は、作品自体がもっている原理を超越するという特徴をもつ。宮城谷氏の作品からは、言葉を使用する行為がおのずと内包する力感とも言うべき要素が感じられる。しかも作品に光量が圧倒的に足りない。珍重すべき才と言えるだろう。

 私は失敗作をなじるつもりはない。氏には文体を象づくるいわば膨張力といったものに対する信頼が重すぎるのではないか。ゆえに作品は膨張を許されず逆に縮小へと落ち込んでしまう。当作を逆・直木賞に推すゆえんである。


■阿刀田高『闇彦』…受賞予想 1

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 主人公を双子に設定する陳腐な手法に思わずうなった。

――今さら、この設定にするからには新しいサムシングがあるのだろう。――

 と、期待して読み進めても、私にはその意図がうまく飲み込めなかった。

 ダーテーな世界に読者を誘い込む手際には、感心するのにやぶさかではないのだが。

 私としては、「もう一作見たい」と考えたが、意見が割れた。今でも、これでよかったのかどうか、迷っている


          ○

 解説するのも馬鹿バカしいハナシで失礼しました。明日を控えていることですし、今日はもう書き込みを終えます。でも、ちょっとだけ補足を。

 上の評言のうち、太字部分は、「強調して訴えたいこと」を表しているわけではありません。各作家が過去に書いた選評のなかから、引用して使わせてもらった文言です(桐野夏生さんは山田風太郎賞、伊集院静さんは吉川英治文学新人賞の選評より)。

 逆・直木賞、ワタクシの予想は『闇彦』、ひょっとすると『楚漢名臣列伝』と同時受賞もありうるかな、と見ましたが、結果はどうなりますか。念のため宣言しておきますが、予想をはずしても頭を丸めたりはしません、すみません。

 それで逆・直木賞の選考委員会は、明日1月17日(月)午後5時より。会場は、どっかのスタバかドトールか、そこら辺でやるとかやらないとか、耳にしました。半年に一度、いったいどの小説がワーストなのかを決めるお祭りですもの、どんな結果になろうが、出版関係者総出で騒ぎになればいいですね。

 ええと、同じ日、同じ時刻に、なんか似たような文学賞も決まるらしいです。今回はニコニコ動画で受賞決定の場面とか、その後の記者会見の模様が生中継されるんですって? (ニコニコ生放送「第144回 芥川龍之介賞・直木三十五賞 受賞者記者会見 生中継 (番組ID:lv37392022)」

 逆・直木賞の生中継は……ありません。っていうか、うちのブログでも、もうたぶん取り上げることはありません。

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