第138回直木賞(平成19年/2007年下半期)決定の夜に
あくまで無機質に、かつ冷静に情報を集めて掲載していくのが、サイト「直木賞のすべて」の務めなはずなのに、ついつい半年に一度、舞い上がってしまって、だらだら書いてしまう管理人を、どうぞお許しください。
今日のお題はもちろん、今晩決まった第138回(平成19年/2007年・下半期)直木賞について。
井上荒野さん。たしかに知名度の点では、今回の候補者の中できっと“逆”1、2位を争っていたと思いますが、その分、井上さんの作品にまだ出会っていない潜在的読者がたくさんいる、ってことですよね。未来は無辺に広がっています。死ぬまで(死んでからも)まとわりつく“○○さんの娘”のレッテルに負けず、どうか思いっきりエンタメ作家の道を歩んでください。
黒川博行さん。この方の名前が、受賞者一覧に加われば、直木賞の性質のうちのひとつ、“直木賞って何でもアリなんだな”というワタクシの好きな“雑食性”が、ますます濃くなるはずだったのに……。ただただ残念です。直木賞はまだまだ、黒川さんレベルの小説に追いつけていないってことでしょう。
古処誠二さん。受賞ならずとも、3度も候補に挙がったことで、信じた道を突き進めば、いつか誰かに認められる(こともある)、と教訓を学んだような気がします。そして、そういう事例を目の当たりにして、今度もチロリと勇気をもらいました。ありがとうございます。
うーん。佐々木譲さんには甚だ迷惑なおハナシだと思いますけど、ここで佐々木さんを選ばなかったことは、直木賞の選考の歴史に、たしかに一つの足跡が残されました。ベテラン作家の作品を、臆面もなく落とす、という足跡が。第100回(昭和63年/1988年・下半期)のときの選考と同様、今回の選考も、きっと何十年後かに、正しかったか間違っていたかが判明するでしょうから、それまで生きていたいな。
馳星周さん。もちろん、『不夜城』の時点で、今の馳さんの活躍を見通せなかった選考委員の誰それの責任ではあるのですが、今はそれを言いますまい。今後も馳さんの世界をどんどん拡大させていってくださることを、期待しています。
○
桜庭一樹さんの生み出してきた世界の、ほんの一端しかワタクシは触れていませんが、一つの場所にとどまらず、きっとさまざまな冒険を小説に託してくださる方だと、勝手にお見受けしております。受賞されたことで、きっとまわりの編集者から妙な誘導をされることもなくなり、さらに、さらに、新たな試みがしやすくなるんじゃないかな、などと早くも期待してしまうのです。わがままな読者で、ほんとすみません。
いちおう、直木賞オタクとしては、直木賞史のなかでの視点も、ちらっと持たざるを得ないんですけど、不死鳥のごとき『別冊文春』伝説よふたたび(余聞と余分エントリー『文蔵』を参照のこと)、ってところでしょうか。
ともかく、大森望さん、豊崎由美さん、久々の(はじめての?)的中でおめでとうございます。これで“万年はずし屋”の汚名をそそぐことができて、ほんとによかった(って、ちょっとイヤミ)。
あ、それと新潮社、講談社の関係者のみなさま。これで桜庭一樹さんを、山周賞や吉川新人賞の候補にするのはやめよう、などとは絶対に思わないでください、と心からお願いしておきます。“直木賞が新人賞の最高峰”なんちゅう戯れ言を、いったいいつ誰が言い出したのか、寡聞にして知りませんけど、あなた方がそんな妄言に影響される必要など、これっぽっちもありません。“直木賞作家? なんぼのもんじゃい”ぐらいの気概で、ぜひ、両賞を運営していただきたいと、一傍観者からのお願いです。
○
最後に、前回(第137回 平成19年/2007年・上半期)にひきつづき、各ニュースソースサイトでの、直木賞決定の速報ぶりをチェックしてみました。早かった順に並べてみます。
- 日本文学振興会(主催者)……19時37分
- 朝日新聞……19時53分
- MSN産経……19時57分
- 読売新聞……20時01分
- 時事通信……20時19分
- 毎日新聞……20時25分
読売新聞のソースを使っているYahoo!ニュースは、読売と同着。かと思いきや、読売が19時40分頃に芥川賞決定のニュースを伝えていたのですが、Yahoo!ニュースがそれを掲載する頃には直木賞も決定していて、“本文は芥川賞のことにしか触れていないのに、タイトルに直木賞決定の文字を入れ、直木賞関係サイトへのリンクをつけて更新”したYahoo!ニュースが、19時50分代に食い込む、という驚きの展開が。
あれ、前回に比べて、朝日・読売が失速しちゃったな。思わぬ人気女性作家2人の受賞に狂喜しちゃって、現場の記者とサイト担当部署との連携に、乱れが生じちゃったのかな。
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コメント
度々のコメント失礼します、毒太です。
いやあ、決まりましたね。
これでそのうち、「近現代文学事典」(大修館書店刊)に桜庭一樹の名が刻まれることになるでしょう。その項目には、「代表作」としてラノベが一作二作書かれることも大いにあり得るでしょう。
ラノベも読む人間にとっては、非常に楽しい想像です。
こんなことが可能になるのも、直木賞なればこそ(「近現代文学事典」には、直木・芥川両賞だけは受賞者・受賞作が無条件で掲載されます。)。それだけの賞の受賞を今回成し遂げた快挙に、とにもかくにも「おめでとうございます」ですね。
さて、半年後のお祭りが早くも楽しみになってきました(^^)
(ちなみに、「ラノベレーベルから刊行された小説」ならば、宮部みゆき「ブレイブ・ストーリー」という前提があったりしますが・・・あれは単行本のほうが先ですから)
投稿: 毒太 | 2008年1月16日 (水) 23時20分
通りすがりの私なんぞが物申すのも
おこがましい限りなのですが、
桜庭さん受賞の嬉しさについコメントしてしまいました。
すいません。出来心です。
まあ正直言って早すぎかなーって気はしなくもないのがw
投稿: 通りすがり | 2008年1月16日 (水) 23時43分
毒太 様
毎回、決まったあとの、この高揚感と虚脱感は、いったい何なんでしょうね
(……ってワタクシだけですか)。
ラノベだってナポレオン文庫だってみな小説、
桜庭さんは、まだまだ直木賞クンが未熟なせいで、ラノベ以外の作品で受賞なさいましたが、
“ラノベで直木賞”は、次世代の直木賞の成長まで待とうじゃありませんか。
通りすがり 様
出来心、大歓迎です。こんなサイトに足を運んでいただいてありがとうございます。
(もうこのコメントをお読みになることもないだろう、と思うと寂しいですが)
きっと大丈夫ですよ、五木寛之さんなんか、デビューして半年ぐらいのときに直木賞とったけど、
多くの人に愛される作品を、その後もどんどんお書きになったんですから。
五木のオヤジなんかと比べるな? まあ、そりゃそうですけど……。
投稿: P.L.B. | 2008年1月17日 (木) 01時06分