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2007年5月27日 (日)

文学賞メッタ斬り!2007年版 受賞作はありません編

 真正面から直木賞そのものを批評して、しかも継続的にそれをやっている点で、メッタ斬り!は絶対外せませんよなあ、ということで遅まきながら、関連書籍として取り上げさせてもらいます。

0705273w170 『文学賞メッタ斬り!2007年版 受賞作はありません編』大森望・豊崎由美(平成19年/2007年5月・PARCO出版刊)

→著者(大森望)の公式サイト 大森望のSFページ

 事の発端は、平成15年/2003年6月、ポータルサイト「エキサイト」の一コンテンツ、エキサイトブックスに「文学賞メッタ斬り!」なる討論企画が掲載されます。これが好評だったらしく、内容を大いにふくらませて平成16年/2004年に書籍化したところ、増刷増刷で売れに売れたそうで、つづいて2年後、芥川賞落選6度を誇る(?)島田雅彦との鼎談もおさめた『リターンズ』ときて、つい先ごろ年度版を意図して3冊めとなる『2007年版』が発売されました。

 継続性という点では、エキサイトブックスから日経BPネットに場所を移して今でも、毎回、芥川賞・直木賞の選考会直前には、全候補作に対する評論と、受賞予想が続けられています(こちらがバックナンバー一覧)。これを読まなければ直木賞の選考日を迎えられないんだよとヤミツキになる人間が続出の、恒例行事と化しているところが、いやあ素晴らしい。

 何事もね、やめたらあかん、夜明けまで。たとえば直木賞そのものの偉さの一つは、とにかく、何いわれようが半年に1回のペースで、何十年もやめずに延々と続けていることにあると思っているワタクシとしては、「メッタ斬り!」も、ぜひぜひ末永く続けてくださいと応援したくなるわけです。

0705271w170  1冊めの『文学賞メッタ斬り!』(平成16年/2004年3月・PARCO出版刊)のとき、光栄にも、伝統ある「推理小説ノート」と並べてうちのサイトを「参考サイト」に挙げていただきまして、どう考えても直木賞の過去データを無機質にずらずら並べているだけの、それほど厚みも深みもない拙サイトが、ご参考になったとは思えないんですけど、編集担当の方からご丁寧に、事前に掲載許可願いのメールを頂戴し、また献本いただいたりなどして、3年もたってアレですけど、この場を借りて御礼申し上げます(こんな場を借りるなっつうの)。

 「メッタ斬り!」が与えた衝撃は、いろいろありますよね。こと直木賞だけに焦点を絞っていえば、作家人生やあまたの文学賞のなかでの直木賞の位置づけを考察していることや、毎回選考会の前に、2人の評論家が自分の採点と、どの選考委員がどのような理由で推しそうか落としそうかの予想も含めて、インターネット上で発表しちゃうことや、選評に着目して選考委員たちにキャラづけをしてツッコんだり茶化したりして楽しんでいること、ナドナド。要は直木賞ってこんな楽しみ方もあるんだよって提示してくれているのが、うれしい限りです。

 選考委員の津本陽は、ツモ爺と綽名され、いろいろイジられていますが、『2007年版』では、津本陽が選考委員を辞任したので、別れを惜しみつつ、過去の津本の選評を総まくりしています。

豊崎 この回(引用者注:第一二一回 平成11年/1999年・上半期は、ツモ爺節が存分に楽しめますね。で、第一二二回、本格的にエッセイ選評が花開きます。

大森 作品にいっさい触れない選評(?)がまるまる一段。このへんから読まなくなってくる。

豊崎 “自分の過ぎてきた道程をふりかえってみて、満足した、しあわせであったと、ほんとうにいえる人は、どのくらいいるだろう”からはじまってずーっと一段エッセイ。各作品についてはチョロ、チョロッとしか触れてません。」

(引用者略)

豊崎 とにかく津本先生は、その作品について、バカでもわかることをまず指摘しがちですよね。“『ビタミンF』は、七つの短編”とか“『岡山女』は、霊感のある女をえがいた六つの短篇集である”とか。

大森 この回は数がポイント。『動機』(横山秀夫)は“四つの短篇”、『プラナリア』は“五つの短篇”。七、六、四、五、数が違うところが大事なんだと。

豊崎 かわいいかわいいツモ爺、かわいいかわいい選評(笑)。こっからはもうずーっとエッセイ化が進んでいきます。」

0705272w170  シリーズ2冊めの『文学賞メッタ斬り!リターンズ』(平成18年/2006年8月・PARCO出版刊)からは、「メッタ斬りコンビもですね、いささか飽きられはじめておりまして、マンネリ打破ということで、島田雅彦さんをお招きした次第なんですけども」(豊崎)、「あと、若い女性読者獲得のために」(大森)ということで、公開トークショーを開催。『リターンズ』では島田雅彦、『2007年版』では中原昌也をゲストに迎えて、ばんばん文壇の内輪ネタを語っています。

 島田も中原も名のある文学賞をいくつもとっているわけですけど、やはりこの二人を引っ張り出してきているキモは、二人とも芥川賞落選組だと。で、芥川賞についてこれまであまり大っぴらに語られていないことも平気で口にすると。で、トークショーも大いに盛り上がると。

 以下、『リターンズ』の「文学賞に異変!?」より。

島田 (引用者略)作家を選考委員にするとコストがかかるんですよ。たとえばいちばん高いのはたぶん芥川賞の選考料で、毎年二回で一人あたり一回百万円もらえるんですね。

大森 え、一年じゃなくて、一回が百万なんですか?

島田 一回百万です。だから年で二百万、稼ぎの少ない大家などにとっては、二百万円の年金と同じなんですよ。作家十人に払うと一年に二千万ですね。そのくらいコストがかかる。

大森 そう考えると、文春の本の受賞率が高いのも当然ですね(笑)。直木賞と合わせると、年間四千万円も選考委員に払っている。」

 以下、『2007年版』の「中原昌也、大いに怒る――第一三五回芥川賞、事故の顛末」より。

大森 候補になるのって、いきなり封書で通知が来るんだよね、赤紙みたいな。何か書いて出すんでしょ?

中原 最初ギャグでバーカとか書いていいんですか、とか言ってたんですけどね。なんかめんどくさいんですよね、全部担当者にとられちゃったけど。」

(引用者略)

大森 《文學界》の編集部を通じてとかじゃなくて、日本文学振興会から直接?

中原 そう。全然違うんですよね、管理してるのが。

大森 また来たらどうします?

中原 もう来ない。絶対断ります。いらないですよ。この人たちが気に入るものを書かなきゃいけないってことでしょ。

豊崎 詠美さんが選評で書いてますよね。これ、ねらってません?と言ったら、ねらってなにが悪いの、と高樹のぶ子に言われたと。

中原 この人たちへのサービスでしょ。できないもん。

豊崎 軍門に下るってことですよね。あなたたちの小説観に従いますっていう表明を、作品で示さなきゃならない。

中原 そんなのできないし、大体読んでないもん、その人たちの本。」

 直木賞の候補者(で、受賞していない人)に、このくらいサービス精神旺盛な人がいれば、きっと来年以降、ゲストに登場してくれるでしょうけど、販促的にインパクトがあって過激なこと言いそうなエンタメ作家って、誰かいるのかなあ。真保裕一とか伊坂幸太郎はまず出てきそうにないしなあ。北村薫は……? 過激さがないかなあ。

 もちろん「メッタ斬り!」は直木賞だけが相手じゃないですけど、この企画は、もう明らかに直木賞の世界そのものです。もとい、直木三十五の世界そのものです。直木のことについてはまだまだ研究の余地ありといえど、すでにさまざまな熱心なる先人たちに指摘されているハナシをもってすれば、奇才直木三十五の遺した大衆文芸は、小説創作のみにあらずして、大正~昭和初期のまだまだ新興総合誌だった『文藝春秋』に旺盛に発表して売上増に貢献したその多くは(匿名原稿も含めて)、文壇ゴシップをネタにしたザツブンだったというではないですか。今、直木三十五を記念した賞を与えるにふさわしいのは、小説じゃなくて、ひょっとして『文学賞メッタ斬り!』だったりして、なんちゅうオチにもならないオチ。

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