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2007年10月の4件の記事

2007年10月28日 (日)

ダカーポ 平成18年/2006年7月19日号(587号)

 マガジンハウス。とお題を出されて、即座に、『蛇鏡』『肩ごしの恋人』『非道、行ずべからず』のことを思い浮かべるワタクシは、完治不能の直木賞病ですけど、結局この3人の女性作家は全員、直木賞作家になってしまったのですから、おお、おそるべしマガジンハウス。

071028w170 『ダカーポ 平成18年/2006年7月19日号(587号)』(平成18年/2006年7月・マガジンハウス刊)

 第135回(平成18年/2006年・上半期)が決定する直前、『ダカーポ』誌が4~39ページを使って大々的に特集を組みました。その名も「芥川賞、直木賞を徹底的に楽しむ」。

 最初に褒めさせてもらいます。一般の読者が知りたくても知ることのできない、話を聞きたくてもわざわざアポとって会いに行ったりしない、主催者の日本文学振興会とか、選考会場の新喜楽とか、選考委員の北方謙三さんとか、受賞作を発売している各出版社とかに取材してくれていて、貴重も貴重、マニア必読の内容になっています。すばらしい。

 “東野圭吾が受賞したのは7度目の候補じゃなくて6度目でしょ”だの、“作家人気ランキングというのがあって、宮部みゆきや東野圭吾を押さえて第1位に江國香織が選ばれているけど、アンケート回答者2,370人中、男女比が24:76って、異常なほど女性に偏ってないかい?”だの、“古川薫が初候補から受賞までにかかった年数は〈35年〉じゃないでしょ”だの、ツッコみどころが結構あるとはいえ、まあ、いずれも些末なことなので、『ダカーポ』誌がそんなクダらん間違いなど気にする必要はありません。これからも『ダカーポ』らしく、ガンガン先に突き進んでください。

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2007年10月21日 (日)

『新青年』読本全一巻―昭和グラフィティ

 現在進行形の直木賞も面白いけど、五里霧中でさまよっていた頃の、いたいけな直木賞の姿にも惹かれますよね。とくに戦前の直木賞は、調べれば調べるほど、どこから何が飛び出すかわからない魔境の感すらあります。

071021w170 『『新青年』読本全一巻―昭和グラフィティ』『新青年』研究会・編(昭和63年/1988年2月・作品社刊)

→著者の公式サイト Pub Antiqurian

 小説好きのワタクシにとって、ネット上のフリー百科事典Wikipediaは、知らないことを教えてもらったり、自分の知識の誤りに気づかされたり、大変ありがたいサイトなんですけど、「新青年(日本)」の項目を見て、あなたは思わずニンマリしてしまいませんでしたか。

 平成19年/2007年10月21日現在、『新青年』の項で主な掲載作品に挙げられているのは、たったの3つ。江戸川乱歩「探偵小説四十年」、横溝正史「八つ墓村」、うん、これは文句のつけようがないでしょう。もう一つが、なんと、立川賢「桑港けし飛ぶ」。いやあ、視界外からの思わぬ奇襲にたじろがされました。

 さて、戦前の直木賞は、選考するに当たってどんな小説を議論の俎上に乗せるのか、その点で試行錯誤の道を歩みました。そうするうちに次第に4つの雑誌に、多く候補作を求めるようになっていきます。文藝春秋社の『オール讀物』、新小説社の『大衆文藝』、大阪毎日新聞社の『サンデー毎日』、そして博文館の『新青年』です。

 大衆文学にとっての『新青年』といえば、海外探偵小説の翻訳・紹介とか、乱歩の「二銭銅貨」から始まる国産探偵小説の胎動・発展といった、探偵小説の牙城としてのとらえ方が一般的だと思うんですけど、本書の偉いのは、さらに幅広く、同誌をにぎわせた科学小説、時代小説、国際小説、冒険小説、戦争小説と、まんべんなく取り上げてくれているところです。直木賞に現れる『新青年』作品は、探偵小説なんかほとんどなく、たいていそれ以外のジャンルの作品なんですもの。はじめて同誌の作品で受賞したのは、大池唯雄の歴史小説だったわけですし。

 なにぬかす、それより前に、木々高太郎が探偵小説の「人生の阿呆」で受賞してるじゃないか、とかツッコもうとされました? さすが目ざとい。

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2007年10月14日 (日)

文壇

 うっかり2度続けて候補作家のことを取り上げてしまったので、今回は正真正銘、有名受賞作家の方にご登場願いましょう。強烈な文体をひっさげて直木賞を射止めてしまったチョイ悪(わる)ならぬバリ悪オヤジ、ふふ、表紙カバーでも酒をかっくらっているんですな。

071014w170 『文壇』野坂昭如(平成17年/2005年4月・文藝春秋/文春文庫)

 直木賞関連書としては他に比べて段違いに有名な本ですので、この場で内容をなぞる必要もないでしょう。昭和36年/1961年~昭和45年/1970年、野坂昭如さんの小説家デビュー前後の自伝(的小説?)で、そのかたわらには常に“直木賞”の存在が並走しています。

 この人の作品が芥川賞でなく直木賞をとってしまうところに、昭和42年/1967年当時の大衆文学、というか中間小説誌が抱えていた百花繚乱ぶり、はたまた混乱ぶりが表れていると思うんですけど、選考委員の面々も、とうてい大衆向きとは思えない野坂さんの読みづらい文体にヤられちゃった感がありますよね。第133回(平成17年/2005年・上半期)のとき、古川日出男の『ベルカ、吠えないのか?』を、「あまりにも読みづらく、読者にかなりの努力を強いる」と評したアノ人なら、「火垂るの墓」をどんなふうに読むんでしょうか。

 古川さんといえば、新潮社でやっている三島由紀夫賞は、創設当時からずっと不思議な賞ですけど、あの賞の間口の広さを見るにつけ、往年の直木賞の姿を思い出してしまうのは、そうですか、ワタクシだけですか。

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2007年10月 7日 (日)

もうなつかしい平成の年表

 もうなつかしいパスティーシュの旗手、誕生のころ。あれから20年ぐらいたつんだなあ。ワタクシも青春時代、よくこの方の本を読んだものです。

071007w170 『もうなつかしい平成の年表』清水義範(平成12年/2000年5月・講談社刊)

 すみません、私的な回想はなるべく控えます。SF界に以前から突如として出現している新しい星((c)半村良)、清水義範が本格的にその名を知られるようになったのは、たぶん『蕎麦ときしめん』(昭和61年/1986年)とか『国語入試問題必勝法』(昭和62年/1987年)のころからです。

 その当時をちょっとイジ悪く振り返ると、どっかから仕入れてきた新しめの言葉“パスティーシュ”と銘打って、『小説現代』にガンガン短篇を書かせ、早々に吉川英治文学新人賞も受賞させてしまったりして、講談社め本気こいて売り出しをはかりやがったな、なんて思うわけです。まあ、そんな穿った見方を蹴飛ばすくらいに、SF界から飛び出した奇才は、小説からエッセイ、読み物、教育論などなど、幅広いジャンルを、旺盛な執筆力でこなす人気作家になっていったのですから、手放しで拍手拍手です。

 そりゃ清水さんは、どんな事象でも自分のテリトリーにひっぱり込んで、小説みたいで読み物みたいな作品に仕上げてしまうでしょ、直木賞のことだって、パスティーシュしていてもおかしくないんだけどな。どなたか、直木賞をテーマにした清水さんの小説、ご存じでしたら教えていただけませんか。本気で探しています。

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