文藝別冊 半村良 SF伝奇ロマンそして…
直木賞では作家の業績をも評価対象に含めてしまうので、何度も候補になった末に受賞する例は、あくまで普通のことです。ただ、そのなかでもこの作家の場合は、より劇的な受賞のひとつに数えられていいと思います。
『文藝別冊 半村良 SF伝奇ロマンそして…』(平成19年/2007年4月・河出書房新社/KAWADE夢ムック)
候補に挙げられること3度目で受賞にいたった人といえば、古くは海音寺潮五郎とか、源氏鶏太、水上勉、最近では重松清、藤田宜永、石田衣良、京極夏彦なんかがいるんだけど、前2回の候補作から一変それまでとがらりと違うジャンル・作風でもって、はじめて選考委員をうなずかせたとなると、やっぱり第72回(昭和49年/1974年・下半期)の半村良かなってことになります。あと、三好徹、陳舜臣、結城昌治。ここらあたりが、「推理小説じゃ直木賞はとれないんだよね」「SFじゃ認められないんだよね」という風評の、大きな源になっていたりするわけです。
なんたって、半村良の最初の候補作は『黄金伝説』(第69回 昭和48年/1973年・上半期)で、本書のサブタイトルにも使われているような、ど直球の“SF伝奇ロマン”でしょ。次が、テレパシーを筋立ての中核に置いた「不可触領域」(第71回 昭和49年/1974年・上半期)でしょ。3度目に候補になって受賞にこぎつけたのが、新宿界隈のバーテンダーとホステスを描いた「雨やどり」……って、え、なんでよ? と思うわけじゃないですか。
あ、そうだ、最近、伊坂幸太郎の『砂漠』が候補になったとき、誰かが選評で書いていたっけな。「こういう小説もちゃんと書くことができる作家としての幅を感じると同時に、あれ、伊坂さんってこんな作家だったっけ、と、肩すかしをくらったような気がした。」……この選評の主はかつて、『石の血脈』をはじめとする半村良のSF伝奇ロマンを大絶賛なさっていたんだよなあ。なんだか奇縁。
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