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2009年7月12日 (日)

第141回直木賞(平成21年/2009年上半期)候補のことをもっと知るために、歩んだ足跡を数えてみる。

 刻一刻と、第141回(平成21年/2009年・上半期)の選考会の日が近づいてきました。いつもこの時期になると、ワタクシはうずうずと分析ダマシイがうずいてきます。

 たとえば「KKさんはもう何作も著作物があって、どう考えてもとれるにちがいない」とか、「MNさんはまだ作家としてはデビューしたてだから、今回は顔みせ程度で終わるだろう」とか、ふっと思いつく自分の感覚に、自信がなくなってくるのです。

 だって、そんなの、印象だけじゃなかろうか。じっさいに過去のデータを計測して並べてみてみないと、どうにも寝つきが悪い。

 直木賞は、ほかの並みいる文学賞とちがって「新人からベテランまで」幅広く対象にすることに生き甲斐を見出している賞です(ん?)。でも、どれくらい幅広いのか、やっぱ視覚的に表現されてないと、わからないですよね。

 ベテラン度をはかるためには、デビューしてからの年数で見たり、直木賞候補に挙がった回数を数えてみたり(これはちょっと違うか)、いろいろ観点はありそうです。そういったなかで今回は、書店員さん・図書館員さん必見のデータを使うことにしました。

 作家の足跡=出版した小説本の数、です。

 その数をマーク化して並べてみると……、うわ、一目瞭然。

北村薫51冊) Book_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_greenBook_greenBook_greenBook_greenBook_greenBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_gray

貫井徳郎44冊) Book_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_greenBook_greenBook_greenBook_greenBook_greenBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_grayBook_gray

道尾秀介13冊) Book_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_greenBook_greenBook_grayBook_gray

葉室麟6冊) Book_redBook_redBook_redBook_redBook_redBook_gray

万城目学4冊) Book_redBook_redBook_redBook_gray

西川美和2冊) Book_redBook_gray

 ……って全然、瞭然としてないじゃんか、ですと? ほんと、ごもっとも。

 そうか、第141回の分だけしか見てないからダメなんだ。過去までひもといてみれば視界は開けてくるんじゃないか。と気づいてしまったあなた。直木賞ワールドの魔の領域に、足を踏み込んでしまいましたな。

 で、魔界の探索に出かけるまえに、少々注釈が必要です。この場合の「冊数」とは、何をどうやって数えた数なのか。次のルールに基づいています。なので、数え方によっては異なった結果が出るかもしれません。

※上半期の候補ならその年の6月まで、下半期の候補ならその年の12月までに、出版された小説の数です。ただし、そのとき候補になった作品自体は除きます。

※対象は原則的に単著のみです。

※できるかぎり「小説」だけを数えます。エッセイ、マンガ、研究書の類は省きます。

※別名義で発表した小説は省きます。

※上・下巻など物理的に複数の本の場合、同時期に刊行されているものは「1冊」と数えます。

Book_red…新書版・文庫版以外の本 Book_green…新書版(ノベルスなど) Book_gray…文庫版

 さてさて、魔界の奥底は目のとどかないほど深く、さかのぼれば70数年前までさかのぼれちゃいます。危険です。とりあえずは、最近100人の候補作家の分だけをチェックすることにしましょう。最新の候補作家、西川美和さんからたどりたどって100人前の候補は、19年前、第104回(平成2年/1990年・下半期)ではじめて候補にあがった東郷隆さんです。

          ○

141  おお。これが、100人分、延べ219件にわたる候補作家たちのベテラン度ですか。魔というか、何がなにやらわからんと言うか。

 それにしても、上には上がいるもんだなあ。今回の北村薫さんは51冊、ぞんぶんにベテラン感まんまんだと思うんですけど、それでもトップ10にも入れないだなんて。

 北村さんよりたくさん本を書いて、読者たちに十分に受け入れられた後に、わざわざ直木賞の候補に挙げられてしまった、貫禄十分の面々。ここではグラフだけにとどめず、敬意を表してお名前を紹介させてもらいます。

 って、半分も東野会長が占めているじゃないですか。ううむ、異形だ……。

 初候補のときの「既刊小説冊数」でいえば、コバルト系で大いに数を稼いだ唯川恵さんとか、ノベルス+文庫の大量出版で売れっ子ぶりを発揮していた大沢在昌さんが、すずしい顔をして上位にのぼっていますが、それにしても東野会長だってねえ。初候補の第120回(平成10年/1998年・下半期)の段階で、すでに72冊ですよ。しかもそっから7年間、6回も候補に仕立てるとはなあ。そりゃあ、街のここかしこで「直木賞オワタ」論を耳にするはずですよ。

 ベテラン風味では北村さんの影にかくれているけど、貫井徳郎さんの44冊だって、そうとうなもんです。

 ちなみに44冊の足跡をのこして直木賞受賞に到着した人に、宮部みゆきさん(第120回 受賞)がいます。ほかに40冊台での受賞は、小池真理子さん(第114回/49冊/受賞)、江國香織さん(第130回/46冊/受賞)、山本文緒さん(第124回/43冊/受賞)のみなさん。偶然にも全員、女性です。

 「男ならもうちょっと頑張って、50冊、60冊ぐらい出してから、もう一度直木賞の舞台に戻ってこい」なんて言うのは、そりゃあ酷でしょう。ほとんど拷問です。

          ○

 過去100人分を平均してみると、どうなるでしょう。新書版1.8冊、文庫版6.6冊、それ以外9.2冊=計17.7冊。直木賞候補になる作家は、このくらいの既刊小説本がある計算になります。

 今回、その平均に最も近いのが、道尾秀介さんです。

 たとえば、桐野夏生さん(第121回/13冊/受賞)も石田衣良さん(第129回/13冊/受賞)もちょうどこのあたりで受賞のタイミングが訪れました。道尾さんはまだ文庫が2冊と、その方面がやや少なくて、書店で受賞作家フェアをやるにはちょっと寂しいんですが、ヒット作『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫)はもっと売れちゃうかも。いいことです。

 平均は17.7冊なんですが、先に挙げたような東野会長みたいな別格級の人のデータが、一気にその数を引き上げちゃっています。だいたい13冊という今回の道尾さんぐらいが、最近の直木賞のごく平均的な候補作家(の既刊数)でしょう。ところが、これを受賞作家(の既刊数)にしぼってみてみると、

 新書版2.6冊、文庫版9.3冊、それ以外10.9冊=計22.8冊

 と約5冊のひらきが生じます。

 要するに、「17.7冊」とは、候補を決める日本文学振興会(=文藝春秋)の志向であり、「22.8冊」とは、受賞を決める選考委員たちの志向です。

 選考するおっちゃんおばちゃんたちは、その作家の実力を見極めるために、よく選評で「次作に期待」「もうちょっと見てみたい」といったフレーズを持ち出します。それがこの5冊分に表れてしまっているんでしょう。

          ○

 ここから下は、まさに直木賞界における「新人」たちです。

 世に「たくさん既刊本を出していなければ直木賞をとりづらい」なんて風評があるのだとしても、それは単なる確率のハナシです。しかも、ベテランであることの有利さなんてものがあるとしても、べつに胸をはって論じれるほどの傾向があるわけじゃありません。

 葉室麟さん6冊、っていうのと同じくらいのタイミングで、北原亞以子さん(第109回/7冊/受賞)や佐藤賢一さん(第121回/6冊/受賞)や宮城谷昌光さん(第105回/5冊/受賞)は受賞しています。

 さらに少ない4冊でいうなら、伊集院静さん(第107回/受賞)、高村薫さん(第109回/受賞)、なかにし礼さん(第122回/受賞)が、みなその既刊冊数での受賞です。万城目学さんが、まだまだ実績が少ないとかいう理由で後回しにされるいわれは、まったくありません。

 当然、西川美和さんだって同じです。映画監督として売り出し中で名が知られるようになってきているとはいえ、小説はまだ過去1作だけでしょ? そんな人が直木賞とれるわけがないじゃん。とかいうセリフを、ワタクシはとうてい口にすることができません。藤原伊織さん(第114回/2冊/受賞)、山本一力さん(第126回/2冊/受賞)、芦原すなおさん(第105回/1冊/受賞)のデータを目の前にしてしまった以上。

 いや、とうの昔に過ぎ去った歴史上のことならともかく、ほんの9年前の第123回(平成12年/2000年・上半期)に、まだ既刊本が1冊もなかった金城一紀さんが、実績の有無など関係なくスパッと受賞したその日、うちの親サイトの更新作業をせっせとやっていた記憶がある以上。

          ○

 それで、9年たってもワタクシのやることはおんなじ。今週水曜日の7月15日、選考会そして受賞の決定発表のころには、PCに向かって、親サイトの更新を迅速におこなうことなわけです。決定を反映できるのは、結果が決まってすぐ、たぶん夜の7時台~8時台ごろでしょう。

 その翌日、わざわざ書店をまわって、どんなふうに直木賞決定の報で盛り上がっているか(あるいは平穏なままか)をチェックしたりは、しないつもりですが、上でご紹介した6名のうち、どなたかの既刊本がまたワタクシたちの前にお目見えすることを、楽しみにしています。

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