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2016年12月11日 (日)

第97回直木賞『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』『海狼伝』の単行本部数

第97回(昭和62年/1987年・上半期)直木賞

受賞作●山田詠美『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』(角川書店刊)
9万(受賞決定後)20万(受賞半年で)
受賞作●白石一郎『海狼伝』(文藝春秋刊)
11万3,000部→?

※ちなみに……

第94回(昭和60年/1985年・下半期)芥川賞

候補作●山田詠美『ベッドタイムアイズ』(河出書房新社刊)
18万

第97回(昭和62年/1987年・上半期)芥川賞

受賞作●村田喜代子「鍋の中」収録『鍋の中』(文藝春秋刊)
10万

 直木賞の報道史に燦然とかがやく山田詠美さんの、「これは作家というより芸能人だ!」と巷間言われた大騒ぎの受賞会見は、いまであれば、もっと大変なことになっていたかと思います。

 じっさい、当時も大変なことにはなったはずですが、いったいどの程度の売れ行きだったのか。これがなかなか謎のなかです。

 担当編集者の石原正康さんは、いまでもヒットメイカーで名を馳せていますから、担当した△△が何十万部、××が何十万部と、生み出した本の具体的な部数とともに、その経歴が紹介される場面をよく目にします。だけど、山田さんの『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』が何十万部行ったのか、そういうところには顔を出しません。

 昭和62年/1987年の年間ベストセラーランキングでも、上位には上がらず。その後の山田さんの仕事ぶりのあったおかげで、コツコツと増刷されていったんでしょうけど、あれだけ騒ぎになった受賞の割りには、「受賞したから売れた」感じが稀薄です。

 ああ、これが芥川賞だったら、50万とか100万とかも夢ではなかったのに。

 ……と、いつもながらの直木賞ひがみ節を吐いたところで、受賞した年の部数動向のハナシですが、『毎日新聞』紙上の広告を見ると、8月28日に「大増刷出来! 20万部突破!」とありました。しかし9月22日夕刊では「増刷 ベストセラー」と、トーンダウンしていて、部数で煽るやり方をやめています。

 『出版月報』での記述などでも、やはり、受賞直後に一気に勢いがつきそうだったのに、すぐに失速した様子がうかがえます。

 8月号の「出版傾向Q&A」では順調に9万部、9月号では好調に16万部、と伸ばしているんですが、10月号では「夏期の芥川賞・直木賞作品は売れ行きが伸びず、」と伸び悩みが指摘され、『出版指標 年報1988』(昭和63年/1988年3月)ではけっきょく、20万部、と記録されました。

 ほかの直木賞受賞作に比べたら、健闘した部類でしょう。だけど、1年前の山田さんの超話題作『ベッドタイムアイズ』は、『出版指標 年報1987』によれば、18万部まで伸びたと紹介されています。加えて、アノ派手な受賞まわりの騒がしさ。……もっととんでもない売り上げが残っても、おかしくなかったと思います。

 ほんとに直木賞というのは、これほどの好条件が揃っても、そうやすやすとは爆発しないという。期待どおりと言いますか、期待外れと言いますか、直木賞という賞に、もうちょっとのカリスマ的人気があればよかったのになあ。

           ○

 それで『出版月報』で「売れ行きが伸びず」と言われたもう2つ、直木賞の『海狼伝』と芥川賞の『鍋の中』は、ともに文藝春秋の単行本です。

 また、どちらも福岡在住の人、という共通点があります。

 二人とものちに、原尞さんの『私が殺した少女』を取り上げたときに引用した『西日本新聞』平成2年/1990年「九州の文学を語る・芥川賞、直木賞作家座談会」に出席しましたが、ここで白石一郎さんは、『海狼伝』の売れ行きについて語ってくれました。

「白石 (引用者前略)今度、原さんの作品が三十五万部も売れたことは素晴らしいことです。

原 いやあ、あれは公称ですよ。(笑い)

白石 ぼくの直木賞受賞作は十一万部でした。時代小説はどうしても限界がある。」(『西日本新聞』平成2年/1990年4月13日「九州の文学を語る・芥川賞、直木賞作家座談会 9 地域性」より)

 ミステリーは売れていいよなあ、時代小説(の受賞作)はそんなに売れないんだよなあ、とひがんでいます。

 いや、ひがんじゃいないのかもしれません。たしかに、直木賞の受賞効果でドッと20万、30万部売れるような時代小説は、かなり稀なことは事実です。

 別の資料でも、『海狼伝』は11万部、というのが公称の部数ではあるようです。

 ただ、『創』昭和62年/1987年10月号の特集「新潮社VS文藝春秋 出版社の比較研究」内の記事、諏訪勝さんによる「両社の文庫、単行本ベストセラーの研究」では、『海狼伝』11万3,000部と書かれています。昭和62年/1987年7月末現在の数字だそうです。昭和62年/1987年7月というのは、直木賞を受賞したまさしくその月にあたっていて、8月以降もこの本は、増刷されたことが確認されています。11万3,000部から多少の上積みはあった、としても不思議ではありません。

 前週とりあげた『それぞれの終楽章』の部数などと比較しても、(売り上げの伸びでは)限界がある時代小説の受賞作としては、ずいぶん頑張ったほうだと思います。

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