町工場で、本を読む
唯一無二、と言うとオーバーかもしれないけど、ともかくこの方が現代文学のなかで得難い存在であることは間違いないでしょう。さらに我田引水すれば、直木賞史のなかでも大変珍しい存在だったりします。
『町工場で、本を読む』小関智弘(平成18年/2006年11月・現代書館刊)
現役の旋盤工として51年間勤められ、その間に小説・エッセイ・ルポなど多くの著作をものにしてきた経歴が、もちろん小関智弘さんを、他に類をみない存在として輝かせているんですが、“大変珍しい存在”とワタクシが言うのには別の理由があります。
先に芥川賞の候補になって落ちた人が、後年、直木賞の候補に挙げられるケースはたくさんあります。古くは劉寒吉、小泉譲などから、木山捷平、田宮虎彦、小田仁二郎、有吉佐和子、津田信、林青梧、勝目梓、飯尾憲士、森瑤子、内海隆一郎など、この他にもまだまだいます。ところが、逆のケースはほんとに少ない。松本清張、津村節子、新しめのところで内田春菊などがいますが、その少ないうちの一人が、小関さんなのです。
第78回(昭和52年/1977年・下半期)と第80回(昭和53年/1978年・下半期)で2度直木賞候補、つづいて第82回(昭和54年/1979年・下半期)と第85回(昭和56年/1981年・上半期)で2度芥川賞候補。
「わたしは最初が直木賞候補でそのあとが芥川賞候補で、四度とも落ちましたけれども、その賞の候補作品になったものを文藝春秋から『羽田浦地図』という表題で出してもらいました。」
さらっとおっしゃってますが、“最初が直木賞候補”、コレなかなかできることじゃありませんよ。
第80回だけが『別冊文藝春秋』掲載作で、ほか3度は『文學界』発表の小説でした。『別冊文春』に載ったものなど口が裂けても純文学と呼んでたまるかい、と粋がる芥川賞に比べて、『文學界』? それでもけっこう、読んで面白い小説ならみんなウェルカムさ、と直木賞の、なんとおおらかなこと。
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