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2007年6月の4件の記事

2007年6月24日 (日)

文藝別冊 半村良 SF伝奇ロマンそして…

 直木賞では作家の業績をも評価対象に含めてしまうので、何度も候補になった末に受賞する例は、あくまで普通のことです。ただ、そのなかでもこの作家の場合は、より劇的な受賞のひとつに数えられていいと思います。

070623w170 『文藝別冊 半村良 SF伝奇ロマンそして…』(平成19年/2007年4月・河出書房新社/KAWADE夢ムック)

 候補に挙げられること3度目で受賞にいたった人といえば、古くは海音寺潮五郎とか、源氏鶏太水上勉、最近では重松清藤田宜永石田衣良京極夏彦なんかがいるんだけど、前2回の候補作から一変それまでとがらりと違うジャンル・作風でもって、はじめて選考委員をうなずかせたとなると、やっぱり第72回(昭和49年/1974年・下半期)の半村良かなってことになります。あと、三好徹陳舜臣結城昌治。ここらあたりが、「推理小説じゃ直木賞はとれないんだよね」「SFじゃ認められないんだよね」という風評の、大きな源になっていたりするわけです。

 なんたって、半村良の最初の候補作は『黄金伝説』(第69回 昭和48年/1973年・上半期)で、本書のサブタイトルにも使われているような、ど直球の“SF伝奇ロマン”でしょ。次が、テレパシーを筋立ての中核に置いた「不可触領域」(第71回 昭和49年/1974年・上半期)でしょ。3度目に候補になって受賞にこぎつけたのが、新宿界隈のバーテンダーとホステスを描いた「雨やどり」……って、え、なんでよ? と思うわけじゃないですか。

 あ、そうだ、最近、伊坂幸太郎の『砂漠』が候補になったとき、誰かが選評で書いていたっけな。「こういう小説もちゃんと書くことができる作家としての幅を感じると同時に、あれ、伊坂さんってこんな作家だったっけ、と、肩すかしをくらったような気がした。」……この選評の主はかつて、『石の血脈』をはじめとする半村良のSF伝奇ロマンを大絶賛なさっていたんだよなあ。なんだか奇縁。

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2007年6月17日 (日)

中村雅楽探偵全集1 團十郎切腹事件

 関連の書籍というより、これは直木賞受賞作が収録されている本そのものなのですが、東京創元社お得意の、マニア心をぎゅっと鷲づかみにする充実の編集ぶりで、思わず「関連の書籍」に分類してしまいました。

070617w170 『中村雅楽探偵全集1 團十郎切腹事件』戸板康二・著、日下三蔵・編(平成19年/2007年2月・東京創元社/創元推理文庫)

 あれはワタクシが読書の楽しみをおぼえて間もない頃でしたか、書店の文庫棚を見ていて目にとまった、創元推理文庫の『日本探偵小説全集』各巻のぶ厚さに度肝を抜かれ、なんじゃこりゃ、手軽さを一切無視したこのページ数でしれっと文庫を名乗るか!? と思ったのも今は昔、作品に関する貴重な資料類まで探し出してきてまとめて収録してしまうぶ厚い創元推理文庫の、すっかりファンになってしまったワタクシではあります。

 本書の偉さは、中村雅楽シリーズを一気にまとめて全集化してしまおう(全5冊になる予定)という壮挙はもちろんですが、オビに書かれているこの一文が、その価値を伝えてくれています。

江戸川乱歩の旧「宝石」掲載時の各編解説等、豊富な資料も併録

 そもそも戸板康二第42回(昭和34年/1959年・下半期)直木賞受賞作は、「團十郎切腹事件」じゃないんですもの、「團十郎切腹事件」その他、なんですから、その意味からも本書はぜひとも手元に置きたい一冊ですよね。

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2007年6月10日 (日)

大衆文学への誘い 新鷹会の文士たち

 『九州文学』『近代説話』『作家』『文学者』ナドナド、直木賞の歴史に大いなる足跡を残した非商業雑誌(半商業、と言ってもいいかな)はいくつも思いつくところですが、絶対に外せないのが『大衆文藝』です。

070610w170 『大衆文学への誘い 新鷹会の文士たち』中谷治夫(平成18年/2006年5月・文芸社刊)

 直木賞にとっての『大衆文藝』といえば、昭和14年/1939年3月に新小説社(社主・島源四郎)から創刊された第三次『大衆文藝』のことです。この創刊が実現したのは、島の義兄・長谷川伸が、毎月の資金援助と稿料なしの原稿執筆のかたちで全面協力したからこそでした。長谷川伸アニキは新人作家の育成にも熱心で、彼のもとには作家もしくはその卵たちが多く集まり、昭和14年/1939年秋ごろから小説勉強会の「十五日会」が開かれ、翌年9月に「新鷹会(しんようかい)」と名付けられます。彼らの修業の場でもあった『大衆文藝』からは無数の作家――数えようと思えば数えられるのでしょうが、まあサボらせてもらいまして――が育てられ、鍛えられ、巣立ち、大活躍していくことになるのです。

 過去の直木賞の候補作(戦前の一次候補等を含む)を、今度はちゃんと、コツコツ数えてみますってえと、いまだ発表誌不明の作品もいくつかあるんですけど、掲載数の多い雑誌は、第1位『オール讀物』103作、第2位『別冊文藝春秋』57作。ううむ、文春系が圧倒する中で、さあ第3位は、御三家の『小説新潮』でも『小説現代』でもなく、おっとびっくり『大衆文藝』の38作。文春びいきとか商売っけとか、そういうもの度外視して、『大衆文藝』みたいなところからもきちんと候補作を探そうとしていた頃の直木賞が、ワタクシは好きです。

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2007年6月 3日 (日)

芥川賞・直木賞―受賞者総覧―

 ちまたに直木賞受賞一覧は数あれど、それぞれ微妙に違っていたりなどして、それらをいくつも見ているうちに、さあいったいどれが正解でしょうとクイズを解かされている気分になるものです。

070603w170 『芥川賞・直木賞―受賞者総覧―』(平成2年/1990年3月・教育社刊、教育社出版サービス販売)

 この書名は同書奥付の記述に拠りました。表紙カバーでは、左のとおり「芥川・直木賞」となっています。内容は第1回から第102回までの両賞受賞者の生年月日・経歴・著書や、選評の一部、受賞後の活動が簡単にまとめられています。

 たとえば、おい山田君、過去の直木賞の受賞者を一覧にしといてくれたまえ、と突然上司に言われた新入社員山田君などは、昔ならば図書館に出向いてこういう本を探し出し、一生懸命複写したりしていたんでしょうが、今ではインターネットを使ってどっかに出ている一覧表をサクッとコピペするんだと思います。

 インターネットで直木賞一覧を調べる山田君が、容易に行き着くだろうと思うのは、文藝春秋内日本文学振興会か、Wikipediaでしょう。でもね、この2つのサイトにある受賞者受賞作一覧は、細かい点で違いがあるんです。さあどうする、山田君。

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