カテゴリー「ニュース」の21件の記事

2017年7月20日 (木)

第157回直木賞(平成29年/2017年上半期)決定の夜に

 今夜もいつもとかわらず、歓喜、失望、興奮の声が、全国各地で上がった……のでしょう、おそらく。

 ちょっともう、ワタクシは直木賞が好きすぎて、一般の状況がわからなくなっていますが、どんな盛り上がり具合でしょうか。手堅いといえばこれほど手堅い授賞はなく、非常に落ち着きのある直木賞となって、個人的には、今晩はおだやかな気分で眠れそうです。おだやかなのがいちばんです。

 と、完全に爺いモードに入るまえに、今回もまた、受賞しなかった4作が、目のまえにあります。決まったあとに、わざわざ受賞しなかったものなど目を向ける気がしない、という人も、いるかもしれませんけど、候補作の歴史こそが、直木賞の歴史。そのリストに名を刻んでくれた、この勇敢な(?)4作品を讃えて、ぜひ後世にまで語り継いでいきたい、という気持ちでいっぱうです。

 いったい宮内悠介さんの、今作のはじけ飛びぶりには、ハラハラドキドキさせられました。あるいは、直木賞のほうが一皮むける絶好のチャンスだったかもしれません。しかし、ああ、宮内さんどこまで飛翔してしまうんだあ……と、直木賞はぽかんと口をあけて、その背中を見送ることしかできず、いよいよ取り残されてしまいそうですけど、あと何度でもこの賞の相手をしてくれそうな、宮内さんの間口の広さに甘えさせてもらって、また次もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 この先が楽しみな作家ばかりだ、ということは言わずもがななんですが、佐藤巖太郎さんが、これからどう活躍の姿を見せてくれるのか。『会津執権の栄誉』を読んで、俄然、楽しみになりました。とりあえず最初の候補で、歴史モノに賞をあげることのできない直木賞のクセは、もはや治りそうもないほどの重症です。すみません。ってワタクシが謝っても仕方ないんですけど、こういう、直木賞のイヤなクセを帳消しにするぐらい、巖太郎さんが活躍してくださることを期待するしかありません。どうぞ、直木賞を助けてやってください。

 直木賞はいまキテる勢いのある作家にとってほしい……というのは、某選考委員の口グセですが、「いまキテる勢いのある作家」にあげそこねるのも、また直木賞の伝統です。そんなもの伝統にするなよ、ってツッコみたくなるのを抑えて、木下昌輝さんの候補作、今回は(も)とってもおかしくないんだけどなあ、と嘆きたくなるのも抑えつつ、さすがにそろそろ直木賞騒ぎもイヤになりはじめているかもしれませんが、やはり木下さんにとってもらいたい直木賞。ここは耐え忍んで、いつか木下さんが受賞する日を待ちたいと思います。

 柚木麻子さん。「直木賞っぽい路線」なんてクソくらえ的な、我が道を行くその剛腕ぶりに、もう感服しました。お見事です。降参です。確実に直木賞史に残る作品を書いていただき、これは少なくともワタクシ個人的には、賞の当落よりも重要なことなものですから、ありがとうございました、と御礼を述べる他ありません。直木賞っぽい路線、クソくらえ、です。

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2017年1月20日 (金)

第156回直木賞(平成28年/2016年下半期)決定の夜に

 直木賞には猛省をうながしたい!

 いったい、この候補作の並びに、『蜜蜂と遠雷』などという、だれが見たって受賞するでしょと言う以外にない小説を、入れなきゃいけなくなってしまった責任は、当然、過去の直木賞にあります。超能力の登場に抵抗感があるだの、オチのよくわからない展開だの、そんなことに気をとられすぎて、ここまで引き延ばしてしまった結果、熾烈な当落に向けての議論にもいたらず、しゃんしゃんと、だいたいの人が想像したとおりの受賞回になってしまいました。

 もっとダイナミックな展開が、直木賞には欲しい。というのが、一観客でしかないワタクシの望みです。これが直木賞、ってもんなんでしょうけど、もうちょっと事前にワクワクドキドキさせてくださいよ、頼みます。奮起せよ、直木賞。

 ……とは言いながら、『蜜蜂~』と同じ土俵に上げられてしまった候補作の数々も、本命ではなかった、ってだけのこと。べつに、読むに値しないクソな作品、というわけではありません(当たり前だ)。あげ遅れの人にようやくあげたと思ったら、同時にまた、あげ遅れの候補者を生んでしまう、という悲しさから、ひとまず目を背けて、やっぱり直木賞の候補作には、どれも楽しませてもらいました。

 『蜜蜂~』が本命ならば、逆・本命は『十二人の死にたい子どもたち』だったと思います。これまでの直木賞の性格からして、まず評価される状況が想像できない、ミステリーの約束事にのっとったうえに、最初から最後まで特殊な環境のなかでのハナシを貫く、冲方丁さんの、この潔さ。そこまで直木賞が歩み寄る日がくることを、はるか夢に見たりしますが、まあ冲方さんは、直木賞の動向など気にせず、ブレずに潔く書きつづけていってくれるんでしょう。頼もしい人です。

 ブレない、と言ったら、そりゃ森見登美彦さんを思い浮かべないわけにはいきません。いいじゃないですか、『夜行』。前の候補のときとは、ちょっと読み心地は違えども、あいかわらず、「直木賞っぽくない小説で、直木賞の候補になる」その堂々たる風格、健在です。確実に、「あげ損ね」作家のひとりなので、いつか直木賞のほうが「これまでスミマセンでした」と頭をさげて賞を差し出す日がくるんでしょうが、そのときの受賞作も変わらず、「直木賞っぽくない小説」であったら、うれしいなあ。

 垣根涼介さんの『室町無頼』が、選考会でずいぶん好評だった、と報道で知り、かなりほくそ笑んでいます。そうとうな気合が生身に伝わる、アッツい小説でしたからねー。体裁やバランスなんてクソくらえ、って感じの骨っぽさが、お上品な直木賞の水には合わなかったのかもしれませんけど、勇ましく既成のものをぶっつぶすぐらいの作品で、またふたたび、候補の場に戻ってきてほしいです。

 そして『室町無頼』と並んで、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』も、授賞するかどうかで最後まで議論が交わされた、とのこと。こういうところで授賞の判断を下せればなあ、あげ遅れ案件が、ひとつでもふたつでも減らせるのになあ……とは思うんですが、あげ損ねを増やして歴史をつむいできたのが直木賞の特徴でしょうから、しかたありません。『また、桜の国で』は、実直でストレートで、でもエンタメに必須なサービス精神を忘れない作者の思いのこもった良作だと思います。

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2016年7月20日 (水)

第155回直木賞(平成28年/2016年上半期)決定の夜に

 「どうですか直木賞。思い返して、直木賞が(芥川賞とは別に)盛り上がったことなど、いったいいつまでさかのぼらなきゃいけないんだ。って感じの、順当で、誰もが予想しそうな、当然感あふれる、サラーッとした受賞風景。」

(以上、平成28年/2016年1月20日付 前回第154回決定の夜に書いた、当ブログからの再掲)

 そうなんですよね。紙予想の津田淳子さんは別格としまして、書評家の大矢博子さんも本命予想で当てられたそうですし、先日おこなわれたうちのサイトのイベントでも、参加者に予想をうかがったとき、いちばん得票数の多かったのが『海の見える理髪店』でした(まあ、ワタクシ自身の予想は聞かないでください)。候補回数が多ければ有利、の都市伝説復活、ってところですか。

 しかしです。個人的にはどれにしたって甲乙つけがたく、とった作品だろうが、とらなかった作品だろうが、あんまり印象に差はありません。「すばらしき精鋭の士そろいぶみ」の回に名を連ねてくれた、候補者にはぜひお礼を申し上げたいです。(……毎回、変わり映えもせずに、感謝を述べているだけで芸がないんですけど、これがワタクシの正直な気持ちなので、しかたありません)

 『家康、江戸を建てる』の、まったく本の分厚さを感じさせない爽やかな読み心地。戦国・江戸時代と、現代の感覚を自由自在に行き来する軽やかさ。門井慶喜さんには、これからも、暗くて地味ーな時代・歴史小説、のイメージをどんどんぶっ壊していただきまして、門井さんだけにしか到達できない境地へと、邁進していってほしいです。そうすりゃ、きっと直木賞のほうから、ごめんなさい、と折れるときがくるでしょう。

 米澤穂信さん、いよいよ、「常連候補」のゾーンに入った感がありますよね。次の候補作が、いったいどういうミステリーになるのか、いまからワクワクしています。直木賞なんて、きっと煩わしい行事なんだと思いますが、ぜひまたお付き合いください。

 ひたひたと不気味に懐に刀を忍ばせている感じの、今回の候補作ラインナップのなかにあって、『暗幕のゲルニカ』の、メッセージ性の熱さに、圧倒されちゃいました。いよいよ原田マハさんの美術系統の小説が候補のなかに入っていないと、満足できないからだになってしまいそうです。また、「熱いけど、それでも下品にならない」原田節の小説、よろしくお願いいたします。

 確実に直木賞を超えて売れちゃう作家の代表格なのに、湊かなえさんのような方に、直木賞みたいなシケた行事にお出ましいただけて、うれしいです。ありがとうございました。湊さんの小説が直木賞と相性が合わないのか、選考委員の人たちのやることなんで、よくわかりませんけど、たぶん悪気はありません。今後、直木賞が歩み寄る機会があったら、快く、迎え入れてやってください。

 それで、ここで泣いていいですか。吠えていいですか。何で、どうして伊東潤さんに、あげないんだよおー。だからこれまで、何度かチャンスがあったときに、すんなり賞を送っていれば、こんなことにはならなかった、と言っているのに。バンバンバン。……と机を叩きながら過去を嘆いても仕方ないです。いつだってチャレンジャーで、決してひるまない伊東潤、グレードアップした6度目の候補がやってくる日を、祈りながら眠りにつきたいと思います。

          ○

 荻原浩さんの、アノ作風どおりの人柄がにじみ出ている、って感じの受賞記者会見。(先鋭的でも、強烈でもないけど)いつも穏やかに流れていく直木賞にぴったり、というしかないじゃないですか。そうか、「しっくり」という言葉は、この日の荻原さんと直木賞のためにあったのか。ベテランの書いた、なにげない(なにげなさすぎる)作品集を見て、これは直木賞向きではない、と文句を垂れる人の気が知れません(って、そんな人はいないか)。

 長篇、長篇、長篇、長篇、と候補に挙げてから、5年半もあいてポロッと飛び出た短篇集に、なにごともなかったような顔してコソッと授賞。とか、直木賞、カワイすぎますよ! この愛嬌こそが直木賞の本領。話題にとぼしい、サラーッとした受賞だったとしても、いえいえ、これで満足っす。

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2016年1月20日 (水)

第154回直木賞(平成27年/2015年下半期)決定の夜に

 どうですか直木賞。思い返して、直木賞が(芥川賞とは別に)盛り上がったことなど、いったいいつまでさかのぼらなきゃいけないんだ。って感じの、順当で、誰もが予想しそうな、当然感あふれる、サラーッとした受賞風景。

 「今回の直木賞、全然話題にならなかったねー」などと、おなじみのフレーズが街を飛び交う気配が、すでに濃厚なわけですが、要するに、こんなものを毎回絶えず気にかけつづけているのは、完全な変人だろうと思います。変人で何が悪い。今回もやっぱり、結果が出るまで存分に楽しみましたよ、ワタクシは。話題になるかならないかは、知ったこっちゃありません。

 今回は候補ラインナップが、ひとりを除いてみんな初候補、というなかなか特徴的な布陣でしたので、直木賞受賞史的には妥当なのかもしれません。でもまあ、いずれ受賞するかもしれない作家の方々が、ぞくぞくと現われてきてくれて、ただ単純に、小説好き読者のひとりとしてうれしいです。

 直木賞は、かなり偏屈で理解しがたい選考基準があるらしいです。なので『羊と鋼の森』のような、多くの人に愛される小説がとれなくたって、ワタクシは悲しくなんかありません。宮下奈都さんには、これまでどおりひきつづき、真摯に小説を愛する読者たちを導く女王……というか女神のような存在として君臨していってほしいと願います。

 梶よう子さんが『ヨイ豊』の、とくに後半で見せた怒濤のごとき熱量に、圧倒されました。参りました。今度はまた、梶さんのおチャメさやユーモアなんぞを、ふんだんにまぶしたような、楽しい小説を書いていってほしいなあ。それじゃ直木賞向きじゃないかもしれませんけど、いいんじゃないでしょうか、直木賞なんかとらなくたって。

 『孤狼の血』こそ、今回の候補のなかでピカイチのエンタメ性、人物も展開も仕掛けも、美しいまでにバランスのとれた小説だなあと読みました。「面白いだけじゃ賞はあげられない」などとほざくどこかの賞のことは、このさい放っておきましょう。柚月裕子さんには、日本のエンタメ小説界をひっぱる存在になる、明るい未来しか見えませんよ。

 わずか二冊目、しかも初長篇で、こんなドエラいもの書いちゃって、深緑野分さん、だいじょうぶなのか!? と、勝手に不安になるとともに、こういう作品、こういう作家に、直木賞はあげてほしかった……。きっとのびしろは無限大。次、いったいどんなもの書くんだろう、という先の見えない作家で、いつまでもありつづけてください。

          ○

 青山文平さんの受賞記者会見、最初は朴訥でぼそぼそしゃべる方なのかなあ、と思っていましたが、もうアノ熱い語り口。「(受賞するしないにかかわらず)候補になったことで、あと三年は食えると思った」の言葉が印象的でした。注目どころは「受賞」ではなく、候補になることの重み。ワタクシもあんまり直木賞の受賞そのものには興味がないんで、我が意を得たり! と思ったことでした。

 ちなみに青山さんは、候補と決まって以降は、(あまり気にしないようにと)ネットとかそういう情報は見ないようにしていた、とのことで、ええ、候補に上がっていようがいまいが、基本、直木賞関連のサイトは、大したことも書いていないので、見ないでもいいと思います。

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2015年7月17日 (金)

第153回直木賞(平成27年/2015年上半期)決定の夜に

 今日は(昨日の7月16日は)、夜、外出していました。帰りの電車は、仕事でくたびれ果てた、直木賞とか芥川賞になど全然関心のなさそうな(と、勝手にこちらが思っている)大多数の人々と一緒の車両。それでも、車両の奥のほうから会話が聞こえてきて、サラリーマン風の男性と後輩OL風の女性が、「直木賞、東山彰良だって。知ってる?」みたいなことを小さな声でしゃべっていたのが、ワタクシには何よりの救いでした。

 以上、ソラ耳以外のなにものでもない妄想は、これまでにしましょう。今回は、事前には激戦だと思っていたんですけど、じっさいは一作だけ飛び抜けて票が集まり、他はほとんど受賞の可能性がなかったそうです。

 え? 何でそうなるんだ直木賞。他の候補作だって、おもしろいの、たくさんあったじゃないか! との思いがおさえきれません。今日も今日とて、直木賞候補の5作品には、このタイミングでやはり、お礼を申し上げたいところです。

 『永い言い訳』の、あの出てくる人物・出てくる人物の、メンドくさい感じに、ワタクシは心つかまれましたよ。専業作家みたいに、常に平均そこそこの作品を読物誌に発表しつづけながら生計を立てるのではなく、西川美和さんのような方が、忘れたころにポツリポツリと小説を出して、それで直木賞を盛り上げてくれる。心づよいです。また忘れたころに、新作を出して、こちらを仰天させてください。

 柚木麻子さんの、直木賞候補になる作品が、どんどんと(いや、今回はとくに)ぶっとんできて、素晴らしいよなあ。何でそうなるんだ、の展開。笑い&ドキドキのまぶしかたとか、もう、直木賞っぽくなくて好き! そのうち直木賞選考委員のほうが、疲れ果てて折れるまで、ぐいぐいと変な方向へと突っ走っていただけると、ワタクシは個人的にうれしいです。

 『東京帝大叡古教授』。直木賞といえば、経年劣化も甚だしく、ほとんど惰性でやっている、いつも変わり映えのしない賞として知られていますが、その直木賞の世界に、これほど背を向けたような孤高の候補作が、近年あったでしょうか! 門井慶喜さんのこの作品がとったら、(予想屋たちがバンバン直木賞に文句を言い始める、という意味でも)今回の直木賞はいちばん面白くなる、と本気で思っていました。これに贈れないとは。直木賞もけっきょく、まだまだ精進が足りず、といったところでしょうか。

 澤田瞳子さんは、ワタクシ個人的に大変思い入れのある作家です。騒ぎだけしか大きくないこんなヤクザな直木賞のお誘いに、このたび候補入りの打診を受けてくださったことが、まずうれしい。実直に一歩一歩高みへとのぼっていく澤田さんには、もうちょっと落ち着いた回で受賞していただくのが、ふさわしいかと。まあ、すでに『若冲』、ものすごく売れているようですので、賞などどうでもよく、慶賀です。

 よし。平成の白石一郎、もしくは古川薫の座には、馳星周さんに座っていただきたい。いまはまだ、選考委員の多くが、馳さんよりも前から直木賞と縁のある先輩作家ですけど、そういったメンツすら退任して、全員が馳さんのデビュー以降に登場した委員ばかりになったころ。願わくばワタクシの生きているあいだに、馳さんの受賞を見てから、あの世に旅立ちたいです。『アンタッチャブル』、さすがの技が各所にちりばめられた楽しい作品でした。

          ○

 しびれますよね。東山彰良さんのカッコよさには。『流』は全篇に重厚さが漂っていて、敷居が高そうなのに、でも軽妙さも散りばめてくれている。小説内世界は広く、真剣なのに、ちょっぴりのおかしみが混ざっている。このバランスのよさ、カッコいいよなあ。記者会見でも、まったくオチャラケることなく、しかし余裕をもって悠然と質問に答える姿に、しびれました。

 なによりしびれたのが、アレです。「今回、芥川賞のほうの取り上げられ方が華々しくなっていること」について問われたのに対し、芥川賞が盛り上がってくれれば、直木賞もその余勢で大きく取り上げてもらえるのでよかったです、といったような回答をされたところです。

 そうそう、まさにそうじゃないですか! こんな直木賞の姿は、今回だけじゃありません。いつだって爆発的に注目を浴びるのは芥川賞。直木賞が、それより華やかに扱われたのは1970年代終盤から80年代の、数年間ぐらいしかなく、あとはずーっと、「ついで」の存在でした。そのことをしっかりと把握し、自然のこととしてサラリと口にされた東山さんに、万雷の拍手をおくります。まったく、カッチョいいぜ。

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2015年1月16日 (金)

第152回直木賞(平成26年/2014年下半期)決定の夜に

 芥川賞は小谷野さんにとってほしかった……。と第144回のときも言ったと思いますけど、芥川賞はさておき、第152回直木賞(平成26年/2014年下半期)が1月15日夜、決定しました。候補作すべてが帯にみじかしナントヤラで、けっきょく受賞作なしに落ち着く、みたいな消極的な回にならなくて、とりあえずホッとしています。

 と、「いったいおまえどの立場からもの言っているんだ」という感想を申しましたところで、直木賞ファンとはつまるところ、直木賞候補作群のファンです。今回、いろいろと妄想、夢想を一読者に与えてくれた4つの候補作には、なにはさておいても感謝しなければなりません。いつもどおり。

 中央公論新人賞とって、そのあとが続かなくて、しばらく経ってから再び登場、そして直木賞、……って、おお、色川武大の再来か!? と夢想をひろげさせてくれた青山文平さん。「単に昔のことを書いた時代小説」みたいな世界からすでに大きく飛翔しているので、これからもガシガシ重くて深い、でも読みやすい小説を、きっと読ませてくださるでしょう。うれしいです。あ、そういえば色川さんも、初回の候補のときは、何だかんだケチつけられて落とされましたしね。ワタクシの夢想は、まだ終わってはいません。

 夢想といえば『あなたの本当の人生は』。大島真寿美さんの筋運び、気合い、そして小道具(というかそっちがメイン?)の使い方には、酔わされました。何が何だか、じっさいの世界のことを書いていないようでいて、現実に通じているヘンテコリンな(←褒め言葉)お話。他の文学賞が捕まえきれなかった大島さんの独特な世界に、ボンクラ直木賞ごときが太刀打ちできるわけもなかったのですが、直木賞にまたチャンスを与えてやってくれるとありがたいです。いつかは直木賞も気づく日が……いや、いつまでも懲りないのが直木賞ですので、直木賞が大島さんに追いつける日がくるのかどうか、不安ではありますけど。

 そりゃ期待しました。夢みました。『宇喜多の捨て嫁』なんて読まされたら、まさかのデビュー作に、しかも時代小説に厳しいはずの直木賞だって、さすがに賞を与えるんじゃないかと。ここまで胸おどらせてくれて、木下昌輝さんに「ありがとう」以外の声をかける直木賞ファンが果たしているのでしょうか。まったく、一発目でどーんと授賞していれば直木賞、カッコよかったのになあ。ほんと直木賞ってダメなやつだなあ。悲しいですよ、ワタクシは。

 ひとり「直木賞vs.本屋大賞」こと万城目学さんのサイコロが、これで、またまた本屋大賞側に投げ返されました。なにしろ「直木賞とは違って、うんぬんかんぬん」という評価を得てのし上がった本屋大賞のことです。今度こそ、万城目さんに賞をあげて、「本屋大賞エライ」「やっぱり直木賞、信用できないよね」の声を全国津々浦々に巻き起こしてくれることでしょう。これ、ひがみでも何でもなく、直木賞ファンはそんな展開を心の底から夢みています(ワタクシだけか?)。直木賞は基本、変な賞だから、べつにいいのです。書店員の方々、ぜひよろしくお願いいたします。

          ○

 西加奈子さんの心あらわれるような記者会見、あなた、聴きましたか? 直木賞がどうだとか、文学に興味はないが文学賞に興味があるとか、そんなこと言っている自分が恥ずかしくなりますよね(それでもワタクシは直木賞ファン、やめませんけど)。これでさらに(いままでも相当でしたが、さらに一層)スポットライトを浴びて、西さんの作家人生がますます充実したものになっていくことは、もはや夢想・妄想するまでもありません。

 直木賞は文藝春秋が有利、文春のものばっかりが受賞する出来レース、などという風評がこれで少しは収まるのか、どうなのか、よくわかりませんけど、きっと直木賞に対する妄想的な批判は、やむことはないんでしょう。そんなの全然気にしなそうな、自分の背に一本スジの通っていそうな方が、今期も受賞者になってくれたことに、オジサンはホッとしています(←おまえどの立場からもの言っているんだ、パート2)。

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2014年7月18日 (金)

第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)決定の夜に

 今回は首尾よく、ボンクラと言われつづける直木賞が、大ベテラン作家の貫禄にねじ伏せられたかっこうとなって、なんとも爽快な気分です。んなこと言い出したら、直木賞がねじ伏せられなきゃならない作家など、あと何十人もいるような気がしますけど、基本、日本の文学に対してほとんど影響を及ぼさない賞ですので、どうか世間の声など気にせず、好き勝手にやっていってほしいと思います。

 で、とりあえず受賞の話題はわきに置いておきましょうよ。直木賞といえば、何といっても、よりどりみどりで読みごたえのある魅力的な候補作群が主役でしょ、この80年を考えても。そう思うとき、やっぱり毎度のことながら、うちのブログでは、選ばれなかった5つの作品に、感謝と拍手、そして賞讃を送りたくなるのです。

 今回も、真面目で誠実な思いがページからあふれんばかりの貫井徳郎さんの小説に、クラクラしちゃいました。貫井さんは、直木賞などまったく必要としていない方だと思いますし、これからもずっとずっと走り続けてくれることでしょう。多彩な顔をもつ貫井さんのよさが、直木賞みたいなチッポケな賞ではとらえきれないことが、歯がゆいですが、もし次に機会がありましたら、また直木賞と付き合ってやってください。

 『男ともだち』はすごく売れているそうですが、「売れる小説では、直木賞はとれない」のジンクスが、千早茜さんの身にまで降りかかるとは。360度どこから見ても、直木賞の風合い、千早さんはもう「直木賞受賞(予定)作家」を名乗ってもいいんじゃないか、と思っています(いいわけないか)。どんどんと羽根をひろげて、直木賞の枠から飛び出していってしまうその背中を見るのは、直木賞ファンとしては寂しく感じますが、「機を逸する」ことを得意技にする直木賞ですもの。笑ってやってください。

 直木賞の枠から(すでに)飛び出ている、といえば、米澤穂信さんでしょう、何といっても。熱い読者、熱いファンに囲まれて、その熱風を、こんなくだらない古びた文壇行事に持ち込める人は、そうそうはいません。米澤さんのお仕事ぶりのほとんどは、ワタクシまだ読んでいない不勉強者ですが、『満願』、面白かった。これを、少なくとも直木賞を受賞したのと同じくらいの熱で、もっと売らなきゃ駄目じゃないですか、新潮文芸振興会=新潮社は。

 『ミッドナイト・バス』のように、いろいろと小ネタを仕込んで、読み手に楽しんでもらおうとする伊吹有喜さんの思いが嬉しいです。作品のアラや欠点を探しまわることで成立する直木賞(やその界隈)のことなど、たぶん伊吹さんも気にしちゃいないでしょうが、変に小難しい「文芸」に寄っていかず、逆に直木賞で落とされるような小説を、ぐんぐん書き続けていってほしいです。直木賞(とか山周賞)をとる作品が、正解でも何でもないわけですから。

 多くの方が驚嘆しているとおり、あの題名、あの装幀で、こんな直木賞にしか興味のない気狂いのおっさんを、楽しませるとは、柚木麻子、いったいあなたは何者なんだ!? こういう逸材を取り逃がしたり、他の賞に先を越されたりする、哀れな直木賞の姿をずっと見続けてしまったおっさんには、柚木さんの才と未来が、ただただまぶしいです。その光を、少しでもダークな直木賞に恵んでもらえると有難いなあ。

          ○

 受賞作家、黒川博行さん、受賞作『破門』。言うことありません。何の因果か創設以来「功労賞」の役目も担ってしまった直木賞、そのファンでよかった、黒川さんの受賞をこれほどまで喜べるのだもの。『破門』は、「直木賞受賞」などという「あんまり面白くない小説」に押される代表的な烙印がついてまわることになってしまいましたが、むちゃくちゃ面白いですよ! こういう作品が受賞作リストに加わることになって、ワタクシは大満足です。

 しかし、黒川さんはいいんですけど、6度目の候補で受賞(しかも文学賞は平成8年/1996年の日本推理作家協会賞以来)ってね。脱力しませんか。過去5度の直木賞、それと他社の「直木賞マネッコ文学賞」たちは、いったい何をやっていたのか、とそのふがいなさが悲しくなってきます。悲しい。心の芯から喜べない、という直木賞オタクの悲しさを噛みしめながら、半年後の第152回(平成26年/2014年下半期)まで生きていきたいと思います。

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2014年1月17日 (金)

第150回直木賞(平成25年/2013年下半期)決定の夜に

 誰ですか。第150回記念だと煽っていた割りには、おばさん二人かよ、などと、憎まれ口を叩いている人は。そういう不平を言うのは、いまではありません。あなたが日本人なら、来週1月21日に本屋大賞のノミネート作品が発表されたとき、「やっぱ本屋大賞スゲー、それに比べて直木賞は……」と言わなくちゃいけない責務があるのですから、そのときまでとっといてください。

 ……冗談はさておきまして、1月16日夜(もはや日が変わって1月17日)。いま直木賞のハナシをしないで、いつするというのですか(うちのブログでは毎週してますけど)。第150回(平成25年/2013年・下半期)選考会が終わりました。日本文学振興会が懸命に働いたおかげで、今回は6つの候補作を、ずいぶん早い段階から読み進めることができたので、1か月近くも直木賞をオカズにして充実した生活を送ることができました。

 直木賞っつうのは、いまも昔も、いつの時代であっても、候補作品が主役の賞です。この真理を改めて突きつけられたとき、やはり今回も、候補作すべてを思い起こさなければ、第150回の夜を締めくくることなどできません。

 「時代作家・歴史作家にとっては、直木賞で何度落選したかが勲章になる」……などと言ったのは、村上元三さんでしたっけ? いや池波正太郎さんかな? 覚えていませんが、にしても、ですよ。伊東潤さんへの授賞を延期するとは、直木賞も変らないよなあ。『王になろうとした男』に横溢する人間たちの哀しさ、それでいて暗い話に終わらせない力強さ、読者に対するサービス精神。まったく、感服しました、以外の言葉が見つかりません。今日も直木賞が、いかに至らぬ賞であるかが露呈されてしまったわけですが、ぜひ伊東さんには、授賞の日まで直木賞とお付き合いいただきたいと願っています。

 もはや千早茜さんの行く手には、何の曇りもないので、そこに今回、直木賞がからめなかったことは、直木賞としては残念なことでした。ほんとはねー、直木賞も千早さんみたく、ググーッと上り調子の人に、ささっと一回目で、しかもどちらも初候補・朝井まかてとの同時授賞、とか、そのくらいの腰の軽さがあればいいんですけどねー。なかなか、厄介な賞なものですからねー。ここはひとつ、老いた文学賞を哀れと思って、気にせず先をお進みください。

 いつもいつも万城目学さんには、直木賞を助けてもらってありがとうございます。アノ映画化された、アノテレビドラマ化された、人気若手作家が候補に~、みたいなかたちで注目が直木賞にそそがれるものですから、困ったときのマキメ頼み、今回も万城目さんの名声を借りてしまいました。「もう直木賞はいらない」などと言われるのじゃないか、と毎回ヒヤヒヤですが、これも手助け・人助けだと思って、またチャンスがありましたら、よろしくお願いいたします。

 ほんとに怖いなあ柚木麻子さんって方は。『伊藤くん A to E』でサラッと直木賞とってっちゃうのかと思いましたよ。油断のならない方だ。柚木さんはやっぱ、「え? このヘンテコリンな作品が直木賞!?」みたいなサプライズを起こせる逸材だと、勝手に思っているもので、半年に一度だけ直木賞に注目する日本中の健全な人びとの、度肝を抜かすような作品で、直木賞の場をむちゃくちゃに荒らしてほしい! ワタクシ、いまから腰ぬかして椅子から転げ落ちる練習を始めておきます。

          ○

 装丁やらオビやら評判やらで、『恋歌』っててっきり“しっとり系”の小説かと思っていたワタクシをお許しください。全然そんなんじゃないじゃん。朝井まかてさん、御見それいたしました。惚れましたよ、ワタクシは(なにしろワタクシ、北川荘平ファンなので、大阪文学学校と聞くだけで、応援したくなる、っていう思いもありつつ)。朝井さんにはこれからも、多少強引でも、枠から外れてもいいので、ガンガン趣向と工夫を凝らしたお話、読ませてもらいたいです。「直木賞をとったからどうだ」とか気にせずに。

 受賞しても変わることはないでしょう、といえば、おそらく姫野カオルコさんは、まず変わらないでしょう。トレーニングウエアに身を包んで記者会見を受けるアノ感じ、エッセイなどで知る姫野さんイメージそのままで、何だかホッとしました。受賞されたあの姿を見て、泣き出さない直木賞ファンなど、いるのでしょうか。ワタクシはいまから泣きます。泣きながら寝に入ります。

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2013年7月18日 (木)

第149回直木賞(平成25年/2013年上半期)決定の夜に

 「ほんと、直木賞なんて全然話題にもならなくなったな。時代は変わったよ」……などという声を聞くと、ワタクシはじつはホッとするのです。そりゃそうです。直木賞が話題になる世の中のほうが異常です。きっと、日本もまっとうな社会になったのでしょう。よかったよかった。

 ですが、世間が騒いでいるか/いないか、はうちみたいな辺境ブログには何ら影響がありません。第149回(平成25年/2013年・上半期)もまた、選考会後の夜は訪れてしまいました。おのずと「決定の夜に」エントリーを書く。息を吸って吐くがごときです。自然のなりゆきです。

 だって、あなた。候補作の6つ、読みました? どれも面白くなかったですか? 少なくともワタクシは、世知辛いこの世の暮らしを忘れさせてくれるような、6つの異なる読書体験をできました。受賞したとか、しないとか、そんなことは二の次において、これら6つを没頭して読んだ日々を思い返しつつ、頭に浮かんだことを書いておきます。

 「文学賞なんてどうでもいいよ」の風潮にあって、候補になるたび、わざわざ直木賞に賭ける意気込みを表明する伊東潤さん。その姿勢が、ワタクシにはまぶしくて仕方ありません。そもそも、これだけ多くの人がこぞって、伊東さんの『巨鯨の海』に本命印を付ける時代がやってきた、そのことにワタクシは満足しちゃうんですけど、でもやっぱ、受賞会見する伊東さんの雄姿を、この目に焼きつけたいぞ。ぜひ、さらなる第4戦目が組まれることを希望します!……それと、早川書房以上に直木賞とは縁遠い光文社が、いったいいつ直木賞に達するのか、という興味も持ちつつ。

 直木賞なんてものは、基本ジミなのに、みんなから目を向けてもらうと舞い上がります。今回もまたまた、恩田陸さんの力を借りてしまいました。恩田さんが5度目の候補打診をイヤがらずに受けてくれたことで、どれだけ直木賞界隈が盛り上がったことか。作家としての実績は当然のこと、その功績にこそ、ワタクシは直木賞ファンとして感謝したい。せずにはいられません。ちなみにワタクシ、『夜の底は柔らかな幻』ではじめて恩田作品を手にとる人が続出し、何ちゅう物語だ!と議論が巻き起こる、そんな未来を、つい想像してワクワクしちゃいました。 

 『ジヴェルニーの食卓』みたいな、豊潤な物語を、まさか直木賞の候補作として読めるとは、まったくこれだから直木賞候補作読みはやめられません。日常の生活を忘れさせてくれる極上のひととき……などと言うと、デキの悪い高級リゾートのキャッチコピーみたいですけど、原田マハさんには、もっともっと、美術や美術家たちのおハナシを書きつづけてほしいです。きっと、そのうち、「え、あのマハさんの美術シリーズを、直木賞は落としちゃったの? 相変らず直木賞だなあ、おい」と言われる日が来るのでしょう。ええ。いつものことです。

 直木賞ファンはたいてい孤独です。直木賞だけに興味をもっている、というだけで不審者のように見られます(被害妄想かもしれません)。そこに、湊かなえさんのような名のある方が、直木賞と関わってくれて、これでワタクシも明日から胸を張って生きていけます。『望郷』のような、さまざま趣向を凝らした短篇をずらりと揃えてくるあたり、さすが実力派、お見事の一言です。

 21世紀の日本にあって、夢を見させてくれる男、宮内悠介。また今回も、SFが直木賞をとるのではないか、というイイ夢を見させてもらいました。『ヨハネスブルグの天使たち』を候補にするのなら、日本文学振興会には、SFテイスト全開のどんな小説でも、どんどん直木賞の候補に挙げてもらいましょう。宮内さんも、もうまわりがウルサい!とウンザリするまでは、ぜひお付き合い願いたいものです。また夢を見させてください。

          ○

 ところで、先週書いたブログのエントリー、けっこうイイ線いってたんじゃないか、と偏狭的な直木賞ブログの主を喜ばせてくれて、桜木紫乃さん、ほんとうにありがとうございました。『ホテルローヤル』の、どんより暗いようでいて、明るさも感じられる妙なたたずまいが、イイなあと惚れちゃいました。

 オール讀物新人賞の受賞から初の単行本までの苦労、みたいな話を受賞会見で聴いて、まじ泣きそうになりました。「直木賞なんて、もう権威もなければ、話題にもならない」なんちゅう風評は、桜木さんの歩みのまえでは、何の力も持ちません。軽いようでいて濃厚な小説、またこれからもお願いします。

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2013年1月16日 (水)

第148回直木賞(平成24年/2012年下半期)決定の夜に

 安部龍太郎さんが57歳での受賞。すごい! 素晴らしい! 安部さんの正統派歴史人物評伝『等伯』が、直木賞に新時代を切り開きました。今晩決まった第148回(平成24年/2012年・下半期)の直木賞もまた、期待どおり、心おどりましたよねえ。

 おっと。受賞者はもうひとりいたんでした。朝井リョウさんです。朝井さんを後回しでご紹介しましたけど、他意はありません。ウソです。意図的です。そりゃあ、うちみたいな辺鄙な専門サイトが、とくに声を重ねることもないですもんね。

 とか言いつつ、直木賞騒ぎで明け暮れる当日の夜に、わざわざブログエントリーを書いて、声を重ねているわけでして、どうもすみません。ささっとすませます。

 まずは、当然この方たちがいなかったら「楽しい直木賞の夜」は訪れなかった、直木賞の主役といっていい4つの候補作について、です。

 各所で大評判の作家なのに、どうにも手を出しかねていて、『ふくわらい』が直木賞の候補になってはじめて、西加奈子さんの小説、読みました。他の西さんの小説にも、これで抵抗なく進んでいける気がして、ああ、ワタクシみたいなオジさんでもしっかり楽しませてくれる西さん、頼もしいです。今後、うちのサイトの候補作家(あ、受賞作家になるかも)の群像ページにある「受賞歴・候補歴」欄を更新していくのが、いまから楽しみです。

 いやあ。ワタクシは個人的に、今回は伊東潤さんでバシッと決まり、と思っていたんだけどなあ。『城を噛ませた男』からのグレードアップ、『国を蹴った男』。ホント面白い小説集だし、がんがん読まれるようになってくれると嬉しい。いずれ、伊東さんのほうが直木賞を超えちゃう予感がぷんぷんするんですが、その折りには、ぜひ直木賞をもらって「直木賞のほうの」名を高めてやってください。

 志川節子さん。『春はそこまで』の本のナリからは想像もつきませんでしたけど、設定も筋の運びも、そうとうなチャレンジャーとお見受けしました。チャレンジ精神あふれる小説、ワタクシは好きです。だいたい直木賞なんちゅうものは、人の欠点をあげつらわなければ成り立たないご商売です。そんなものに落とされたぐらいで、どうということはありません。今作で見せてくれたような挑戦意欲あるかぎり、志川さんの未来は明るいぜい!

 うちみたいな辺鄙な専門サイトが、とくに声を重ねることもないですもんね、パート2。ええ、多くは語りますまい。ただただ、有川浩さんには感謝です。どう考えたって、直木賞を毎回注目している稀少人種より多い、『オール讀物』の読者よりもっと多い、圧倒的に多い有川さんの固定読者の目を、一回だけでも直木賞のほうに向けさせた功績。これはもう、礼、拍手、礼、拍手、礼、拍手、礼、……。

          ○

 礼、拍手、といえば、はい。これからしばらく朝井リョウさんには、直木賞のほうがお世話になります。直木賞は根はイイ奴です。だけど、たびたびイヤな下郎になり下がることがあります。数々ご迷惑をおかけすることになるかと思いますが、どうぞ適当に付き合っていっていただければと思います。

 今回、偉大なる記録を樹立したのは、安部龍太郎さんです。twitterでも書きましたが、前回の候補が第111回(平成6年/1994年上半期)、そこから長い長い年月を経て18年半。これだけ長く候補にもならず、次の候補で受賞したのは、直木賞史上、安部さんが最長です。つまり、これはひとえに、直木賞メの不徳の致すところでありまして、18年半も直木賞はどこに目を付けていたのか、直木賞の恥ずかしい醜態でもあります。

 安部さんこそ、直木賞などとらなくてもずーっと愚直に作家道を歩まれるだろう方です。メディア対応は若いモンに任せて、ぜひ己のめざすところを邁進していってください。

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