柴田錬三郎賞 注。柴田錬三郎とはとくに関係がありません。
まさかとは思うんですが、この世に、「あまり世間の注目を浴びたくない」というコンセプトの文学賞が、あり得るんでしょうか。
と疑いたくなります。ワタクシたちの目の前に、柴田錬三郎賞があるからです。
創設は昭和63年/1988年。山周賞・三島賞と同じ時期でした。以来22年、公募新人賞の「すばる文学賞」「小説すばる新人賞」と並んで、集英社三賞の一角を担っています。
どうですか。このひっそり感。凡百の文学賞の仲間にまじって、存在感を消している感じ。ほんとは柴錬賞ってもっと特異な賞のはずなのに。もう少し注視してあげてもいいのじゃないか、と余計なお節介ゴコロが膨らんできます。
柴錬賞とは何か。……対象はエンタメ小説です。文学文学しているやつは視野に入れません。そりゃそうです。柴田錬三郎さんの名前を借りているんですもの。純文学に対しては恨みがあります。嫌悪感があります。
新人賞じゃありません。プロ作家として活躍中の中堅どころに与えられます。創設当時、主催者が抱いていたイメージは、このように表現されています。
「傑作「眠狂四郎無頼控」はじめ、不羈の想像力を駆使した数々の作品で、ひろく読者大衆の心をうち、ロマンの新しい地平を切り拓いた故柴田錬三郎氏の名を冠した賞を設け、現代小説、時代小説を問わず、真に広汎な読者を魅了し得る作家と作品を顕彰して、このジャンルの発展を期する。」(『小説すばる』昭和63年/1988年夏季号[6月] 「「柴田錬三郎賞」創設のお知らせ」より)
うむ。何だかよくわかりませんよね。
『読売新聞』の記事のほうは、もうちょっとわかりやすく噛み砕いてくれています。
「作品のジャンルは、時代、歴史小説に限らず、広く求める。賞の性格としては、すでにある年功序列を考えた功労賞的なものでなく、新人賞でもなく、現在活躍している作家に与えられる。」(『読売新聞』夕刊 昭和63年/1988年3月31日「柴田錬三郎賞を集英社が創設」より)
ははは。「すでにある年功序列を考えた功労賞的なもの」って、何を指しているんだ。吉川英治文学賞か。そうか、さすがシバレンの名を借りただけあって、いさぎよいぞな。年功序列なぞクソくらえだ。
と言ってスタートしたはずの柴錬賞が、20年ぐらいたつと、メッタ斬り!の二人にはこう評されます。
「豊崎(引用者注:豊崎由美) 柴錬賞は、橋本治(18回『蝶のゆくえ』)に授賞してますね。面白い賞だなあ。桐野夏生さんに『残虐記』(17回)で授賞したりと、一貫性がない。今回は小池真理子の恋愛小説『虹の彼方』(19回)だし。何でもありな感じの賞ですね。
大森(引用者注:大森望) すでに直木賞をとっている働き盛りのエンターテインメント作家のための賞。小説のジャンルはまったく問わない。」(平成19年/2007年5月・パルコ出版刊 大森望・豊崎由美・著『文学賞メッタ斬り!2007年版 受賞作はありません編』「ROUND5 最新版・文学賞マップ」より)
現在活躍中のエンタメ作家全般が対象、ってことですからね。一貫性なぞあるわけがないんです。ほんとは。
でも、大森さんがボソッとつぶやいているように、直木賞作家のために存在する賞、みたいな感じが、たしかに染み込みはじめています。この流れが続いていったとしたら……そんな未来を想像すると、やや身震いしてきませんか。「日本のエンタメ小説界は直木賞をとった人たちだけで出来上がっている」などと勘違いしたまま一生を終える不幸な文壇人をわっさわっさ生み出すんじゃないかと思われてきて、ちと可哀そうな気がするのです。
柴錬賞って、一般読者層の意向など無視されたところで運営されているわけですし。出版社&編集者&作家たちのことしか念頭にない、ハイパー内向きな賞なわけですし。よほど運営者側が気張らないと、どんどん世間とズレていくでしょうから。
ほら。選考委員みずからが、こういう思い込みを抱きはじめちゃっている。危ない危ない。
「夜は高輪のホテルの庭園のなかにある一軒家の料亭で、柴田錬三郎賞の選考会。
直木賞をとって10年目ぐらいの作家に与えられる大きな文学賞です。」(ブログ「林真理子 あれもこれも日記」平成21年/2009年10月02日10:40エントリー「柴田錬三郎賞」より)
「直木賞をとって10年目ぐらいの作家」とかいう基準。怪しげだよなあ。世の中には、直木賞をとっていない作家のほうが多いんですよ、ご存じでしたか。そういう中にも、シバレンの賞にふさわしい、真に広汎な読者に受け入れられる作品や作家はいるでしょうに。
あ。真理子ねえさん自身の体験が、その思い込みを支えているのか。
「直木賞以来、十年ぶりに大きな賞をいただけることになった。本当に嬉しく、この喜びは日いちにちと大きくなっていくようである。
私なりに一生懸命仕事をし、何とか大人の作家として認められようと、試行錯誤を繰り返してきた。そのことを見ていてくださった方々がいたと思うと、心から有難い。」(『小説すばる』平成7年/1995年12月号「第8回柴田錬三郎賞決定発表」 林真理子「受賞にあたって」より)
直木賞・芥川賞みたいな賞から無視されて、それでも腐らずに一生懸命仕事をしている方にも、真理子ねえさん、目を向けてあげてくださいね。
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